2018(04)
■習熟度と個人レッスン
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ゼミ合宿2日目。午前のワークショップを終えて、午後からは自由時間。夜は卒論発表会が始まるから、実質的に長々と遊べる最後の時間になる。セミナーハウスと併設してるスキー場で遊ぶ人が半分、洋館に引きこもってる人が半分ってトコかな。セミナーハウスの中にはカラオケやビリヤード場もあるし、遊ぶ分にも困らないからね。
スキー組のアタシは、黄色のウエアに袖を通してやる気マンマン。1年生の子たちが颯爽とリフトの方に向かっていったのを見て元気だねえ、なんて感心したり。でも、引きこもり組から見ればスキーをする人はみんな若くて元気。寒い中外で遊ぼうなんて気にはなかなかならないみたいだから。
「パパ早くー!」
「わっ、ちょっ、娘まっ、待ってえ」
「わはは。ひらっちゃんへっぴり腰だねえ」
「あんまやったことないでね。つか小田ちゃん上手すぎじゃね?」
「中学までは毎シーズン授業でやってたからね」
「はえー、エリアが違えば文化も違うんやなあ」
小田ちゃんが意外にスキー上手でびっくりしている2年組。でも小田ちゃん今も現役で運動部だし、体を動かすこと自体嫌いじゃないのかも。このスポーツエリート大学の緑大で、いくら大学から始める人の多いアーチェリーと言ってもサークルじゃなくて運動部に属してるっていうのがね。
雪の少ない向島エリアではあまりスキーをやらない人も多いし、アタシもその口。パパこと店長も経験は少ないし、アタシは運動能力だけで何とかしてるっていう感じ。うーん、でもちゃんと基本は抑えとかないと今後は危ないかもねえ。小田ちゃんに教えてもらおうかなあ。
「ひー、小田ぢゃんまっでえええ」
「待ってるからね。ゆっくりでいいよひらっちゃん」
「小田ちゃん優しい」
「って言うか平日だから人も少ないし、のんびりしてても邪魔にならなさそうなのがいいね。3年生以上はあんまり外に出ないし」
「ホントに」
「千葉さん、いきなり頂上には行かないでしょさすがに」
「行かない行かない! まずは慣らすよ! アタシ初心者だからね」
「千葉さん運動神経いいから何でも出来そうだけどね」
「うん。スポーツ全般得意だけど、コツを掴ませて最初は」
店長がよちよち歩きでアタシと小田ちゃんに追いつこうとする中、人がまばらなゲレンデに綺麗な弧を描きながら滑り降りてくる黒い点が。頂上から来てるみたいだけど、すごい角度だよね傾斜が。やっぱ最初からあそこは無理そうだなー。
「ひー、やっと追いついた」
「よーし。パパも追いついたし小田ちゃん行きましょー!」
「そうだね。でも今行くとあのめっちゃ上手い人の邪魔になるだろうからあの人をやり過ごしてからにしよう」
「あー、頂上から来てるあの人だね」
「うん。凄く上手い。……あれっ、何かこっちに近付いてきてる」
「ホントだ」
その人はザッと雪を掻きながらアタシたちのすぐ側で止まった。あれっ、これアタシたちどうしたらいいのかな。やり過ごそうと思ってたけど。
「ふう。あっ、果林先輩。今からですか?」
「あれっ、タカちゃん。もしかして、今頂上から来てた?」
「はい。まずは慣らしで」
「ええー……慣らしで頂上からはなかなか行かないよ。高木君、上手だねえ」
「いえ、それほどでも」
確かにスキーだけは得意だと言ってたけど、まさかここまで上手いとは思わなかった。滑りに迷いがないし、ブレもない。スピードに乗ってホントすいすい滑ってたから。でも何でこんな中腹で1回止まったんだろ。
「タカちゃん、下まで行かないの?」
「お昼はこの下の小屋で食べることにしたんですけど、財布を忘れたことを思い出しまして。とりあえず1000円くらい取って来ないとーと思って」
「なるほど納得」
「先輩たちは滑らないんですか?」
