2018(04)
■そうですね、そうしましょう
++++
インフルが治ったのをきっかけに、そろそろいろいろなことに本腰を入れていこうと思った。言ってももう2月下旬。こないだクリスマスでこないだ正月で……って言うか時間早すぎないか? 1日72時間くらいないと全然やりたいことが間に合わないんだけど。いや、それは体力が追い付かないか。
というワケで、今日は就活セミナーにやって来た。業界研究だとかエントリーシートだとか、そんなような物のとっかかり方については大学でも講習があった。だけど、それじゃあどういう企業があって、どういう仕事をするのかという情報は自分の足で稼がないといけないから。
それじゃあ、俺は果たしてどんな仕事をしたいのかということを考えてみた。その結果、やっぱり現場で走り回るとか、企画とかそういうことをやってみたいなというところに辿り着いた。イベント関係なんかがいいんじゃないかと。
「はー……しんど」
就活は就活でやってるけど、卒論もバイトもUSDX関係の書き物と収録などなども並行してやっている。夜を徹した作業が続いている上に、今日の服装が堅苦しいスーツ。肩は凝るし眠いしで1社話を聞くので精いっぱいだ。1社聞いては休憩、1社聞いては休憩を繰り返す。
人も多いし酔いそうなんだよな。インフルはもうやったからさほど心配してないけど、熱気が凄くて息苦しい。と言うかインフルやった結果体力が落ちてんだよな。人とか全部TNTでぶっ放せればいいのに。USDXに入ってから思考が物騒になってんな、反省。
「こんにちは。休憩ですか?」
「ああ、こんにちは。ちょっと、病み上がりで体力落ちてて。人も多いし徹夜続きだししんどくて」
「徹夜明けで人混みってしんどいですよね。うちも今作業続きで肩とかパンパンで」
「狂おしいほどわかります」
休憩していた俺に声を掛けてきたのは、就活イベントで何回か顔を合わせていた女子だ。互いに名乗りもしないけど、行くところ行くところで顔を合わせ続けているうちに、ちょっとした顔見知りのようになっていたんだ。
多分興味関心が似たような感じなんだと思う。イベント関係に興味があって、現場の空気が好きだったり企画が楽しかったり、そんなような感じの。如何せんこういうセミナーでは基本的に単独での行動が増えるから、仲間じゃないけど、知ってる人の存在はちょっと心強い。
「って言うか、病み上がりで徹夜って自殺行為じゃないですか?」
「確かに。でも、春休みはあと少しだし、時間のあるうちにいろいろやっておきたいと言うか」
「あ~、わかります。読みたい本とか、見たい映像作品とか、あれもこれもって思ってると、もう授業が再開しちゃうし」
「それです」
いかにもな就活ルックでありながらもひとつ結びが他の女子よりも少し高めの位置にあるその人の最たる特徴は、大きな目と左薬指の指輪だろう。あと、話してて楽しいから割と覚えてる。でもまだ名前もどこの大学の人かも知らないんだけど。
「何社聞きました? 俺は3社ですけど」
「うちも3社です。って言うかこのノベルティの色鉛筆」
「持ってます。ここだけの話、今日の目的もう終わってません?」
「言うほどここだけの話じゃないですよね」
「あ、やっぱり」
「って言うか、その回った3社も同じ会社じゃないですか」
「……今日はもう帰ろうかな、後学のためにいろんな話を聞きたい気もあるけど、体力的な問題が……」
「うちも帰ろうかなー、彼氏さん死んでるだろうし買い物してかないと」
セミナー会場のホールから出ようと思ったその瞬間、俺と彼女の声が「あの!」と揃った。漫画か何かのように「そっちから」「いえ、そっちから」と話す順を譲り合って、結局ジャンケンで先攻は彼女に決まった。
「あの、良かったらですけどそこでコーヒーでも飲んで行きません? ただのお喋りをする会」
「あ、全く同じことを言おうとしてました。俺で良ければ喜んで」
人の熱気でむんむんしていたホールから出れば、春の陽気が少し感じられるとは言え少しひんやりした空気が頭や頬を冷ましてくれる。歩いてすぐ側のコーヒーショップには、同じような目的で来た就活生と思しき客ばかり。飲み物とケーキを注文して席に着く。
「何か変な感じです。互いの名前も素性も知らないのに、顔だけ知ってる親密度Cくらいの人と一緒にお茶してるとか」
「親密度Cとか」
「あっ、すみません失礼でしたよね」
「いえ、もしかして、ゲームやる人なんですか?」
「えっと、ゲームは最近パソコンで少し始めたくらいで。今の表現は俺の友達が事あるごとに言って来るヤツで」
