2018(04)
■Passenger's mission
++++
「ん、それじゃあ行こうか?」
「よろしくお願いします」
3月4日午前10時、いよいよ忠犬を引き連れ緑風への2泊3日の旅行が始まった。移動手段は主に僕の車で、高速道路を使っていく。本当は向島から山浪を通り、そのまま緑風に入る路線を使えばいいんだろうけど、いろいろな意味で怖いので迂回することに。
菜月さんは普段その道路を走る高速バスで行き来をしているので、その辺りのことは大体わかっているし、ここは敢えて迂回することで菜月さんの普段見ることのないお土産でも買っていければという計画でもある。もちろん、向島の物以外でね。
さて、午前10時という時間に無理矢理間に合わせた野坂は既に眠そうだ。だけど、買い物予定のサービスエリアに着くまでくらいはしっかりと助手席でトークリーダーの役割を果たしてもらわないと。と言うか初っ端から助手席で寝る男なんか殺意しか湧かないね。
「本日は運転をしていただきありがとうございます。ところで、緑風には何時ごろに到着する予定でいらっしゃいますか?」
「休憩を挟んでも、大体午後2時か2時半くらいには緑風に着かないかなという計算で走っているよ」
「2時ですか」
「それからホテルにチェックインをして、諸々の支度をしてから菜月さんと合流をしようかなと」
「いよいよ菜月先輩とお会いすることが出来るのですね…!」
そう言って野坂はお土産のお菓子の入った紙袋を大事そうに抱え直した。何でも、東都で人気のバターサンドの店が向島にも何度か期間限定で出店しているらしい。たまたまそのタイミングが近々にあったそうで、菜月さんは好きそうなお菓子だしお土産にしようと手に取っていた、と。かわいいね。
菜月さんに対する恋心を今のところは誰にも言っていないらしい野坂だけど、僕にはそれがバレているだろうという認識なのだろうか。それとも、単純に憧れの先輩に会いたいという気持ちをストレートに出すくらいはなんてことないという思いなのだろうか。菜月さんに会いたいという気持ちを全然隠さないね。
「ところで、交通費などはおいくらになりますか」
「5000円でいいよ」
「圭斗先輩、いくら俺でもさすがに知っています。高速道路の片道料金だけでも5000円は超えているはずです。それに加えて燃料費などもありますし、もう少し出さなければ割に合わないかと」
「そういう細かい計算は後にしないか。宿でじっくり話し合おう」
緑風旅行の発端が野坂の発作だったとは言え、無理矢理引き連れてきたのは僕だったワケだし、何より細かい計算は面倒だ。1円単位の割り勘をしてもいいけれど、野坂相手にそうするのはさすがになという謎の思いもある。
「敢えて回り道をして行くのですね」
「今年は雪が少ないとは聞いているけど、基本的に山じゃないか。突っ切るのが怖くてね」
「圭斗先輩は雪が少ない地方のご出身ですもんね、納得です」
「それに、サービスエリア巡りもしたいと思っていてね。向島近郊というよりは西側を少し開拓してみたかったんだ」
「それは、ご趣味でいらっしゃるドライブの一環でしょうか」
「そんな感じだね。あと、菜月さんへの変わったお土産探しと」
「それでしたら、少し心当たりがあります。以前菜月先輩が番組で仰っていたのですが、ラウンドラスクという丸い食パンのラスクですね。それがお好きでいらっしゃると。サービスエリアで買った覚えがあるそうですので、もしかしたらあるかもしれません」
「それでは野坂君、君に重要な使命を与えよう。それがどこのサービスエリアの話なのかを調べてくれ」
「承りました」
……と言うか、仕事を与えないと寝るからなこの犬は! たまに神崎が野坂を車に乗せることがあるそうだけど、人の車の助手席で何の遠慮もなく爆睡しやがるとキレていたのもまだ記憶に新しい。神崎ならともかく、僕の車でそれをされるとね。ん、お兄さん怒っちゃうな。
まあ、菜月さんのための調べものという大切な仕事を任せている間は寝ることもないだろうね。その調べものに基づいた買い物が終わってからならまあ、少しの休憩くらいは認めてやろうじゃないか。僕だって鬼じゃない。
しかしまあ、さすがのノサペディアだね。菜月さんに関する情報はしっかりと出てくる辺りが。と言うか番組で喋ったことをいちいち覚えているのがまた凄い記憶力だと言うか。半年間を3期連続で組んでいたら番組の数も膨大になっているはずなのに。
