2018(04)

■完璧な友人

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「いらっしゃいま――……あっ、朝霞クン」
「よう。普通に飯を食いに来た。生と5種盛り」
「はーいただ今」

 ここのところはレポートや卒論、それからUSDX関係のシナリオにと忙しくしていたから、1人で外に出るのもご無沙汰だった。就活関係の調べ物なんかもちょいちょいやってたし。少しずつセミナーなんかにも行き始めて、我ながら将来に向かってんなあと思う。
 いろいろなことに区切りがついてきて、ふとここの存在を思い出した。最近食ってないなって。そう思ってからは早かった。飲み屋だけど、飲む以外にも普通に飯を食いに来ることも多々ある。居心地がいいし、周りの空気が間接的に急かしてくるでもない。ゆったり出来る空間だ。

「生と5種盛りです」
「サンキュ」
「朝霞クン、最近どう?」
「書き物とバイトの繰り返しって感じだな」
「ああ~、朝霞クンぽい」

 よほど素性がバレても支障がないならともかく、ネット上でのことをオフで喋るのも、オフのことをネット上で喋るのもよろしくないことだという風にリン君から教えを受けた。ネット上でのことはそれとなく濁しながら、現状に色を付けていく。
 尤も、俺はまだUSDXの正式なメンバーではなくただのシナリオライター兼GMに過ぎないから、素性が洩れたところでどうなんだという気もするけど。いや、俺経由でUSDXメンバーのことが洩れてもいけないのか。そう考えると正規メンバーどうこうの話でもないんだな、反省。
 山口が相手だと“書き物”というだけで本当に各種書き物だという風に解釈してくれるのがとても楽だ。書いている物の中身に突っ込んでくることがないという点で。突っ込んだところで何がどうなるワケでもないし、俺がいろいろな原稿を並行していることも知っているからだろう。

「書き物続きなら糖分を体が欲するよね。朝霞クン、今度一緒にクリームブリュレ食べに行かない?」
「おっ、いいな。いつにする? 俺は明日と金曜の午後以外なら空いてるけど」
「えっと、俺の都合で14日しかないんだけど大丈夫かな、木曜日なんだけど」
「木曜なら大丈夫だ。時間や待ち合わせはお前に任せていいか?」
「うん、そうだね。また連絡するよ。店のサイト見て確認したいこともあるし」

 俺は甘党だけど山口が特別甘い物が好きだった覚えもないから、わざわざ食べに行こうと誘ってくるからには相当美味いのだろう。それか、自惚れるとするなら美味いブリュレの情報を得たから俺に教えてやろうとかそんなようなことかな。うーん、我ながら自惚れが過ぎる。
 物書きをしているときの部屋の状態を誰よりも知ってるのは山口だろうし、体が何を求めているのかを知っているのもまた山口だ。俺が書き物続きなことを知ったのは今だったにしても、甘い物を食いに行こうって誘ってくれるのはありがたい。とりあえず、あと3日執筆頑張る。

「今って何のバイトしてるの? こないだまでは吊り札付けって言ってたじゃんね」
「吊り札付けが終わったから、今はまた派遣でいろいろだな。スーパーのマネキンとか駅でのティッシュ配りとか。寒い仕事が多いのがしんどい」
「大変だね」
「あと、結婚式の仕事もあるかな。料理食った後の皿を下げる仕事。そういう系はもうやりたくないっつったのに入れて来やがる」
「それって断らない朝霞クンが悪いんじゃないの? もうステージのためにっていろんなところを歩き回る必要もないんだし」
「つい習性で。最近気付いたんだけど、ステージを抜きにしても多分俺って好奇心の塊なんだよ」
「あれっ、知らなかったの」
「お前は知ってたのか」
「出会った頃から知ってたけど」

 バイトは生活のために必要だから、来た仕事は極力断らないようにしている。派遣だと、あれはイヤこれはイヤって言い続けてたら仕事自体が回ってこなくなるから。今まではステージのためにいろいろ知見を得たくて歩き回ってたけど、今はステージを抜きにしてもいろいろ見て歩きたいと思っている。
 ベティさんのお店に行くようになったとか、リン君に誘われてパソコンのゲームを買い揃えたというのもある。何気にちょっとした出費が重なってたりもするから、働ける時に働いておかないと。せっかく春休みで時間がたくさんあるんだから。昼はバイト夜は書き物とかにも出来るワケだし。授業がないって素晴らしい。

「朝霞クンは俺の知らない俺のこと、何か知ってる?」
「えー……ジョハリの窓みたいなことだろー…? 何かあるかなー……悪い、ちょっと思いつかない」
「あ~あ、残念。でも嫌われてはないよね?」
「安心しろ、むしろお前のことは好きだ」
「言ってもさ、人間大好き朝霞クンってよっぽどのコトがない限り人を嫌いにならないし、関わりある人みんな好きでしょ?」
「まあ、それも否定しないけど、お前に対してはちょっとワガママ言っていいかなって思う程度の“好き”だぞ。いるのが当たり前的な」
「やった、泊まりも行ったし親密度B+くらいにまでは上がったかな?」
「つかそのランク付けもう要らなくないか?」
「いや~、朝霞クンまたいつ俺のこと顔見知りって言い出すかわかんないし。次に何か熱中すること見つけちゃったら俺のコトなんて忘れちゃうから、忘れられないくらい完璧な友人でありたいじゃない」
「なんだそれ」
「ちょっと、笑わないでよ元凶が!」

 完璧な友人って何だとは思うけど、どうせ付き合うならお互い気持ちよくっていうようなことなのだろうか。
 山口くらい周りが見えて人に対する気配りも出来る奴は日頃から気苦労が耐えないんだろうなと思う。俺は自分の思うままに突き進んできただけだから、その辺の苦労はあまりない。だけど俺もそろそろ人のことを思いやった付き合い方を覚えて行かなきゃいけないんだろうなあ、大人になるとするなら。


end.


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ちょこちょこ言ってるバレンタイン洋朝。話には出ててもやったことはなかったんですね
今年度の洋朝ってどういう仕様なのかなあ。これまでは洋平ちゃんの特色が変わってた感じだけど、今年度は朝霞Pもちょっと天然だし
と言うか自分が好奇心の塊であることにやっと気付いたらしい朝霞Pである。遅すぎじゃね?

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