2018(05)
■It's Pumpkin Time!
++++
「やーあ愚民ども、集まったスね」
「人のことを集めて早々に愚民呼ばわりとは安定の鬼畜だな、律」
向島大学新3年健康診断の日、俺たちは律から招集を食らっていた。奈々は日程の都合上大学にはいないからまた連絡を入れることにしたそうだけど、健康診断を終えて集められた学食でこれから始まる律からのお達しとは。
しかしまあ、俺たちは愚民と言われても強ち間違いじゃないから困る。律は知らないけど、俺とヒロとこーたはどこからどう見てもクズ中のクズだしな。まあ、それを知った上で開き直っているから救いようがないワケだけれども。
律から集められたのは、新年度を迎えるに当たりMMPの活動における重要な事柄がすっかりと抜け落ちていた、と。当然俺たちにやり残しがあったとかそんな覚えはこれっぽっちもなく、卒業式で粗相があったなどとも聞かないからきょとんとしている愚民であった。
「それで土田さん、どんな重要な事柄が抜け落ちてたんですか?」
「健康診断が終わって始まるのが新学期スわ。新学期を迎えるに当たり、何が始まりヤす?」
「ファンフェスの準備」
「やァー、前対策議長らしい模範解答をありがとーごぜーヤす。でも違いヤす。ファンフェスの前に新歓がありヤすね」
「ナ、ナンダッテー!? カボチャ摘みの作業が!?」
「まァ、カボチャだけに限った話ではないンすけど」
「では今年はイケメンも狙いに行っていいのだな!」
「それはお好きなよーに」
「よっしゃ!」
「野坂さんあなたって人は本当に安定の男好きですね」
「男なら誰だっていい訳じゃないいい加減にしろこーた」
かの“ゲッティング☆ガールプロジェクト”を“カボチャ摘み”などとうっかり本音で表現してしまったことが菜月先輩にバレれば俺は新学期を迎えられないだろう。だけど女子はみんな同じに見えるしそれこそカボチャなんだよなあ。イケメンの方が母数が多いとは1年振り2回目の主張をば。
「それで野坂、春風の似合う(略)女子でもお前好みのイケメンでも何でもいーンすけど、新歓で使う物がありャしたよネ」
「新歓に使う物……圭斗先輩の美貌もしくは威光……」
「いない人からは離れヤしょーか」
「土田さん、その答えはもしかして今ここにいるメンツでは絶望的なアレですか」
「そースね。絶望的なアレすわ。それこそ今はいない人に頼り過ぎてきたツケがここでドカンと回収されるワケすね」
「そうか、ビラとポスター問題か…!」
真面目に答えた結果が大喜利みたいになってしまっていたけれど、この絶望的なアレがわからないほど俺は腐ってもいない。そう、今の俺たちが絶体絶命なまでに追い詰められている事柄、それは新入生勧誘活動に使うポスターとビラの制作をすっかり忘れていたという事実だ。
つーかぶっちゃけ律も今の今まで忘れてたんだから俺たちのことを愚民って言えた立場ではないはずなんだけども、俺たちは律から突かれなければその存在すら忘れていたはずだからやっぱり愚民比でも愚民だった。さてどうしたと慌てるMMP新3年生である。
言ってしまえば、このテの仕事をしていたのはほとんど菜月先輩だ。学祭の装飾だけではなく、新歓のポスターやビラを作っていたのは。で、俺たちにそのノウハウが受け継がれることは全くと言ってなかったので、今こうして慌てているのであった。
「新2年生が奈々しかいない以上、新歓の結果如何ではMMPはナチュラルに存続の危機を迎えヤす」
「でもボクらはセーフやんね」
「自己中かよお前。あっ自己中だったわ知ってたわ」
「ウルサイよノサカオールSのクセに」
「で、ビラとポスター制作スわ。正直、自分らの画力などでは到底手書きは出来ヤせん。つか手書きで出そうモンなら人は遠ざかりヤす」
「間違いありませんね」
ちなみにこれまでのビラとポスターは菜月先輩が全部手書きで作ってくれていましたよね。菜月先輩のレタリング技術がガチなんだよなあ。
「そこで野坂」
「えっ、俺かよ」
「情報系の授業で何かそーゆーWebデザインでもユーザーインターフェースでも何でもいーンすけど、見た目とか使い勝手を気にする授業はありヤしたか」
「あ、あったかなー…?」
「あったよ! ボクノサカと取っとったよ! あとね、画像いじくるソフトで販促ポスター作るみたいな課題もあったよ!」
「ナイス情報スわヒロ。履修してたっつーコトは、当然S判定スよね」
「さっき履修登録のとき見たけどノサカまだオールSやよ!」
「ほほーう」
確かにフォトショだのイラレだのそういうソフトを扱う系の授業もあったし、一応それもちゃんと単位は取れていた。だけどこれは全くもって嫌な予感しかしない!