「圭斗先輩! ここから6つ先の七ヶ岳サービスエリアですね。おおよそあと1時間くらいで到着すると思われます」
「そうかい、わかったよ」
「ただ、例のラスクがあると確実にわかっているのが上りのSAでして」
「下りにも賭けてみようか? あれば儲けものくらいの気持ちで。なくても別のお土産を買って行けばいい」
「そうしましょう!」
それから野坂はトークリーダーとしていろいろな話題を提供してくれた。インターフェイスのことが大多数ではあるけれども。春の番組制作会に向けて動いていること、帰ったら制作会に向けて野坂が講師の簡易初心者講習会を開くことなんかを。ん、順調に次期講師の道を歩んでいるね。
他にはゲームや勉学、資格のことなんかを少し。僕たちが3年生であることから、就職活動のことなんかも聞かれたね。でも、向こうではその話をしないという約束に落ち着いた。そんな話をしようものなら、菜月さんがしょんぼりしてしまうだろうからね。
「ところで野坂、緑風では何がおすすめなのかを菜月さんに聞いてみてくれないかい?」
「……差し出がましいようですが圭斗先輩」
「ん?」
「菜月先輩は重度の引き籠もり……もとい出不精、でもなくて、インドア派でいらっしゃいます。外のことはあまり知らないから自分で調べて来てくれと仰っていまして」
「さすがだね。そうしたら野坂、悪いけど緑風の事を少し調べてくれないか。電池が無くなりそうなら下にケーブルが入ってるから好きに使ってくれて構わないよ」
「えーと、まずは食べ物から調べてよろしいですか」
「お前もお前で安定だね。いいよ、好きなことから調べたらいい」
end.
++++
ここ最近のこの時期は圭斗さんとノサカが菜月さんのいる緑風に向けてドライブすることが増えていますね。
というワケで本日はドライブ編。ノサカが寝ると非常に面倒だと思っているらしい圭斗さん、積極的に仕事を与えていくスタンス。
菜月さんは重度の引き籠もりもとい出不精もといインドア派。全然フォローできてないぞ!
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「ん、それじゃあ行こうか?」
「よろしくお願いします」
3月4日午前10時、いよいよ忠犬を引き連れ緑風への2泊3日の旅行が始まった。移動手段は主に僕の車で、高速道路を使っていく。本当は向島から山浪を通り、そのまま緑風に入る路線を使えばいいんだろうけど、いろいろな意味で怖いので迂回することに。
菜月さんは普段その道路を走る高速バスで行き来をしているので、その辺りのことは大体わかっているし、ここは敢えて迂回することで菜月さんの普段見ることのないお土産でも買っていければという計画でもある。もちろん、向島の物以外でね。
さて、午前10時という時間に無理矢理間に合わせた野坂は既に眠そうだ。だけど、買い物予定のサービスエリアに着くまでくらいはしっかりと助手席でトークリーダーの役割を果たしてもらわないと。と言うか初っ端から助手席で寝る男なんか殺意しか湧かないね。
「本日は運転をしていただきありがとうございます。ところで、緑風には何時ごろに到着する予定でいらっしゃいますか?」
「休憩を挟んでも、大体午後2時か2時半くらいには緑風に着かないかなという計算で走っているよ」
「2時ですか」
「それからホテルにチェックインをして、諸々の支度をしてから菜月さんと合流をしようかなと」
「いよいよ菜月先輩とお会いすることが出来るのですね…!」
そう言って野坂はお土産のお菓子の入った紙袋を大事そうに抱え直した。何でも、東都で人気のバターサンドの店が向島にも何度か期間限定で出店しているらしい。たまたまそのタイミングが近々にあったそうで、菜月さんは好きそうなお菓子だしお土産にしようと手に取っていた、と。かわいいね。
菜月さんに対する恋心を今のところは誰にも言っていないらしい野坂だけど、僕にはそれがバレているだろうという認識なのだろうか。それとも、単純に憧れの先輩に会いたいという気持ちをストレートに出すくらいはなんてことないという思いなのだろうか。菜月さんに会いたいという気持ちを全然隠さないね。
「ところで、交通費などはおいくらになりますか」
「5000円でいいよ」
