2018(04)
■思いを可視化する
++++
「……菜月、ありがとう」
「ううん、全然大丈夫。でも残念だったね」
「……それは、仕方ない」
一度はその誘いを断っていたのだけれど、先約が流れてしまったことで慌てて菜月に連絡をした。菜月からは18日に会えないかという話があったのだけど、その日はリンと食事に行く約束をしていた。だけど、リンがインフルエンザに罹ってしまって。
約束がなくなったから、じゃあやっぱり菜月に……というのも失礼な話だったかもしれない。それでも、菜月は快く私と会うことにしてくれて本当に嬉しい。ただ、少しだけ心配なことがあると言えばあって……。
「今気付いたけど……」
「うん、どうしたの?」
「私が、インフルエンザのウイルスを運んでしまっている可能性が……」
「えっ、どうしたの急に」
「昨日、ベティさんのお店に行った……そうしたら、ロイが来て……具合が悪そうだったし、いかにもなインフルエンザみたいだったから……もし仮に、ロイが陽性だった場合、危ない……」
「ウイルスを運ぶ可能性ねえ。美奈はそこまで気にしなくていいと思うけど。って言うか朝霞は外に出歩きまくってるから拾ったってだけじゃないかな。うちは家から出ないから元気だし」
確かに、菜月のそれは少し極端なのだけど、外に出ないということも感染症対策としては有効ではある。これ以上媒介させないために隔離するとか、自分がもらわないために引きこもるとか。今日にしても、私が菜月の部屋まで出向いている。菜月は家から出ないと決めたらとことん出ないから……。
物の少ない菜月の部屋で目を引くのは、インターネットに繋がっていないパソコンと、少し古いゲーム機。それらとスマホのゲームで遊んでいると1日が過ぎていることなんてざらだそう。私自身はゲームをやらないのだけど、リンや徹の話を聞いていると、ゲームを突き詰めようと思うと時間がどれだけあっても足りないと。
菜月もゲームがとても好きで、小さい頃からお兄さんと一緒によくやっていたそう。向島のサークルでも、トニーやマーシーと言ったゲーム好きの仲間がいて、話も弾むしそれで部屋から出ないと言っても一定の理解を得られるのが気楽だと言っていた。菜月の友達にそういう女の子はあまりいないそうで。
「そう言えば、ロイは最近パソコンのゲームを始めたって……」
「へえ、朝霞とゲームってあんまりイメージ無いな」
「リンと仲良くなって、その繋がりで……リンのやっているゲームの話を聞いて、面白そうだから、って……」
「何か、朝霞のアクティブさと言うか社交性と言うか、そういうのは純粋に凄いなって思う。いい意味で呆れる」
「貪欲でもある……」
「あ、確かに。貪欲って言う方が正しいかも」
ロイの貪欲さについては、あずさからも悲鳴混じりによく聞いていた。元々はステージの台本のために自分の足で知見を稼ぎに行っていたそうなのだけど、本来の性格が好奇心旺盛で人好き。そんなこともあって、部活を引退した今でも自分の知らない世界の話を積極的に聞きに回っているそう。
「菜月は、パソコンではソリティア以外のゲームをやる予定は…?」
「いろいろあるとは聞くし興味はあるけど、いかんせん資金面が。そうなるとまず部屋にネット環境を整備しないといけないし、それからソフト代のこともあるし。えっ、ネットの工事するのに業者呼ぶの? みたいな」
「工事不要のWi-Fi装置を置けばいいかと……」
「へえ、そんなのがあるんだ」
「……その辺りのことは、トニーやマーシーが強い分野……、興味があれば、彼らに聞いてみるといい……」
「実際にさ、ノサカからは勧められてたんだよね、スマホで動画見過ぎた月にさ、Wi-Fiにした方がいいみたいなことは。よし、そうだ、アイツを引き摺ろう」
「それがいい……」
マーシーであれば、菜月からの相談には本当に親身になってくれるだろうし、出来うる範囲での最大の策を考えて、実行してくれるはず。私がそんなことを考えるのは冷やかしでしかないのだろうけど、好きな人から自分の得意な分野について相談されて、頼られるという状況で、張り切らないようであれば……。
「美奈、バレンタインは何かした?」
