2018(04)
■飛車角か最後の砦か
++++
「うう、緊張するなあ」
「へーきだって! もう通話だってしてるし、なんならTRPGだって収録したじゃんか! 今更今更!」
「でも、教授さんとソルさんてUSDXの黒幕とかラスボスとか、そういう人たちなんだろ。いざ面と向かって話すとなると。しかも収録のとき俺結構バッサバッサ行ったじゃんな」
「それがGMの仕事だ。堂々としてしろ」
ゲーム実況集団USDXにTRPGのシナリオを提供して、さらに動画収録でゲームマスターまで勤めてしばし。通話こそしたもののコンこと菅野、チータこと菅野、それからバネことリン君以外のメンバーとは面識のない状態が続いていた。
きっかけは、ゲーム実況者とはという生態の見学だったワケだけど、あれよあれよとシナリオライターになり動画にまで出演してしまったからには挨拶のひとつは必要だろう。そんなワケで豊葦市内某所マンションで行われる打ち合わせに呼ばれたのだ。
なんでも、USDXはメンバーが集まってわちゃわちゃとゲームをやることも多々あるとかで。通話だけに留まらない活動模様ということなのだろう。興味はあるけど、怖い。如何せん順序が。普通シナリオ提供や動画出演より挨拶の方が先じゃないかと!
「向島大学のすぐ側なんだな」
「そーだな。キョージュが向島の院生だからこの辺に住んでるんだよ」
菅野の車の窓から流れる景色は、ビル群からいつしか緑になっていた。豊葦と言えば緑ヶ丘とか向島とか、インターフェイスでも山だ山だと言われる方の大学さんのお膝元というイメージが強い。地下鉄の範囲からも外れるから、交通費が跳ね上がる。
ただ、須賀の家がガチでこの辺らしく、元々土地勘がちょっとあった菅野がそのまま運転手として働くことになっていたそうだ。彼女の実家にちょこちょこお邪魔なんてフツー出来ねーぜ、と菅野が助手席から運転手を煽っている。
「スガノの彼女の父親が界隈では名のあるサックス奏者でな。自宅のスタジオでバンドが世話になっているそうだ」
「マジかよ、話聞きたいな」
「何でもかんでもネタにしようとするな」
「よーし、買い物するぞー!」
教授さん宅では紅茶以外の物が出て来ないらしいので、近くのコンビニで食料を買い込み現場へ向かう。連れて来られたのはレモンハウスという、決して新しくはない4階建てのマンションだ。よくある学生街って感じの。
「プロさーん、おざーっす!」
「やあ、いらっしゃい。あっ、君が物書きのレイ君? 僕がUSDX企画立案者の教授だよ。プロとも云うかな。本名は京川樹理、向島大学の院生だね」
「あっ、レイこと朝霞薫です。星ヶ丘大学の3年です」
「うん、コンちゃんとチータと同じ部活だったんだってね。さ、上がって上がって。ソルももうしばらくしたら来ると思うから」
「ソルさんまーた早抜けしてくるんすか」
「労働者の権利らしいからね。社畜キャラが聞いて呆れるよね。むしろ有給消化率を上げる社員の鑑なんだけど」
すらりとした長身に、さらさらの髪。優男風のこの人が教授さん。物腰が柔らかいという印象がある。動画ではリーダーでありながらクズキャラを担当しているそうだ。で、先に聞いていた紅茶は、今日はたまたま切らしてしまったそうだ。
USDX唯一の社会人で、社畜キャラのソルさんはもう少ししたら来るらしい。えっ、平日の昼間だけど、マジでもう少しで来るのか? 動画を見ている限り忙しそうなのは本当だろうし、8時半5時半くらいのよくある時間帯で働いてるそうだけど。
「教授さん、ソルさんてお仕事は何やってる人なんですか?」
「倉庫だね。フォークリフトで爆走したり人材の使えない人をシバき倒したりしてるって」
「あっはっはっは! プロさん朝霞に先入観植え付けようとしてるっしょ!」
「って言うか動画見てる限りそのイメージに間違いないし先入観もクソも」
「あっ、朝霞がソルをオフでも人をシバき倒してそうとか言ったぞソルにチクれ」
「おい菅野やめろ!」
「まあ、昔の血が蘇ったら仕事中でも容赦なくシバくだろうから間違ってはないね」
