2018(05)
■気取らず、気張らず、自然体
++++
「……あー、えっと……ユキちゃん、この後どうする?」
「もう少し2人でいたい、かな」
春の番組制作会が終わって、インターフェイスの1年生みんなで近くのファミレスに来てセルフ打ち上げみたいなことをやってたんだ。そこで何が起こったのか自分でもよくわかんないし覚えてないんだけど、ついみんなの前でユキちゃんに告白しちゃったよね。
最近俺とユキちゃんの仲がいいよねみたいな話になっていったのかな。今日の制作会でもクジでペアになって~ってところから。いい雰囲気だしそういう風にもなっていくのっていうありがちな冷やかし。そういう冷やかしの対象になって困ってるユキちゃんが見てられなくて、次の瞬間には。
たまたま両想いだったから良かったけど、いや、良くはないんだけど、たまたま両想いだったから良かったかなって。これで俺の一方的な想いだったら2人ともこれからインターフェイスでやっていくのが気まずかっただろうし。それも一緒に定例会だしね。結果として付き合うことになったんだけど。
「何か、一瞬で公認みたいな感じになっちゃったね」
「ホント、あたしびっくりしたよ」
「えっと、勢いみたいになっちゃってごめんね。でも、俺がユキちゃんを大好きなのは本当だから」
1年生の集まりは解散して、これからどうしようかなって。もうすぐ夕飯時だから、ご飯を食べに行ってもいいかもしれない。行く当ても特にないけど、とりあえず手を繋ぐ。それからどこへ行こうか考えるんだ。手を繋いで歩き出そうとした瞬間、体にかすかな振動を感じる。多分1台目のスマートフォン。何だろ、誰だろ。
「ちょっとごめん」
――と、誰からのどんな連絡かを確かめて、何をするでもなく震えたままのスマホをカバンのあるべき場所に戻した。何もかもを吹っ切るように、今は目の前にいるユキちゃんだけに集中するように。
「ミドリ、顔がちょっと怖いよ」
「えっ、そうかな?」
「何となく察したから聞かないけど。今日はこんな感じなら、夜まで一緒にいようか」
「心配かけちゃってごめんね、でも、大丈夫だから」
電話の主は地元で5年付き合っていた前の彼女だ。何かある度に俺に無言電話をかけて来る。その存在がプレッシャーになっていると言うか、何らかの圧になっているのか、夢にまで出て来てなかなか眠れなかったり魘されたりする。
俺が約束を一方的に破って向島に出て来てから、彼女は変わってしまったらしいとは聞く。前向きで穏やかな優しい人だったと思うけど、今では暗くて攻撃的で、周りの人にちょっかいを出しては死ぬとか死なないとかの嘘を繰り返していると。
今では情報センターの先輩たちが俺を励ましてくれたり、友達もいっぱいできて気が紛れることもある。だけど夜に1人でいるときに電話がかかってくるとちょっと怖いなって思って考え過ぎちゃうと言うか。
「1台目のスマホはあんまり見ないから、連絡は2台目の方によろしくね」
「うん、わかってる。ミドリ、スーパー行く? 一緒にご飯作って食べよう」
「うん。そうしよう。そしたら1回うちに行こうか。買い物するなら何を買わなきゃいけないのか見たいし、エコバッグも取って来なきゃ」
手を繋いだまま、俺の部屋へ。荷物を減らすついでに少し休憩を。さっきからひっきりなしに着信を繰り返していた1台目のスマホは電池がなくなってしまったけど、充電はしばらくしたくないなあって気持ちがある。でも、2台目のスマホの存在はあんまり言ってないから、充電はしないと。
「ミドリ、何作ろっか」
「2人の最近の食事を照らし合わせて、被らないようにしてみる?」
「そうだね。あたしのお昼はパンで、昨日の夜は肉じゃがだったよ」
「俺のお昼はおにぎりで、昨日の夜はインスタントラーメンだったよ」
「洋食寄りにしてみる? 何が食べたいかなー」
食べたい物のヒントを探そうと、2台目のスマホで洋食のレシピを検索してみる。投稿型のレシピサイトも使えるんだろうけど、情報をきちんと選んでいかないと危ないこともあるって聞いたことがあるから一応料理番組や調味料のレシピサイトで調べる。
「あっ、ポテトサラダ美味しそう」
「あたし煮込みハンバーグが美味しそうだなって思った」
「じゃあハンバーグの付け合わせにポテトサラダはどうかな」
「うん、いいね! 今日はごちそうにしよう」
「いいけど、何かごちそうを食べるほどのお祝い事なんてあったかなあ」
「ミドリ、それ言う?」
