2018(04)

■We choose today's lunch menu

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「とりあえず、ラーメンを食べたらいいと思うんだ」

 そう菜月さんから言われてやってきたのは、緑風では一番有名だとまで言われるラーメン店。らーめん8号というその店は緑風のお隣・藍沢エリアが発祥らしいんだけど、地方特有のローカル食というヤツだね。
 豊葦で僕と菜月さんがよく行くラーメン屋の看板メニューは、1日の野菜摂取量の3分の1が摂れるらしい野菜塩ラーメンだ。どうやらその店の母体がこのらーめん8号を運営している会社ということで、菜月さんが気に入るのも納得だなと。
 菜月さんのよく言う本家のその味を食べたいというのと、緑風でメジャーな別のラーメンもあるにはあるけどそっちは緑風以外にも進出してるから逆に難易度が低いらしい。最近はネタに走り過ぎて味の本質を見失ってるという説まであるとは菜月さん談。

「――というワケで、緑風に来たらこれを食べておけというラーメンだな。と言うか、8号はラーメンじゃなくて最早8号というジャンルで括られるべきもので、他のラーメンと同列に語るのもまた違うんだよな。どうしてかふとした時に食べたくなる、そんな遺伝子レベルで刻み込まれた味がらーめん8号だな」
「菜月先輩の熱量からして、これは間違いなさそうですね…!」
「野坂、菜月さんのラーメンに掛ける熱量は元々高い方だよ」
「うちは野菜塩らーめんのCセットにするけど、ゆっくり考えてくれ」

 Cセットは唐揚げが付いて来るセットだそうだ。Aは餃子、Bはチャーハンが付いて来るらしい。麺の量が半分の小さならーめんというのも選べるらしい。1日の摂取量の3分の1が摂れるという野菜炒めの量は変わらないらしいから、僕はこれを視野に入れてもいいかもしれないね。さて、何を食べようかと悩んでいる野坂だね。

「菜月先輩、野菜チャーシューメンにセットを付けることが…?」
「出来ないな。セットに出来るのは野菜らーめんだけだ」
「そうですか……えっと、どうしようかな」
「と言うか、何をどう食べたいんだ」
「俺も唐揚げが食べたいのですが、餃子もチャーハンも捨てがたいなと思っていまして」
「そしたらうちがCセットからBセットにして、餃子と唐揚げを単品のダブルで頼めばいい。で、チャーハンをお前に渡すと。それでいいか圭斗」
「僕たちは地元民の選択に従います」

 ピンポンとボタンで店員を呼べば、菜月さんが鮮やかに注文をする。それを受けた方もそれを威勢よく厨房に飛ばし、オーダーが通る。見た感じらーめん8号は回転の早そうな店だから、僕たちの注文した物も割とすぐに出て来るだろう。
 さて、緑風旅行記の2日目だよ。昨日は夕飯を一緒に食べて、その後は特に何をするでもなくファミレストークという、普段と何ら変わりのない過ごし方をしていたよ。今日はここで昼食にした後、菜月さんの実家の近所にあるワイナリーに案内してもらうことになっている。
 そのワイナリーというのが青女のアヤネの実家なんだそうだ。緑風ではかなり有名なブドウ園らしく、ワインの季節になるとニュースで取り上げられるとか。ワインには少々興味があるので一度覗いてみようかと。その後は特産品など、主にお酒を探しに行こうかなと。
 もう少し来るのが早ければジブリ博覧会目当てに美術館にも行きたかったのだけど、菜月さんと一緒に行くところでもなかったね。野坂だったらしっぽを振ってついて来ると思うんだけど。と言うか菜月さんはどうやってこの歳までジブリを通らずに生きて来られたのか、その生態は素直に謎だね。

「お先に餃子ダブルです」
「はーい」

 早速餃子が届いて、それぞれが箸を持つ。菜月さんは餃子のたれにラー油を加えて軽く混ぜている。僕もそれを借りて少し味を変えていく。野坂は何も手を加えない餃子のたれを。いただきますと手を合わせ、さっそく食べようとしていると唐揚げやらラーメンやらが続々届き始める。

「えっと、野菜塩らーめんがうちで、ちゃあしゅうがノサカ。で、小さいのが圭斗か」
「圭斗先輩……小さなもので大丈夫ですか? 朝食もあまり召し上がっていらっしゃらなかったような」
「僕は夜を見越しているからね。と言うかお前が朝から食べ過ぎなんだ」
「はいノサカ、チャーハン」
「ありがとうございます!」
「この後はレオンちのブドウ園に行って、その後は適当にお土産を見て回る感じでいいのか?」
「ん、そうだね。で、夜はどうしようか。僕はゆっくりとお酒でも飲みたいと思っているんだけど」
「宿の都合もあるしこの辺に戻って来るような感じだな。まあ、ここから徒歩圏内だと駅の方か。適当に調べるか歩き回ってぶち当たったところに行けばいいか。さ、食べよう。いただきまーす。ん、うまー」

 うまーと美味しそうにラーメンを食べている菜月さんを、野坂がとても穏やかな目で見ている。あれだけ菜月さんに会いたくてそわそわしていた男とは思えないくらいの落ち着きだ。もしくは可愛さがカンストして尊さに震えているのかな?

「この唐揚げをさ、スープにつけるとまた特別うまーなんですよ」
「唐揚げを敢えてスープにつけていくなんて初めて聞いたよ」
「うちが胸肉の唐揚げが好きなのはきっと8号の影響なんだろうなあ」
「菜月先輩、もしや唐揚げはもも肉よりも胸肉の方がお好きでいらっしゃるのですか…?」
「急にどうしたんだノサカ」
「あ、いえ……少し思い出し落ち込みをしているだけで」
「こら野坂、やめなさい。結果的に美味しければ何でもいいじゃないか」
「まさか圭斗からそんな言葉が出るとは思わなかったぞ、こだわりの塊みたいなお前が」

 せっかく緑風まで出て来たのにちょっとしたことですぐ落ち込みやがって! 野坂は落ち込ませたら右に出る物がいないな。こっちにいる間は余計なことは忘れて思い出さないのが鉄則じゃないか。まったくもう。


end.


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唐揚げのお肉については初心者講習会前日のお話を参照! 何年前かは知らんけどな!
さて、MMPのメイントリオがラーメンをうまうましているだけのお話。圭斗さんは量を食べないワケじゃないんだけど、小さくてもまあいいかなくらいの感じ?
というか確かに圭斗さんはこだわりの塊みたいな人でしたね。でも何かもうめんどくさいなって思えば何でもありになるよ。納豆食べとけば死なない理論みたくさ

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