2018(04)
■魔法が解けてそれからの
++++
「そうだ菅野、こないだお前が夢の国に行ってたときの写真を見て思いついたんだけど、シンデレラをモチーフに新しいゲームを考えてみるのはどうだろう」
ここ最近、USDXの活動がとても活発になっているのを感じる。SDXというゲーム実況グループがUSDXと名前を変えてから、やることの幅が本当に広がった。俺は前々から簡単なMODやマップを作ったりしていたんだけど、それが今は結構ガツガツと構築してるって感じ。
それというのも、レイこと朝霞の存在がかなり大きい。俺はシステムこそ扱えるけど、何をどう作るかという発想にはやや乏しい。これをこうしたいと言われればそれを実装するための努力はするけれど。朝霞は次から次へとアイディアを持ってくる。それを実装するのにとにかく忙しい。
「シンデレラか。例えば」
「まあ、舞台が違うだけのシンデレラ人狼みたいなことなんだけど。魔法が解けた後、午前1時のシンデレラが猟奇殺人鬼だとするなら」
「なるほど。シンデレラっていうことは継母とか魔女とか、あとは王子か。その辺のキャラクターと役職を当てはめて、みたいな感じ?」
「人数の割に微妙かな」
「それぞれの役職に勝利条件を別に設けてみたらいいんじゃないかと。あくまでUSDX版シンデレラだから、話自体を朝霞がアレンジしてもいいわけだし」
「例えば、従者が密かに王子を殺そうとしてるとか」
「だとすれば「王子は基本攻撃を受け付けないが、従者のみが持てるアイテムで夜の間に攻撃出来る」とか。まあ、設定を考えてくれればルールに落とし込むし」
「オッケ、じゃあ好きなように書く。あとさ、話は変わるけど、誰々のナントカみたいな名前のアイテムのあるゲームとかがあったら楽しいと思う」
「本当に急に飛んだな。具体的に何か案は?」
「バネ君のブーツ、とか。ジャンプ力が上がって着地もダメージ食らいにくい」
「バネだけに」
「バネだけに」
自分では考えたことのなかったようなことがポンポンと出て来るのは本当に楽しいし、興味深くもある。メンバーの名前の付いたアイテムのことは後からもうちょっと深く掘り下げて考えてみることにした。
「前々から思ってたんだけど、朝霞は本当にいろいろなアイディアを出して来ると言うか、ステージの台本も毎回全然違う感じで書いてたなあと」
「確かに俺くらい無尽蔵に食い散らかしてたPもいなかったよな。他のPにはそのPの色とか統一感があると言うか」
「勿体ないなと思ってて、実は」
「勿体ない?」
「朝霞の書く本は面白いしステージはとても楽しい。だけど台本として提出された本そのものが部のフォーマットからはかけ離れ過ぎてて並の奴では理解出来ないことが問題だなと」
「詳しく」
朝霞班の台本は代々部に受け継がれてきた台本のフォーマットを完全に無視して書かれていた。自分たちはそれでいいかもしれないけれど、朝霞班以外の人が読むことを考えていないのだろうかと考えていた。勝手に形式を無視して、それを押し通す。随分自己中心的だと。その時さえ良ければいいという考えかなと。
「部のフォーマットには無駄が多すぎた。それを極限まで削った結果の台本だ。要らない物は削って必要な情報はちゃんと入ってる。フォーマットを工夫する権利くらいあっただろう」
「仮にお前が構築した朝霞班流のフォーマットが有用だったとしても、部の大多数の人間が理解出来ない本だ。俺は朝霞班のステージを本当に凄いと思っていた。だけど、それが今後保守出来ない、理解出来る人間が居なくなることが問題なんだ。今は朝霞班の班員が部に残ってるからいいけど、それがいなくなれば朝霞班の台本は埋もれ続けることになる。それが勿体ない」
「なるほど、そういう考えも出来るか」
「あくまで俺個人の考えな」
「いや、参考になった。俺だったら絶対に辿り着けない考え方だ」
今後もしそういう形式に沿って物を書く機会があって、より良い雛型を思いついたら全体に提案してみることにするよ。そう言って朝霞は俺の話を存外素直に受け入れてくれた。これが部活の現役時代なら余計な口を挟むなと突っ撥ねられていただろう。
「そうだ菅野、この際俺も現役の時に思ってたことを言わせてもらう」
「ああ」
「菅野班が音楽主体の構成なのは理解してた。どこの班とも違う独特なスタイルだなとも。でも、正直当時は音楽で繋ぐ時間が長すぎやしないかと思ってたんだ」