「えっ?」
「付き合い始めの記念日っていうのはごちそうにする理由にならないかな」
「ごめん! 素で思いつかなかった! うん、それ大切! ……ほら、何か、最近はユキちゃんがうちに来てくれることも少しあったから、日常になり始めてて」
煮込みハンバーグとポテトサラダの材料を考えて、何を買いに行かなきゃいけないのかを考える。ジャガイモ以外の物を揃えたらいいのかな。付き合い始めた記念日か。改めて考えたらやっぱり嬉しいな。先送りにしてる問題がなくなったワケじゃないけど、今はこの幸せに集中したい。
買い物のメモを書き終えて、ペンを机にパタンと倒す。嬉しいとか、不安とか、いろんな感情がごちゃごちゃーってなってわーってなりそうなのをこらえて。隣にいるユキちゃんはいつでも手が届く距離だなって、触れていいかなって、ふと思った。
「ミドリ、あたしがいるからね。大丈夫」
「え…?」
「根本的な解決にはなってないけど、少しでもミドリが……なんだろ、好きなこととか勉強に向かえるように。ミドリが笑っててくれるようにあたしは」
「ユキちゃん、ありがとう」
ありがとうって本当に思って、ユキちゃんを抱きしめる。今の感じだとユキちゃんの方が腹を括れてるよなあって思ったりもするし、この問題と向き合わなきゃいけないのは俺なんだけど。だけど、そう言ってくれるのが嬉しくて。頑張らなきゃなあって。
何があるか本当にわからないから、いざという時は俺がユキちゃんを守らなきゃなあとも思う。俺と付き合うっていうことは、そういうことに巻きこんじゃうだろうから。せめて身の危険がないように気を付けてあげなきゃなって。
「ミドリ、買い物行く?」
「うん。とびっきりのごちそうを作ろう」
end.
++++
そう言えば講習会の日から付き合い始めたという体のミドユキでした。その現場の話はウン年前参照。
今年度のミドユキはミドリ宅でご飯を食べてることが多いですね。2人で台所に並んでご飯作ってたらかわいい
ただ、ミドリの元カノ問題は解決していないので、今後はどうなっていくのかな。きっとナノスパの時間軸では語られない話です。
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「……あー、えっと……ユキちゃん、この後どうする?」
「もう少し2人でいたい、かな」
春の番組制作会が終わって、インターフェイスの1年生みんなで近くのファミレスに来てセルフ打ち上げみたいなことをやってたんだ。そこで何が起こったのか自分でもよくわかんないし覚えてないんだけど、ついみんなの前でユキちゃんに告白しちゃったよね。
最近俺とユキちゃんの仲がいいよねみたいな話になっていったのかな。今日の制作会でもクジでペアになって~ってところから。いい雰囲気だしそういう風にもなっていくのっていうありがちな冷やかし。そういう冷やかしの対象になって困ってるユキちゃんが見てられなくて、次の瞬間には。
たまたま両想いだったから良かったけど、いや、良くはないんだけど、たまたま両想いだったから良かったかなって。これで俺の一方的な想いだったら2人ともこれからインターフェイスでやっていくのが気まずかっただろうし。それも一緒に定例会だしね。結果として付き合うことになったんだけど。
「何か、一瞬で公認みたいな感じになっちゃったね」
「ホント、あたしびっくりしたよ」
「えっと、勢いみたいになっちゃってごめんね。でも、俺がユキちゃんを大好きなのは本当だから」
1年生の集まりは解散して、これからどうしようかなって。もうすぐ夕飯時だから、ご飯を食べに行ってもいいかもしれない。行く当ても特にないけど、とりあえず手を繋ぐ。それからどこへ行こうか考えるんだ。手を繋いで歩き出そうとした瞬間、体にかすかな振動を感じる。多分1台目のスマートフォン。何だろ、誰だろ。
「ちょっとごめん」
――と、誰からのどんな連絡かを確かめて、何をするでもなく震えたままのスマホをカバンのあるべき場所に戻した。何もかもを吹っ切るように、今は目の前にいるユキちゃんだけに集中するように。
「ミドリ、顔がちょっと怖いよ」
「えっ、そうかな?」
「何となく察したから聞かないけど。今日はこんな感じなら、夜まで一緒にいようか」
「心配かけちゃってごめんね、でも、大丈夫だから」
電話の主は地元で5年付き合っていた前の彼女だ。何かある度に俺に無言電話をかけて来る。その存在がプレッシャーになっていると言うか、何らかの圧になっているのか、夢にまで出て来てなかなか眠れなかったり魘されたりする。
