2018(04)
■夢見るイリュジョナー
＋＋＋＋
「たまちゃん、プレッツェルって好き？」
「プレッツェル？ ハートみたいな形したヤツ？」
「うん、それ」
「あれば食べるけど、どうかした？」
「もし良かったら食べない？ 研修先でたくさんもらってさ、主食になるかなと思ったけどなかなか減らなくて」
「うん、いいよ、食べる食べる」
アヤちゃんとゆるゆるオフ会の真っ最中、持ち掛けられたのはプレッツェルを引き取って欲しいという話。あっ、ゆるゆるオフ会というのはいつものようにうちの部屋でゆるゆる～っと作業をしたり動画を見たり、好きなように過ごすことを言います。
まだ正式にスタッフとしては認められていないそうだから“研修先”なんだよね。アヤちゃんが見習いとして修行中なのが星大のパソコン自習室。そこでスタッフのみんなにプレッツェルが大量に配られたらしい。いろいろと変わったセンターなんだってね。
「って言うか、いつもカズさんがケーキ焼いてくれてたりごはん用意してくれてたり、取り置きのおからパウダー売ってくれたりして良くしてもらってるのに私からは全然何もお礼出来てなくない？」
「ああ、いーのいーの。アヤちゃんは気にしないで！ 本人も楽しくてやってるんだし、うちの相手してもらって感謝してるくらいだよ」
「本当にシンプルな塩味のプレッツェルなの、カズさんだったら絶対自分でも作れるでしょ？ 国産の小麦粉から作っちゃうでしょ？」
「カズに夢見過ぎだってアヤちゃん。って言うか言ったら本当にやりかねないから」
「だってカズさん台所に立たせたら完璧じゃない…！ お料理だけじゃなくて掃除や洗濯もお金取れるレベルだよ!?」
カズはアヤちゃんに変な夢を見てるみたいだけど、アヤちゃんもカズに夢を見てるみたいですね。まあ、バランスが取れてるみたいだしこれはこれで面白いので放置でいいか。アヤちゃんがチョップドサラダをノンオイルドレッシングで食べてそうとかいいとこのお嬢さんっぽそうっていう幻想も、そう見えるのは本当だし。
「プレッツェルってさ、嫌いじゃないんだけど水分とられるよね」
「あっ、そうなの。だからこれも」
「えー！ こんな可愛いの、いいの!?」
「いつも良くしてもらってるお礼です！ パッケージは可愛いけど中身は普通の紅茶だからカズさんと一緒に飲んでね」
「ありがとー！ カズにも言っとくねー」
可愛いパッケージの紅茶セットをいただいた。アヤちゃんはオン友だけど実質的にオフの友達みたいな感じになっちゃってるから、うちの好みとか生活必需品とかを完全に把握してますよね。うちとカズが部屋では紅茶を良く飲むことなんかもしーっかりわかられちゃってて。いやあお恥ずかしい。
「あっ、そうだアヤちゃん、今度カズが節分豆の残りをイリュージョンするらしいから、良かったらご飯食べに来て」
「えー！ カズさんのイリュージョンを見せていただけるんですか！」
「節分豆って大豆でしょ？ だからアヤちゃんにもきっと美味しく食べてもらえるんじゃないかーって言って」
「たまちゃん…！ よく出来た旦那さん…！」
「まだ旦那じゃないしどっちかって言うとカズが嫁」
GREENs豆まきで大量に残った節分豆は、これからカズが美味しく調理してくれることになってて、現在レシピを絶賛開発中。如何せん大豆なだけに、体が資本のアヤちゃんにもしっかりとバランスよく食べてもらえて、かつ美容にも良さそうな感じに、とは考えてるみたい。
カズはアヤちゃんをいいとこのお嬢さんだと思ってるから、下手な物は出せないって言っていつも気合を入れてるんだよね。実際のアヤちゃんは節約のためにスーパーで割引シールの貼られたお惣菜を買うこともあるんだけどね。
「って言うか、そのプレッツェルってそんなにいっぱいあるの？」
「うちには10ケース」
「えっ」
「ちなみに１ケース当たり10袋入ってるよ」
「あるねえ」
「何か、ドイツのオーガニックプレッツェルらしいんだけどね」
「出たよオーガニックとか雰囲気オシャレ単語！ まーたカズの見てる夢を拗らせるヤツ！」