とか何とかやっていたら、インターホンが鳴った。これは、もしかしなくてももしかするのでは。俺は決してソルさんが日頃から現実世界でも人をボコったりシバき倒したりしていそうだなんてことは言っていないのだけれど、恐怖はどんどん強くなる。
「あっ、拓馬が来たみたい。はーい」
「樹理、今日は何かこないだの作家の奴が来てるとかって」
「みんなと一緒に来てるよ。あとは拓馬だけ。ほら、挨拶して。レイ君、ソルが来たよ」
作家の奴を探して動いていたその目とがっちり俺の視線がぶつかって、次の瞬間には「あ」と2人の声が重なっていた。ソルさんと呼ばれたその人は、つい先日まで吊り札付けの仕事でお世話になっていた塩見さんだったのだ。
「あれあれ、これはバネ君に引き続きまーた顔見知りパターン?」
「ついこないだまでうちの会社にバイトで来てた学生だ」
「お世話になってました」
……と、あの時にしていた話をいろいろ思い返してみる。休みの日にはバンドの練習かツミツミ。大石曰くツミツミで塩見さんには勝てない。インドア。そしてなっちから教えてもらったツミツミ動画の主は、あれからさらにスコアを伸ばしていた。
「そら勝てねーわな!」
「ん? どうした朝霞」
「あ、いや、大石がですね、ツミツミで塩見さんに勝てないって言ってたんですけど、塩見さんがあのソルさんだったらそら勝てんわな、と」
「千景は千景でマイツミをスコアやスキルじゃなくてかわいさで選んでるクセにあのスコアは十分キチってるけどな」
「レイ君、拓馬のツミツミ動画見てたの?」
「あっはい、この人がスゴいんだって友達に教えてもらって。ちなみに教えてもらったのは塩見さんの車の中だったんですけど」
「あの時はマジで冷や冷やした。菜月がいきなりSDXソルのツミツミとか言いやがるしな。何にせよ、こないだやったTRPGのGMはお前だったんだな」
「お粗末様でした」
「ところで、レイ君てこれからUSDXでゲームの方もやっていく?」
「マインクラフトは買いました」
無事に(?)顔合わせが済んだところで、これから始まるのは次の企画の打ち合わせ。菅野がシステムを構築してくれた“ポイントファイブ”だ。何か、気がついたら随分ずぶずぶになってるけど……まあいっか!
「あ、初心者なんだね」
「しかもゲームセンスの欠片も感じないド下手くそだ」
「言うなあリン」
「そこでオレは考えたのだが、朝霞の育成自体を企画動画にすればいいのではないかと。初心者に教えると銘打って」
「いいね。やろうか。指導はバネ教官にお願いしようかな」
「HoIやCiv等の戦略ゲームは得意そうだから、その辺は任せるぞ」
end.
++++
同じパターンを何度も繰り返すのが好き。USDXがとうとう6人揃いました。
と言うか、菜月さんがソルさんのツミツミ動画を紹介してた時、塩見さんでも冷や冷やはしてたんですね
ゲームセンスの欠片も感じないド下手くそwww まあ、事実だししょうがないね
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「うう、緊張するなあ」
「へーきだって! もう通話だってしてるし、なんならTRPGだって収録したじゃんか! 今更今更!」
「でも、教授さんとソルさんてUSDXの黒幕とかラスボスとか、そういう人たちなんだろ。いざ面と向かって話すとなると。しかも収録のとき俺結構バッサバッサ行ったじゃんな」
「それがGMの仕事だ。堂々としてしろ」
ゲーム実況集団USDXにTRPGのシナリオを提供して、さらに動画収録でゲームマスターまで勤めてしばし。通話こそしたもののコンこと菅野、チータこと菅野、それからバネことリン君以外のメンバーとは面識のない状態が続いていた。
きっかけは、ゲーム実況者とはという生態の見学だったワケだけど、あれよあれよとシナリオライターになり動画にまで出演してしまったからには挨拶のひとつは必要だろう。そんなワケで豊葦市内某所マンションで行われる打ち合わせに呼ばれたのだ。
なんでも、USDXはメンバーが集まってわちゃわちゃとゲームをやることも多々あるとかで。通話だけに留まらない活動模様ということなのだろう。興味はあるけど、怖い。如何せん順序が。普通シナリオ提供や動画出演より挨拶の方が先じゃないかと!
