2018(05)
■通貨ローテーション地上編
++++
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
宮林さんに誘われて、今日は同人誌即売会に参加することになった。ここで開かれる今回のイベントは一次創作といって、アニメやマンガなどの二次創作ではなくオリジナルの作品ばかりが集まっている。同人誌即売会と言っても本ばかりではなくて、アクセサリーや洋服、音楽CDやドラマCDなどの音声作品も並んでいて実に興味深い。
さて、宮林さんが雨宮珠希名義で構えているサークル、Rainboundsの片隅にお邪魔させてもらっている俺だ。先日「朝霞クンなら1週間もあればコピー本の1冊くらい作れるでしょ?」などとそそのかされて、結果ノリノリで作った80ページ文庫2冊とコピー本を置かせてもらっている。
「本当はいつも売り子頼んでる子も来てくれるはずだったんだけど、体調悪いみたいで。ゴメンね、面白い子だから話せたらよかったけど」
「ううん、大丈夫。それより養生してもらって」
「って言うかこの短期間で2冊とコピ本出すって筆が早いにも程があるでしょ…?」
「そうは言っても2冊は下敷きがあるから。部活で書いたラジオドラマの台本を小説形式に書き直しただけだし」
「それでも凄いよ」
会場と同時に宮林さん、もとい雨宮さんのブースには人が訪れている。顔見知りの人もいるのか、話に花が咲いたり差し入れをいただいたりと、こういうところ独特の文化もあるんだなあと肌で感じている。どうやらツイッターで告知などをしているのか、俺のことも伝わっているらしい。
「って言うか人めっちゃ来るね」
「片桐さんとの合同誌も置いてるからね。その効果もあると思うよ。あっ、片桐さんて合同サークル組んでる創作の上での相方みたいな人なんですけど」
「この本だよね。って言うか絵の描き込みがすごい」
「うちの彼氏さんも片桐さんの絵が機械とか乗り物がカッコいいからっていう理由で好きで、LINEの着せかえとかも買ってるからね」
「って言うか地味に彼氏さん洗脳してない?」
「キノセイダヨー」
そんなことをしている間にも、宮林さんの本はどんどん売れている。実際に面白いからなあ、売れるのも納得だ。彼女の主ジャンルがBLだけど、BLであることを加味してもするりと読めるし。ちなみに俺も新刊を買いました。帰ってから読むのが楽しみで。
俺の本も有り難いことに少しずつではあるけど手にとってもらえている。釣り銭勘定が面倒だからっていう理由で強気の500円設定だったけど、試し読みで来てくれた人は迷わず買ってくれてる感じだし、あとは宮林さんから流れてくる人の効果が大きいですよね、はい。
「うわ、あの人凄い」
「奇抜だね」
ヒョウ柄のハットを深めにかぶり、首にはチョーカー。肩くらいまでの明るい色をした髪をひとつに束ねている。かなり細身のパンツとワインレッドのサイドジップブーツ。レザージャケットの下に着たゆるめのTシャツから覗く肌はかなり白い。一言で言うと、異色だった。
だけど、如何せんこんな場だけに会場にいる人たちが慣れるのも早かった。どんな人でも受け入れる土壌というのがあるのかもしれない。そして、その人をしばらく目で追っていると、スペース番号を確かめながら徐々にこちらに近付いているのがわかる。そして、とうとうその人の足が止まった。
「いらっしゃいませ。良かったら立ち読みどうぞ」
「あるの全部下さい」
「えーと……ここからここまで、全部」
「はい。全部下さい」
「あ、ありがとうございます。1万円ちょうどです。……1万円ちょうどいただきました。ありがとうございます」
「雨宮さんの話を最近ネットで読める分は読んで。それで本を買いに来ました」
「ありがとうございます」
――と話すその人と、俺はどこかで会ったことがあるような気がしていた。雰囲気というか、声というか。知ってる気がするけど、どこで会ってるんだろうな~…!