「圭斗先輩、いくら俺でもさすがに知っています。高速道路の片道料金だけでも5000円は超えているはずです。それに加えて燃料費などもありますし、もう少し出さなければ割に合わないかと」
「そういう細かい計算は後にしないか。宿でじっくり話し合おう」
緑風旅行の発端が野坂の発作だったとは言え、無理矢理引き連れてきたのは僕だったワケだし、何より細かい計算は面倒だ。1円単位の割り勘をしてもいいけれど、野坂相手にそうするのはさすがになという謎の思いもある。
「敢えて回り道をして行くのですね」
「今年は雪が少ないとは聞いているけど、基本的に山じゃないか。突っ切るのが怖くてね」
「圭斗先輩は雪が少ない地方のご出身ですもんね、納得です」
「それに、サービスエリア巡りもしたいと思っていてね。向島近郊というよりは西側を少し開拓してみたかったんだ」
「それは、ご趣味でいらっしゃるドライブの一環でしょうか」
「そんな感じだね。あと、菜月さんへの変わったお土産探しと」
「それでしたら、少し心当たりがあります。以前菜月先輩が番組で仰っていたのですが、ラウンドラスクという丸い食パンのラスクですね。それがお好きでいらっしゃると。サービスエリアで買った覚えがあるそうですので、もしかしたらあるかもしれません」
「それでは野坂君、君に重要な使命を与えよう。それがどこのサービスエリアの話なのかを調べてくれ」
「承りました」
……と言うか、仕事を与えないと寝るからなこの犬は! たまに神崎が野坂を車に乗せることがあるそうだけど、人の車の助手席で何の遠慮もなく爆睡しやがるとキレていたのもまだ記憶に新しい。神崎ならともかく、僕の車でそれをされるとね。ん、お兄さん怒っちゃうな。
まあ、菜月さんのための調べものという大切な仕事を任せている間は寝ることもないだろうね。その調べものに基づいた買い物が終わってからならまあ、少しの休憩くらいは認めてやろうじゃないか。僕だって鬼じゃない。
しかしまあ、さすがのノサペディアだね。菜月さんに関する情報はしっかりと出てくる辺りが。と言うか番組で喋ったことをいちいち覚えているのがまた凄い記憶力だと言うか。半年間を3期連続で組んでいたら番組の数も膨大になっているはずなのに。
「圭斗先輩! ここから6つ先の七ヶ岳サービスエリアですね。おおよそあと1時間くらいで到着すると思われます」
「そうかい、わかったよ」
「ただ、例のラスクがあると確実にわかっているのが上りのSAでして」
「下りにも賭けてみようか? あれば儲けものくらいの気持ちで。なくても別のお土産を買って行けばいい」
「そうしましょう!」
それから野坂はトークリーダーとしていろいろな話題を提供してくれた。インターフェイスのことが大多数ではあるけれども。春の番組制作会に向けて動いていること、帰ったら制作会に向けて野坂が講師の簡易初心者講習会を開くことなんかを。ん、順調に次期講師の道を歩んでいるね。
他にはゲームや勉学、資格のことなんかを少し。僕たちが3年生であることから、就職活動のことなんかも聞かれたね。でも、向こうではその話をしないという約束に落ち着いた。そんな話をしようものなら、菜月さんがしょんぼりしてしまうだろうからね。
「ところで野坂、緑風では何がおすすめなのかを菜月さんに聞いてみてくれないかい?」
「……差し出がましいようですが圭斗先輩」
「ん?」
「菜月先輩は重度の引き籠もり……もとい出不精、でもなくて、インドア派でいらっしゃいます。外のことはあまり知らないから自分で調べて来てくれと仰っていまして」
「さすがだね。そうしたら野坂、悪いけど緑風の事を少し調べてくれないか。電池が無くなりそうなら下にケーブルが入ってるから好きに使ってくれて構わないよ」
「えーと、まずは食べ物から調べてよろしいですか」
「お前もお前で安定だね。いいよ、好きなことから調べたらいい」
end.
++++
ここ最近のこの時期は圭斗さんとノサカが菜月さんのいる緑風に向けてドライブすることが増えていますね。
というワケで本日はドライブ編。ノサカが寝ると非常に面倒だと思っているらしい圭斗さん、積極的に仕事を与えていくスタンス。
菜月さんは重度の引き籠もりもとい出不精もといインドア派。全然フォローできてないぞ!
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