「向島大学のすぐ側なんだな」
「そーだな。キョージュが向島の院生だからこの辺に住んでるんだよ」
菅野の車の窓から流れる景色は、ビル群からいつしか緑になっていた。豊葦と言えば緑ヶ丘とか向島とか、インターフェイスでも山だ山だと言われる方の大学さんのお膝元というイメージが強い。地下鉄の範囲からも外れるから、交通費が跳ね上がる。
ただ、須賀の家がガチでこの辺らしく、元々土地勘がちょっとあった菅野がそのまま運転手として働くことになっていたそうだ。彼女の実家にちょこちょこお邪魔なんてフツー出来ねーぜ、と菅野が助手席から運転手を煽っている。
「スガノの彼女の父親が界隈では名のあるサックス奏者でな。自宅のスタジオでバンドが世話になっているそうだ」
「マジかよ、話聞きたいな」
「何でもかんでもネタにしようとするな」
「よーし、買い物するぞー!」
教授さん宅では紅茶以外の物が出て来ないらしいので、近くのコンビニで食料を買い込み現場へ向かう。連れて来られたのはレモンハウスという、決して新しくはない4階建てのマンションだ。よくある学生街って感じの。
「プロさーん、おざーっす!」
「やあ、いらっしゃい。あっ、君が物書きのレイ君? 僕がUSDX企画立案者の教授だよ。プロとも云うかな。本名は京川樹理、向島大学の院生だね」
「あっ、レイこと朝霞薫です。星ヶ丘大学の3年です」
「うん、コンちゃんとチータと同じ部活だったんだってね。さ、上がって上がって。ソルももうしばらくしたら来ると思うから」
「ソルさんまーた早抜けしてくるんすか」
「労働者の権利らしいからね。社畜キャラが聞いて呆れるよね。むしろ有給消化率を上げる社員の鑑なんだけど」
すらりとした長身に、さらさらの髪。優男風のこの人が教授さん。物腰が柔らかいという印象がある。動画ではリーダーでありながらクズキャラを担当しているそうだ。で、先に聞いていた紅茶は、今日はたまたま切らしてしまったそうだ。
USDX唯一の社会人で、社畜キャラのソルさんはもう少ししたら来るらしい。えっ、平日の昼間だけど、マジでもう少しで来るのか? 動画を見ている限り忙しそうなのは本当だろうし、8時半5時半くらいのよくある時間帯で働いてるそうだけど。
「教授さん、ソルさんてお仕事は何やってる人なんですか?」
「倉庫だね。フォークリフトで爆走したり人材の使えない人をシバき倒したりしてるって」
「あっはっはっは! プロさん朝霞に先入観植え付けようとしてるっしょ!」
「って言うか動画見てる限りそのイメージに間違いないし先入観もクソも」
「あっ、朝霞がソルをオフでも人をシバき倒してそうとか言ったぞソルにチクれ」
「おい菅野やめろ!」
「まあ、昔の血が蘇ったら仕事中でも容赦なくシバくだろうから間違ってはないね」
とか何とかやっていたら、インターホンが鳴った。これは、もしかしなくてももしかするのでは。俺は決してソルさんが日頃から現実世界でも人をボコったりシバき倒したりしていそうだなんてことは言っていないのだけれど、恐怖はどんどん強くなる。
「あっ、拓馬が来たみたい。はーい」
「樹理、今日は何かこないだの作家の奴が来てるとかって」
「みんなと一緒に来てるよ。あとは拓馬だけ。ほら、挨拶して。レイ君、ソルが来たよ」
作家の奴を探して動いていたその目とがっちり俺の視線がぶつかって、次の瞬間には「あ」と2人の声が重なっていた。ソルさんと呼ばれたその人は、つい先日まで吊り札付けの仕事でお世話になっていた塩見さんだったのだ。
「あれあれ、これはバネ君に引き続きまーた顔見知りパターン?」
「ついこないだまでうちの会社にバイトで来てた学生だ」
「お世話になってました」
……と、あの時にしていた話をいろいろ思い返してみる。休みの日にはバンドの練習かツミツミ。大石曰くツミツミで塩見さんには勝てない。インドア。そしてなっちから教えてもらったツミツミ動画の主は、あれからさらにスコアを伸ばしていた。
「そら勝てねーわな!」
「ん? どうした朝霞」
「あ、いや、大石がですね、ツミツミで塩見さんに勝てないって言ってたんですけど、塩見さんがあのソルさんだったらそら勝てんわな、と」
「千景は千景でマイツミをスコアやスキルじゃなくてかわいさで選んでるクセにあのスコアは十分キチってるけどな」
「レイ君、拓馬のツミツミ動画見てたの?」
「あっはい、この人がスゴいんだって友達に教えてもらって。ちなみに教えてもらったのは塩見さんの車の中だったんですけど」
「あの時はマジで冷や冷やした。菜月がいきなりSDXソルのツミツミとか言いやがるしな。何にせよ、こないだやったTRPGのGMはお前だったんだな」
「お粗末様でした」
「ところで、レイ君てこれからUSDXでゲームの方もやっていく?」
「マインクラフトは買いました」
無事に(?)顔合わせが済んだところで、これから始まるのは次の企画の打ち合わせ。菅野がシステムを構築してくれた“ポイントファイブ”だ。何か、気がついたら随分ずぶずぶになってるけど……まあいっか!
「あ、初心者なんだね」
「しかもゲームセンスの欠片も感じないド下手くそだ」
「言うなあリン」
「そこでオレは考えたのだが、朝霞の育成自体を企画動画にすればいいのではないかと。初心者に教えると銘打って」
「いいね。やろうか。指導はバネ教官にお願いしようかな」
「HoIやCiv等の戦略ゲームは得意そうだから、その辺は任せるぞ」
end.
++++
同じパターンを何度も繰り返すのが好き。USDXがとうとう6人揃いました。
と言うか、菜月さんがソルさんのツミツミ動画を紹介してた時、塩見さんでも冷や冷やはしてたんですね
ゲームセンスの欠片も感じないド下手くそwww まあ、事実だししょうがないね
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