2018(04)
■星屑と散る孤独をなぞり
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ゲンゴローが、悩んでいるらしい。代替わりで朝霞班から戸田班になって、その活動のビジョンがまだ見えてこないこととか、いろいろ。それをどこから聞いたのかと言えば、シゲトラ経由で。たまたま会ったらしいんだけど、その時にちょっと元気がなかったって。
俺が代替わり前に変にプレッシャーを掛けちゃったかな~って感じもあったし、部活は引退したけど一応はまだ先輩。一応1回は話を聞いておいてみようかなとゲンゴローに連絡を入れた。すると嬉しそうな文面だったから、ちょっと安心。
「ゲンゴロー久し振り~、でしょでしょ~」
「山口先ぱーい、お久し振りですー」
「お茶でもしながら話そっか~、今日は俺が奢っちゃうよ~」
「えー、何かすみません」
「い~のい~の、可愛い後輩が悩んでるっていうんだから。一肌脱がせてよ~」
何か、ここまでステージスター仕様でガチるのも久し振り。春になると人に会う機会も増えるから俺もこの顔を思い出さないとネ。朝霞クン相手だと素でいいからこの仕様忘れちゃうんだよ。ステージスターも素の一部ではあるけど、ずっとだとしんどいよね。
「どう、部活の方は」
「アナさんとPがいない状況に変わりがなくって、ちょっとまだ」
「宇部班のマリンちゃんが自由契約状態だって聞いたけど? あの子Pもアナも出来る子デショ? それにつばちゃん大好きっ子だし」
「そうなんですけど、つばめ先輩がまだ交渉のテーブルについてくれなくて。俺も説得はしてるんですけど、何か難しいことを考えてるような感じで」
実は、つばちゃんの話もちょっと聞いてるんだよね。つばちゃんはつばちゃんでこれからの班運営だとかステージのことを考えて、悩んでる様子だった。まだどこかで覚悟が持てないと言うか、恐怖と闘っているような……そんな感じだった。
単刀直入につばちゃんが何を一番心配しているのかと言えば、自分の名前のこと。朝霞班は良くも悪くもステージしかない班で、ステージの鬼とまで呼ばれた朝霞クンの率いるステージバカな班。単純に部長から嫌われていただけで、部に何か害があるワケでもなく。
だけど、つばちゃんは部の幹部に噛みついて流刑に遭ったという経緯がある。実際越谷班時代に俺たちは不遇な扱いを受けていたし、現部長の柳井クンも「流刑地だからではなく戸田が班長だから流刑地をマークする」というスタンスだとはカンノ君から聞いた。
自分が由宇ちゃんや朝霞クンに守られていたことを知って、ミラちゃんの件で守ることの難しさを知った。そしてこれからは守りながらも背負って行かなければならない。そんなことの難しさを噛みしめているようだった。
「ゲンゴロー。俺が部活を引退する前にさ、もしこういう事態になったとき、つばちゃんを説得できるのはゲンゴローだけだって言ったデショ?」
「はい」
「前提条件が足りなかったかも」
「前提条件ですか?」
「班の名前が変わっても、ステージをやりたいっていう想い自体は同じなんだよ」
「はい、それはつばめ先輩も言ってました」
「だけど、つばちゃんは班長になって今までより多くのことを見て、考えなくちゃいけない。つばちゃんは“流刑”に遭った子で、部の幹部からすれば不穏分子。もしものことがあったら班員を守らないとっていうのがネックになってるかもしれないネ」
「俺は、どうしたらいいんでしょうか」
「多分、班長って俺たちが思う以上にずっと孤独だよ。守る思いが強くなればなるほど。ゲンゴローは、つばちゃんにとってのステージの基準を知ってる唯一の班員デショ? だから、ステージ面でつばちゃんを支えてあげて。ゲンゴローがいるから大丈夫だって、安心してもらえるように。そうすればつばちゃんも次を考え始められるはずだから」
「山口先輩も、そうしてたんですか」
「意識はしてないよ。ほら、俺って天性のステージスターだし~?」
部活の現役時代は唯一無二の相棒だったとは思うし、そうあるようにすごく意識して努力してきた。だけど、今思うとどうだったんだろうね。でも、きっと俺はステージスターを全う出来たんだろうね。俺がいるからどんな台本でも出せるっていうレベルのステージスターを。
つばちゃんとゲンゴローは学年も違うし、俺と朝霞クンの例をそのまま持ち出すにはちょっとまた違うかもしれない。だけど、つばちゃんもほぼ朝霞クンの台本で育ってるディレクターだから、そのレベルで話の出来る人が1人いるのといないのとでは大違いだとは思うんだ。