俺が約束を一方的に破って向島に出て来てから、彼女は変わってしまったらしいとは聞く。前向きで穏やかな優しい人だったと思うけど、今では暗くて攻撃的で、周りの人にちょっかいを出しては死ぬとか死なないとかの嘘を繰り返していると。
今では情報センターの先輩たちが俺を励ましてくれたり、友達もいっぱいできて気が紛れることもある。だけど夜に1人でいるときに電話がかかってくるとちょっと怖いなって思って考え過ぎちゃうと言うか。
「1台目のスマホはあんまり見ないから、連絡は2台目の方によろしくね」
「うん、わかってる。ミドリ、スーパー行く? 一緒にご飯作って食べよう」
「うん。そうしよう。そしたら1回うちに行こうか。買い物するなら何を買わなきゃいけないのか見たいし、エコバッグも取って来なきゃ」
手を繋いだまま、俺の部屋へ。荷物を減らすついでに少し休憩を。さっきからひっきりなしに着信を繰り返していた1台目のスマホは電池がなくなってしまったけど、充電はしばらくしたくないなあって気持ちがある。でも、2台目のスマホの存在はあんまり言ってないから、充電はしないと。
「ミドリ、何作ろっか」
「2人の最近の食事を照らし合わせて、被らないようにしてみる?」
「そうだね。あたしのお昼はパンで、昨日の夜は肉じゃがだったよ」
「俺のお昼はおにぎりで、昨日の夜はインスタントラーメンだったよ」
「洋食寄りにしてみる? 何が食べたいかなー」
食べたい物のヒントを探そうと、2台目のスマホで洋食のレシピを検索してみる。投稿型のレシピサイトも使えるんだろうけど、情報をきちんと選んでいかないと危ないこともあるって聞いたことがあるから一応料理番組や調味料のレシピサイトで調べる。
「あっ、ポテトサラダ美味しそう」
「あたし煮込みハンバーグが美味しそうだなって思った」
「じゃあハンバーグの付け合わせにポテトサラダはどうかな」
「うん、いいね! 今日はごちそうにしよう」
「いいけど、何かごちそうを食べるほどのお祝い事なんてあったかなあ」
「ミドリ、それ言う?」
「えっ?」
「付き合い始めの記念日っていうのはごちそうにする理由にならないかな」
「ごめん! 素で思いつかなかった! うん、それ大切! ……ほら、何か、最近はユキちゃんがうちに来てくれることも少しあったから、日常になり始めてて」
煮込みハンバーグとポテトサラダの材料を考えて、何を買いに行かなきゃいけないのかを考える。ジャガイモ以外の物を揃えたらいいのかな。付き合い始めた記念日か。改めて考えたらやっぱり嬉しいな。先送りにしてる問題がなくなったワケじゃないけど、今はこの幸せに集中したい。
買い物のメモを書き終えて、ペンを机にパタンと倒す。嬉しいとか、不安とか、いろんな感情がごちゃごちゃーってなってわーってなりそうなのをこらえて。隣にいるユキちゃんはいつでも手が届く距離だなって、触れていいかなって、ふと思った。
「ミドリ、あたしがいるからね。大丈夫」
「え…?」
「根本的な解決にはなってないけど、少しでもミドリが……なんだろ、好きなこととか勉強に向かえるように。ミドリが笑っててくれるようにあたしは」
「ユキちゃん、ありがとう」
ありがとうって本当に思って、ユキちゃんを抱きしめる。今の感じだとユキちゃんの方が腹を括れてるよなあって思ったりもするし、この問題と向き合わなきゃいけないのは俺なんだけど。だけど、そう言ってくれるのが嬉しくて。頑張らなきゃなあって。
何があるか本当にわからないから、いざという時は俺がユキちゃんを守らなきゃなあとも思う。俺と付き合うっていうことは、そういうことに巻きこんじゃうだろうから。せめて身の危険がないように気を付けてあげなきゃなって。
「ミドリ、買い物行く?」
「うん。とびっきりのごちそうを作ろう」
end.
++++
そう言えば講習会の日から付き合い始めたという体のミドユキでした。その現場の話はウン年前参照。
今年度のミドユキはミドリ宅でご飯を食べてることが多いですね。2人で台所に並んでご飯作ってたらかわいい
ただ、ミドリの元カノ問題は解決していないので、今後はどうなっていくのかな。きっとナノスパの時間軸では語られない話です。
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