「ほう、詳しく」
「同じ部活の野郎なんですけど、部活の現役時代は唯一無二の相棒だったんです。だけど俺は部活に何もかもを振ってて、それが無くなった時のアイツとの付き合い方がわかんなくて。それで部活引退してから付き合い直して、結構仲良くなったと思うんですけど向こうがまだどっか俺を疑ってるところがあると言うか」
「あ~、男の子の友情でも難しいところがあるんですねえごちそうさまです。じゃなくて、えっと、うちがちょっとゲームをやるんでもし一緒の趣味だったら嬉しいなって思ったんですけど、ゲームは初心者なんですね」
「友達に教えてもらって始めたんですよ。マインクラフトとか」
「あっ、うちもマイクラやりますよ!」
「って言うか彼氏さん大丈夫なんですか、死んでるって。寝込んでるってことですよね」
「お薬はあるんで大丈夫です。インフルと花粉症が同時に来ちゃって死んでるみたいな感じで。病院嫌いで全然行ってくれなくて。春になる度寝込むの見てるとこっちも辛くて」
それから彼女とはいろいろな話をした。どんなことを勉強しているのかとか、部活やサークルのこと、休みの日の過ごし方のこと、その他諸々。秋に結婚するという彼氏さんとのことなんかも。学生結婚か。俺の回りじゃなかなかいないし貴重なサンプル……っと、この考え方は失礼なヤツ!
「あの、そろそろ自己紹介します? うちら結構きゃっきゃとお喋りしましたけど、名前がまだ」
「……確かに。あと、良ければLINEとかも交換しときます? この感じだとまた行く先々で会いますよね」
「そうですね」
「そうしましょう。あの、良かったらまた喋ってください」
「うちの方こそ、またお喋りしてください」
end.
++++
今年度はまだ慧梨夏と朝霞Pの出会いをやってなかったなあと。多分年末くらいからちょこちょこ動いてて、顔くらいは知ってたけど、的な。
ここからこの2人は付き合いが濃くなって将来的には仕事上のパートナーとなるのだけれどそれはまた別の話。
そして朝霞Pと友人の話に明らかに食指が伸びた腐女子が。しかも目の前にいるのUSDXのレイ君やで
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インフルが治ったのをきっかけに、そろそろいろいろなことに本腰を入れていこうと思った。言ってももう2月下旬。こないだクリスマスでこないだ正月で……って言うか時間早すぎないか? 1日72時間くらいないと全然やりたいことが間に合わないんだけど。いや、それは体力が追い付かないか。
というワケで、今日は就活セミナーにやって来た。業界研究だとかエントリーシートだとか、そんなような物のとっかかり方については大学でも講習があった。だけど、それじゃあどういう企業があって、どういう仕事をするのかという情報は自分の足で稼がないといけないから。
それじゃあ、俺は果たしてどんな仕事をしたいのかということを考えてみた。その結果、やっぱり現場で走り回るとか、企画とかそういうことをやってみたいなというところに辿り着いた。イベント関係なんかがいいんじゃないかと。
「はー……しんど」
就活は就活でやってるけど、卒論もバイトもUSDX関係の書き物と収録などなども並行してやっている。夜を徹した作業が続いている上に、今日の服装が堅苦しいスーツ。肩は凝るし眠いしで1社話を聞くので精いっぱいだ。1社聞いては休憩、1社聞いては休憩を繰り返す。
人も多いし酔いそうなんだよな。インフルはもうやったからさほど心配してないけど、熱気が凄くて息苦しい。と言うかインフルやった結果体力が落ちてんだよな。人とか全部TNTでぶっ放せればいいのに。USDXに入ってから思考が物騒になってんな、反省。
「こんにちは。休憩ですか?」
「ああ、こんにちは。ちょっと、病み上がりで体力落ちてて。人も多いし徹夜続きだししんどくて」
「徹夜明けで人混みってしんどいですよね。うちも今作業続きで肩とかパンパンで」
「狂おしいほどわかります」
休憩していた俺に声を掛けてきたのは、就活イベントで何回か顔を合わせていた女子だ。互いに名乗りもしないけど、行くところ行くところで顔を合わせ続けているうちに、ちょっとした顔見知りのようになっていたんだ。
多分興味関心が似たような感じなんだと思う。イベント関係に興味があって、現場の空気が好きだったり企画が楽しかったり、そんなような感じの。如何せんこういうセミナーでは基本的に単独での行動が増えるから、仲間じゃないけど、知ってる人の存在はちょっと心強い。
