2018(05)
■無意味な深夜クラフト
++++
「やあ。みんなのキョージュだよ。今日はこれからバネと2人放送をしていくよ」
「しかし、正直キョージュと2人でも話すことがないというのが本音で」
「そんなこと言わないでさ~、楽しく話そうよ!」
何故こんなド平日に生放送が始まったのかがわからないのだが、その辺りは大体気紛れなのだから深く考えることではないのだろう。マインクラフトの生放送用ワールドに入って何をするでもなく農業をしたり採掘をしたりしながら喋るだけの企画だ。
世間では卒業式シーズンらしく、スガノとカンノ、それから朝霞は卒業式とその後の追いコンやらで今日は参加出来ないらしい。この3人は同じ部活のはずだが先の2人と朝霞では追いコンの場所や時間が違うらしい。変わった部活だ。それから塩見さんは会社の繁忙期で今日も残業だろうと。
「バネはさあ、卒業式の追いコンとかないの? 大学って今日が卒業式のところ多いんじゃない?」
「オレはサークルなどはやってないから送るような先輩もないし、バイト先の送別会も別日開催だ」
「サークルやってないんだね」
「特に興味をそそられなかった」
「あっ、ジャガイモドロップした。バネ、これ育てる?」
「育てよう。いっそ全自動の大規模ジャガイモ農園でも作ってやろうか」
「いいね。畑作る?」
コマンドで一気に整地して、畑の土台となる枠を作っていく。大規模のジャガイモ農園とか我ながら縁起でもない物を作ろうとしているなと強く思う。しかしあくまでゲームの世界だ。現実世界のようにジャガイモに押し潰されそうになるようなこともないだろう。
生放送をやっているとリアルタイムでコメントが流れて来るのだが、何故畑を作り始めたというコメントから、卒業式に関する話や質問などが流れて来る。しかし、整地はコマンドではなく手でやるべきだったな。作業が単調になって飽きが来ている。
「えー、コメントで質問貰ってますね。ふみふみちさんありがとー。プロさんとバネ君はジャガイモ料理では何が好きですか。バネ何好き?」
「ポテトサラダ」
「ポテサラってさ、作り方間違うとべちゃっとして美味しくなくない?」
「調味料なども家や店によって異なるな」
「ジャガイモと言えばソルがさ、蒸かし芋だけを延々と食べるんだよね」
「と言うかアイツは料理という単語を知らんのか。肉だろうと卵だろうと焼くなり茹でるなりしてそのまま食うことしかせんだろう」
「複雑な工程を経た料理も嫌いではないし、本人が料理も出来るんだけどね。本人は単品で食べることの方が圧倒的に多いよね。好き嫌いどうこうじゃない偏食って言うか」
「と言うか無性にハッシュドポテトが食いたくなったな。ちょっと買って来るか」
「えっ、本当に今行く?」
「少し離席する」
「えー!?」
近くのコンビニで冷凍食品のハッシュドポテトを購入し、トースターで焼いて席へ戻ると畑が大きくなっていた。マイクをミュートにしたまま実質的1人放送となっているそれをただ眺めている。まあ、まだ食っている最中だからマイクはオフにしたままゲームには戻ってやろう。
「あっ戻って来た」
チャットで「ハッシュドポテト美味い」と入力すると、飯テロだの何だのというコメントが流れていく。「バネさんのハッシュドポテト代」という名目の投げ銭も飛んできて、これにはさすがにマイクを入れて礼を言う。
「ちょっと待って!? もぐもぐしながらお礼しないの!」
「早い方がいいと思った」
「トイレ離席とかじゃなくて本当にハッシュドポテト買いに行ってたんだね」
「本当に買いに行っていた。冷凍食品の物をオーブントースターで焼いてだな」
「あ、いいね」
などとしょうもないやり取りをしていると、新たにワールドへ人が来たことを示すメッセージが流れて来る。このIDは……塩見さんか。と言うか繁忙期のド平日にこんなことをしていて大丈夫なのか。
「ソル、仕事終わったの?」
「毎日朝の8時から日付が変わるまで働いている社畜が夜の11時に帰宅出来ているとは。今日は比較的緩かったのだな」
「どうせ0時まで働いてるし、少しゲームするのも同じだろ」
「ツミツミは?」
「会社でやってる。つか今何やってんだ」
