2018(04)
■責任の所在
++++
苦心して組み上げた3月のシフト表を眺めながら、オレはこれからどうするかと深刻な人手不足を嘆く。尤も、求人をすれば良いだけの話であり、この施設の前や学生課の掲示板に広告を貼り出せばいい。
次の繁忙期……履修登録・修正などは今いるメンバーで耐えるしかない。バイトリーダーのオレに、仕事こそ一通り覚えたが新2年でまだまだ履修の多い川北、同様に編入生という都合で烏丸も履修はまだまだ多く時間が取りにくい。土田……は、最早戦力としてカウントすら出来ん状態だ。
新入生をいくらか加入させなければセンターが回らない。しかし、4月を迎える前にまず3月下旬を乗り切らねば春はない。卒業式のギリギリまで春山さんの名前がシフトにある時点で事情はお察しではあるのだが。
「リン、お前もようやく私の気持ちがわかったか」
「ええ、少しですが理解しました」
前バイトリーダーの春山さんの作るシフト表の特徴は、とにかく春山さん自身とオレの入る枠が多く取られていたことだ。どうしてそこまで偏った組み方をしていたのかと当時は思っていたが、今となっては仕方のないことだったのだと理解をする。
いざ自分でシフトを組もうとすると、前述のスタッフの入れるところにとにかく突っ込み、空いたところに自分を入れるという組み方になってしまうのだ。自分の都合など黙殺せねばならんのだと。たまに好きな理由で休むのは贅沢だったのだ。
「これで私の映画休暇も特別な機会だと」
「それを許したつもりは到底ありませんが」
「糞野郎」
「映画で繁忙期に穴を開ける方がよほど糞でしょう。まあ、土田が当てにならない以上、新入生に限らず早急にスタッフを増員せねば非常にマズいとは」
「リン、お前よォ」
呆れたように、わかってんだろテメーはよォとでも言いたげに、春山さんは大袈裟に肩を竦めた。
「帯電機械音痴のことを言おうとしていますか」
「文系は理系よかコマ数自体が少ないんだ。しかも3年ならさらに減る。カナコの存在はうま味しかねーんだよなァ。テメーの糞つまんねえ意地か見栄か知らねーけど、ンなモンにこだわってる場合でもねーんだよなァ」
「意地でも見栄でもありませんが。オレが綾瀬のスタッフ登用を見送っているのはB番適性の問題です」
「いーじゃねーか、A番専でも。お前自身が実質B番専みたいなモンなんだ。そのお前が「B番適正皆無だからカナコはスタッフに出来ない」とか、説得力の欠片もない」
「それもご尤もではあります」
センタースタッフ研修生を自称する綾瀬は、未だ事務所に居座っている。すぐ飽きて去っていくかと思ったが、そろそろ半年になるだろうか。思ったよりも長続きしているし、後ろ盾の春山さんの指導もあってか受付業務もある程度様になりつつあった。
確かに文系3年生の履修コマは、理系のそれと比較してとても少ないという印象がある。春山さんが実際そうだった。綾瀬をA番に常駐させることが出来れば、残りのスタッフでB番のローテーションを組むことも出来る。繁忙期を乗り切るには実質この方法しかないことは理解していた。
そして、A番だのB番だのという御託を一番問題視してはいけないのがオレ自身であることも、言われるまでもなく理解はしていた。オレのA番適性が皆無だというのは自他ともに認める事実。そのオレが、B番適性を理由に綾瀬をどうこう出来ないということだ。
「受付以外にもカナコの使い方は他にもいろいろあるぞ」
「例えば」
「川北の入所試験のことは覚えてるな」
「度胸試しですね、春山さんの眼力に逃げ帰らないかという」
「受付がカナコならあーいうことをする必要はなくなる上に、チョロい奴ならすぐ落とせるだろ」
「色仕掛けですか。まあ、綾瀬の美貌であれば多少は騙せそうですが。しかし、極道からハニートラップとは。悪質なのは変わらないようで」
「リンお前、カナコがかわいこちゃんであることは認めてんだな」
