2018(05)
■二丁拳銃の特攻
++++
「たのもーです!」
「おはようマリン。準備は出来てるような感じ?」
「バッチリですよ!」
――とマリンは言うけれど、目の下にはうっすらとクマが出来ているように見える。きっと夜遅くまで準備してたんだろうなあ。今日は大学近くのカフェでこれからのことについて話すことになっている。で、少し後につばめ先輩を招いていて。
代替わりを経て朝霞先輩と山口先輩が引退すると、プロデューサーとアナウンサーが班からいなくなってしまったんだ。たった4人しかいない朝霞班で、4人中2人が3年生という時点で遅かれ早かれそうなってたんだけど。
一方のマリンは、前の監査だった宇部さんの後を引き継ぎ新しく班長になった現部長、柳井さんと折り合いが合わずに班を飛び出してしまったんだ。そのまま柳井班にいれば部での立場もステージの機会も約束されてたのに、譲れない物があったみたくて。
マリンは戸田班に入るためにテストが終わったくらいの頃からつばめ先輩にアタックしている。だけど、門前払いを食らってばかり。マリンは宇部班でプロデューサー修行もしていたし、アナウンサーの能力もある。戸田班には必要不可欠な存在だと思うから、俺も必死に説得してるんだけど、なかなか難しい。
「でもマリン、何の準備をしてたの?」
「弾のない銃は装備してもらえないですよ」
「銃?」
「私がつばめ先輩ラブなのはどう取り繕っても今更隠し切れないですよ。だから、私を班に迎え入れるとこんな風に得をするし、こんなことが出来ますと具体的に攻めることにしたですよ。しょうもない上っ面だけの面接に中身はないですよ。能力を見せるですよ」
「具体的にって言うと、つまりどういうこと?」
「ステージの台本を書いたですよ。前につばめ先輩が言ってたのを聞いたことがありますですよ、3人いればステージは出来るって。だから私とつばめ先輩とゲンゴローの3人でやる前提の台本を書きましたですよ」
「えっ、すごいよマリン! 見せてもらうことって出来るかな」
「仕方ないですよ、ちょっとだけですよ?」
そう言ってマリンは何冊かあるうちの1冊を俺に差し出してくれた。本当に準備してたんだなあ。表紙を捲って俺は衝撃を受けた。どういう類の衝撃かというと、これが現実なんだっていう、サーッと何かが引いて行くような。
マリンの出してきた台本は、多分部の中では一般的な書式をしてるんだと思う。だけど、俺には今まで慣れ親しんできた朝霞先輩の書く台本が普通になっちゃってるから、部の普通の台本の形式に一瞬戸惑った。うん、鎌ヶ谷先輩もこんな感じで書いてたと思うから、多分朝霞先輩が特殊だったんだ。
「ゲンゴロー、どうですか?」
「あっ、ゴメン。一瞬どう読むんだろうって迷っちゃった」
「……宇部さんからも聞いてたですよ、朝霞の台本は独自の進化を遂げてたって。でも朝霞と同じじゃ意味がないのでこの形式で押していくですよ。ゲンゴロー、読めるです?」
「あっ、読めはするよ。最初にいた鎌ヶ谷班と同じ形式だから」
「なら良かったですよ」
「ゴメン、今読むね」
「ゲンゴローが謝る必要はないですよ。悪いのは好き勝手にしてた朝霞です」
マリンの台本は、基本に忠実だという印象がある。3人しかいないことを前提にはしてあるけど、各々の動きが最低限と言うか動線が少ないと言うか。3人しかいないと、仮に次のコーナーに行くときにプチ転換を行うにしても俺を動かす必要があるけど、俺はミキサー席でじっとしてる感じだし。
「改めて、どうです?」
「内容は面白いしマリンはこういう路線のPさんなんだなってわかる本だけど、本当に実戦で本を書くならもっと俺とつばめ先輩を動かしていかないと回らないかなという気がする」
「えっ、つばめ先輩はともかく、ミキサーまで動かすですか!?」
「マリンがアナウンサーとしてステージの上にいる以上、自由に動けるのは俺とつばめ先輩だけだからね。つばめ先輩のことは聞くまでもないと思うけど、2人ともミキの仕事もDの仕事も出来るから、ガンガン使って大丈夫」