「それから、せっかくだしレイ君の本も買っていこうかな」
「――って! ちょっ、何やってるんですかこんなところで!」
「何って、雨宮さんの本を買いに来たの。投げ銭してくれてるアカウントからいろいろ辿って行き着いたサイトで小説読んでハマっちゃってさあ。まさかレイ君の友達だなんて思わなかったよ」
「朝霞クン、知り合いの方?」
「えーと……」
「やあ。みんなのキョージュだよ」
場所が場所だからかボリュームは少々控えめな挨拶の決め台詞と、帽子から覗かせたウインクに宮林さんは一瞬声が出ていないようだった。せっかく俺がいろいろ学習して言葉を選んでたのは無駄になったけど!
「って言うかいつもと全然服が違うじゃないですか」
「どっちかって言うと普段がこんな感じだよ。家で余所行きの服着る?」
「あ、確かに」
「そういうことなので、今後とも応援しています。頑張って下さい。これ、差し入れのお菓子です」
「ありがとうございます。こちらこそ、応援してます」
「雨宮さん投げ銭するから美味しいもの食べてね」
「こっ、こちらこそ投げ銭しますんで美味しいもの食べて下さい!」
「って言うかそれって二者の間で使われないお金がぐるぐる回ってるだけじゃ」
「それでいいの。見かけだけでもお金が回ってるように見えれば。ねえプロさん」
「そうだよ。あっ、バネ君から聞いたけど雨宮さん相当ゲーム上手いらしいじゃん。今度一緒にやる?」
「いえいえいえそんな恐れ多いです! 見ているだけで十分でございます!」
結局、サークルRainboundsとその借地展開の俺は終了時間より早く本日分が完売になった。完売になってからはぐるぐると会場を見て回り、面白そうな物を片っ端から手に取るのだ。うーん、これはサークル参加じゃなくて一般参加でも1日使うなマジで。次は普通に来てみようか。
「はー……今日はカオスだった…!」
「でも面白かったね」
「って言うかまさかのプロ氏なんだけど!」
「正直俺もビックリした」
end.
++++
ホントにまさかのプロ氏である。プロ氏の方も雨宮さん目当てに行ったらまさかレイ君がいるとは思わなかっただろうなあ
それはそうといち氏である。普通に機械類が好きってのもあるんだろうけど慧梨夏の影響もちょっとはあるんやろなあ
二者の間で使われないお金がぐるぐる回って見かけ上はすごくお金が動いているように見える現象にきっと名前はあるのだろう
.
++++
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
宮林さんに誘われて、今日は同人誌即売会に参加することになった。ここで開かれる今回のイベントは一次創作といって、アニメやマンガなどの二次創作ではなくオリジナルの作品ばかりが集まっている。同人誌即売会と言っても本ばかりではなくて、アクセサリーや洋服、音楽CDやドラマCDなどの音声作品も並んでいて実に興味深い。
さて、宮林さんが雨宮珠希名義で構えているサークル、Rainboundsの片隅にお邪魔させてもらっている俺だ。先日「朝霞クンなら1週間もあればコピー本の1冊くらい作れるでしょ?」などとそそのかされて、結果ノリノリで作った80ページ文庫2冊とコピー本を置かせてもらっている。
「本当はいつも売り子頼んでる子も来てくれるはずだったんだけど、体調悪いみたいで。ゴメンね、面白い子だから話せたらよかったけど」
「ううん、大丈夫。それより養生してもらって」
「って言うかこの短期間で2冊とコピ本出すって筆が早いにも程があるでしょ…?」
「そうは言っても2冊は下敷きがあるから。部活で書いたラジオドラマの台本を小説形式に書き直しただけだし」
「それでも凄いよ」
会場と同時に宮林さん、もとい雨宮さんのブースには人が訪れている。顔見知りの人もいるのか、話に花が咲いたり差し入れをいただいたりと、こういうところ独特の文化もあるんだなあと肌で感じている。どうやらツイッターで告知などをしているのか、俺のことも伝わっているらしい。
「って言うか人めっちゃ来るね」
「片桐さんとの合同誌も置いてるからね。その効果もあると思うよ。あっ、片桐さんて合同サークル組んでる創作の上での相方みたいな人なんですけど」
「この本だよね。って言うか絵の描き込みがすごい」
「うちの彼氏さんも片桐さんの絵が機械とか乗り物がカッコいいからっていう理由で好きで、LINEの着せかえとかも買ってるからね」