「今? ジャガイモ農園作ってるよ」
「今日はお前ら2人か」
「そうだね」
「じゃあ俺牛繁殖させるわ」
そう言うや否やソルはチェストに入っていた小麦を手に牛を引き連れ牧場を作り始めた。その中で牛を無尽蔵に繁殖させ、それを無言のままザクザクと斬っている。これは絶対に仕事でのストレスが溜まっているのではないかとコメントからも心配される始末。
「ソル、皮はチェスト入れといてね。レイ君の図書館に必要だから」
「了解」
USDXの生放送用ワールドでは各メンバーのシンボルマークではないが、それぞれのキャラクターを象徴する建築物を作ろうということになっている。ちなみにオレのテーマはジャズライブバーという設定の建物だ。まだ建築すら開始されていないが。
ワールドにメンバーが増えるとコメントの流れも速くなるし、投げ銭の勢いもそれに比例していく。金の使い方は考えろよとソルが言うのも馴染みの光景だ。しかし今日はあのスラッシャーの名前がないな。例に漏れず卒コン的な何かに参加しているのか。
「この全自動農園に閉じ込められてる農民を見てると何とも言えない気持ちになるな。延々と芋をチェストに入れていくだけの仕事をずーっと繰り返してるじゃねえか」
「やめて、ソルが言うと笑えなくなっちゃうから」
「そのうちこの農民も仕事の合間にツミツミをただ無心でやり続けるだけの個体になるのだな」
「うるせえぞバネ」
「――って何で僕を殺すの!」
「ソルがやるべきゲームはマイクラではなくDon't Whack Your Boss With Super Powerではないか」
「自分の会社に対する殺意は一応ないとは言っとくぞ」
end.
++++
プロ氏とバネ様の2人放送というのは確かにちょっとレア感があるような感じがするね。
ジャガイモ畑というのは確かにリン様にとっては縁起でもないものだけど、本当はジャガイモも大好きなんだ
そしてちょっと早く仕事が終わったからと放送に参加してくれるオミさん……お仕事がんばえー
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「やあ。みんなのキョージュだよ。今日はこれからバネと2人放送をしていくよ」
「しかし、正直キョージュと2人でも話すことがないというのが本音で」
「そんなこと言わないでさ~、楽しく話そうよ!」
何故こんなド平日に生放送が始まったのかがわからないのだが、その辺りは大体気紛れなのだから深く考えることではないのだろう。マインクラフトの生放送用ワールドに入って何をするでもなく農業をしたり採掘をしたりしながら喋るだけの企画だ。
世間では卒業式シーズンらしく、スガノとカンノ、それから朝霞は卒業式とその後の追いコンやらで今日は参加出来ないらしい。この3人は同じ部活のはずだが先の2人と朝霞では追いコンの場所や時間が違うらしい。変わった部活だ。それから塩見さんは会社の繁忙期で今日も残業だろうと。
「バネはさあ、卒業式の追いコンとかないの? 大学って今日が卒業式のところ多いんじゃない?」
「オレはサークルなどはやってないから送るような先輩もないし、バイト先の送別会も別日開催だ」
「サークルやってないんだね」
「特に興味をそそられなかった」
「あっ、ジャガイモドロップした。バネ、これ育てる?」
「育てよう。いっそ全自動の大規模ジャガイモ農園でも作ってやろうか」
「いいね。畑作る?」
コマンドで一気に整地して、畑の土台となる枠を作っていく。大規模のジャガイモ農園とか我ながら縁起でもない物を作ろうとしているなと強く思う。しかしあくまでゲームの世界だ。現実世界のようにジャガイモに押し潰されそうになるようなこともないだろう。
生放送をやっているとリアルタイムでコメントが流れて来るのだが、何故畑を作り始めたというコメントから、卒業式に関する話や質問などが流れて来る。しかし、整地はコマンドではなく手でやるべきだったな。作業が単調になって飽きが来ている。
「えー、コメントで質問貰ってますね。ふみふみちさんありがとー。プロさんとバネ君はジャガイモ料理では何が好きですか。バネ何好き?」
「ポテトサラダ」
「ポテサラってさ、作り方間違うとべちゃっとして美味しくなくない?」