「ゲンゴローもディレクターの仕事が出来るですか」
「このパートはこの仕事ってこだわってたら小人数編成でのステージは出来ないからね。現にマリンだってPとアナの兼任でしょ? それと同じだよ」
「それもそうです」
「朝霞班の時は、誰がどうとかじゃなくてみんなで作って来たんだ」
「朝霞が力で押さえつけて人を動かしてる班だと思ってたですよ。今でも思ってるですけど」
「あはは、外からだとそういう風に見えちゃうよね。ああ見えて朝霞先輩は気遣いの鬼でもあるから。それはそうと、マリンがこれだけの本を用意してきたのはいいことだと思うよ。むしろゴメンね、最初からそんなこと突いちゃって。人数の少ない班での動き方はこれから知っていくことだもんね」
「ううん、ありがとうですよ。勉強になったですよ。もし戸田班に入れてもらえたら、実戦練習を繰り返して覚えていくです」
マリンの手元には4冊の台本。3冊はステージの台本で、1冊はラジオドラマの台本だという。インターフェイスでやっていくことを考えたらラジオドラマのスキルは必須だと宇部さんから聞かされて書いてみたらしい。本当に頑張ってるなあ。元々の下心はともかく、大分本気なんだ。
もうすぐつばめ先輩に伝えた待ち合わせの時間だ。俺は2人の話を聞きながら、必要があれば双方の言いたいことに補足して支える感じで今日は行こう。でも、これまでよりはいい方向に向かえる気がするんだ。だって、つばめ先輩もマリンもステージには真剣だから。
「緊張してきたですよ」
「大丈夫だよ。いざとなったら俺もサポートするよ。さ、そろそろだね」
end.
++++
宇部Pから発破をかけられたマリンが弾を用意してきた様子。真面目なステージの話に移行できるのか。
そしてゲンゴローの働きはやっぱり大きい様子。何とか橋渡しの役割を果たせるといいのだけど。
朝霞Pの台本の書き方に関してはUSDXサイドの話でスガPからも少し話がありましたね。独自の進化か。どんなんや
.
++++
「たのもーです!」
「おはようマリン。準備は出来てるような感じ?」
「バッチリですよ!」
――とマリンは言うけれど、目の下にはうっすらとクマが出来ているように見える。きっと夜遅くまで準備してたんだろうなあ。今日は大学近くのカフェでこれからのことについて話すことになっている。で、少し後につばめ先輩を招いていて。
代替わりを経て朝霞先輩と山口先輩が引退すると、プロデューサーとアナウンサーが班からいなくなってしまったんだ。たった4人しかいない朝霞班で、4人中2人が3年生という時点で遅かれ早かれそうなってたんだけど。
一方のマリンは、前の監査だった宇部さんの後を引き継ぎ新しく班長になった現部長、柳井さんと折り合いが合わずに班を飛び出してしまったんだ。そのまま柳井班にいれば部での立場もステージの機会も約束されてたのに、譲れない物があったみたくて。
マリンは戸田班に入るためにテストが終わったくらいの頃からつばめ先輩にアタックしている。だけど、門前払いを食らってばかり。マリンは宇部班でプロデューサー修行もしていたし、アナウンサーの能力もある。戸田班には必要不可欠な存在だと思うから、俺も必死に説得してるんだけど、なかなか難しい。
「でもマリン、何の準備をしてたの?」
「弾のない銃は装備してもらえないですよ」
「銃?」
「私がつばめ先輩ラブなのはどう取り繕っても今更隠し切れないですよ。だから、私を班に迎え入れるとこんな風に得をするし、こんなことが出来ますと具体的に攻めることにしたですよ。しょうもない上っ面だけの面接に中身はないですよ。能力を見せるですよ」
「具体的にって言うと、つまりどういうこと?」
「ステージの台本を書いたですよ。前につばめ先輩が言ってたのを聞いたことがありますですよ、3人いればステージは出来るって。だから私とつばめ先輩とゲンゴローの3人でやる前提の台本を書きましたですよ」
「えっ、すごいよマリン! 見せてもらうことって出来るかな」
