2018(05)
■bastard's kingdom
++++
「誰かと思えば野坂じゃない。元気だった?」
「ダイさん! お久し振りです!」
急に声を掛けられるから、誰かと思えばMMPのOBで夏合宿の頃にはそれはもうお世話になりになりまくって足を向けては寝られない存在となった大先輩であるダイさんだ。ダイさんとお会いするのは夏以来になる。
現在はスキー場でのDJ(今年は少し早く終了したそうだ)やイベントMC、それから結婚式の司会などをしながら生計を立てていらっしゃるダイさんだけど、まだそれだけでは食べていけないので通信端末を売るお仕事もされているのだ。シフト制なので比較的平日の休みも多いそうで。
「って言うか今って春休みだよね。わざわざ大学に来るなんて何か用事?」
「応用情報に向けた勉強を。たまには大学の図書館で集中しようと」
「真面目だねえ」
「と言うか、卒業されたはずのダイさんがどうして大学に」
「俺はさ、ゼミの同級生に呼び出されたのよ」
「そうでしたか。確かダイさんもメディアでしたよね。どちらのゼミでいらしたんですか」
「野島だよー」
「ナ、ナンダッテー!?」
「おっ、知ってる?」
「知っているも何も、次の春から正式にゼミ生として所属することになっています」
「そりゃちょうどいいや、今からゼミ室行くしもし時間あったら一緒に行かない?」
ダイさんの思い出話を聞きながらゼミ室に足を踏み入れると、春休みだというのに先輩方が何人か集っていらっしゃる。研究熱心なのか、それとも。このゼミの先輩の中には何人か救いのないクズがいらっしゃるからなあ。いや、何かの能力に突き抜けた結果クズになってしまったのかもしれないけれど。
「あれー、野坂くんだ。おはよー」
「磐田先輩おはようございます。本日はどうされたんですか?」
「京川さんに呼び出されてて、待ってるところだよー」
「まもちゃーん、久し振りだねえ。元気にしてた?」
「あっはい。水沢さんもお元気そうで何よりです」
やっぱりいつ聞いても磐田先輩の声は夢の国の主を彷彿とするなあ。ダイさんと磐田先輩はゼミの所属年こそカブっていないものの、ダイさんがちょこちょこ遊びに来る関係でちょっとした顔見知りにはなっていたらしい。ダイさんのフットワークの軽さがさすがだぜ!
そんなことより磐田先輩から出た不吉な名前だ。京川さんだって…? あの人には深く関わっちゃいけないと本能の方が警鐘を鳴らしてたんだよなあ。いや、別に何をされたというワケでもないんだけど、何となく、こう、うん。
「あれっ、野坂くんと水沢さんって」
「サークルの後輩なのよ」
「ですよねえ、MMPですもんね」
「ダイちゃーん! 来てくれたんだね!」
「来てくれたも何も、呼び出したのは樹理ちゃんでしょう」
うーわっ、やっぱり! 京川さんだ! そ、存在感を消さないと……何かとんでもないことに巻き込まれる気がする……。
「あっ、まもちゃんもいるね! あれっ、S君も呼んでたっけ?」
「磐田先輩、この場合S君というのは俺のことなのでしょうか、名前にはひとつも掠っていないはずですが」
「多分オールSのSじゃないかなあ。前原くんと佐久間くんがオールSを連呼してたのが印象に残ってるみたいだし」
「何故そこを取った!」
余談ですが2年秋学期の成績もオールSでした、本当にありがとうございました。
「ダイさん、もしかして同級生というのは京川さんのことで…?」
「そ。年は1コ上だけどダブリとかその他調整で気付いたら同学年になってた京川樹理ちゃん」
「卒業も同時じゃなかったもんねえ。院試に落ちて4年生を2回やったり」
「で、今日は何の集まり? まもちゃんいるってことはUSDX謝恩会的な?」
「そうそう。最近USDXの生放送とかで結構おひねり頂いてるし、少しいいご飯でも行こうと思って」
「えっ、えっ、ちょまっ、えっ? 京川さん、今USDXと仰いました?」
「あっ、もしかして視聴者さん? やあ、みんなのキョージュだよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
あっさりバラしていくスタイルなんだね、とダイさんがケラケラ笑っていらっしゃるけど俺はとてもそれどころじゃない。と言うか大晦日にこーたと一緒になってあのクソ微妙なバイオリンの第九動画を見ながらゲラゲラ笑っていたじゃないか。
まさかこんな身近なところに普段から見ている動画の実況者本人がいるだなんて思わないじゃないか。いや、このご時世、俺の知らないだけでいろんな人が実況や歌、同人活動なんかをしているんだろうけど、まさかなあ。いや、でもキョージュのクズっぽさにも納得した。中の人が本物なんだもんなあ。
「磐田先輩は何を」
「まもちゃんはマシンメンテをやってくれてたりするんだよ。なんかね、めんどくさくなっちゃうんだよね」
「そこは自分でやりましょうよ……では、ダイさんは」
「ダイちゃんはそれこそ天の声だよ」
「そうそう。ナレーションだけでいいからって言われて頼まれたのよ。今もたまにナレ入れしてるしねえ」
「だってだよS君、近場にこんないい声がいたら使うでしょ?」
「S君という呼び名には納得していませんがダイさんにナレーションを入れていただけるならそれはとてもありがたいことであるとは」
「せっかくだし何かの縁だろうからS君もご飯来なよ。ごちそうするし」
「いえ、USDXに関わっていない俺がその謝恩会の名目で開かれる食事会に参加するのもおかしいので、遠慮させていただきます」
「じゃあ学年を越えたゼミの交流会に名前を変えたからS君も来るよね?」
どうやら俺に逃げ道は残されていないらしい。情報量が多すぎて処理が追いついていないし、いくら京川さんがあのキョージュだからと言って京川さんには違いないのであまり深く関わると後が大変な気がするんだよなあ! でも、受けないにしても院試などの話は聞いてみたい気もするし…!
