2018(04)
■鬼と仏とアメとムチ
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「……1・2年は全員そこに」
怒り心頭と言った様子で、サトシは鬼のお面を外しながら1年生と2年生をステージの上に正座させた。小学校の体育館には一面ブルーシートが敷かれていて、その上には無数の豆が散らばっている。
今日はGREENsの豆まき大会。範囲はブルーシートの中で、ひたすら鬼に豆をぶつけるという大会。毎年その規模は大きくなっていて、今年は豊葦市指定のゴミ袋(小)一杯分の豆をかき集めてやってたよね。
「鬼に思い切り豆をぶつけるのはまあいいだろう。そういう行事だ。だが、面を付ける前の生身の人間の、それも頭部を狙うのは人道に反すると思わないか」
「ごめんなさーい」
「すんませんっした」
今年の鬼はサトシに決まった。毎年鬼の決め方で一悶着起こるんだけど、今年も例に漏れずうんたらもにゃもにゃとしてたら早く豆をまきたくてうずうずしてたさっちゃんがサトシの上に袋一杯の豆をバサーッとひっくり返して浴びせたんだよね。
それでサトシが鬼に指名された瞬間、1・2年生はここぞとばかりに床に流れ散った豆を拾ってサトシにぶつけ始めた。この時点で鬼のお面はうちが持ってたから、慌ててサトシにパスしたよね。鬼のお面は鬼というラベルの役割もあるけど、防具としての役割の方がとても大きい。
お面をする前から思い切り豆をぶつけられたことにサトシは怒っているようだった。まあ、普通は怒るよね。だけど、1・2年生がここまではしゃぐのも何となくわかるんだよね。だって、サトシが行事の中心にいることは珍しいし、豆をぶつける機会なんて今後絶対ないから。
「サトシさん、豆まきの豆には魔を滅するっていう意味があるんですよ! 豆で魔滅!」
「今日のこの豆まきだけを見ていても、一番の魔で鬼はお前だけどな」
「えー!? 三浦のどこが魔で鬼なんですかー! 鵠沼クン! 何とか言ってよ! 三浦は鬼じゃないと!」
「……いや、お前は普段から十分鬼だろ」
「えー! どこが!」
「こないだのテスト期間にプリントとノートよこせっつって人を絞め上げてきた奴を鬼じゃないと言えるほど俺は聖人じゃないじゃん?」
「それはほら~、テスト期間という特殊な状況がさせたことじゃないですか~」
「とにかく! 人に物を投げつける以上、首より上は狙わないこと。大学生の活動なんだから、それくらいしっかり考えろ。以上!」
は~い、と返事をして、みんな反省した様子。正座も解かれたけど、鬼もとい新キャップからの最初のお叱りが響いているのか、どこかみんなしょんぼりしてるみたい。魔を滅するどころか、別の物が居候しに来たみたい。
反省も大事だけど、最後にはやっぱり笑って楽しかったねって言って終わりたい。それで、借りた場所はしっかりと片付けて。サトシがみんなを叱ってくれたなら、叱られてしょんぼりしてるみんなを持ち上げてあげる役割も必要だ。
「さあさあみんな、そんなにしょんぼりしてないで! 恵方巻もあるから食べよう!」
「すごーい! おっきな海苔巻き!」
「慧梨夏サンこれどーしたんすか? 買って来たんすかわざわざ」
「カズが作ってくれたよね」
「余計わざわざだった!」
「さ、恵方を調べるよ。今年の恵方は東北東~、の、やや東! 輝かしい未来はこっちだ!」
みんなにカズお手製の恵方巻を配って、東北東のやや東の方角を向かせる。無言でもぐもぐ食べるとのどに詰まらせやすいから、お茶もしっかり用意して。何か、イベントの幹事だとちゃんと段取り出来るのに、家だと何で出来ないんだろうね。不思議だね。
「では、いただきます!」
「いただきまーす」