「アタシたちは初心者集団だからね、今からだよ。小田ちゃん先生に教わろうかなーって勝手に思ってるけど」
「ああ、小田先輩はスキーが上手なんですね。俺も教わりたいです」
「いやいやいやいや、俺が高木君に教えられることなんてひとつもないよ! えっ、そこまで上手いとか雪国出身?」
「紅社なので、雪国ではないですね。毎年スキーに行ってるだけで」
「雪国じゃないのにそれって逆にガチ勢ってことなんだね。あっ千葉さん、俺思ったんだけどさ」
「はい」
「多分千葉さんとひらっちゃんじゃ初期レベルが違いすぎるから、千葉さんは高木君に軽く教えてもらった方が早いと思うよ。ひらっちゃんを今の千葉さんのレベルに持ってくのも多分大変だし」
板を履いてよちよち歩きの店長と、タカちゃんの顔を見比べる。アタシは現時点でも簡単に滑れるし、今更右ー、左ーとかっていう本当の初心者講習はいいかなって思う。それならタカちゃんにもう少しコツとかを教えてもらって2年組に再合流するのはどうだろうか。うん、それでいこう。
「そしたらアタシはタカちゃん先生に教えてもらって、補助なしで滑れるようになったら再合流するよ。タカちゃんお願いしまーす」
「あ、はい。教えるのは初めてですけど大丈夫ですか」
「大丈夫でーす。パパ、滑れるように頑張ってね」
「よーし、娘にいいトコ見せるでね!」
一旦小田ちゃんと店長と別れ、アタシはタカちゃんからの個人レッスンを。とりあえずはリフト乗り場のある一番下まで下ること。どうやって滑るんだったかな。それーっ。
end.
++++
○年前にスノープリンスの話をやったかと思うんですが、多分それ以来になるんじゃないかな、スキー回。
スキーはどこに住んでいるかによって経験に大きく差が出ると思うんですよね。学校でやるやらないの差が。
でも果林は多分ちょっとコツを聞いたら何となくできるようになるくらいの運動神経だと思うの
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ゼミ合宿2日目。午前のワークショップを終えて、午後からは自由時間。夜は卒論発表会が始まるから、実質的に長々と遊べる最後の時間になる。セミナーハウスと併設してるスキー場で遊ぶ人が半分、洋館に引きこもってる人が半分ってトコかな。セミナーハウスの中にはカラオケやビリヤード場もあるし、遊ぶ分にも困らないからね。
スキー組のアタシは、黄色のウエアに袖を通してやる気マンマン。1年生の子たちが颯爽とリフトの方に向かっていったのを見て元気だねえ、なんて感心したり。でも、引きこもり組から見ればスキーをする人はみんな若くて元気。寒い中外で遊ぼうなんて気にはなかなかならないみたいだから。
「パパ早くー!」
「わっ、ちょっ、娘まっ、待ってえ」
「わはは。ひらっちゃんへっぴり腰だねえ」
「あんまやったことないでね。つか小田ちゃん上手すぎじゃね?」
「中学までは毎シーズン授業でやってたからね」
「はえー、エリアが違えば文化も違うんやなあ」
小田ちゃんが意外にスキー上手でびっくりしている2年組。でも小田ちゃん今も現役で運動部だし、体を動かすこと自体嫌いじゃないのかも。このスポーツエリート大学の緑大で、いくら大学から始める人の多いアーチェリーと言ってもサークルじゃなくて運動部に属してるっていうのがね。
雪の少ない向島エリアではあまりスキーをやらない人も多いし、アタシもその口。パパこと店長も経験は少ないし、アタシは運動能力だけで何とかしてるっていう感じ。うーん、でもちゃんと基本は抑えとかないと今後は危ないかもねえ。小田ちゃんに教えてもらおうかなあ。
「ひー、小田ぢゃんまっでえええ」
「待ってるからね。ゆっくりでいいよひらっちゃん」
「小田ちゃん優しい」
「って言うか平日だから人も少ないし、のんびりしてても邪魔にならなさそうなのがいいね。3年生以上はあんまり外に出ないし」
