2018(04)

■心当たりと既視感

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 先週でテストが一段落し、今日は予備日となっているがこれで一応春休みになる。ここからはバイト漬けになる奴から実家に帰る奴までいろいろいるだろうから、最低限の人数を集めて今後の予定の確認をするMBCCの特別活動日に設定した。
 とうの昔に代替わりして2年の代になっているが、3年が前に立って仕切らなければならないイベントもある。それが4年生追いコンになる。卒業式の日にある卒コンは2年が幹事を担当するが、追いコンは代々3年が担当する流れらしい。

「4年生追いコンは来月15日の金曜日に設定してある。場所は豊葦市駅前の623(むつみ)で4500円コース。4年の負担はなしだから、2・3年は6000円で。差額はサークル費から捻出する」
「さすが、高ピー先輩の手際が良すぎますよねー」
「この時期はどこも追いコンだからな。さっさと予約しとかねえと入れなくなる」
「1年生は4500円でいいんすか?」
「ああ。1年は額面通りでいい」
「あざっす」

 1年の負担がないのは1年だからというのもあると思うが、4年生から直接世話になる機会が少ないからじゃねえかとも思っている。さほど世話になってねえ奴を追い出すために1500円も余計に金は払いたくないだろう。今の4年生はそれまでのOBと比較して遊びに来なかった方だし。
 2・3年が最悪7人しかいなかったとしても2人分はそれで賄えるし、足りない分はサークル費でと安心して言える。その件に関しては本当に伊東と高木様様としか言えない。女装ミスコン効果で浮いた機材費と、繁盛した焼きそばブースの利益だ。学祭の大黒字が生きて来るのはここからだ。

「まあ、卒コンも焼きそばの利益から少し賄うことになるだろうから、お前ら伊東と高木に足向けて寝るなよ」
「――だってエージ」
「その件では足向けれないかもしれないっすけど、普段のことを考えたら引っ叩くくらいは許して欲しいっす」
「そういやエージ、高木はどうしたんだ? 今日の話をしたら用事があるから来れないっつってたんだけど。お前なら何か知ってるか」
「あー、アイツ今バイト行ってるんすよ」
「バイト!?」

 金がないから部屋の暖房を付けないとかあり得ねえことを言ってる高木がついにバイトを始めたのかと、驚きで変な所から声が出た。正直高木とバイトだとか労働という単語が結び付かなくて、どこでどんなバイトをしているのかと、少し興味が湧いてきた。

「とうとうバイトを始めたのか」
「いや、月末までの短期なんすけど。でもとうとう奴が働くということを覚えたのかと思って、最近は夕飯も豪勢にしてたんす」
「何やってるんだ? アイツのことだし、接客ではねえだろ」
「カバンの吊り札付けっすね」
「朝霞P先輩からの紹介で、ちーちゃん先輩がバイトしてる倉庫でやってるんですよ。なっち先輩もいるらしいですよ」
「ツッコミどころが多すぎてどこから触れればいいのかわからねえ」

 高木の部屋に遊びに来た果林とエージがたまたま鉢合わせて、スーパーに買い物に行ったときのことだったという。試食実演のバイトをしていた朝霞からそのバイトを紹介されたという。その朝霞は大石から働きに来てくれないかと依頼されたそうだ。
 ちょうどヒゲゼミの合宿があるとかで金が要り様だったこと、その仕事の内容が高木に向いていそうだったこと。条件もなかなか良かったということもあって、その話を聞いた果林とエージが本人より先に「やらせます」と朝霞に返事をしたらしい。

「大石のバイト先っつったら西海だろ」
「その辺はちーちゃん先輩の送迎があるらしいです」
「いくら吊り札付けでも同じ現場で働く奴とか社員との意思疎通はしなきゃいけないだろ。その辺大丈夫なのかアイツ」
「朝霞P先輩からタカちゃんの様子聞いてみたんですけど、来た日には成果を一番上げるので社員さんから気に入られてるみたいですね」
「そういやこないだ社員さんに飯連れてってもらったって言ってたっす」

 俺が思うより高木はバイト先で上手くやっているようだ。現場が西海なのに菜月がいるっつーのも不思議な話だが、送迎付きならまあ行けないこともないのか。まあ、仕事の話を持って来たのが大石か美奈じゃなきゃ絶対行かなかっただろうが。
 それより気になるのは、大石のバイト先の倉庫ということは拓馬さんがいるっつーことで。高木があの人と絡むことがあるのかないのか。拓馬さんのナリがナリだけに、絶対ビビって引くだろうからな。

「何か、その社員さんの雰囲気が高崎先輩に似てたとかで、つい行きますって返事をしてたっつって」
「あ? 俺に似てる雰囲気だ?」
「飯に行きたい気持ちはあるけど財布が、みたいなニュアンスのことを言おうとしたら、その人「なら食え」っつって有無を言わさず」
「あー……」

 絶対拓馬さんだなその社員。有無を言わさない雰囲気とか、ネガティブ要因を先回りして全部潰して来るのはあの人のやり口だ。

「ま、まあ、何にせよ高木はちゃんとバイト出来てるし、追いコンの金は問題なく取れるっつーことでいいな」
「取れると思うっす。無駄遣いさせないようにすりゃいーんすよね」
「って言うかエージ、タカちゃんの財布まで管理してるの?」
「粗方は」


end.


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久々にMBCCのサークル室からお送りしています。高崎がいると場が締まるなあ
話はタカちゃんのバイト戦記です。TKGのことならエイジに聞けみたいなところがちょっとあるね
そう言えば学祭の黒字があるのでお金自体はそこまで大変じゃないのがMBCCでしたね

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