2018(05)

■余裕の範囲のお買物

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「エイジ、ちょっと買い物に付き合ってほしいんだけど」
「買い物? 何を買うんだっていう。食糧か? 掃除用具か?」
「そろそろ机を買おうと思うんだよ」
「それは喜んで付き合うべ! これで床に皿を置いて食う飯にもおさらばだっていう!」

 先月末に、突然口座残高が増えてたから何事かなあと思ってよくよく考えたら、アルバイト代が振り込まれていたんだということに気付く。結構な額が振り込まれていたのでちょっとした買い物をしようと決意したんだ。
 倉庫での吊り札付けのアルバイトは、元々ゼミ合宿の費用を賄うために始めた物だ。でも、働いているうちにゼミ合宿の費用は軽く捻出出来たし、残りのお金はどう使おうかってずっと考えてた。でも、エイジが「無駄遣いはするな」って睨みを利かせてて。
 本当はBGM用のCDを買ったり靴を買ったり、少しいいお酒を買ったりしたかったんだけど、それをしばらく我慢して、使い方を熟考。この部屋に足りないものや、これからの生活に必要な物を考えた結果辿り着いたのが机だった。

「どんな机にする? 折りたたみ式か、こたつ机か、丸か、四角か」
「って言うかエイジ、テンション上がり過ぎじゃない?」
「当たり前だろ! 飯の皿は机の上に乗せて食うモンだろっていう!」

 うちには机がない。パソコンデスクがあるからそれで間に合うだろうと思って敢えて置かなかったんだけど、俺の想像以上にこの部屋には人が来ることが多くて机がないことがちょっと不便かなって。
 特にうちにいる時間の長いエイジは綺麗好きと言うか神経質なところがある。一宿一飯の恩義を律儀に守って泊まっていく時はご飯を作ってくれたりしてたんだけど、そのうち俺の生活のだらしなさに嫌気が差して、掃除を重点的にやり始めたんだ。
 その神経質さは掃除だけに留まらなかった。ごはんを食べるとき、机がないものだから皿を絨毯の上に置いてそのまま食べてたんだけど、どうにもこうにもそれが我慢出来なかったらしい。それで応急措置としてシャンプー台の一番上の段を外して使ってたんだけど、それもダメだったらしく。

「無難に普通の四角いこたつ机にしようと思うんだよね」
「いいじゃないかっていう」
「今は春だから、こたつ布団は次の冬に買えばいいかなって」
「でも、お前がこたつなんか使ったら社会的に死なないか? 大丈夫かっていう」
「死なないように頑張ります」

 こたつの使い方に関しては高崎先輩にしっかりと聞いておこうと思う。極度の寒がりの高崎先輩でもこたつをギリギリまで我慢していたのは一度使ってしまうと外に出られなくなるという恐怖と戦っていたからだと聞いている。
 まだ単位も必要数取れていないだろう2年秋の段階で社会的に死ぬと後が非常にマズくなる。それに、こたつは熱を発する物。熱を発するということは光熱費もそこそこかかって来るということだ。社会的な死と財政的な死を同時に向かえると、俺は本当に死にかねない。

「でもさエイジ」
「ん?」
「うちの利点ってさ、机がないから広くてみんなで集まっても何となく余裕があるってところもちょっとあるじゃん」
「普通の机を置くくらいなら大丈夫だべ。それより机がない方がみんなで集まることには不利だろっていう」
「あとさ、机を置いたら床で寝るときに邪魔じゃないかなって」
「そんなモン寝るときは上げたらいいんだべ」
「上げるの?」
「それで朝起きて掃除をする。完璧だべ。いやー楽しみだ。どこに買いに行くんだ? それとも通販か?」

 エイジがとにかくノリノリだ。よっぽど机がないのが嫌だったんだなあ。パソコンデスクの方を貸してあげればよかったかなあ。でもきっとそういう問題じゃないんだろうな。とりあえず、机の置けそうな場所の大体の寸法を測っていく。メジャーなんかはないから、体の適当な部位で。

「とりあえず、普通にお店に買いに行って実物を見て、持ち運びが出来そうになかったら配送サービスを使えばいいかなって」
「それもアリだな」
「あとはあれだね、机も買わなきゃいけないんだけど地味に溜まってきてるパンまつりのシール台紙をもらって来なきゃいけないから、スーパーにも行かなきゃなって」
「そうだな、何気に期限長いから1枚くらい溜まるか。うんうん、紙皿ばっかり使うのも味気ないし皿はもらっとけ」

 さて、買い物に出かけよう。どんな机があるのかを見るところから始めないと。一応ネットでも何となく調べてたけど、やっぱり実物は見ておきたいし。それに、パンまつりのシール台紙も必要だし。今日の夜は何を食べよう。机を持ち帰れたら汁物をこぼす心配もちょっとは減るかな。

「机を買ってもまだ余裕があったら何を買おう。あと1万円くらいは好きな物を買っていいよね」
「これはお前おはようカーテン一択だべ」
「推すよねエイジ」
「お前の昼夜逆転生活の原因はほぼほぼこの遮光カーテンだっていう。もうすぐ次の春学期も始まるし、今のうちから生活リズム整えとけ。便利だべ~、カーテンを開けるだけじゃなくて閉めるのも自動で出来るっていう」
「そ、それはまた別の機会に考えようかなあ。新しいBGMの音源も欲しいしさ」
「いや、俺はおはようカーテンの方がいいと思うべ」


end.


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この季節になるとやっぱり買い物の話が持ち上がって来るのですが、エイジのテンションがすごいなあ
今年度はバイトの期間も少し長かったからか、給料も少し多かったんだろうなあ。机を買っても多分まだ余裕がある
ずっと正式名称がおはようカーテンだと思ってたそれは実は商品名が違ってたんですね。でもおはようカーテンで検索すれば出てきます

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