「ゼミの交流会って体だし来たら? いたいけな19歳はお財布のこと気にしなくても平気だし」
「あっ。ダイさん、私事で恐縮ですが、今月の5日に誕生日を迎えて20歳になりまして」
「あれあれ? 樹理ちゃん、これ飲むヤツじゃない?」
「飲むヤツだね。ってダイちゃんどうせ車だから飲まないでしょ?」
「飲めないねえ。せっかくだしソル君でも呼んだら?」
「えーっ!? ソルさんダッテー!?」
「あれっ、京川さん、でも今ってツミツミの動画が毎日のように上がって……」
「あ、そうだ。拓馬、ガチな社畜モードに入ってるから呼べなさそうだね」
end.
++++
ノサカが1人でどったんばったんしてるだけの回。しかし今回は先輩に対してクズクズ言い過ぎである。
バンデンに対しては結構懐いているようだけど、その他の先輩たちに対してはどこかで一線を置いているよ! これが本能か
ツミツミ動画の頻度でソルさんの社畜度が測れる。それがUSDXだ! 残りのメンバーでしばらく頑張れ!
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「誰かと思えば野坂じゃない。元気だった?」
「ダイさん! お久し振りです!」
急に声を掛けられるから、誰かと思えばMMPのOBで夏合宿の頃にはそれはもうお世話になりになりまくって足を向けては寝られない存在となった大先輩であるダイさんだ。ダイさんとお会いするのは夏以来になる。
現在はスキー場でのDJ(今年は少し早く終了したそうだ)やイベントMC、それから結婚式の司会などをしながら生計を立てていらっしゃるダイさんだけど、まだそれだけでは食べていけないので通信端末を売るお仕事もされているのだ。シフト制なので比較的平日の休みも多いそうで。
「って言うか今って春休みだよね。わざわざ大学に来るなんて何か用事?」
「応用情報に向けた勉強を。たまには大学の図書館で集中しようと」
「真面目だねえ」
「と言うか、卒業されたはずのダイさんがどうして大学に」
「俺はさ、ゼミの同級生に呼び出されたのよ」
「そうでしたか。確かダイさんもメディアでしたよね。どちらのゼミでいらしたんですか」
「野島だよー」
「ナ、ナンダッテー!?」
「おっ、知ってる?」
「知っているも何も、次の春から正式にゼミ生として所属することになっています」
「そりゃちょうどいいや、今からゼミ室行くしもし時間あったら一緒に行かない?」
ダイさんの思い出話を聞きながらゼミ室に足を踏み入れると、春休みだというのに先輩方が何人か集っていらっしゃる。研究熱心なのか、それとも。このゼミの先輩の中には何人か救いのないクズがいらっしゃるからなあ。いや、何かの能力に突き抜けた結果クズになってしまったのかもしれないけれど。
「あれー、野坂くんだ。おはよー」
「磐田先輩おはようございます。本日はどうされたんですか?」
「京川さんに呼び出されてて、待ってるところだよー」
「まもちゃーん、久し振りだねえ。元気にしてた?」
「あっはい。水沢さんもお元気そうで何よりです」
やっぱりいつ聞いても磐田先輩の声は夢の国の主を彷彿とするなあ。ダイさんと磐田先輩はゼミの所属年こそカブっていないものの、ダイさんがちょこちょこ遊びに来る関係でちょっとした顔見知りにはなっていたらしい。ダイさんのフットワークの軽さがさすがだぜ!
