2018(05)
■雨だから進めやキッチン
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「たまちゃん! 雨! 雨です!」
「雨だね」
雨だ、と興奮気味に慧梨夏の部屋にやってきたアヤさんは本当に元気そうだ。俺も今日は雨が降っていて花粉の飛散量がちょっとはマシだということで普段よりは体調がいい。本来ならいろいろやりたいことがあるんだけど、ここ最近の不調であまり進みが良くないね。
さて、今日のアヤさんが慧梨夏の部屋に遊びに来た目的だ。元々話には聞いてたんだけど、雨の日にしてねということになってたんだ。それというのも、アヤさんの用事は俺にある。俺の調子が良くなければ話が進まなかったんだ。
「アヤさんごめんね、俺のぐだぐだで」
「いいえ、私はいいんですよ。カズさん体大丈夫ですか?」
「今日はまだいい感じ。それじゃあ簡単に始めようか」
「お願いします!」
俺は緑のエプロンを、アヤさんはウエストのリボンが特徴的なバラ柄のエプロンを装着して台所に立つ。やっぱりアヤさんはエプロンまでオシャレなのか! ちなみにエプロンを買いに行く時間がなかったので自分で作ったそうです。慧梨夏風に言うとさすアヤ。
「わー、がんばれー」
「慧梨夏、何ぼさっとしてんだ」
「はい?」
「今日は簡単なおつまみレシピの回で、お前でも出来るレベルの物が基本だから。はいエプロン」
「えっ、うちもやるの?」
今日はアヤさんに簡単なおつまみレシピを教えるという回だけど、それは俺の体調が良くないとなかなか厳しいということで開催がここまで延期になってたんだ。まだまだ本調子でないにせよ、少し元気な今日ならイケるかなと結構に至った。雨天決行、晴天中止で。
「たまちゃんエプロン姿かわいい~! ねえカズさん! かわいいですよね!」
「ポニテエプロンは男の悦び」
「何言ってんのカズ。晴れたら死ぬんだから早く料理教室開いてあげて」
「あっはい」
料理教室を開くのにどうして慧梨夏の部屋なのかというと、俺の部屋は学生の1人暮らしにしては設備が良すぎて普通の学生さんにはあまり参考にならないらしいのだ。それに、引っ越しの準備で人を上げられる状態でもなかったりする。
元々アヤさんは慧梨夏の友達だし、慧梨夏の部屋なら一般的な学生の1人暮らしと同じくらいの設備だから、どこの台所で料理をすることになっても対応出来るように教えてあげられるのではないかっていうところね。
「それじゃあ最初はパパッと出来るのを2つ3つ。慧梨夏は助手な」
「はい先生!」
「慧梨夏、そこの冷凍コーンをその器に入れて」
「はーい。こう?」
「で、次。バターをひとかけ、濃い目がいいなら増やしてもいいけど、コーンの上に乗せる」
「はい」
「で、3分レンチン。お好みでブラックペッパーなんかをかけてもオッケー。以上、コーンバターの作り方でした」
もう終わり、と慧梨夏が物足りなさそうにしている。だけど料理の中には調理時間5分とかで美味しいなんてものはザラにある。特に飲み会ではスピードが重視されるところがあるから、簡単なお通しみたいな物で時間を稼ぎながらメインディッシュを作るんだ。
コーンバターの次は豆もやしのナムルや塩キャベツ、厚揚げの豚肉巻きとそのアレンジの豚肉の大葉の渦巻き串などをパパッと作っていく。そして保存容器を取り出して、常備菜の代表格・ピクルスも。それから肉系の簡単レシピもいくつか紹介。
「はい、こんな感じでいかがですか!」
「カズさんすごい! 天才!」
「アヤさん、バイト先の飲み会でご飯作るんだっけ? あまり紹介出来てないけどこれで何とかなりそうかな」
「これで戦えます! 本当にありがとうございます!」
机の上には今日の料理教室で作ったおつまみレシピが所狭しと並んでいる。これから俺たちはこれを囲むことになる。話によると、アヤさんが研修していたっていう大学のパソコン自習室に無事正式なスタッフとして採用されたんだとか。そのバイトメンバーで宅飲みが開かれるとかって。
宅飲みだからと言って料理を作らなきゃいけないワケじゃないけど、惣菜やお菓子なんかを買い込むとお金がかかるし、作った方が安くて美味しいなら多少の手間は惜しまない方がいいっていうのが俺の考え方。特に俺は酒をあまり飲めないから、少しでも長く飲み会の雰囲気を楽しむ術でもあった。
