2018(04)

■灯台下のワンピース

++++

「打ち合わせの見学? まあいいけど。なあカン」
「害さえなきゃいいんじゃね?」
「そうか。では呼びつけよう」

 あれから、ゲーム実況グループSDXはバネことリン君が正式に加入してその名前をUSDXに変えた。名前が変わってもやることはあまり変わらず、強いて言えばプレイヤースキルお化けが2人になったことで企画の幅が広がったかなと。
 今日はUSDXの打ち合わせと言うか俺とカンとリン君の私的な集まりで、ゲームの話や音楽の話をしようということで集まっている。そこで、リン君の最近知り合った人がゲーム実況者の生態に興味があるとかで、打ち合わせを見せたいと言って来たんだ。
 それはもう、カンの言うように害さえなければ全然構わない。どうやらその人をこれから呼び出すようで、リン君がスマホを操作している。と言うか、プロさんとソルさんのいないUSDXは飛車角落ちみたいなところがある。その人はそれでもいいのだろうか。

「なーなーリン、実況者の生態に興味あるとかどーゆーヤツ?」
「お前たちと同じ星ヶ丘大学の学生で、学年もタメだ」
「マジかよ」
「あ、そうなんだ。学部一緒とかだったらどうしよう」
「あー、顔見知りだったらっつーアレな!」
「お前たちは理系だろう。奴は文系だから、学部関係での知り合いではないだろう」
「じゃあ知り合いの可能性はほぼないな!」
「お、近くまで来たそうだ。では、迎えに行って来る」
「行ってらー」

 リン君が席を立つと、一気にそわそわ感が増すんだ。どんな人が呼ばれてるんだろうって。日頃からゲーム実況者として、これまでならステージのプロデューサーとして人に見せるとか見られることとは隣り合わせではあるけど、まじまじと興味を持たれるとこう、緊張感が。
 カンも身を乗り出して誰かな、どんな奴かななんてそわそわしているようだ。慣れた相手にはフランク以上のフランクさで接するカンだけど、基本的には真面目だから最初は人見知りなんじゃないかと思うくらいに大人しいし。

「あっ、スガ! リンが来たぞ!」
「スガノ、カンノ。コイツがその――」

 ――と紹介されようとしていたその顔には俺もカンも見覚えがあって。見間違いでなければ、リン君に連れられてきたのはあの朝霞で、朝霞の方も俺たちを見て「見たことある」みたいな顔をしている。状況をわかっていないのはリン君だ。

「何だ、お前たちは知り合いか」
「うん。俺たちと朝霞は同じ部活だったんだ」
「まあ、言うほど絡みはなかったけど」
「強いて言えば菅野とは班長会議で顔を合わせていたくらいで」
「それならば話は早い。自己紹介などの手間が省けた分を本題に回せるではないか」
「あ、俺は大人しくしてるし置物だと思ってもらって」

 ……と言われても朝霞の眼力が強くて気になってしょうがない。一応同じ部活ではあったけど、俺たちは一応幹部寄りの班で朝霞は流刑地とまで呼ばれた班の主。そう頻繁に関わりがあったわけでもなく、互いの人となりも実際あまりよくわかっていないのが実情だ。

「時にスガノ」
「なに?」
「お前はコンセプトや仕様が揃えばMODを作ることが出来ると言ったな」
「うん、一応は。SDXの企画でも少し使ってるけど」
「まあ、言ってもスガはシステム専門を自称してるから、何を作るかの発想は貧困だけどな!」
「うるさいな。お前だってロクな案を出さないだろ」
「ここに、ゲームは死ぬほど下手くそだが発想力だけは群を抜いた奴がいる。今日に至るまでにSDXの動画はソルのツミツミ以外は粗方履修させておいた。上手く使えば面白くなるだろう」

 発想力だけは群を抜いた奴。そう言ってリン君は朝霞を指した。確かに、現役時代のステージを見ていても朝霞班は毎回全然違うことをやっていて、どこからアイディアが湧いて来るんだとは思っていた。
 洋平によれば趣味の読書や映画鑑賞が引き出しを増やす基盤ではないかとのことだけど、好奇心が旺盛でこうやって人との関わりを積極的に持とうとするのも一因なのかもしれない。俺にはないアイディアの引き出しを、ぜひ開けてみたい。

「朝霞、スガノは先日紹介したようなMODを自分で作ることが出来る。お前がこないだ言っていたようなことも実装出来るかもしれんぞ」
「マジで。システム作れるとか菅野お前すげーな」
「学部的に専門みたいな物だから。思いついたことを言ってもらえれば、実装出来るように努力する」
「それで、スガノが朝霞の案を実装している間に新しい試みとしてUSDX版TRPGなどをやってみようと思うのだが。本は朝霞が用意出来るだろう」
「朝霞、TPRGのシナリオなんて書けるのか。書くことに関しては本当に凄いな」
「TRPGに関しては昔取った杵柄みたいなモンだけど、少し時間をもらえれば簡単な物なら用意出来る」
「なーリン、その間俺がヒマなんだけど!」
「お前は2人の用意した物に合う音を用意するという仕事があるだろう、喚くな。動画上で何度でも殺すぞ」

 こうして朝霞と何かを作る機会があるなんて部活の現役中は全然思わなかった。案外各々の得意分野が重なってなくて、適材適所でいいものが作れそうな気がして来た。朝霞からアイディアをいろいろ聞き出したい。

「朝霞、USDXの動画で使ってる曲のいくつかはカンが作曲から編曲までやってて」
「マジか。やっぱお前音楽的な才能に溢れてるんだな!」
「それほどでも~!」
「リン君の話聞いてても思ったんだけど、作曲とか編曲とか本当に雲の上過ぎて全然想像出来ないし、何なんだ? ああ、ダメだ語彙が飛ぶ。積み重ねてきた努力の上になせることであって、一朝一夕で出来ることじゃないんだよな」
「朝霞、もっと褒めて」
「菅野、お前は凄いぞ」
「もうちょっと」
「センスに溢れてる」
「もう一声」
「カン、もうやめとけ」


end.


++++

さて、SDXがいつの間にかUSDXと名前を変えていたようで、3年生組の打ち合わせに朝霞Pが連れて来られました。
菅野班と朝霞班てあんまり関わりないんでしたねそう言えば。洋平ちゃんが個人的にIFサッカー部とかできゃっきゃしてたくらいで。
そして欲しがりのカンDである。褒めて伸びる子なのね。モチベーションの上げ方と言うか。

.
67/100ページ