「美貌と実力が相まっての看板女優なのでしょう。オレは演者としての綾瀬を貶したことは一度もありません。異常性癖の自称研修生・綾瀬ならオレの責任でボコボコにしても構わないと思っていますが何か」
「うーん、やっぱカナコの扱いを一番わかってんのはお前なんだよなあ。そろそろ腹括れよ、自分の責任でボコボコにするっつってるくらいならよ」
タイムリミットはもうすぐそこまで迫っている。いつまでも春山さんには頼っていられないし、誰がいつ、どうなるかもわからないのだ。求人をかけようにも現状では3月を乗り越えることすら出来ないのだから、19日以降のシフトを見つめ直す時に来ている。
「春山さん、少々頼みがあるのですが」
「何だよ」
「A番業務で起こり得る事象を出来る限り羅列してもらえますか」
「それをどーすんだ」
「B番に関しては捨てます。綾瀬にまだその気があるのであれば、A番業務のみの最終試験をします。あらゆる事象を解決出来るようであればスタッフ登用に踏み切ります」
「お、腹括ったか」
「ただし、A番専である以上、A番業務はそれなりに出来ている必要性はありますが」
「そーゆーコトならこの芹サンが最後に一肌脱いでやろうじゃねーの。感謝しろよ、リン様よォ」
「登用や今後の扱いについてはオレの責任ですが、アイツを居座らせて受付業務までさせていたのはアンタなんですから、アンタの責任にもなりますよ」
end.
++++
今年は蒼希のスタッフ登用の話が持ち上がらない年なので、3月の情報センターが非常にピンチです。冴さんは安定の。
新旧バイトリーダーがやいやい喋ってるのが結構好き。ミドリがわーひゃー言ってるのが入って来ると、きゃっきゃするんだけど。
と言うか、人手不足で助けてもらいたい立場なのにリン様がやたら偉そうである。そしてカナコも扱いよ……自分の責任でボコボコにするのね
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苦心して組み上げた3月のシフト表を眺めながら、オレはこれからどうするかと深刻な人手不足を嘆く。尤も、求人をすれば良いだけの話であり、この施設の前や学生課の掲示板に広告を貼り出せばいい。
次の繁忙期……履修登録・修正などは今いるメンバーで耐えるしかない。バイトリーダーのオレに、仕事こそ一通り覚えたが新2年でまだまだ履修の多い川北、同様に編入生という都合で烏丸も履修はまだまだ多く時間が取りにくい。土田……は、最早戦力としてカウントすら出来ん状態だ。
新入生をいくらか加入させなければセンターが回らない。しかし、4月を迎える前にまず3月下旬を乗り切らねば春はない。卒業式のギリギリまで春山さんの名前がシフトにある時点で事情はお察しではあるのだが。
「リン、お前もようやく私の気持ちがわかったか」
「ええ、少しですが理解しました」
前バイトリーダーの春山さんの作るシフト表の特徴は、とにかく春山さん自身とオレの入る枠が多く取られていたことだ。どうしてそこまで偏った組み方をしていたのかと当時は思っていたが、今となっては仕方のないことだったのだと理解をする。
いざ自分でシフトを組もうとすると、前述のスタッフの入れるところにとにかく突っ込み、空いたところに自分を入れるという組み方になってしまうのだ。自分の都合など黙殺せねばならんのだと。たまに好きな理由で休むのは贅沢だったのだ。
「これで私の映画休暇も特別な機会だと」
「それを許したつもりは到底ありませんが」
「糞野郎」
「映画で繁忙期に穴を開ける方がよほど糞でしょう。まあ、土田が当てにならない以上、新入生に限らず早急にスタッフを増員せねば非常にマズいとは」
「リン、お前よォ」
呆れたように、わかってんだろテメーはよォとでも言いたげに、春山さんは大袈裟に肩を竦めた。
「帯電機械音痴のことを言おうとしていますか」
