2018(04)

■俺たちのある箱の名は

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 某日夕方6時、ソルから呼び出されたからUSDX関係で何か話でもすんのかなーと思ったら、まさかの音楽関係で。呼び出されて行った西海市内のカフェには、年末のシャッフルバンド音楽祭で一緒にブルースプリングの曲をやったドラムの奴がいた。

「ようチータ。急に呼び出してわりィな」
「ホントに。急だし西海だし、スガには話が行ってないみたいだし何事かと」
「今日はオンじゃなくてオフの話な。年末に顔くらいは見たかもしんねえけど、改めて紹介する。高崎悠哉、ドラムやってた俺の……何になるんだろうな」
「ヤンキー時代からの知り合いっつっても舎弟だとガチ過ぎるし、弟分くらいでいいんじゃないすか。リアルな後輩でもないっすし。それかスラップソウルのライブにちょこちょこ来てる知り合いか」
「まあ、何かそんな感じの間柄だ。そんでユーヤ、こっちがCONTINUEっつーインストバンドでキーボードやってる……チータお前、名字なんだっけ」
「カンノな」
「ああ、そうだ。菅野太一。俺とは音楽以外にも接点があるけどそれは今はどうでもよくて、今日ここに集まった本題だな」

 何でも、俺が呼び出されたのはこのユーヤ関係らしい。実は年末の音楽祭でユーヤと少し話してたんだけど、ユーヤのバンド、The Cloudberry Funclubは自然消滅したような状態だったのが急に穿り返されてその名前が蘇ったらしい。
 それはそれでおしまいかと思っていたら、今は違うバンドで飯を食い始めてるギターボーカルの奴がTCFというバンドで音源を録りたいと言い始めたと。余りにもしつこかったからユーヤは渋々その話に乗った。そしてサポートベースにソルを呼んでほしいというボーカルのワガママにも応えたと。

「――っつーワケでサポートのキーボードが欲しいって言われたんだけど、俺のツテで思い当たるキーボードっつったらお前かなと」
「まあ、真っ先に思い出してもらったのは光栄だけど、そのギターボーカルの奴は?」
「今は本業のバンドのスタジオリハやってるらしくて、それが終わったら飛んでくるとは言ってる」
「コンに話が行ってねえのはドラムはユーヤがいるからっつー事情だな」
「ん、それは了解」

 リハ終わったらソッコー来いというメールをユーヤが送り、俺たちはもうしばらく待機を続けることになる。つかヤンキー時代からのソルの弟分とか、ユーヤも元ヤンなのか。歳はタメだったと思うし普通に大学生だったと思うけど。

「でも拓馬さん、普通に上手い奴連れて来たっすよね」
「ユーヤ、お前コイツのこと覚えてんのか」
「年末のライブで2曲くらいやった覚えがあります。うち1曲はブルースプリングの曲で、2人でやってたんで」
「そうそう、ブルースプリングだった! でも俺はまだそのサポメンの話をやるとは言ってないからな」
「まだ交渉のテーブルに着いただけだっつーのは当然わかってる」
「ま、サンプル音源聞かせりゃ納得するだろ」
「ソル、それマジで言ってる? 聞いてすぐオチんの?」
「興味くらいは湧いて、もうちょっとこうしたいっていう欲くらいは出て来るんじゃねえかってくらいだ。すぐにオチるかって言われても知らねえけど」

 実際、音源を聞いて興味が湧いてもうちょっとこうしたいっていう欲が出てきたのはソルなんじゃないかと思う。USDXの話の合間に音楽の話も少ししてるし、そこで使ってる音源もちょっと作ってるから俺の音楽に対するスタンスもソルにはある程度わかられてると思う。だからこそ似たように思うと思われたのかな。
 そこまで言われたら早く音源が聞きたくて仕方ない。ユーヤは音源を持ってないって言うし、その言い出しっぺのギターボーカル早く来い。ちなみにバンドのオリジナルメンバーはユーヤを含めて3人いて、ベースが忙しくて参加出来ないからソルが呼ばれた。そしてキーボードの音が欲しいという理由で俺が呼ばれたらしい。まだ返事はしてないけどな!

「つかソルさ、これからフツーに仕事忙しくなるみたいなこと言ってなかったっけ」
「ああ、普通に忙しくなる」
「これ以上タスク増やして大丈夫かよ」
「まあ、なるようになるだろ。夏も年末も何とか乗り越えてきたんだ」
「でも、忙しいときってちょい抜け有給使わないだろ」

 ……とか何とか、キョージュの家にいる感覚で喋っていると、ユーヤが俺のことをガン見してるんだ。まるでドン引きしているかのようにも見えるし、尋常じゃないような目だということだけははっきりとわかる。えっ、俺何かした?

「えっと……何か?」
「いや、拓馬さんとそんな普通に喋ってるとか、どんな関係かと思ってビビってるだけで。どう見ても堅気なのに」
「ユーヤお前、俺と結びつかなさそうな奴に会う度「どう見ても堅気なのに」って言うな」
「でも星港での拓馬さんを知ってたらとても」
「えっ、ユーヤ、星港でのソルって?」
「チータ」

 ギロリと鋭い視線が俺を捉えて、一瞬身動きが取れなくなる。この眼力はガチだ。

「ソル、元ヤンってキョージュがよく言ってるけど、あれネタじゃなくてガチ?」
「元ヤンは事実だ」
「それどころか、単騎での強さから星港のチームのヘッドたちがこぞって拓馬さんの下についてて、そういう連中を束ねてたんだ。界隈じゃ今でも伝説の人だ」
「え、その事情を知ってるとかユーヤも元ヤン?」
「俺はヤンキーだったことはない」
「ユーヤはちょっとグレて酒タバコ喧嘩に明け暮れただけの一匹狼だな」
「拓馬さん!」
「仕返しだ」
「十分不良少年じゃねえかよ~、こえ~よ~」
「今じゃそんなことも昔の話だし、お前もその元ヤン相手に「ぶっ殺す」とかよく言ってるじゃねえか」
「それはゲームの話だし結局返り討ちにされてるだろ! ちくしょう、元ヤンがゲームまで上手いとか反則だ!」
「お。壮馬からメールっす。今からこっちに向かうって」

 これまで歩いてきた道はいろいろだし、朝霞がいたらめっちゃ食い付いて来そうな現場だ。だけど、本題が始まる気配がすればそんなことはどうでもよくなる。これからどんなサンプル音源を聞かされて、俺はどう首を振るのか。


end.


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音楽関係ではスガPと一緒にいることが多いからか、たまの単独行動がちょっと不安なカンDです。
どうやらオミさんの説得は上手く行ったらしく、キーボードまで呼んでくれたようですね。どんなプレゼンしたんや
ヤンキーどうこうを抜きにして21歳から見ればオミさんは普通に社会人で目上の人に当たるのにタメ語でガンガン喋ってるから怪訝な目で見られたんやろなあ

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