「ホントに」
「千葉さん、いきなり頂上には行かないでしょさすがに」
「行かない行かない! まずは慣らすよ! アタシ初心者だからね」
「千葉さん運動神経いいから何でも出来そうだけどね」
「うん。スポーツ全般得意だけど、コツを掴ませて最初は」
店長がよちよち歩きでアタシと小田ちゃんに追いつこうとする中、人がまばらなゲレンデに綺麗な弧を描きながら滑り降りてくる黒い点が。頂上から来てるみたいだけど、すごい角度だよね傾斜が。やっぱ最初からあそこは無理そうだなー。
「ひー、やっと追いついた」
「よーし。パパも追いついたし小田ちゃん行きましょー!」
「そうだね。でも今行くとあのめっちゃ上手い人の邪魔になるだろうからあの人をやり過ごしてからにしよう」
「あー、頂上から来てるあの人だね」
「うん。凄く上手い。……あれっ、何かこっちに近付いてきてる」
「ホントだ」
その人はザッと雪を掻きながらアタシたちのすぐ側で止まった。あれっ、これアタシたちどうしたらいいのかな。やり過ごそうと思ってたけど。
「ふう。あっ、果林先輩。今からですか?」
「あれっ、タカちゃん。もしかして、今頂上から来てた?」
「はい。まずは慣らしで」
「ええー……慣らしで頂上からはなかなか行かないよ。高木君、上手だねえ」
「いえ、それほどでも」
確かにスキーだけは得意だと言ってたけど、まさかここまで上手いとは思わなかった。滑りに迷いがないし、ブレもない。スピードに乗ってホントすいすい滑ってたから。でも何でこんな中腹で1回止まったんだろ。
「タカちゃん、下まで行かないの?」
「お昼はこの下の小屋で食べることにしたんですけど、財布を忘れたことを思い出しまして。とりあえず1000円くらい取って来ないとーと思って」
「なるほど納得」
「先輩たちは滑らないんですか?」
「アタシたちは初心者集団だからね、今からだよ。小田ちゃん先生に教わろうかなーって勝手に思ってるけど」
「ああ、小田先輩はスキーが上手なんですね。俺も教わりたいです」
「いやいやいやいや、俺が高木君に教えられることなんてひとつもないよ! えっ、そこまで上手いとか雪国出身?」
「紅社なので、雪国ではないですね。毎年スキーに行ってるだけで」
「雪国じゃないのにそれって逆にガチ勢ってことなんだね。あっ千葉さん、俺思ったんだけどさ」
「はい」
「多分千葉さんとひらっちゃんじゃ初期レベルが違いすぎるから、千葉さんは高木君に軽く教えてもらった方が早いと思うよ。ひらっちゃんを今の千葉さんのレベルに持ってくのも多分大変だし」
板を履いてよちよち歩きの店長と、タカちゃんの顔を見比べる。アタシは現時点でも簡単に滑れるし、今更右ー、左ーとかっていう本当の初心者講習はいいかなって思う。それならタカちゃんにもう少しコツとかを教えてもらって2年組に再合流するのはどうだろうか。うん、それでいこう。
「そしたらアタシはタカちゃん先生に教えてもらって、補助なしで滑れるようになったら再合流するよ。タカちゃんお願いしまーす」
「あ、はい。教えるのは初めてですけど大丈夫ですか」
「大丈夫でーす。パパ、滑れるように頑張ってね」
「よーし、娘にいいトコ見せるでね!」
一旦小田ちゃんと店長と別れ、アタシはタカちゃんからの個人レッスンを。とりあえずはリフト乗り場のある一番下まで下ること。どうやって滑るんだったかな。それーっ。
end.
++++
○年前にスノープリンスの話をやったかと思うんですが、多分それ以来になるんじゃないかな、スキー回。
スキーはどこに住んでいるかによって経験に大きく差が出ると思うんですよね。学校でやるやらないの差が。
でも果林は多分ちょっとコツを聞いたら何となくできるようになるくらいの運動神経だと思うの
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