「文系は理系よかコマ数自体が少ないんだ。しかも3年ならさらに減る。カナコの存在はうま味しかねーんだよなァ。テメーの糞つまんねえ意地か見栄か知らねーけど、ンなモンにこだわってる場合でもねーんだよなァ」
「意地でも見栄でもありませんが。オレが綾瀬のスタッフ登用を見送っているのはB番適性の問題です」
「いーじゃねーか、A番専でも。お前自身が実質B番専みたいなモンなんだ。そのお前が「B番適正皆無だからカナコはスタッフに出来ない」とか、説得力の欠片もない」
「それもご尤もではあります」
センタースタッフ研修生を自称する綾瀬は、未だ事務所に居座っている。すぐ飽きて去っていくかと思ったが、そろそろ半年になるだろうか。思ったよりも長続きしているし、後ろ盾の春山さんの指導もあってか受付業務もある程度様になりつつあった。
確かに文系3年生の履修コマは、理系のそれと比較してとても少ないという印象がある。春山さんが実際そうだった。綾瀬をA番に常駐させることが出来れば、残りのスタッフでB番のローテーションを組むことも出来る。繁忙期を乗り切るには実質この方法しかないことは理解していた。
そして、A番だのB番だのという御託を一番問題視してはいけないのがオレ自身であることも、言われるまでもなく理解はしていた。オレのA番適性が皆無だというのは自他ともに認める事実。そのオレが、B番適性を理由に綾瀬をどうこう出来ないということだ。
「受付以外にもカナコの使い方は他にもいろいろあるぞ」
「例えば」
「川北の入所試験のことは覚えてるな」
「度胸試しですね、春山さんの眼力に逃げ帰らないかという」
「受付がカナコならあーいうことをする必要はなくなる上に、チョロい奴ならすぐ落とせるだろ」
「色仕掛けですか。まあ、綾瀬の美貌であれば多少は騙せそうですが。しかし、極道からハニートラップとは。悪質なのは変わらないようで」
「リンお前、カナコがかわいこちゃんであることは認めてんだな」
「美貌と実力が相まっての看板女優なのでしょう。オレは演者としての綾瀬を貶したことは一度もありません。異常性癖の自称研修生・綾瀬ならオレの責任でボコボコにしても構わないと思っていますが何か」
「うーん、やっぱカナコの扱いを一番わかってんのはお前なんだよなあ。そろそろ腹括れよ、自分の責任でボコボコにするっつってるくらいならよ」
タイムリミットはもうすぐそこまで迫っている。いつまでも春山さんには頼っていられないし、誰がいつ、どうなるかもわからないのだ。求人をかけようにも現状では3月を乗り越えることすら出来ないのだから、19日以降のシフトを見つめ直す時に来ている。
「春山さん、少々頼みがあるのですが」
「何だよ」
「A番業務で起こり得る事象を出来る限り羅列してもらえますか」
「それをどーすんだ」
「B番に関しては捨てます。綾瀬にまだその気があるのであれば、A番業務のみの最終試験をします。あらゆる事象を解決出来るようであればスタッフ登用に踏み切ります」
「お、腹括ったか」
「ただし、A番専である以上、A番業務はそれなりに出来ている必要性はありますが」
「そーゆーコトならこの芹サンが最後に一肌脱いでやろうじゃねーの。感謝しろよ、リン様よォ」
「登用や今後の扱いについてはオレの責任ですが、アイツを居座らせて受付業務までさせていたのはアンタなんですから、アンタの責任にもなりますよ」
end.
++++
今年は蒼希のスタッフ登用の話が持ち上がらない年なので、3月の情報センターが非常にピンチです。冴さんは安定の。
新旧バイトリーダーがやいやい喋ってるのが結構好き。ミドリがわーひゃー言ってるのが入って来ると、きゃっきゃするんだけど。
と言うか、人手不足で助けてもらいたい立場なのにリン様がやたら偉そうである。そしてカナコも扱いよ……自分の責任でボコボコにするのね
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