2018(04)
■選ぶ道とそのルーツ
++++
「あっ、美奈ちゃんこんばんは」
「……こんばんは」
「今日は1人?」
「……あずさも…?」
「うん。あたしも1人。今日は頭一杯使っちゃって疲れたし」
ベティさんの店にふらりと寄ると、あずさがいつものようにモスコミュールを飲みながらドライフルーツを摘まんでいた。私はあずさの隣に陣取り、ホワイトレディとナッツ類を注文する。
あずさは星ヶ丘大学だから、テストももう全部終了して春休みに入ったそうだ。私はまだテスト期間だけど、期間中に息抜きをしてはいけないという決まりはないし……。
少し飲んだくらいで影響は出ないから。
「頭を……脚本…?」
「ううん~、就活のこととかちょっと考えてたの」
「進路……何か、まとまった…?」
「これっていうのはまだ全然だけど、方向性はちょっと」
「あら。あずさは何をして働きたいの?」
「ハルちゃん。ハルちゃんには内緒」
「あら、残念」
どうやら、あずさが一生懸命考えていた進路希望というのはベティさんにはまだ内緒にしておきたいらしい。それは決して気まずい仕事をしたいとかいうのではなく、ちょっと言いにくい事情があるようだった。
あずさに進路希望を「内緒」と言われたベティさんは、少し残念そうに他のお客さんとお喋りを始めた。そう言えば、私も進路については少し考え始めないといけないのかもしれない。今まであまり考えていなかったから。
「ところで、その方向性は…?」
「まだ具体的な職種はわかんないんだけど、人を癒したり、ホッとしてもらえるような仕事がしたいなと思って」
「それは、素敵なこと……でも、どうしてベティさんには内緒なの…?」
「あのね…? 内緒ね…?」
「……大丈夫」
「あのね、ちっちゃい頃からハルちゃんがずーっと働いてるの見てたでしょ? それで、今はちーもバイトばっかりしてて」
ベティさんはご両親が亡くなってから今まで兄弟2人の生活を切り盛りするために昼も夜もなく働いてきたそう。今ではバーだけで生計が立つようになったそうだけど、今度は大石君がバイトを始めて、繁忙期には朝から晩まで働いていて。
あずさはそんな姿をずっと見ていて体は大丈夫かなって心配していたそうだ。だけど、2人が働き続けるのには理由がある。ベティさんは生活のため、大石君はベティさんの負担を少しでも軽くするため。互いのことを思って働き過ぎているのは、いくら言っても止めてもらえない。
「だからね、そういう人にせめてちょっとでも疲れを溜めないとか、ストレスを発散してもらえる仕事がしたいなって思って」
「それで、ベティさんには内緒……」
「うん。あとね、働き過ぎちゃう人ってやっぱりいるでしょ? 朝霞クンみたいな人とか」
「……確かに」
「周りにそういう人が多いからさ、自然にそういう風に考えちゃったのかな。でも、具体的な方法はまだわかんなくて、一生懸命調べてたの」
「何か、あった…?」
「カウンセラーとか、セラピストとか、リフレクソロジストとかっていろいろあって、セラピストって一言で言ってもアロマとかアートとかアニマルとかいろいろあっても~う大変」
「……本当に、種類が豊富……」
「美奈ちゃんは進路何か考えてる?」
「私は……」
即答は出来なかった。まだしっかりと考えていないというのもそうだけど、就職をするのか、大学院に進むのかというところからまず考えなければならないから。院への進学については徹やリンがかなり前向きに考えていて、その話を聞いているとその選択肢もあるなと思って。
だけど、院には進まずに就職、というのも選択としてないわけではなくて。現に今アルバイトをしているFMにしうみからは、まだ3年生なのに私さえ良ければ社員として来てくれないかという話もいただいている。でも、化粧品に関わる仕事にも関心があって。
「へー、化粧品か! 美奈ちゃん詳しいし良さそうだね! えっ、売るの?」
