2018(04)
■季節性暴力に伏せる
++++
「カ~ズ~、病院行こうよ~」
「どーせ花粉しょ……えっくしょい! げほっげほっ」
「絶対花粉症だけじゃないって、体も痛いんでしょ?」
「花粉症でもそゆコトあるから……」
カズが大変なことになってる。花粉の季節が始まったようで、くしゃみ連発鼻水ずるずる。ここまではいつも通りだったんだけど、今回はいつもと少し様子が違った。咳も酷いし、体が痛くてしんどいって言ってて。それってどう考えても花粉症だけじゃなくない?
だけどカズはそれを酷い時の花粉症だと言い張って聞かない。元々病院嫌いの気があると言うか、どれだけ言っても花粉症の対策として病院に行ってくれなかったし。って言うかお父さんがお医者さんなのに病院嫌いって何? 内科医さんだよね? 診てもらえばいいのに。
「花粉症だけじゃなかったパターンも考えて、マスクしてもらっていい?」
「ん」
「珍しく素直だね、マスク嫌いなのに」
ひゅうひゅうと荒く呼吸を繰り返すカズにはうちの軽口に反応する余裕はないみたい。春はいつも買い物をしてきたり、掃除をしたりってその他の季節比でお世話をしてる方だと思うけど、この春はこれまでよりも本格的にお世話しなきゃかも。
……とか何とか簡単に考えていられる状態でもないんだよね。絶対何かしらの病院に行った方がいいと思うんだけど。車だったらうちが出せるし。ほっといたところで治るような物でもなさそうだし、市販の薬を使うには症状が多すぎると言うか。
「カズ、何かして欲しいことがあったら言ってね、あ、でも言えないかな。何かしらの手段で伝えてね、出来る限り酌むから」
「わり……」
「困ったときはお互い様だからね」
すると、机の上に置いてあるカズのスマホが音を立てて、ブーブーと震え始める。電話だ。ディスプレイに表示された名前を見れば、高崎クン。サークル関係で何か用事でもあるのかな。それとも宅飲みのお誘いかなあ。
「カズ、高崎クンから電話だけど」
「出てー……」
「はーい。はいもしもし高崎クーン?」
『あ? ああ、宮ちゃんか。伊東は?』
「花粉症で寝込んでる。絶対花粉症だけじゃない別の病気が発症してると思うんだけど」
『マジか、困ったな』
「どうしたの?」
『いや、明日MBCCの下の連中によ、ダブルトークの基礎を教えるっつーので内容の擦り合わせしとかねえとなって思ったんだけど、この調子なら明日も無理そうだよな?』
「うーん、鼻水くしゃみ以外に熱もあるし全身痛いって言ってるし、ダメだと思ってもらった方がいいかも」
『つかそれ普通にインフルじゃねえのか』
「だよね!? 高崎クンからも説得してよ病院行くように! カズ、病院嫌いだからこれは花粉症ですの一点張りで」
『安定だな。まあ、元々春は使い物にならねえってわかってるし、ミキサーのことに関しても俺が何とかする』
必要な用件だけを言付かって、高崎クンとの通話は終わった。高崎クンからの要件を伝えると、ちょっとは申し訳なさそうに鼻をかむ。でも、高崎クンも言ってたようにインフルだったらどうしよう。花粉症とのダブルパンチってしんどくない?