アヤさんは今日のレシピをメモしたノートを見返しながら、ゆくゆくはこれを応用しても良さそうだなと満足げ。そして今日は助手を担当してくれた慧梨夏だ。最近は少しずつ包丁を解禁してたけど、今日も少し危なっかしいながら何とかこなしてくれたように思う。次のステップにはいつ進もうか。
「って言うかアヤちゃんとうとう先輩さんに認められたんだねえ」
「そうなの! まだ受付しか出来ないんだけど、春の繁忙期が過ぎたら自習室業務もスパルタ教習してもらうの~!」
「よかったねえ」
「今回は卒業する先輩の送別会と、私の歓迎会と、彼女が出来たっていう1年生の子のおめでとう会で」
「おめでたいねえ」
って言うか自分の歓迎会で自ら料理を作るって。まあ、俺も人のことは言えないんだけど。自分の誕生会の体で開かれた飲み会で普通にずっとご飯作ってましたよね。
「その後輩クンがね! ほわ~ってしてて可愛いの! でも友達みんなの前で告白しちゃったっていう天然っぷりでね!」
「なにそれ、詳しく」
「何かサークルの関係の集まりがあったみたくてね、他の大学の子たちも一緒に集まってたときに、わーって告白しちゃってたって」
「すげー度胸だな、公開告白とか」
「その子放送サークルの子なんでカズさんもしかして知ってるかもですよ。ミドリくんて知ってます? 丸眼鏡のほわ~ってした」
「うわ、ミドリか! えっ、その彼女って!? サークル関係の集まりってことはインターフェイスの子じゃんな!」
「女子大の子みたいですよ」
「女子大で、ミドリ……あ~、そこか~…!?」
慧梨夏は慧梨夏で創作のネタになりそうな話を必死にメモしてるし。慧梨夏にもアヤさんにも得る物があったようで何より。俺も今日はコンディションが良かったし本当に有意義でいい1日だった。ということにしておこう。
end.
++++
情報センターのあれこれの会のためにカナコが修行に出たようです。雨天のみ決行の料理教室です。
雨の日でないといち氏が死んでいるのでチャンスは少ない様子。春だから仕方ないね。それよかいち氏引っ越し準備大丈夫なんか
つかいち氏、自分の部屋の設備が普通の学生レベルじゃないという自覚はあったのね。そらそうよな、電気圧力鍋なんてそうもたんよ
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「たまちゃん! 雨! 雨です!」
「雨だね」
雨だ、と興奮気味に慧梨夏の部屋にやってきたアヤさんは本当に元気そうだ。俺も今日は雨が降っていて花粉の飛散量がちょっとはマシだということで普段よりは体調がいい。本来ならいろいろやりたいことがあるんだけど、ここ最近の不調であまり進みが良くないね。
さて、今日のアヤさんが慧梨夏の部屋に遊びに来た目的だ。元々話には聞いてたんだけど、雨の日にしてねということになってたんだ。それというのも、アヤさんの用事は俺にある。俺の調子が良くなければ話が進まなかったんだ。
「アヤさんごめんね、俺のぐだぐだで」
「いいえ、私はいいんですよ。カズさん体大丈夫ですか?」
「今日はまだいい感じ。それじゃあ簡単に始めようか」
「お願いします!」
俺は緑のエプロンを、アヤさんはウエストのリボンが特徴的なバラ柄のエプロンを装着して台所に立つ。やっぱりアヤさんはエプロンまでオシャレなのか! ちなみにエプロンを買いに行く時間がなかったので自分で作ったそうです。慧梨夏風に言うとさすアヤ。
「わー、がんばれー」
「慧梨夏、何ぼさっとしてんだ」
「はい?」
「今日は簡単なおつまみレシピの回で、お前でも出来るレベルの物が基本だから。はいエプロン」
「えっ、うちもやるの?」
今日はアヤさんに簡単なおつまみレシピを教えるという回だけど、それは俺の体調が良くないとなかなか厳しいということで開催がここまで延期になってたんだ。まだまだ本調子でないにせよ、少し元気な今日ならイケるかなと結構に至った。雨天決行、晴天中止で。
「たまちゃんエプロン姿かわいい~! ねえカズさん! かわいいですよね!」
「ポニテエプロンは男の悦び」
「何言ってんのカズ。晴れたら死ぬんだから早く料理教室開いてあげて」
「あっはい」
料理教室を開くのにどうして慧梨夏の部屋なのかというと、俺の部屋は学生の1人暮らしにしては設備が良すぎて普通の学生さんにはあまり参考にならないらしいのだ。それに、引っ越しの準備で人を上げられる状態でもなかったりする。