「それは実際よく言われてた。俺が中身を書けないから繋いでるんじゃないか、とか」
「ぶっちゃけ俺もちょっとそう思ってた。でも、俺がお前の立場なら菅野の音っていう最大の武器を使わずに置いとくことはしないなと。あれは繋ぎじゃなくて、魅せてたんだって。今だから思うんだけど。菅野の音で場を作って、その場にいる人みんなで盛り上がる。俺とはやり方が違ってたけど、ステージの形としては正解のひとつかなって」
USDXがなければこんな風に話すこともなかっただろうし、一緒に何かを作り上げることもなかった。互いにちょっと前まではこんな風に思ってたんだということを確認して、俺たちはこれから作る物の話に戻っていく。
今後は一緒に作っていく間柄として、今みたいに言いたいことを言い合えるだろうか。だけど、今度は思ったことは思ったそのときに言っておきたい。そうすれば、自分にはない相手の視点からヒントを得てよりいい物が生み出せるだろうから。
「って言うかお土産のペンケース、さっそく使ってくれてるんだな」
「ああ、USDX用のペンケースにさせてもらってる。基本的な筆記用具の他にメンバーカラーのボールペンが入ってるんだ」
「さすが、ライターは用意がいい」
「ソルさんもマグカップ会社で使ってるってブログで見た」
「キャラものとか大丈夫かなって思ったけど案外普通に使ってくれててビックリした」
「塩見さんの会社でバイトしてる友達にそれとなく聞いてみたんだけど、マグカップ可愛いだろって自慢されたらしい」
「ええー…! いろいろギャップが激しすぎるんだけど…!?」
「その友達、塩見さんとはツミツミ友達みたいな感じらしいから」
「あっ」
end.
++++
前の年度くらいからちょっとやりたいなと思っていたのが、朝霞PとスガPが放送部のPとして思っていたことの暴露でした。
ナノスパ登場時くらいのスガPは朝霞Pに対して辛辣と言うか、少し厳しい感じで見ているところもあったので、そのテイストを今後は生かしつつ。
逆に、朝霞Pが他の班のPについて言及することはあまりなかったと思うので、その辺来年度以降で少しなにかあるかしら
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「そうだ菅野、こないだお前が夢の国に行ってたときの写真を見て思いついたんだけど、シンデレラをモチーフに新しいゲームを考えてみるのはどうだろう」
ここ最近、USDXの活動がとても活発になっているのを感じる。SDXというゲーム実況グループがUSDXと名前を変えてから、やることの幅が本当に広がった。俺は前々から簡単なMODやマップを作ったりしていたんだけど、それが今は結構ガツガツと構築してるって感じ。
それというのも、レイこと朝霞の存在がかなり大きい。俺はシステムこそ扱えるけど、何をどう作るかという発想にはやや乏しい。これをこうしたいと言われればそれを実装するための努力はするけれど。朝霞は次から次へとアイディアを持ってくる。それを実装するのにとにかく忙しい。
「シンデレラか。例えば」
「まあ、舞台が違うだけのシンデレラ人狼みたいなことなんだけど。魔法が解けた後、午前1時のシンデレラが猟奇殺人鬼だとするなら」
「なるほど。シンデレラっていうことは継母とか魔女とか、あとは王子か。その辺のキャラクターと役職を当てはめて、みたいな感じ?」
「人数の割に微妙かな」
「それぞれの役職に勝利条件を別に設けてみたらいいんじゃないかと。あくまでUSDX版シンデレラだから、話自体を朝霞がアレンジしてもいいわけだし」
「例えば、従者が密かに王子を殺そうとしてるとか」
「だとすれば「王子は基本攻撃を受け付けないが、従者のみが持てるアイテムで夜の間に攻撃出来る」とか。まあ、設定を考えてくれればルールに落とし込むし」
「オッケ、じゃあ好きなように書く。あとさ、話は変わるけど、誰々のナントカみたいな名前のアイテムのあるゲームとかがあったら楽しいと思う」
「本当に急に飛んだな。具体的に何か案は?」
「バネ君のブーツ、とか。ジャンプ力が上がって着地もダメージ食らいにくい」
「バネだけに」
「バネだけに」
自分では考えたことのなかったようなことがポンポンと出て来るのは本当に楽しいし、興味深くもある。メンバーの名前の付いたアイテムのことは後からもうちょっと深く掘り下げて考えてみることにした。