「はっ…! もしやお前!」
「ヤ、何も野坂ひとりに押し付けるつもりはありヤせん。自分もやりヤす。ただ、情報知能センターに半日ほど籠ってくれればいーだけスよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「うわーい、野坂さんがんばえ~」
「ノサカがんばれー」
「ふざけんなよお前ら…! えーと、確認だけど律、俺は律の言う通りにソフトを扱えばいいだけだよな?」
「まあ、売り文句なンかは自分が菜月先輩譲りのラブピで何とかするンで、野坂の仕事は基本入力スね」
「いや、お前のラブピはお前独自のラブピなんだよなあ。それはそうと、デザインは」
「それは自分が事前にサークル室に潜入して過去作を撮っといたんで、そこからこう、サクッと」
「よーし勝てる!」
こうしてMMPの新歓戦線が始まった。ポスターとビラにとうとう機械化の波が訪れたワケだけど、正直に言えば遅すぎたくらいで。いや、手書き路線を否定するワケじゃない。それでやってるところはまだたくさんある。だけど俺たちは手書きに耐え得る字をしていないワケで。うん、文明を使えるところは使おうじゃないか。
「こーた、ヒロ、制作陣に対する気持ちはちょっとした差し入れ程度で勘弁してやっていースよ」
「ナチュラルな奢れ宣言じゃないですか!」
「いいぞ~律~…! そうだそうだ、制作陣に対する気持ちを形にして見せてもらおうか! それともお前たちがこの作業をやると言うのか」
「差し入れないとは言ってないじゃないですか~、やだなあ野坂さんたら~」
end.
++++
おーいノサカ、かの素晴らしいプロジェクトをそんな名前で呼ぼうもんなら菜月さんにシメられるぞ!
さて、例によってMMPの2年生以下は直前になっていろんなことをわあわあ慌てているようです。
って言うかりっちゃん何やかんやノサカ頼みなところあるよね前の時もそうだった。お金は神崎、その他ノサカって感じかしらりっちゃん的に。ヒロは?
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「やーあ愚民ども、集まったスね」
「人のことを集めて早々に愚民呼ばわりとは安定の鬼畜だな、律」
向島大学新3年健康診断の日、俺たちは律から招集を食らっていた。奈々は日程の都合上大学にはいないからまた連絡を入れることにしたそうだけど、健康診断を終えて集められた学食でこれから始まる律からのお達しとは。
しかしまあ、俺たちは愚民と言われても強ち間違いじゃないから困る。律は知らないけど、俺とヒロとこーたはどこからどう見てもクズ中のクズだしな。まあ、それを知った上で開き直っているから救いようがないワケだけれども。
律から集められたのは、新年度を迎えるに当たりMMPの活動における重要な事柄がすっかりと抜け落ちていた、と。当然俺たちにやり残しがあったとかそんな覚えはこれっぽっちもなく、卒業式で粗相があったなどとも聞かないからきょとんとしている愚民であった。
「それで土田さん、どんな重要な事柄が抜け落ちてたんですか?」
「健康診断が終わって始まるのが新学期スわ。新学期を迎えるに当たり、何が始まりヤす?」
「ファンフェスの準備」
「やァー、前対策議長らしい模範解答をありがとーごぜーヤす。でも違いヤす。ファンフェスの前に新歓がありヤすね」
「ナ、ナンダッテー!? カボチャ摘みの作業が!?」
「まァ、カボチャだけに限った話ではないンすけど」
「では今年はイケメンも狙いに行っていいのだな!」
「それはお好きなよーに」
「よっしゃ!」
「野坂さんあなたって人は本当に安定の男好きですね」
「男なら誰だっていい訳じゃないいい加減にしろこーた」
かの“ゲッティング☆ガールプロジェクト”を“カボチャ摘み”などとうっかり本音で表現してしまったことが菜月先輩にバレれば俺は新学期を迎えられないだろう。だけど女子はみんな同じに見えるしそれこそカボチャなんだよなあ。イケメンの方が母数が多いとは1年振り2回目の主張をば。
「それで野坂、春風の似合う(略)女子でもお前好みのイケメンでも何でもいーンすけど、新歓で使う物がありャしたよネ」
「新歓に使う物……圭斗先輩の美貌もしくは威光……」
「いない人からは離れヤしょーか」
「土田さん、その答えはもしかして今ここにいるメンツでは絶望的なアレですか」