「私は、味見の関係でチョコレートは作れない……だから、市販のチョコレートと茶葉のセットを……紅茶フレーバーと、抹茶フレーバーのチョコレートと、ミルクティーとの相性のいい茶葉がついていて……」
「おしゃれ。絶対美味しいヤツ」
「菜月は…? 誰かにあげたとか……徹みたく、自分用に買い込んだとか……」
「一応サークルには4年生追いコンのついでにナントカホテルのウエハースチョコみたいなのをバーッとまいて3倍返しを要求して、こないだ高崎と会ったときには藍沢の有名な店のヤツ、5粒で1500円くらいするヤツをあげて、3倍返しを要求した。あと自分用にももちろん買い込んでます」
「BJと、会ってたの…?」
「美奈が思ってるようなことは何もないからね。普通に世音坂のカフェに限定のチョコレートケーキを食べに行っただけだから。アイツのスイーツデータベースは本当に素晴らしいんだ」
「……確かに、BJはかなりの甘党……」
サークルへのばらまきと、BJにあげたというチョコレートのランクが違いすぎるのが少し気になる……。BJへのチョコは、義理にしては良すぎると言うか。この感じだと、3月にも何かありそうで菜月の動向からはなかなか目が離せない……。本人に言うと、怒られそうだけど。菜月は気遣いの塊のような子だから、相手の好きな物をという風に考えた結果、より良い物になった可能性の方が高そう……。
「あ、そうだ美奈。これ、誕生日のプレゼントなんだけど、よかったら」
「本当…? ありがとう……」
end.
++++
菜月さんは引きこもりだよ! 女子の中だと下手したら慧梨夏以上に引きこもってるよ! 何やかんや慧梨夏は外にも出るからな
美奈は物静かなだけで何やかんや向島の極悪三人衆ばりに恋愛事情などの話が好きなので、ガンガン突っ込んでいくよ!
そして本当にいい意味なのかは知らんが呆れられる朝霞Pである。きっと倉庫バイトのときにもグイッグイ来てたんやろなあ
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「……菜月、ありがとう」
「ううん、全然大丈夫。でも残念だったね」
「……それは、仕方ない」
一度はその誘いを断っていたのだけれど、先約が流れてしまったことで慌てて菜月に連絡をした。菜月からは18日に会えないかという話があったのだけど、その日はリンと食事に行く約束をしていた。だけど、リンがインフルエンザに罹ってしまって。
約束がなくなったから、じゃあやっぱり菜月に……というのも失礼な話だったかもしれない。それでも、菜月は快く私と会うことにしてくれて本当に嬉しい。ただ、少しだけ心配なことがあると言えばあって……。
「今気付いたけど……」
「うん、どうしたの?」
「私が、インフルエンザのウイルスを運んでしまっている可能性が……」
「えっ、どうしたの急に」
「昨日、ベティさんのお店に行った……そうしたら、ロイが来て……具合が悪そうだったし、いかにもなインフルエンザみたいだったから……もし仮に、ロイが陽性だった場合、危ない……」
「ウイルスを運ぶ可能性ねえ。美奈はそこまで気にしなくていいと思うけど。って言うか朝霞は外に出歩きまくってるから拾ったってだけじゃないかな。うちは家から出ないから元気だし」
確かに、菜月のそれは少し極端なのだけど、外に出ないということも感染症対策としては有効ではある。これ以上媒介させないために隔離するとか、自分がもらわないために引きこもるとか。今日にしても、私が菜月の部屋まで出向いている。菜月は家から出ないと決めたらとことん出ないから……。
物の少ない菜月の部屋で目を引くのは、インターネットに繋がっていないパソコンと、少し古いゲーム機。それらとスマホのゲームで遊んでいると1日が過ぎていることなんてざらだそう。私自身はゲームをやらないのだけど、リンや徹の話を聞いていると、ゲームを突き詰めようと思うと時間がどれだけあっても足りないと。
菜月もゲームがとても好きで、小さい頃からお兄さんと一緒によくやっていたそう。向島のサークルでも、トニーやマーシーと言ったゲーム好きの仲間がいて、話も弾むしそれで部屋から出ないと言っても一定の理解を得られるのが気楽だと言っていた。菜月の友達にそういう女の子はあまりいないそうで。