「調味料なども家や店によって異なるな」
「ジャガイモと言えばソルがさ、蒸かし芋だけを延々と食べるんだよね」
「と言うかアイツは料理という単語を知らんのか。肉だろうと卵だろうと焼くなり茹でるなりしてそのまま食うことしかせんだろう」
「複雑な工程を経た料理も嫌いではないし、本人が料理も出来るんだけどね。本人は単品で食べることの方が圧倒的に多いよね。好き嫌いどうこうじゃない偏食って言うか」
「と言うか無性にハッシュドポテトが食いたくなったな。ちょっと買って来るか」
「えっ、本当に今行く?」
「少し離席する」
「えー!?」
近くのコンビニで冷凍食品のハッシュドポテトを購入し、トースターで焼いて席へ戻ると畑が大きくなっていた。マイクをミュートにしたまま実質的1人放送となっているそれをただ眺めている。まあ、まだ食っている最中だからマイクはオフにしたままゲームには戻ってやろう。
「あっ戻って来た」
チャットで「ハッシュドポテト美味い」と入力すると、飯テロだの何だのというコメントが流れていく。「バネさんのハッシュドポテト代」という名目の投げ銭も飛んできて、これにはさすがにマイクを入れて礼を言う。
「ちょっと待って!? もぐもぐしながらお礼しないの!」
「早い方がいいと思った」
「トイレ離席とかじゃなくて本当にハッシュドポテト買いに行ってたんだね」
「本当に買いに行っていた。冷凍食品の物をオーブントースターで焼いてだな」
「あ、いいね」
などとしょうもないやり取りをしていると、新たにワールドへ人が来たことを示すメッセージが流れて来る。このIDは……塩見さんか。と言うか繁忙期のド平日にこんなことをしていて大丈夫なのか。
「ソル、仕事終わったの?」
「毎日朝の8時から日付が変わるまで働いている社畜が夜の11時に帰宅出来ているとは。今日は比較的緩かったのだな」
「どうせ0時まで働いてるし、少しゲームするのも同じだろ」
「ツミツミは?」
「会社でやってる。つか今何やってんだ」
「今? ジャガイモ農園作ってるよ」
「今日はお前ら2人か」
「そうだね」
「じゃあ俺牛繁殖させるわ」
そう言うや否やソルはチェストに入っていた小麦を手に牛を引き連れ牧場を作り始めた。その中で牛を無尽蔵に繁殖させ、それを無言のままザクザクと斬っている。これは絶対に仕事でのストレスが溜まっているのではないかとコメントからも心配される始末。
「ソル、皮はチェスト入れといてね。レイ君の図書館に必要だから」
「了解」
USDXの生放送用ワールドでは各メンバーのシンボルマークではないが、それぞれのキャラクターを象徴する建築物を作ろうということになっている。ちなみにオレのテーマはジャズライブバーという設定の建物だ。まだ建築すら開始されていないが。
ワールドにメンバーが増えるとコメントの流れも速くなるし、投げ銭の勢いもそれに比例していく。金の使い方は考えろよとソルが言うのも馴染みの光景だ。しかし今日はあのスラッシャーの名前がないな。例に漏れず卒コン的な何かに参加しているのか。
「この全自動農園に閉じ込められてる農民を見てると何とも言えない気持ちになるな。延々と芋をチェストに入れていくだけの仕事をずーっと繰り返してるじゃねえか」
「やめて、ソルが言うと笑えなくなっちゃうから」
「そのうちこの農民も仕事の合間にツミツミをただ無心でやり続けるだけの個体になるのだな」
「うるせえぞバネ」
「――って何で僕を殺すの!」
「ソルがやるべきゲームはマイクラではなくDon't Whack Your Boss With Super Powerではないか」
「自分の会社に対する殺意は一応ないとは言っとくぞ」
end.
++++
プロ氏とバネ様の2人放送というのは確かにちょっとレア感があるような感じがするね。
ジャガイモ畑というのは確かにリン様にとっては縁起でもないものだけど、本当はジャガイモも大好きなんだ
そしてちょっと早く仕事が終わったからと放送に参加してくれるオミさん……お仕事がんばえー
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