「前々から思ってたんだけど、朝霞は本当にいろいろなアイディアを出して来ると言うか、ステージの台本も毎回全然違う感じで書いてたなあと」
「確かに俺くらい無尽蔵に食い散らかしてたPもいなかったよな。他のPにはそのPの色とか統一感があると言うか」
「勿体ないなと思ってて、実は」
「勿体ない?」
「朝霞の書く本は面白いしステージはとても楽しい。だけど台本として提出された本そのものが部のフォーマットからはかけ離れ過ぎてて並の奴では理解出来ないことが問題だなと」
「詳しく」
朝霞班の台本は代々部に受け継がれてきた台本のフォーマットを完全に無視して書かれていた。自分たちはそれでいいかもしれないけれど、朝霞班以外の人が読むことを考えていないのだろうかと考えていた。勝手に形式を無視して、それを押し通す。随分自己中心的だと。その時さえ良ければいいという考えかなと。
「部のフォーマットには無駄が多すぎた。それを極限まで削った結果の台本だ。要らない物は削って必要な情報はちゃんと入ってる。フォーマットを工夫する権利くらいあっただろう」
「仮にお前が構築した朝霞班流のフォーマットが有用だったとしても、部の大多数の人間が理解出来ない本だ。俺は朝霞班のステージを本当に凄いと思っていた。だけど、それが今後保守出来ない、理解出来る人間が居なくなることが問題なんだ。今は朝霞班の班員が部に残ってるからいいけど、それがいなくなれば朝霞班の台本は埋もれ続けることになる。それが勿体ない」
「なるほど、そういう考えも出来るか」
「あくまで俺個人の考えな」
「いや、参考になった。俺だったら絶対に辿り着けない考え方だ」
今後もしそういう形式に沿って物を書く機会があって、より良い雛型を思いついたら全体に提案してみることにするよ。そう言って朝霞は俺の話を存外素直に受け入れてくれた。これが部活の現役時代なら余計な口を挟むなと突っ撥ねられていただろう。
「そうだ菅野、この際俺も現役の時に思ってたことを言わせてもらう」
「ああ」
「菅野班が音楽主体の構成なのは理解してた。どこの班とも違う独特なスタイルだなとも。でも、正直当時は音楽で繋ぐ時間が長すぎやしないかと思ってたんだ」
「それは実際よく言われてた。俺が中身を書けないから繋いでるんじゃないか、とか」
「ぶっちゃけ俺もちょっとそう思ってた。でも、俺がお前の立場なら菅野の音っていう最大の武器を使わずに置いとくことはしないなと。あれは繋ぎじゃなくて、魅せてたんだって。今だから思うんだけど。菅野の音で場を作って、その場にいる人みんなで盛り上がる。俺とはやり方が違ってたけど、ステージの形としては正解のひとつかなって」
USDXがなければこんな風に話すこともなかっただろうし、一緒に何かを作り上げることもなかった。互いにちょっと前まではこんな風に思ってたんだということを確認して、俺たちはこれから作る物の話に戻っていく。
今後は一緒に作っていく間柄として、今みたいに言いたいことを言い合えるだろうか。だけど、今度は思ったことは思ったそのときに言っておきたい。そうすれば、自分にはない相手の視点からヒントを得てよりいい物が生み出せるだろうから。
「って言うかお土産のペンケース、さっそく使ってくれてるんだな」
「ああ、USDX用のペンケースにさせてもらってる。基本的な筆記用具の他にメンバーカラーのボールペンが入ってるんだ」
「さすが、ライターは用意がいい」
「ソルさんもマグカップ会社で使ってるってブログで見た」
「キャラものとか大丈夫かなって思ったけど案外普通に使ってくれててビックリした」
「塩見さんの会社でバイトしてる友達にそれとなく聞いてみたんだけど、マグカップ可愛いだろって自慢されたらしい」
「ええー…! いろいろギャップが激しすぎるんだけど…!?」
「その友達、塩見さんとはツミツミ友達みたいな感じらしいから」
「あっ」
end.
++++
前の年度くらいからちょっとやりたいなと思っていたのが、朝霞PとスガPが放送部のPとして思っていたことの暴露でした。
ナノスパ登場時くらいのスガPは朝霞Pに対して辛辣と言うか、少し厳しい感じで見ているところもあったので、そのテイストを今後は生かしつつ。
逆に、朝霞Pが他の班のPについて言及することはあまりなかったと思うので、その辺来年度以降で少しなにかあるかしら
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