「ステージ面と言うと、ミキサーの技術的なことですかね」
「そうだね。小道具なんかはもうゲンゴローにお任せって状態だしね。あとは……そうだね、仮にマリンちゃんが戸田班に移籍してきた場合、うま~く潤滑剤になってあげるコト? つばちゃんはメグちゃ……宇部Pが苦手だし、マリンちゃんも朝霞クンが大嫌いでしょ? 育って来た環境ってやっぱどうしても出ちゃうから、そこをこう、永世中立班出身だからこその空気感みたいな物で、ゲンゴローが上手いことやってあげる感じ」
「ええー、怖いですよ! 俺も実質朝霞班育ちなのに」
「いや、でも実際あるんだって、中立の班の子にはそういう空気がさ。水鈴さんならしょうがないとか、シゲトラが言うならまあいいかとか」
「確かにシゲトラ先輩のそれはわかるような気がします。でも、山口先輩も朝霞班なのにそういう感じだったじゃないですか。みんなの人気者と言うか」
「俺も元々中立班の出身だからね」
「えっ、そうなんですか?」
「そう。だから何かが間違えば鎌ヶ谷班でゲンゴローと一緒にやってたかもかも~」
「そうだったんですねー……」
「とにかく。ゲンゴローは、つばちゃんが安心出来るようなポジションになっていこうね」
「頑張ります」
班の運営とか部との兼ね合いは班長のつばちゃんが考えなきゃいけないけど、ステージに役職なんて関係ない。それはみんなでやっていかなくちゃいけないこと。特別守られなくても自分の足で立てる強さと、この人がいるから大丈夫だっていう安心感。それがあればきっと班長の孤独も少しずつ拭えるはず。
「あっ、山口先輩、少しいいですか?」
「ナニナニ~?」
「越谷さんてどんな人なんですか? 名前には聞くんですけど、ちょっと気になって」
end.
++++
ステージスター、ナチュラルに嘘を吐いていますね。例年3月くらいからの洋平ちゃんは少し不安定さが滲むような感じです。
それより戸田班のことですね。つばちゃんが相変わらずまだ考え事をしていて腹を括れていない模様。
女子の方が強そうな雰囲気があるけど、いざという時はゲンゴローもバチンと決めて欲しいものです。これから頑張れ
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ゲンゴローが、悩んでいるらしい。代替わりで朝霞班から戸田班になって、その活動のビジョンがまだ見えてこないこととか、いろいろ。それをどこから聞いたのかと言えば、シゲトラ経由で。たまたま会ったらしいんだけど、その時にちょっと元気がなかったって。
俺が代替わり前に変にプレッシャーを掛けちゃったかな~って感じもあったし、部活は引退したけど一応はまだ先輩。一応1回は話を聞いておいてみようかなとゲンゴローに連絡を入れた。すると嬉しそうな文面だったから、ちょっと安心。
「ゲンゴロー久し振り~、でしょでしょ~」
「山口先ぱーい、お久し振りですー」
「お茶でもしながら話そっか~、今日は俺が奢っちゃうよ~」
「えー、何かすみません」
「い~のい~の、可愛い後輩が悩んでるっていうんだから。一肌脱がせてよ~」
何か、ここまでステージスター仕様でガチるのも久し振り。春になると人に会う機会も増えるから俺もこの顔を思い出さないとネ。朝霞クン相手だと素でいいからこの仕様忘れちゃうんだよ。ステージスターも素の一部ではあるけど、ずっとだとしんどいよね。
「どう、部活の方は」
「アナさんとPがいない状況に変わりがなくって、ちょっとまだ」
「宇部班のマリンちゃんが自由契約状態だって聞いたけど? あの子Pもアナも出来る子デショ? それにつばちゃん大好きっ子だし」
「そうなんですけど、つばめ先輩がまだ交渉のテーブルについてくれなくて。俺も説得はしてるんですけど、何か難しいことを考えてるような感じで」
実は、つばちゃんの話もちょっと聞いてるんだよね。つばちゃんはつばちゃんでこれからの班運営だとかステージのことを考えて、悩んでる様子だった。まだどこかで覚悟が持てないと言うか、恐怖と闘っているような……そんな感じだった。
単刀直入につばちゃんが何を一番心配しているのかと言えば、自分の名前のこと。朝霞班は良くも悪くもステージしかない班で、ステージの鬼とまで呼ばれた朝霞クンの率いるステージバカな班。単純に部長から嫌われていただけで、部に何か害があるワケでもなく。
