2018(05)

■嵐の前の春に浮く

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「入所試験の結果、受付業務を一通り理解し、マシンの扱いはまだ少し怪しいにしても一応は人並みに処理出来ると判断した。合格だ。A番専任のスタッフとして採用する」

 今日は情報センターの自称研修生・綾瀬に対する入所試験が行われていた。センターも慢性的な人手不足で、多少機械音痴だろうと積極的に人を増やしていかねばならん時に来ていた。そこで、綾瀬をA番専任スタッフとして登用するか否かの試験を行うことになったのだ。
 発表したように、受付業務に関する理解はあるし、業務中に起こり得る様々な事案への対処もそれなりに出来ていた。ちなみに、受付業務で起こり得る事案はかつてはA番の主とも呼ばれた春山さんに洗いざらい挙げてもらった物だ。この分なら実戦でも通用するし、オレの責任で採用してもいいという結論に至った。

「……キャー! 本当に合格ですか雄介さん!」
「何度も言わすな」
「キャー! ありがとうございます! 頑張ります!」
「わー! おめでとうございますカナコさん!」
「ありがとうミドリくん!」

 採用を通知した瞬間、綾瀬は川北と手を合わせてきゃっきゃと喜んでいる。まるで大学の合格発表のようだ。入所しただけのことでこんなに喜んでもらっても困るが、まあ今日くらいは大目に見てやろう。明日からはまたみっちりと扱き倒さねばならんのだ。

「カナコちゃんも無事にスタッフに合格したし、ミドリは彼女も出来たし、春山さんは卒業だし。センターはおめでたいことが続いてるね!」
「えっ、ミドリくん彼女出来たの!?」
「あっはいー、実はー」
「キャー! おめでとうミドリくん!」
「ありがとうございますー」
「ちょーっと待てい! 川北ァ、聞き捨てならねーなァ。女が出来たということは? つまり、お前の逸材が」
「アンタが出て来るとややこしくなる。隠居するならそれらしく引っ込んでろ」
「あンだリンテメー! 最後の最後まで先輩に対する礼儀がなってなかったなこのヤロー!」
「アンタに尽くす礼などない」

 川北が片想いを拗らせていた相手と無事に交際を始めたという話はその直後に聞いていた。それはもう惚け惚けとした様子で、浮かれていますよというのが一目でわかるのだ。嬉しいのはわかるが業務中にやらかしてくれるなとは一応釘は刺した。

「ねえねえユースケ、おめでたいときってパーティーをするんだよね?」
「必ずしもしなければならないということもないが、誕生日を迎えれば誕生パーティーをやることもあるし、職場などでは節目ということで歓送迎会というような催しを開くこともあるな」
「ユースケ、これはセンターでも春山さんとカナコちゃんの歓送迎会? と、ミドリが彼女出来ておめでたいっていうパーティーを開くべきだよ!」
「川北の件は知らんが、歓送迎会か。これまでセンターではそんなことやった記憶などないが」
「なかったならユースケが歴史に名を刻めばいいと思うんだよ」
「おいリン、送迎会はともかく川北を尋問する大会なら喜んで参加するぞ!」
「わーっ! そんな恐ろしい大会になっちゃうんですかーっ!? 歓送迎会なんですから俺のことはいいじゃないですか、ねっ?」

 まだやるとは一言も言ってないのだが、それぞれが各々の思う歓送迎会あるいは川北の尋問大会について想いを膨らませ始める物だから、それを無下にすることも出来んなと。ただ、ほぼ全員が宅飲みベースで物を考えているのは助かった。この時期はどこの店も予約が取れんだろうからな。
 さて、情報センターで歓送迎会なるものを最初に開くバイトリーダーとして歴史に名を刻むことになったオレだが、この流れだと幹事もオレがやらなくてはならないのだろうか。仮にも綾瀬と春山さんは歓送迎の対象だ。川北は、尋問をされるだろう会でさらに幹事という役職を与えるのも酷か。烏丸に行事の幹事はまだ早いだろう。

「歓送迎会をやるとしても、宅飲みで構いませんよね」
「あーあ、店だと金と時間の制約があるしな。私は宅飲みで全然オッケーだ」
「宅飲みですか!? 友達の彼氏さんに実戦で使えるおつまみのレシピを教えてもらいますね!」
「……ということだから、川北、悪いがお前の部屋を会場にさせてもらう体でいいか」
「はい、俺は全然大丈夫ですー」
「よーし家探しすっぞォー!」
「春山さんにとって面白い物はないと思います!」

 青山さんとかいう奇人がいなければまあ場の安寧は保たれるだろう。現状春山さんはあの人に今後の進路を伝えることもしていないし、撒いている状態らしいから当日も大丈夫だと思いたい。酒の場で2人が揃ってしまうともれなく現場が盛り場になるからな。

「はいはい。この話はここらで措いておくぞ」
「はーい」
「綾瀬がA番専任スタッフとして加入したものの、依然として情報センターはスタッフ不足であることに変わりない。春に向けて人員の募集を掛けていくが、履修登録と修正に伴う月末からの繁忙期は今いるメンバーで乗り切らねばならん。特に新4年の健康診断の日は川北、それから綾瀬で回すことになる。今から気を引き締めるように」
「ところで雄介さん、冴ちゃんは戻って来ないんですか?」
「戦力として期待するだけ無駄だ。いない物と思っていなければセンターは回らん。とにかく、まだ比較的余裕のある今から繁忙期に向けた準備を怠らないように。以上だ」
「いよォーし! 尋問大会の内容詰めるぞー!」
「だからアンタは…!」


end.


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情報センターにカナコが加入しました。ミドリときゃっきゃして喜んでいるところがやりたかっただけだよ!
しかし、ミドリの尋問だの家探しだの、あっという間に物騒な大会になりそうな歓送迎会である。
カナコはおつまみのレシピを友達の彼氏さんに教えてもらおうとしているようだけど、もしかしてそれは春は使い物にならない某雨宮先生の彼氏様なのかしら

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