「仕方ないですよ、ちょっとだけですよ?」
そう言ってマリンは何冊かあるうちの1冊を俺に差し出してくれた。本当に準備してたんだなあ。表紙を捲って俺は衝撃を受けた。どういう類の衝撃かというと、これが現実なんだっていう、サーッと何かが引いて行くような。
マリンの出してきた台本は、多分部の中では一般的な書式をしてるんだと思う。だけど、俺には今まで慣れ親しんできた朝霞先輩の書く台本が普通になっちゃってるから、部の普通の台本の形式に一瞬戸惑った。うん、鎌ヶ谷先輩もこんな感じで書いてたと思うから、多分朝霞先輩が特殊だったんだ。
「ゲンゴロー、どうですか?」
「あっ、ゴメン。一瞬どう読むんだろうって迷っちゃった」
「……宇部さんからも聞いてたですよ、朝霞の台本は独自の進化を遂げてたって。でも朝霞と同じじゃ意味がないのでこの形式で押していくですよ。ゲンゴロー、読めるです?」
「あっ、読めはするよ。最初にいた鎌ヶ谷班と同じ形式だから」
「なら良かったですよ」
「ゴメン、今読むね」
「ゲンゴローが謝る必要はないですよ。悪いのは好き勝手にしてた朝霞です」
マリンの台本は、基本に忠実だという印象がある。3人しかいないことを前提にはしてあるけど、各々の動きが最低限と言うか動線が少ないと言うか。3人しかいないと、仮に次のコーナーに行くときにプチ転換を行うにしても俺を動かす必要があるけど、俺はミキサー席でじっとしてる感じだし。
「改めて、どうです?」
「内容は面白いしマリンはこういう路線のPさんなんだなってわかる本だけど、本当に実戦で本を書くならもっと俺とつばめ先輩を動かしていかないと回らないかなという気がする」
「えっ、つばめ先輩はともかく、ミキサーまで動かすですか!?」
「マリンがアナウンサーとしてステージの上にいる以上、自由に動けるのは俺とつばめ先輩だけだからね。つばめ先輩のことは聞くまでもないと思うけど、2人ともミキの仕事もDの仕事も出来るから、ガンガン使って大丈夫」
「ゲンゴローもディレクターの仕事が出来るですか」
「このパートはこの仕事ってこだわってたら小人数編成でのステージは出来ないからね。現にマリンだってPとアナの兼任でしょ? それと同じだよ」
「それもそうです」
「朝霞班の時は、誰がどうとかじゃなくてみんなで作って来たんだ」
「朝霞が力で押さえつけて人を動かしてる班だと思ってたですよ。今でも思ってるですけど」
「あはは、外からだとそういう風に見えちゃうよね。ああ見えて朝霞先輩は気遣いの鬼でもあるから。それはそうと、マリンがこれだけの本を用意してきたのはいいことだと思うよ。むしろゴメンね、最初からそんなこと突いちゃって。人数の少ない班での動き方はこれから知っていくことだもんね」
「ううん、ありがとうですよ。勉強になったですよ。もし戸田班に入れてもらえたら、実戦練習を繰り返して覚えていくです」
マリンの手元には4冊の台本。3冊はステージの台本で、1冊はラジオドラマの台本だという。インターフェイスでやっていくことを考えたらラジオドラマのスキルは必須だと宇部さんから聞かされて書いてみたらしい。本当に頑張ってるなあ。元々の下心はともかく、大分本気なんだ。
もうすぐつばめ先輩に伝えた待ち合わせの時間だ。俺は2人の話を聞きながら、必要があれば双方の言いたいことに補足して支える感じで今日は行こう。でも、これまでよりはいい方向に向かえる気がするんだ。だって、つばめ先輩もマリンもステージには真剣だから。
「緊張してきたですよ」
「大丈夫だよ。いざとなったら俺もサポートするよ。さ、そろそろだね」
end.
++++
宇部Pから発破をかけられたマリンが弾を用意してきた様子。真面目なステージの話に移行できるのか。
そしてゲンゴローの働きはやっぱり大きい様子。何とか橋渡しの役割を果たせるといいのだけど。
朝霞Pの台本の書き方に関してはUSDXサイドの話でスガPからも少し話がありましたね。独自の進化か。どんなんや
.