元々アヤさんは慧梨夏の友達だし、慧梨夏の部屋なら一般的な学生の1人暮らしと同じくらいの設備だから、どこの台所で料理をすることになっても対応出来るように教えてあげられるのではないかっていうところね。
「それじゃあ最初はパパッと出来るのを2つ3つ。慧梨夏は助手な」
「はい先生!」
「慧梨夏、そこの冷凍コーンをその器に入れて」
「はーい。こう?」
「で、次。バターをひとかけ、濃い目がいいなら増やしてもいいけど、コーンの上に乗せる」
「はい」
「で、3分レンチン。お好みでブラックペッパーなんかをかけてもオッケー。以上、コーンバターの作り方でした」
もう終わり、と慧梨夏が物足りなさそうにしている。だけど料理の中には調理時間5分とかで美味しいなんてものはザラにある。特に飲み会ではスピードが重視されるところがあるから、簡単なお通しみたいな物で時間を稼ぎながらメインディッシュを作るんだ。
コーンバターの次は豆もやしのナムルや塩キャベツ、厚揚げの豚肉巻きとそのアレンジの豚肉の大葉の渦巻き串などをパパッと作っていく。そして保存容器を取り出して、常備菜の代表格・ピクルスも。それから肉系の簡単レシピもいくつか紹介。
「はい、こんな感じでいかがですか!」
「カズさんすごい! 天才!」
「アヤさん、バイト先の飲み会でご飯作るんだっけ? あまり紹介出来てないけどこれで何とかなりそうかな」
「これで戦えます! 本当にありがとうございます!」
机の上には今日の料理教室で作ったおつまみレシピが所狭しと並んでいる。これから俺たちはこれを囲むことになる。話によると、アヤさんが研修していたっていう大学のパソコン自習室に無事正式なスタッフとして採用されたんだとか。そのバイトメンバーで宅飲みが開かれるとかって。
宅飲みだからと言って料理を作らなきゃいけないワケじゃないけど、惣菜やお菓子なんかを買い込むとお金がかかるし、作った方が安くて美味しいなら多少の手間は惜しまない方がいいっていうのが俺の考え方。特に俺は酒をあまり飲めないから、少しでも長く飲み会の雰囲気を楽しむ術でもあった。
アヤさんは今日のレシピをメモしたノートを見返しながら、ゆくゆくはこれを応用しても良さそうだなと満足げ。そして今日は助手を担当してくれた慧梨夏だ。最近は少しずつ包丁を解禁してたけど、今日も少し危なっかしいながら何とかこなしてくれたように思う。次のステップにはいつ進もうか。
「って言うかアヤちゃんとうとう先輩さんに認められたんだねえ」
「そうなの! まだ受付しか出来ないんだけど、春の繁忙期が過ぎたら自習室業務もスパルタ教習してもらうの~!」
「よかったねえ」
「今回は卒業する先輩の送別会と、私の歓迎会と、彼女が出来たっていう1年生の子のおめでとう会で」
「おめでたいねえ」
って言うか自分の歓迎会で自ら料理を作るって。まあ、俺も人のことは言えないんだけど。自分の誕生会の体で開かれた飲み会で普通にずっとご飯作ってましたよね。
「その後輩クンがね! ほわ~ってしてて可愛いの! でも友達みんなの前で告白しちゃったっていう天然っぷりでね!」
「なにそれ、詳しく」
「何かサークルの関係の集まりがあったみたくてね、他の大学の子たちも一緒に集まってたときに、わーって告白しちゃってたって」
「すげー度胸だな、公開告白とか」
「その子放送サークルの子なんでカズさんもしかして知ってるかもですよ。ミドリくんて知ってます? 丸眼鏡のほわ~ってした」
「うわ、ミドリか! えっ、その彼女って!? サークル関係の集まりってことはインターフェイスの子じゃんな!」
「女子大の子みたいですよ」
「女子大で、ミドリ……あ~、そこか~…!?」
慧梨夏は慧梨夏で創作のネタになりそうな話を必死にメモしてるし。慧梨夏にもアヤさんにも得る物があったようで何より。俺も今日はコンディションが良かったし本当に有意義でいい1日だった。ということにしておこう。
end.
++++
情報センターのあれこれの会のためにカナコが修行に出たようです。雨天のみ決行の料理教室です。
雨の日でないといち氏が死んでいるのでチャンスは少ない様子。春だから仕方ないね。それよかいち氏引っ越し準備大丈夫なんか
つかいち氏、自分の部屋の設備が普通の学生レベルじゃないという自覚はあったのね。そらそうよな、電気圧力鍋なんてそうもたんよ
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