「って言うか地味に彼氏さん洗脳してない?」
「キノセイダヨー」
そんなことをしている間にも、宮林さんの本はどんどん売れている。実際に面白いからなあ、売れるのも納得だ。彼女の主ジャンルがBLだけど、BLであることを加味してもするりと読めるし。ちなみに俺も新刊を買いました。帰ってから読むのが楽しみで。
俺の本も有り難いことに少しずつではあるけど手にとってもらえている。釣り銭勘定が面倒だからっていう理由で強気の500円設定だったけど、試し読みで来てくれた人は迷わず買ってくれてる感じだし、あとは宮林さんから流れてくる人の効果が大きいですよね、はい。
「うわ、あの人凄い」
「奇抜だね」
ヒョウ柄のハットを深めにかぶり、首にはチョーカー。肩くらいまでの明るい色をした髪をひとつに束ねている。かなり細身のパンツとワインレッドのサイドジップブーツ。レザージャケットの下に着たゆるめのTシャツから覗く肌はかなり白い。一言で言うと、異色だった。
だけど、如何せんこんな場だけに会場にいる人たちが慣れるのも早かった。どんな人でも受け入れる土壌というのがあるのかもしれない。そして、その人をしばらく目で追っていると、スペース番号を確かめながら徐々にこちらに近付いているのがわかる。そして、とうとうその人の足が止まった。
「いらっしゃいませ。良かったら立ち読みどうぞ」
「あるの全部下さい」
「えーと……ここからここまで、全部」
「はい。全部下さい」
「あ、ありがとうございます。1万円ちょうどです。……1万円ちょうどいただきました。ありがとうございます」
「雨宮さんの話を最近ネットで読める分は読んで。それで本を買いに来ました」
「ありがとうございます」
――と話すその人と、俺はどこかで会ったことがあるような気がしていた。雰囲気というか、声というか。知ってる気がするけど、どこで会ってるんだろうな~…!
「それから、せっかくだしレイ君の本も買っていこうかな」
「――って! ちょっ、何やってるんですかこんなところで!」
「何って、雨宮さんの本を買いに来たの。投げ銭してくれてるアカウントからいろいろ辿って行き着いたサイトで小説読んでハマっちゃってさあ。まさかレイ君の友達だなんて思わなかったよ」
「朝霞クン、知り合いの方?」
「えーと……」
「やあ。みんなのキョージュだよ」
場所が場所だからかボリュームは少々控えめな挨拶の決め台詞と、帽子から覗かせたウインクに宮林さんは一瞬声が出ていないようだった。せっかく俺がいろいろ学習して言葉を選んでたのは無駄になったけど!
「って言うかいつもと全然服が違うじゃないですか」
「どっちかって言うと普段がこんな感じだよ。家で余所行きの服着る?」
「あ、確かに」
「そういうことなので、今後とも応援しています。頑張って下さい。これ、差し入れのお菓子です」
「ありがとうございます。こちらこそ、応援してます」
「雨宮さん投げ銭するから美味しいもの食べてね」
「こっ、こちらこそ投げ銭しますんで美味しいもの食べて下さい!」
「って言うかそれって二者の間で使われないお金がぐるぐる回ってるだけじゃ」
「それでいいの。見かけだけでもお金が回ってるように見えれば。ねえプロさん」
「そうだよ。あっ、バネ君から聞いたけど雨宮さん相当ゲーム上手いらしいじゃん。今度一緒にやる?」
「いえいえいえそんな恐れ多いです! 見ているだけで十分でございます!」
結局、サークルRainboundsとその借地展開の俺は終了時間より早く本日分が完売になった。完売になってからはぐるぐると会場を見て回り、面白そうな物を片っ端から手に取るのだ。うーん、これはサークル参加じゃなくて一般参加でも1日使うなマジで。次は普通に来てみようか。
「はー……今日はカオスだった…!」
「でも面白かったね」
「って言うかまさかのプロ氏なんだけど!」
「正直俺もビックリした」
end.
++++
ホントにまさかのプロ氏である。プロ氏の方も雨宮さん目当てに行ったらまさかレイ君がいるとは思わなかっただろうなあ
それはそうといち氏である。普通に機械類が好きってのもあるんだろうけど慧梨夏の影響もちょっとはあるんやろなあ
二者の間で使われないお金がぐるぐる回って見かけ上はすごくお金が動いているように見える現象にきっと名前はあるのだろう
.