「研修先の前バイトリーダーさんの、地元の兄貴分の人が好きで食べようと思って注文しようとしたら、仕事で商品を発注する感覚でついうっかりやっちゃって――とかで前バイトリーダーさん、もといバンドのベースさんの部屋がまずプレッツェルに押し潰されて」
「何か壮絶だねえ」
何か、たまにある「品物の発注数を間違えて大変なことになっているので○○店に行ってあげてください！」みたいなヤツのプレッツェル版ってことね。アヤちゃんの部屋にはまだ８ケースあるので、うちには３ケース程くれることに。うちはサークルでも配れるもんね。
「あれっ、研修先のバイトリーダー変わったの？」
「そうなの！ ピアノの先輩様が新しいバイトリーダーに就任しました！」
「おお～！」
「それでね、先輩様から通告されましたよね」
「何て？」
「研修生を自称するからには機械音痴だろうが帯電体質だろうが改善する努力をした上で成果を出せ、さもなくば即摘まみ出すって～！ ク～ッ、痺れる～！」
「アヤちゃんがんばえー」
アヤちゃんの後ろ盾だったベースさんが勇退して、最大の壁であるピアノさんがリーダーになったことでアヤちゃん的には試練のはずなんだけどね。それすらも楽しむのはさすアヤですわ。
「ところでアヤちゃん、最近地元の先輩さんの話を聞かないけど」
「べっ、別に忘れてないですし！ 見つからないだけなの！」
「これはピアノの先輩様に魂売ったヤツだ」
「売ってません！ 憧れはするけどまだ魂までは売ってません！」
end.
＋＋＋＋
リン様マジリン様。春山さんはいつの間にかバイトリーダーを勇退していたようで、青い腕章はリン様に引き継がれたようです。
さて、慧梨夏宅。カナコが入り浸ることも多々あり、いち氏はその度にカナコのお口に合うものをせっせと作っている様子。まあ、慧梨夏じゃなあ。
慧梨夏卓にプレッツェルが来たということは、逆も然りでいち氏にプレッツェルが渡ったのと同義である。さて、どうなるMBCC。
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「たまちゃん、プレッツェルって好き？」
「プレッツェル？ ハートみたいな形したヤツ？」
「うん、それ」
「あれば食べるけど、どうかした？」
「もし良かったら食べない？ 研修先でたくさんもらってさ、主食になるかなと思ったけどなかなか減らなくて」
「うん、いいよ、食べる食べる」
アヤちゃんとゆるゆるオフ会の真っ最中、持ち掛けられたのはプレッツェルを引き取って欲しいという話。あっ、ゆるゆるオフ会というのはいつものようにうちの部屋でゆるゆる～っと作業をしたり動画を見たり、好きなように過ごすことを言います。
まだ正式にスタッフとしては認められていないそうだから“研修先”なんだよね。アヤちゃんが見習いとして修行中なのが星大のパソコン自習室。そこでスタッフのみんなにプレッツェルが大量に配られたらしい。いろいろと変わったセンターなんだってね。
「って言うか、いつもカズさんがケーキ焼いてくれてたりごはん用意してくれてたり、取り置きのおからパウダー売ってくれたりして良くしてもらってるのに私からは全然何もお礼出来てなくない？」
「ああ、いーのいーの。アヤちゃんは気にしないで！ 本人も楽しくてやってるんだし、うちの相手してもらって感謝してるくらいだよ」
「本当にシンプルな塩味のプレッツェルなの、カズさんだったら絶対自分でも作れるでしょ？ 国産の小麦粉から作っちゃうでしょ？」
「カズに夢見過ぎだってアヤちゃん。って言うか言ったら本当にやりかねないから」
「だってカズさん台所に立たせたら完璧じゃない…！ お料理だけじゃなくて掃除や洗濯もお金取れるレベルだよ!?」
カズはアヤちゃんに変な夢を見てるみたいだけど、アヤちゃんもカズに夢を見てるみたいですね。まあ、バランスが取れてるみたいだしこれはこれで面白いので放置でいいか。アヤちゃんがチョップドサラダをノンオイルドレッシングで食べてそうとかいいとこのお嬢さんっぽそうっていう幻想も、そう見えるのは本当だし。
「プレッツェルってさ、嫌いじゃないんだけど水分とられるよね」
「あっ、そうなの。だからこれも」
