2017(02)

■趣味の日曜

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「ぅあーっつー……スガー、まだやんのー?」
「もう少しやる気だった」
「マジかよ! 休憩挟もうよー、疲れたよ、暑いよ、喉渇いたよー」
「仕方ないな」
「やったー!」

 夏の丸の池ステージまで1ヶ月を切っている。テスト期間もあるから準備期間は実質残り3週ほど。現時点で日曜日などもないに等しく、時間のとれる者は班を問わず思い思いに練習を始めている。
 俺、菅野泰稚が班長を務める菅野(すがの)班も例外になく。ただ、今日は日曜日だし正式な練習日には当てていない。休むときは休まないと、暑さもあるし体を壊してもいけない。俺とディレクターのカン、菅野太一が出てきているのは趣味も半分。
 端から見るとまるでステージの練習には見えない出で立ちの俺とカンだ。俺が手にしているのはタンバリンとカホン、カンは鍵盤ハーモニカとミニアコーディオン。路上ライブでもするのかという出で立ちだけど、菅野班の武器は音だ。

「あれ~、楽しそうな音がしてたと思ったら。やっぱりスガノ君とカンノ君だ~」
「洋平。お前も来てたのか」
「もちろ~ん。朝霞クンに日曜日なんてありませ~ん」

 俺とカンが鳴らしていた音に誘われるように、ふらりと洋平が顔を出す。流刑地と呼ばれ、はみ出し者が揃う朝霞班。その中にありながら実力は部内でも指折りのエースアナウンサーだ。朝霞班でなければというタラレバは各方面から聞かされている。

「とは言え、朝霞の台本なんて永遠に未完成状態だろ。大丈夫なのか」
「大丈夫大丈夫~。朝霞クン本人も“決定稿”のつもりで書いてないし~、俺はステージスターだから平気~」
「それでお前や戸田にかかる負担が増大してるってわかっていながらあんなやり方してんのがな。人数いないからしょうがないとは言え、休みもしないで手ばっか動かしてるから頭が回らないし視野も狭くなってるんじゃないか」
「スガノ君、朝霞クンの心配してくれてありがとね」
「朝霞の心配じゃない」

 朝霞はプロデューサーとして非凡だと思う。だけど、班の人数が少ないとは言え過度な負担を班員にもかけて、無理に自分と心中させようとしている風に見えるのが気になるだけだ。
 それと、人数が少ない故かもしれないが、台本があまりにも独自の進化を遂げすぎていて、班員でなければ宇部に代表されるよほど出来る奴にしか読み解くことが出来ないのも問題だと思う。
 結果として出来上がるステージはいいと思う。本も、MCも、Dの動きも。だけど、それを構築するコードのようなものが読めなければ後々それを紐解くことも出来ないし、無駄に終わってしまう。その瞬間はいいかもしれないが、後々の為にならない。

「ホント、スガノ君て“見えてる”よね」
「すげーだろ洋平、ウチのPだぞ!」
「あ、そうだ。話は変わるけど、今度星羅がカレー作るって言ってたから洋平も食べに来るといい」
「えっ、星羅ちゃんのカレー!? 楽しみ~、行く行く~!」
「えっ! スガ、俺は!? 誘われてねーんだけど!」
「言ってなかったか」
「聞いてねーし!」

 自分だけ除け者にされたとカンはわあわあ喚くけど、練習や何かで一緒にいる時間が長いから言ったものだと思っていた。あまり会わない方が、話さなければならないことも思い起こされるのだ。

「いいなあスガノ君、星羅ちゃんとラブラブだねえ」
「ホント、いいよな~スガ、お前ンとこは長続きしてて」
「あれ。カン、お前確か宇部班の1年と付き合ってなかったか」
「別れました~、戸田が部内恋愛を嫌がるからとかいうワケのわかんねー理由で捨てられました~!」
「えっ、何でそこでつばちゃん」
「知らねーよそれもこれも全部朝霞の所為だ!」

 カンの身に起きていたことも知らないまま、ステージのことばかりに向かってしまっていたのは俺も同じだったか。仕方ない。ここからは心身ともに余裕を取り戻して行かなくては。もちろん、練習日にはしっかりやるけれども。


end.


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今年から出てきたスガPとカンDが主となる話が出て来るにしてもこんなに早いとは思わなかったヤツ。
スガPの朝霞Pに対する見方がちょっと厳しめかな? 幹部寄りの班だしまあそんなモンなのかなあとは思うけど、好きとか嫌いでそういう見方をしてるとかではなさそう。
冒頭で暑いよー疲れたよーってわあわあ言ってるカンDがかわいい。……カンDが付き合ってたっていう宇部班の1年生とはまさか

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