そんなことより磐田先輩から出た不吉な名前だ。京川さんだって…? あの人には深く関わっちゃいけないと本能の方が警鐘を鳴らしてたんだよなあ。いや、別に何をされたというワケでもないんだけど、何となく、こう、うん。
「あれっ、野坂くんと水沢さんって」
「サークルの後輩なのよ」
「ですよねえ、MMPですもんね」
「ダイちゃーん! 来てくれたんだね!」
「来てくれたも何も、呼び出したのは樹理ちゃんでしょう」
うーわっ、やっぱり! 京川さんだ! そ、存在感を消さないと……何かとんでもないことに巻き込まれる気がする……。
「あっ、まもちゃんもいるね! あれっ、S君も呼んでたっけ?」
「磐田先輩、この場合S君というのは俺のことなのでしょうか、名前にはひとつも掠っていないはずですが」
「多分オールSのSじゃないかなあ。前原くんと佐久間くんがオールSを連呼してたのが印象に残ってるみたいだし」
「何故そこを取った!」
余談ですが2年秋学期の成績もオールSでした、本当にありがとうございました。
「ダイさん、もしかして同級生というのは京川さんのことで…?」
「そ。年は1コ上だけどダブリとかその他調整で気付いたら同学年になってた京川樹理ちゃん」
「卒業も同時じゃなかったもんねえ。院試に落ちて4年生を2回やったり」
「で、今日は何の集まり? まもちゃんいるってことはUSDX謝恩会的な?」
「そうそう。最近USDXの生放送とかで結構おひねり頂いてるし、少しいいご飯でも行こうと思って」
「えっ、えっ、ちょまっ、えっ? 京川さん、今USDXと仰いました?」
「あっ、もしかして視聴者さん? やあ、みんなのキョージュだよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
あっさりバラしていくスタイルなんだね、とダイさんがケラケラ笑っていらっしゃるけど俺はとてもそれどころじゃない。と言うか大晦日にこーたと一緒になってあのクソ微妙なバイオリンの第九動画を見ながらゲラゲラ笑っていたじゃないか。
まさかこんな身近なところに普段から見ている動画の実況者本人がいるだなんて思わないじゃないか。いや、このご時世、俺の知らないだけでいろんな人が実況や歌、同人活動なんかをしているんだろうけど、まさかなあ。いや、でもキョージュのクズっぽさにも納得した。中の人が本物なんだもんなあ。
「磐田先輩は何を」
「まもちゃんはマシンメンテをやってくれてたりするんだよ。なんかね、めんどくさくなっちゃうんだよね」
「そこは自分でやりましょうよ……では、ダイさんは」
「ダイちゃんはそれこそ天の声だよ」
「そうそう。ナレーションだけでいいからって言われて頼まれたのよ。今もたまにナレ入れしてるしねえ」
「だってだよS君、近場にこんないい声がいたら使うでしょ?」
「S君という呼び名には納得していませんがダイさんにナレーションを入れていただけるならそれはとてもありがたいことであるとは」
「せっかくだし何かの縁だろうからS君もご飯来なよ。ごちそうするし」
「いえ、USDXに関わっていない俺がその謝恩会の名目で開かれる食事会に参加するのもおかしいので、遠慮させていただきます」
「じゃあ学年を越えたゼミの交流会に名前を変えたからS君も来るよね?」
どうやら俺に逃げ道は残されていないらしい。情報量が多すぎて処理が追いついていないし、いくら京川さんがあのキョージュだからと言って京川さんには違いないのであまり深く関わると後が大変な気がするんだよなあ! でも、受けないにしても院試などの話は聞いてみたい気もするし…!
「ゼミの交流会って体だし来たら? いたいけな19歳はお財布のこと気にしなくても平気だし」
「あっ。ダイさん、私事で恐縮ですが、今月の5日に誕生日を迎えて20歳になりまして」
「あれあれ? 樹理ちゃん、これ飲むヤツじゃない?」
「飲むヤツだね。ってダイちゃんどうせ車だから飲まないでしょ?」
「飲めないねえ。せっかくだしソル君でも呼んだら?」
「えーっ!? ソルさんダッテー!?」
「あれっ、京川さん、でも今ってツミツミの動画が毎日のように上がって……」
「あ、そうだ。拓馬、ガチな社畜モードに入ってるから呼べなさそうだね」
end.
++++
ノサカが1人でどったんばったんしてるだけの回。しかし今回は先輩に対してクズクズ言い過ぎである。
バンデンに対しては結構懐いているようだけど、その他の先輩たちに対してはどこかで一線を置いているよ! これが本能か
ツミツミ動画の頻度でソルさんの社畜度が測れる。それがUSDXだ! 残りのメンバーでしばらく頑張れ!
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