「えー！ こんな可愛いの、いいの!?」
「いつも良くしてもらってるお礼です！ パッケージは可愛いけど中身は普通の紅茶だからカズさんと一緒に飲んでね」
「ありがとー！ カズにも言っとくねー」
可愛いパッケージの紅茶セットをいただいた。アヤちゃんはオン友だけど実質的にオフの友達みたいな感じになっちゃってるから、うちの好みとか生活必需品とかを完全に把握してますよね。うちとカズが部屋では紅茶を良く飲むことなんかもしーっかりわかられちゃってて。いやあお恥ずかしい。
「あっ、そうだアヤちゃん、今度カズが節分豆の残りをイリュージョンするらしいから、良かったらご飯食べに来て」
「えー！ カズさんのイリュージョンを見せていただけるんですか！」
「節分豆って大豆でしょ？ だからアヤちゃんにもきっと美味しく食べてもらえるんじゃないかーって言って」
「たまちゃん…！ よく出来た旦那さん…！」
「まだ旦那じゃないしどっちかって言うとカズが嫁」
GREENs豆まきで大量に残った節分豆は、これからカズが美味しく調理してくれることになってて、現在レシピを絶賛開発中。如何せん大豆なだけに、体が資本のアヤちゃんにもしっかりとバランスよく食べてもらえて、かつ美容にも良さそうな感じに、とは考えてるみたい。
カズはアヤちゃんをいいとこのお嬢さんだと思ってるから、下手な物は出せないって言っていつも気合を入れてるんだよね。実際のアヤちゃんは節約のためにスーパーで割引シールの貼られたお惣菜を買うこともあるんだけどね。
「って言うか、そのプレッツェルってそんなにいっぱいあるの？」
「うちには10ケース」
「えっ」
「ちなみに１ケース当たり10袋入ってるよ」
「あるねえ」
「何か、ドイツのオーガニックプレッツェルらしいんだけどね」
「出たよオーガニックとか雰囲気オシャレ単語！ まーたカズの見てる夢を拗らせるヤツ！」
「研修先の前バイトリーダーさんの、地元の兄貴分の人が好きで食べようと思って注文しようとしたら、仕事で商品を発注する感覚でついうっかりやっちゃって――とかで前バイトリーダーさん、もといバンドのベースさんの部屋がまずプレッツェルに押し潰されて」
「何か壮絶だねえ」
何か、たまにある「品物の発注数を間違えて大変なことになっているので○○店に行ってあげてください！」みたいなヤツのプレッツェル版ってことね。アヤちゃんの部屋にはまだ８ケースあるので、うちには３ケース程くれることに。うちはサークルでも配れるもんね。
「あれっ、研修先のバイトリーダー変わったの？」
「そうなの！ ピアノの先輩様が新しいバイトリーダーに就任しました！」
「おお～！」
「それでね、先輩様から通告されましたよね」
「何て？」
「研修生を自称するからには機械音痴だろうが帯電体質だろうが改善する努力をした上で成果を出せ、さもなくば即摘まみ出すって～！ ク～ッ、痺れる～！」
「アヤちゃんがんばえー」
アヤちゃんの後ろ盾だったベースさんが勇退して、最大の壁であるピアノさんがリーダーになったことでアヤちゃん的には試練のはずなんだけどね。それすらも楽しむのはさすアヤですわ。
「ところでアヤちゃん、最近地元の先輩さんの話を聞かないけど」
「べっ、別に忘れてないですし！ 見つからないだけなの！」
「これはピアノの先輩様に魂売ったヤツだ」
「売ってません！ 憧れはするけどまだ魂までは売ってません！」
end.
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リン様マジリン様。春山さんはいつの間にかバイトリーダーを勇退していたようで、青い腕章はリン様に引き継がれたようです。
さて、慧梨夏宅。カナコが入り浸ることも多々あり、いち氏はその度にカナコのお口に合うものをせっせと作っている様子。まあ、慧梨夏じゃなあ。
慧梨夏卓にプレッツェルが来たということは、逆も然りでいち氏にプレッツェルが渡ったのと同義である。さて、どうなるMBCC。
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