「そースね。絶望的なアレすわ。それこそ今はいない人に頼り過ぎてきたツケがここでドカンと回収されるワケすね」
「そうか、ビラとポスター問題か…!」
真面目に答えた結果が大喜利みたいになってしまっていたけれど、この絶望的なアレがわからないほど俺は腐ってもいない。そう、今の俺たちが絶体絶命なまでに追い詰められている事柄、それは新入生勧誘活動に使うポスターとビラの制作をすっかり忘れていたという事実だ。
つーかぶっちゃけ律も今の今まで忘れてたんだから俺たちのことを愚民って言えた立場ではないはずなんだけども、俺たちは律から突かれなければその存在すら忘れていたはずだからやっぱり愚民比でも愚民だった。さてどうしたと慌てるMMP新3年生である。
言ってしまえば、このテの仕事をしていたのはほとんど菜月先輩だ。学祭の装飾だけではなく、新歓のポスターやビラを作っていたのは。で、俺たちにそのノウハウが受け継がれることは全くと言ってなかったので、今こうして慌てているのであった。
「新2年生が奈々しかいない以上、新歓の結果如何ではMMPはナチュラルに存続の危機を迎えヤす」
「でもボクらはセーフやんね」
「自己中かよお前。あっ自己中だったわ知ってたわ」
「ウルサイよノサカオールSのクセに」
「で、ビラとポスター制作スわ。正直、自分らの画力などでは到底手書きは出来ヤせん。つか手書きで出そうモンなら人は遠ざかりヤす」
「間違いありませんね」
ちなみにこれまでのビラとポスターは菜月先輩が全部手書きで作ってくれていましたよね。菜月先輩のレタリング技術がガチなんだよなあ。
「そこで野坂」
「えっ、俺かよ」
「情報系の授業で何かそーゆーWebデザインでもユーザーインターフェースでも何でもいーンすけど、見た目とか使い勝手を気にする授業はありヤしたか」
「あ、あったかなー…?」
「あったよ! ボクノサカと取っとったよ! あとね、画像いじくるソフトで販促ポスター作るみたいな課題もあったよ!」
「ナイス情報スわヒロ。履修してたっつーコトは、当然S判定スよね」
「さっき履修登録のとき見たけどノサカまだオールSやよ!」
「ほほーう」
確かにフォトショだのイラレだのそういうソフトを扱う系の授業もあったし、一応それもちゃんと単位は取れていた。だけどこれは全くもって嫌な予感しかしない!
「はっ…! もしやお前!」
「ヤ、何も野坂ひとりに押し付けるつもりはありヤせん。自分もやりヤす。ただ、情報知能センターに半日ほど籠ってくれればいーだけスよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「うわーい、野坂さんがんばえ~」
「ノサカがんばれー」
「ふざけんなよお前ら…! えーと、確認だけど律、俺は律の言う通りにソフトを扱えばいいだけだよな?」
「まあ、売り文句なンかは自分が菜月先輩譲りのラブピで何とかするンで、野坂の仕事は基本入力スね」
「いや、お前のラブピはお前独自のラブピなんだよなあ。それはそうと、デザインは」
「それは自分が事前にサークル室に潜入して過去作を撮っといたんで、そこからこう、サクッと」
「よーし勝てる!」
こうしてMMPの新歓戦線が始まった。ポスターとビラにとうとう機械化の波が訪れたワケだけど、正直に言えば遅すぎたくらいで。いや、手書き路線を否定するワケじゃない。それでやってるところはまだたくさんある。だけど俺たちは手書きに耐え得る字をしていないワケで。うん、文明を使えるところは使おうじゃないか。
「こーた、ヒロ、制作陣に対する気持ちはちょっとした差し入れ程度で勘弁してやっていースよ」
「ナチュラルな奢れ宣言じゃないですか!」
「いいぞ~律~…! そうだそうだ、制作陣に対する気持ちを形にして見せてもらおうか! それともお前たちがこの作業をやると言うのか」
「差し入れないとは言ってないじゃないですか~、やだなあ野坂さんたら~」
end.
++++
おーいノサカ、かの素晴らしいプロジェクトをそんな名前で呼ぼうもんなら菜月さんにシメられるぞ!
さて、例によってMMPの2年生以下は直前になっていろんなことをわあわあ慌てているようです。
って言うかりっちゃん何やかんやノサカ頼みなところあるよね前の時もそうだった。お金は神崎、その他ノサカって感じかしらりっちゃん的に。ヒロは?
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