うち個人のごはんは別に何とでもなるんだけど、カズだよね、問題は。最近は料理もいろいろ教えてもらってるけど、病気になったときに食べるような物は全然教えてもらってないから。おかゆとかおじやとか、そんなの。どうやって作るんだろ。って言うか食べれるかな。
これからどうしようと考えていると、またカズの電話が鳴る。また別の人から。知ってたけど交友関係広いよね。鳴り続ける電話をカズの目の前に持って行って、どうするのかを訊ねる。居留守するのか、後でLINEなりでフォローするのか。
「カズ、どうする?」
「……んー……出て」
「いいの? 出るよ? はいもしもし」
『もしも~し、伊東ク~ン? ……ではなさそうだネ。女の子、ってコトは彼女サン?』
「そうです。えっと、カズの電話なんですけど、カズは今寝込んでて。出ていいって言われたので、用件があれば言付かります」
『えっと~、俺は部活とサッカー友達の山口洋平っていいます~。伊東クンからはよっぺって呼ばれてて~』
「えっ、カズのヒーローの!?」
『自分で言うのも難だけど~、きっとそうだね~。山口兄弟のアニの方だよ~』
サッカーのことを語らせると長くなるから端的にいつも語ってもらってたんだけど、カズにとってのヒーローの話は何度も聞いてて。その人は大学に入ってサッカーを辞めちゃったけど、友達になって一緒にフットサルとかを出来る仲になって~って。へえ、こんな感じの人なんだね。
『で、用件なんだけど~、来週末のフットサル、人数集まらないから中止で~って伝えてもらえますか~?』
「わかりました。わざわざありがとうございました」
『いえいえ。伊東クンもお大事に~って。彼女サンも看病大変だろうけど~』
「あの、よっぺさんから病院に行くようにカズを説得してもらうことって出来ませんか? ヒーローの言うことなら聞いてくれないかなーって」
『この場合、説得よりも強制連行の方が良くない?』
「それもそうだ。助言ありがとうございました」
『いえいえ~』
よっぺさんからの用件もしっかりと伝えて、電話を机の上に戻す。しばらく置いておくだけでもちょこちょこ連絡が来てて、単純に凄いなって。そしてうちはよっぺさんからの助言を噛みしめる。うん、今は非常時なんだから、無理矢理にでも受診させないと。
「カズ、病院行かないと寝てる間に眠れる森の美女コスさせて浅浦クン呼んだ上でうちはカメラ回すよ」
「……病院行きます」
「よろしい。うちにはよろしくないけど」
end.
++++
いち氏が寝込んでしまいました。カンDの残存ウイルスは関係なかったようですが、バイトが人と接する仕事だもんなあ
洋平ちゃんからの電話に「ヒーローだ!」ってなる慧梨夏よ。いち氏がプレゼンで使った例の写真が頭に過ぎる
そしていち氏が春は使い物にならないとわかってるので諦めも早い高崎であった。結構ドライやんな
.
++++
「カ~ズ~、病院行こうよ~」
「どーせ花粉しょ……えっくしょい! げほっげほっ」
「絶対花粉症だけじゃないって、体も痛いんでしょ?」
「花粉症でもそゆコトあるから……」
カズが大変なことになってる。花粉の季節が始まったようで、くしゃみ連発鼻水ずるずる。ここまではいつも通りだったんだけど、今回はいつもと少し様子が違った。咳も酷いし、体が痛くてしんどいって言ってて。それってどう考えても花粉症だけじゃなくない?
だけどカズはそれを酷い時の花粉症だと言い張って聞かない。元々病院嫌いの気があると言うか、どれだけ言っても花粉症の対策として病院に行ってくれなかったし。って言うかお父さんがお医者さんなのに病院嫌いって何? 内科医さんだよね? 診てもらえばいいのに。
「花粉症だけじゃなかったパターンも考えて、マスクしてもらっていい?」
「ん」
「珍しく素直だね、マスク嫌いなのに」
ひゅうひゅうと荒く呼吸を繰り返すカズにはうちの軽口に反応する余裕はないみたい。春はいつも買い物をしてきたり、掃除をしたりってその他の季節比でお世話をしてる方だと思うけど、この春はこれまでよりも本格的にお世話しなきゃかも。
……とか何とか簡単に考えていられる状態でもないんだよね。絶対何かしらの病院に行った方がいいと思うんだけど。車だったらうちが出せるし。ほっといたところで治るような物でもなさそうだし、市販の薬を使うには症状が多すぎると言うか。
「カズ、何かして欲しいことがあったら言ってね、あ、でも言えないかな。何かしらの手段で伝えてね、出来る限り酌むから」
「わり……」
「困ったときはお互い様だからね」
すると、机の上に置いてあるカズのスマホが音を立てて、ブーブーと震え始める。電話だ。ディスプレイに表示された名前を見れば、高崎クン。サークル関係で何か用事でもあるのかな。それとも宅飲みのお誘いかなあ。
「カズ、高崎クンから電話だけど」
「出てー……」
「はーい。はいもしもし高崎クーン?」
『あ? ああ、宮ちゃんか。伊東は?』
「花粉症で寝込んでる。絶対花粉症だけじゃない別の病気が発症してると思うんだけど」
『マジか、困ったな』
「どうしたの?」
『いや、明日MBCCの下の連中によ、ダブルトークの基礎を教えるっつーので内容の擦り合わせしとかねえとなって思ったんだけど、この調子なら明日も無理そうだよな?』
「うーん、鼻水くしゃみ以外に熱もあるし全身痛いって言ってるし、ダメだと思ってもらった方がいいかも」
『つかそれ普通にインフルじゃねえのか』
「だよね!? 高崎クンからも説得してよ病院行くように! カズ、病院嫌いだからこれは花粉症ですの一点張りで」
『安定だな。まあ、元々春は使い物にならねえってわかってるし、ミキサーのことに関しても俺が何とかする』
必要な用件だけを言付かって、高崎クンとの通話は終わった。高崎クンからの要件を伝えると、ちょっとは申し訳なさそうに鼻をかむ。でも、高崎クンも言ってたようにインフルだったらどうしよう。花粉症とのダブルパンチってしんどくない?