「って言うか、病み上がりで徹夜って自殺行為じゃないですか?」
「確かに。でも、春休みはあと少しだし、時間のあるうちにいろいろやっておきたいと言うか」
「あ~、わかります。読みたい本とか、見たい映像作品とか、あれもこれもって思ってると、もう授業が再開しちゃうし」
「それです」
いかにもな就活ルックでありながらもひとつ結びが他の女子よりも少し高めの位置にあるその人の最たる特徴は、大きな目と左薬指の指輪だろう。あと、話してて楽しいから割と覚えてる。でもまだ名前もどこの大学の人かも知らないんだけど。
「何社聞きました? 俺は3社ですけど」
「うちも3社です。って言うかこのノベルティの色鉛筆」
「持ってます。ここだけの話、今日の目的もう終わってません?」
「言うほどここだけの話じゃないですよね」
「あ、やっぱり」
「って言うか、その回った3社も同じ会社じゃないですか」
「……今日はもう帰ろうかな、後学のためにいろんな話を聞きたい気もあるけど、体力的な問題が……」
「うちも帰ろうかなー、彼氏さん死んでるだろうし買い物してかないと」
セミナー会場のホールから出ようと思ったその瞬間、俺と彼女の声が「あの!」と揃った。漫画か何かのように「そっちから」「いえ、そっちから」と話す順を譲り合って、結局ジャンケンで先攻は彼女に決まった。
「あの、良かったらですけどそこでコーヒーでも飲んで行きません? ただのお喋りをする会」
「あ、全く同じことを言おうとしてました。俺で良ければ喜んで」
人の熱気でむんむんしていたホールから出れば、春の陽気が少し感じられるとは言え少しひんやりした空気が頭や頬を冷ましてくれる。歩いてすぐ側のコーヒーショップには、同じような目的で来た就活生と思しき客ばかり。飲み物とケーキを注文して席に着く。
「何か変な感じです。互いの名前も素性も知らないのに、顔だけ知ってる親密度Cくらいの人と一緒にお茶してるとか」
「親密度Cとか」
「あっ、すみません失礼でしたよね」
「いえ、もしかして、ゲームやる人なんですか?」
「えっと、ゲームは最近パソコンで少し始めたくらいで。今の表現は俺の友達が事あるごとに言って来るヤツで」
「ほう、詳しく」
「同じ部活の野郎なんですけど、部活の現役時代は唯一無二の相棒だったんです。だけど俺は部活に何もかもを振ってて、それが無くなった時のアイツとの付き合い方がわかんなくて。それで部活引退してから付き合い直して、結構仲良くなったと思うんですけど向こうがまだどっか俺を疑ってるところがあると言うか」
「あ~、男の子の友情でも難しいところがあるんですねえごちそうさまです。じゃなくて、えっと、うちがちょっとゲームをやるんでもし一緒の趣味だったら嬉しいなって思ったんですけど、ゲームは初心者なんですね」
「友達に教えてもらって始めたんですよ。マインクラフトとか」
「あっ、うちもマイクラやりますよ!」
「って言うか彼氏さん大丈夫なんですか、死んでるって。寝込んでるってことですよね」
「お薬はあるんで大丈夫です。インフルと花粉症が同時に来ちゃって死んでるみたいな感じで。病院嫌いで全然行ってくれなくて。春になる度寝込むの見てるとこっちも辛くて」
それから彼女とはいろいろな話をした。どんなことを勉強しているのかとか、部活やサークルのこと、休みの日の過ごし方のこと、その他諸々。秋に結婚するという彼氏さんとのことなんかも。学生結婚か。俺の回りじゃなかなかいないし貴重なサンプル……っと、この考え方は失礼なヤツ!
「あの、そろそろ自己紹介します? うちら結構きゃっきゃとお喋りしましたけど、名前がまだ」
「……確かに。あと、良ければLINEとかも交換しときます? この感じだとまた行く先々で会いますよね」
「そうですね」
「そうしましょう。あの、良かったらまた喋ってください」
「うちの方こそ、またお喋りしてください」
end.
++++
今年度はまだ慧梨夏と朝霞Pの出会いをやってなかったなあと。多分年末くらいからちょこちょこ動いてて、顔くらいは知ってたけど、的な。
ここからこの2人は付き合いが濃くなって将来的には仕事上のパートナーとなるのだけれどそれはまた別の話。
そして朝霞Pと友人の話に明らかに食指が伸びた腐女子が。しかも目の前にいるのUSDXのレイ君やで
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