だけど、つばちゃんは部の幹部に噛みついて流刑に遭ったという経緯がある。実際越谷班時代に俺たちは不遇な扱いを受けていたし、現部長の柳井クンも「流刑地だからではなく戸田が班長だから流刑地をマークする」というスタンスだとはカンノ君から聞いた。
自分が由宇ちゃんや朝霞クンに守られていたことを知って、ミラちゃんの件で守ることの難しさを知った。そしてこれからは守りながらも背負って行かなければならない。そんなことの難しさを噛みしめているようだった。
「ゲンゴロー。俺が部活を引退する前にさ、もしこういう事態になったとき、つばちゃんを説得できるのはゲンゴローだけだって言ったデショ?」
「はい」
「前提条件が足りなかったかも」
「前提条件ですか?」
「班の名前が変わっても、ステージをやりたいっていう想い自体は同じなんだよ」
「はい、それはつばめ先輩も言ってました」
「だけど、つばちゃんは班長になって今までより多くのことを見て、考えなくちゃいけない。つばちゃんは“流刑”に遭った子で、部の幹部からすれば不穏分子。もしものことがあったら班員を守らないとっていうのがネックになってるかもしれないネ」
「俺は、どうしたらいいんでしょうか」
「多分、班長って俺たちが思う以上にずっと孤独だよ。守る思いが強くなればなるほど。ゲンゴローは、つばちゃんにとってのステージの基準を知ってる唯一の班員デショ? だから、ステージ面でつばちゃんを支えてあげて。ゲンゴローがいるから大丈夫だって、安心してもらえるように。そうすればつばちゃんも次を考え始められるはずだから」
「山口先輩も、そうしてたんですか」
「意識はしてないよ。ほら、俺って天性のステージスターだし~?」
部活の現役時代は唯一無二の相棒だったとは思うし、そうあるようにすごく意識して努力してきた。だけど、今思うとどうだったんだろうね。でも、きっと俺はステージスターを全う出来たんだろうね。俺がいるからどんな台本でも出せるっていうレベルのステージスターを。
つばちゃんとゲンゴローは学年も違うし、俺と朝霞クンの例をそのまま持ち出すにはちょっとまた違うかもしれない。だけど、つばちゃんもほぼ朝霞クンの台本で育ってるディレクターだから、そのレベルで話の出来る人が1人いるのといないのとでは大違いだとは思うんだ。
「ステージ面と言うと、ミキサーの技術的なことですかね」
「そうだね。小道具なんかはもうゲンゴローにお任せって状態だしね。あとは……そうだね、仮にマリンちゃんが戸田班に移籍してきた場合、うま~く潤滑剤になってあげるコト? つばちゃんはメグちゃ……宇部Pが苦手だし、マリンちゃんも朝霞クンが大嫌いでしょ? 育って来た環境ってやっぱどうしても出ちゃうから、そこをこう、永世中立班出身だからこその空気感みたいな物で、ゲンゴローが上手いことやってあげる感じ」
「ええー、怖いですよ! 俺も実質朝霞班育ちなのに」
「いや、でも実際あるんだって、中立の班の子にはそういう空気がさ。水鈴さんならしょうがないとか、シゲトラが言うならまあいいかとか」
「確かにシゲトラ先輩のそれはわかるような気がします。でも、山口先輩も朝霞班なのにそういう感じだったじゃないですか。みんなの人気者と言うか」
「俺も元々中立班の出身だからね」
「えっ、そうなんですか?」
「そう。だから何かが間違えば鎌ヶ谷班でゲンゴローと一緒にやってたかもかも~」
「そうだったんですねー……」
「とにかく。ゲンゴローは、つばちゃんが安心出来るようなポジションになっていこうね」
「頑張ります」
班の運営とか部との兼ね合いは班長のつばちゃんが考えなきゃいけないけど、ステージに役職なんて関係ない。それはみんなでやっていかなくちゃいけないこと。特別守られなくても自分の足で立てる強さと、この人がいるから大丈夫だっていう安心感。それがあればきっと班長の孤独も少しずつ拭えるはず。
「あっ、山口先輩、少しいいですか?」
「ナニナニ~?」
「越谷さんてどんな人なんですか? 名前には聞くんですけど、ちょっと気になって」
end.
++++
ステージスター、ナチュラルに嘘を吐いていますね。例年3月くらいからの洋平ちゃんは少し不安定さが滲むような感じです。
それより戸田班のことですね。つばちゃんが相変わらずまだ考え事をしていて腹を括れていない模様。
女子の方が強そうな雰囲気があるけど、いざという時はゲンゴローもバチンと決めて欲しいものです。これから頑張れ
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