もぐもぐと、みんな恵方巻を食べ進めてる。ただ、時々声が漏れたり噎せたりしてる子がいるよね。そんな中、むぐむぐ声を漏らすでもなく噎せたりするでもなく淡々と食べ進めているのがサトシ。サトシには黙って食べ進めるなんていつも通りだからなんてことないのか。
「ごちそうさまでした」
「キャップ、お願い事は何だった?」
「GREENsの繁栄と安全祈願だ」
「すっごーい、まとも」
「一応この場で願うことなら、立場もあるしこれだろう」
「エライねー。うち普通に家内安全と今年はサトシに勝てますようにってお願いしてたよ」
「家内安全はともかく、後者に関しては俺も負ける気はないと言っておく」
「あらそう。それじゃあ片付けたらさっそく一戦やる?」
「いいだろう」
ブルーシートの上にはまだまだ豆が散らかったまま。一足先に恵方巻を食べ終えたうちとサトシはシートの上の豆を集めて袋の中に戻していく。恵方巻の後で歳の数だけみんなで豆を食べて、残った分はカズが有効活用してくれる予定。
今年のGREENsも安全に、かつ楽しくやっていけるように。うちらは4年生に進級したらどれだけ来れるかわからないけど、イベントは興せるだけ興したいしコート上でもまだまだ若い子には負けないぞってところを見せていきたい。
「しかし、恵方巻が年々豪勢になっている気がするが、アイツはどこを目指してるんだ?」
「あのねー、カズは最早台所に住まう神様なのよ」
end.
++++
真正GREENsのサトシと慧梨夏のポジションがどこかで見たなと思ったら、MBCCのそれと酷似していた件。そうか、慧梨夏はいち氏ポジか。
ゆーて高校の生徒会時代も副会長として高崎の有能な右腕だったので、慧梨夏も慧梨夏で最強のナンバーツーではあったのね
忘れかけてたんだけど、慧梨夏とサトシは同じスリーポイントシューターとしてのライバル関係でもありましたね
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「……1・2年は全員そこに」
怒り心頭と言った様子で、サトシは鬼のお面を外しながら1年生と2年生をステージの上に正座させた。小学校の体育館には一面ブルーシートが敷かれていて、その上には無数の豆が散らばっている。
今日はGREENsの豆まき大会。範囲はブルーシートの中で、ひたすら鬼に豆をぶつけるという大会。毎年その規模は大きくなっていて、今年は豊葦市指定のゴミ袋(小)一杯分の豆をかき集めてやってたよね。
「鬼に思い切り豆をぶつけるのはまあいいだろう。そういう行事だ。だが、面を付ける前の生身の人間の、それも頭部を狙うのは人道に反すると思わないか」
「ごめんなさーい」
「すんませんっした」
今年の鬼はサトシに決まった。毎年鬼の決め方で一悶着起こるんだけど、今年も例に漏れずうんたらもにゃもにゃとしてたら早く豆をまきたくてうずうずしてたさっちゃんがサトシの上に袋一杯の豆をバサーッとひっくり返して浴びせたんだよね。
それでサトシが鬼に指名された瞬間、1・2年生はここぞとばかりに床に流れ散った豆を拾ってサトシにぶつけ始めた。この時点で鬼のお面はうちが持ってたから、慌ててサトシにパスしたよね。鬼のお面は鬼というラベルの役割もあるけど、防具としての役割の方がとても大きい。
お面をする前から思い切り豆をぶつけられたことにサトシは怒っているようだった。まあ、普通は怒るよね。だけど、1・2年生がここまではしゃぐのも何となくわかるんだよね。だって、サトシが行事の中心にいることは珍しいし、豆をぶつける機会なんて今後絶対ないから。
「サトシさん、豆まきの豆には魔を滅するっていう意味があるんですよ! 豆で魔滅!」
「今日のこの豆まきだけを見ていても、一番の魔で鬼はお前だけどな」