うち個人のごはんは別に何とでもなるんだけど、カズだよね、問題は。最近は料理もいろいろ教えてもらってるけど、病気になったときに食べるような物は全然教えてもらってないから。おかゆとかおじやとか、そんなの。どうやって作るんだろ。って言うか食べれるかな。
これからどうしようと考えていると、またカズの電話が鳴る。また別の人から。知ってたけど交友関係広いよね。鳴り続ける電話をカズの目の前に持って行って、どうするのかを訊ねる。居留守するのか、後でLINEなりでフォローするのか。
「カズ、どうする?」
「……んー……出て」
「いいの? 出るよ? はいもしもし」
『もしも~し、伊東ク~ン? ……ではなさそうだネ。女の子、ってコトは彼女サン?』
「そうです。えっと、カズの電話なんですけど、カズは今寝込んでて。出ていいって言われたので、用件があれば言付かります」
『えっと~、俺は部活とサッカー友達の山口洋平っていいます~。伊東クンからはよっぺって呼ばれてて~』
「えっ、カズのヒーローの!?」
『自分で言うのも難だけど~、きっとそうだね~。山口兄弟のアニの方だよ~』
サッカーのことを語らせると長くなるから端的にいつも語ってもらってたんだけど、カズにとってのヒーローの話は何度も聞いてて。その人は大学に入ってサッカーを辞めちゃったけど、友達になって一緒にフットサルとかを出来る仲になって~って。へえ、こんな感じの人なんだね。
『で、用件なんだけど~、来週末のフットサル、人数集まらないから中止で~って伝えてもらえますか~?』
「わかりました。わざわざありがとうございました」
『いえいえ。伊東クンもお大事に~って。彼女サンも看病大変だろうけど~』
「あの、よっぺさんから病院に行くようにカズを説得してもらうことって出来ませんか? ヒーローの言うことなら聞いてくれないかなーって」
『この場合、説得よりも強制連行の方が良くない?』
「それもそうだ。助言ありがとうございました」
『いえいえ~』
よっぺさんからの用件もしっかりと伝えて、電話を机の上に戻す。しばらく置いておくだけでもちょこちょこ連絡が来てて、単純に凄いなって。そしてうちはよっぺさんからの助言を噛みしめる。うん、今は非常時なんだから、無理矢理にでも受診させないと。
「カズ、病院行かないと寝てる間に眠れる森の美女コスさせて浅浦クン呼んだ上でうちはカメラ回すよ」
「……病院行きます」
「よろしい。うちにはよろしくないけど」
end.
++++
いち氏が寝込んでしまいました。カンDの残存ウイルスは関係なかったようですが、バイトが人と接する仕事だもんなあ
洋平ちゃんからの電話に「ヒーローだ!」ってなる慧梨夏よ。いち氏がプレゼンで使った例の写真が頭に過ぎる
そしていち氏が春は使い物にならないとわかってるので諦めも早い高崎であった。結構ドライやんな
.