「そう言えば、ロイは最近パソコンのゲームを始めたって……」
「へえ、朝霞とゲームってあんまりイメージ無いな」
「リンと仲良くなって、その繋がりで……リンのやっているゲームの話を聞いて、面白そうだから、って……」
「何か、朝霞のアクティブさと言うか社交性と言うか、そういうのは純粋に凄いなって思う。いい意味で呆れる」
「貪欲でもある……」
「あ、確かに。貪欲って言う方が正しいかも」
ロイの貪欲さについては、あずさからも悲鳴混じりによく聞いていた。元々はステージの台本のために自分の足で知見を稼ぎに行っていたそうなのだけど、本来の性格が好奇心旺盛で人好き。そんなこともあって、部活を引退した今でも自分の知らない世界の話を積極的に聞きに回っているそう。
「菜月は、パソコンではソリティア以外のゲームをやる予定は…?」
「いろいろあるとは聞くし興味はあるけど、いかんせん資金面が。そうなるとまず部屋にネット環境を整備しないといけないし、それからソフト代のこともあるし。えっ、ネットの工事するのに業者呼ぶの? みたいな」
「工事不要のWi-Fi装置を置けばいいかと……」
「へえ、そんなのがあるんだ」
「……その辺りのことは、トニーやマーシーが強い分野……、興味があれば、彼らに聞いてみるといい……」
「実際にさ、ノサカからは勧められてたんだよね、スマホで動画見過ぎた月にさ、Wi-Fiにした方がいいみたいなことは。よし、そうだ、アイツを引き摺ろう」
「それがいい……」
マーシーであれば、菜月からの相談には本当に親身になってくれるだろうし、出来うる範囲での最大の策を考えて、実行してくれるはず。私がそんなことを考えるのは冷やかしでしかないのだろうけど、好きな人から自分の得意な分野について相談されて、頼られるという状況で、張り切らないようであれば……。
「美奈、バレンタインは何かした?」
「私は、味見の関係でチョコレートは作れない……だから、市販のチョコレートと茶葉のセットを……紅茶フレーバーと、抹茶フレーバーのチョコレートと、ミルクティーとの相性のいい茶葉がついていて……」
「おしゃれ。絶対美味しいヤツ」
「菜月は…? 誰かにあげたとか……徹みたく、自分用に買い込んだとか……」
「一応サークルには4年生追いコンのついでにナントカホテルのウエハースチョコみたいなのをバーッとまいて3倍返しを要求して、こないだ高崎と会ったときには藍沢の有名な店のヤツ、5粒で1500円くらいするヤツをあげて、3倍返しを要求した。あと自分用にももちろん買い込んでます」
「BJと、会ってたの…?」
「美奈が思ってるようなことは何もないからね。普通に世音坂のカフェに限定のチョコレートケーキを食べに行っただけだから。アイツのスイーツデータベースは本当に素晴らしいんだ」
「……確かに、BJはかなりの甘党……」
サークルへのばらまきと、BJにあげたというチョコレートのランクが違いすぎるのが少し気になる……。BJへのチョコは、義理にしては良すぎると言うか。この感じだと、3月にも何かありそうで菜月の動向からはなかなか目が離せない……。本人に言うと、怒られそうだけど。菜月は気遣いの塊のような子だから、相手の好きな物をという風に考えた結果、より良い物になった可能性の方が高そう……。
「あ、そうだ美奈。これ、誕生日のプレゼントなんだけど、よかったら」
「本当…? ありがとう……」
end.
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菜月さんは引きこもりだよ! 女子の中だと下手したら慧梨夏以上に引きこもってるよ! 何やかんや慧梨夏は外にも出るからな
美奈は物静かなだけで何やかんや向島の極悪三人衆ばりに恋愛事情などの話が好きなので、ガンガン突っ込んでいくよ!
そして本当にいい意味なのかは知らんが呆れられる朝霞Pである。きっと倉庫バイトのときにもグイッグイ来てたんやろなあ
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