「えー!? 三浦のどこが魔で鬼なんですかー! 鵠沼クン! 何とか言ってよ! 三浦は鬼じゃないと!」
「……いや、お前は普段から十分鬼だろ」
「えー! どこが!」
「こないだのテスト期間にプリントとノートよこせっつって人を絞め上げてきた奴を鬼じゃないと言えるほど俺は聖人じゃないじゃん?」
「それはほら~、テスト期間という特殊な状況がさせたことじゃないですか~」
「とにかく! 人に物を投げつける以上、首より上は狙わないこと。大学生の活動なんだから、それくらいしっかり考えろ。以上!」
は~い、と返事をして、みんな反省した様子。正座も解かれたけど、鬼もとい新キャップからの最初のお叱りが響いているのか、どこかみんなしょんぼりしてるみたい。魔を滅するどころか、別の物が居候しに来たみたい。
反省も大事だけど、最後にはやっぱり笑って楽しかったねって言って終わりたい。それで、借りた場所はしっかりと片付けて。サトシがみんなを叱ってくれたなら、叱られてしょんぼりしてるみんなを持ち上げてあげる役割も必要だ。
「さあさあみんな、そんなにしょんぼりしてないで! 恵方巻もあるから食べよう!」
「すごーい! おっきな海苔巻き!」
「慧梨夏サンこれどーしたんすか? 買って来たんすかわざわざ」
「カズが作ってくれたよね」
「余計わざわざだった!」
「さ、恵方を調べるよ。今年の恵方は東北東~、の、やや東! 輝かしい未来はこっちだ!」
みんなにカズお手製の恵方巻を配って、東北東のやや東の方角を向かせる。無言でもぐもぐ食べるとのどに詰まらせやすいから、お茶もしっかり用意して。何か、イベントの幹事だとちゃんと段取り出来るのに、家だと何で出来ないんだろうね。不思議だね。
「では、いただきます!」
「いただきまーす」
もぐもぐと、みんな恵方巻を食べ進めてる。ただ、時々声が漏れたり噎せたりしてる子がいるよね。そんな中、むぐむぐ声を漏らすでもなく噎せたりするでもなく淡々と食べ進めているのがサトシ。サトシには黙って食べ進めるなんていつも通りだからなんてことないのか。
「ごちそうさまでした」
「キャップ、お願い事は何だった?」
「GREENsの繁栄と安全祈願だ」
「すっごーい、まとも」
「一応この場で願うことなら、立場もあるしこれだろう」
「エライねー。うち普通に家内安全と今年はサトシに勝てますようにってお願いしてたよ」
「家内安全はともかく、後者に関しては俺も負ける気はないと言っておく」
「あらそう。それじゃあ片付けたらさっそく一戦やる?」
「いいだろう」
ブルーシートの上にはまだまだ豆が散らかったまま。一足先に恵方巻を食べ終えたうちとサトシはシートの上の豆を集めて袋の中に戻していく。恵方巻の後で歳の数だけみんなで豆を食べて、残った分はカズが有効活用してくれる予定。
今年のGREENsも安全に、かつ楽しくやっていけるように。うちらは4年生に進級したらどれだけ来れるかわからないけど、イベントは興せるだけ興したいしコート上でもまだまだ若い子には負けないぞってところを見せていきたい。
「しかし、恵方巻が年々豪勢になっている気がするが、アイツはどこを目指してるんだ?」
「あのねー、カズは最早台所に住まう神様なのよ」
end.
++++
真正GREENsのサトシと慧梨夏のポジションがどこかで見たなと思ったら、MBCCのそれと酷似していた件。そうか、慧梨夏はいち氏ポジか。
ゆーて高校の生徒会時代も副会長として高崎の有能な右腕だったので、慧梨夏も慧梨夏で最強のナンバーツーではあったのね
忘れかけてたんだけど、慧梨夏とサトシは同じスリーポイントシューターとしてのライバル関係でもありましたね
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