「売ると言うよりは、開発の方かもしれない……」
「そっか、実験とかしてるもんね」
「それを突き詰めるために、進学も視野にある……」
「大学院かー、全然考えたこともなかったや」
「でも、ラジオの仕事も、もっといろいろやりたいと思っていて……」
「美奈ちゃんはやりたいことがいっぱいあって凄いね」
「でも、全部が出来るわけじゃない……」
進路に関しては、そろそろ本腰を入れて考えていかなければならない事柄。その辺は、テストが終わってから。お酒を少し飲んだくらいでは明日に影響しないけれど、進路のことは深く考え始めると止まらないから。やりたいことはいっぱいあるけれど、いつかはひとつに絞らなければならなくて。
「ところで美奈ちゃん!」
「……どうかした…?」
「バレンタインのことは何か考えてますか!」
「急に、話が変わった……」
「やっぱり、美奈ちゃんとここで会ったからには恋バナもしなきゃ! ハルちゃ~ん! ハルちゃん来て~!」
「はぁいはい。内緒の話は終わり?」
「終わり! バレンタインの話!」
そう言えば、そんなイベントもあった……。チョコレートだけで言えばいろいろな種類の物があったりして、それを眺めるだけでも楽しいというのは徹の戦利品を眺めていて思ったんだけど。いざ自分があげるとなると、どうしよう。
end.
++++
ふしみんが進路希望について少し考えていたようです。うん、頭を使ってたのは脚本ではなかった様子。
ふしみんは方向性が絞れてきたけど、美奈はまだまだ絞り切れない様子。とは言え2人ともまだまだこれからですね。
そして~、バレンタイン! ……そういやクリームブリュレがどうこうっていうのはどうなるのかな……
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「あっ、美奈ちゃんこんばんは」
「……こんばんは」
「今日は1人?」
「……あずさも…?」
「うん。あたしも1人。今日は頭一杯使っちゃって疲れたし」
ベティさんの店にふらりと寄ると、あずさがいつものようにモスコミュールを飲みながらドライフルーツを摘まんでいた。私はあずさの隣に陣取り、ホワイトレディとナッツ類を注文する。
あずさは星ヶ丘大学だから、テストももう全部終了して春休みに入ったそうだ。私はまだテスト期間だけど、期間中に息抜きをしてはいけないという決まりはないし……。
少し飲んだくらいで影響は出ないから。
「頭を……脚本…?」
「ううん~、就活のこととかちょっと考えてたの」
「進路……何か、まとまった…?」
「これっていうのはまだ全然だけど、方向性はちょっと」
「あら。あずさは何をして働きたいの?」
「ハルちゃん。ハルちゃんには内緒」
「あら、残念」
どうやら、あずさが一生懸命考えていた進路希望というのはベティさんにはまだ内緒にしておきたいらしい。それは決して気まずい仕事をしたいとかいうのではなく、ちょっと言いにくい事情があるようだった。
あずさに進路希望を「内緒」と言われたベティさんは、少し残念そうに他のお客さんとお喋りを始めた。そう言えば、私も進路については少し考え始めないといけないのかもしれない。今まであまり考えていなかったから。
「ところで、その方向性は…?」
「まだ具体的な職種はわかんないんだけど、人を癒したり、ホッとしてもらえるような仕事がしたいなと思って」
「それは、素敵なこと……でも、どうしてベティさんには内緒なの…?」
「あのね…? 内緒ね…?」
「……大丈夫」
「あのね、ちっちゃい頃からハルちゃんがずーっと働いてるの見てたでしょ? それで、今はちーもバイトばっかりしてて」
ベティさんはご両親が亡くなってから今まで兄弟2人の生活を切り盛りするために昼も夜もなく働いてきたそう。今ではバーだけで生計が立つようになったそうだけど、今度は大石君がバイトを始めて、繁忙期には朝から晩まで働いていて。
あずさはそんな姿をずっと見ていて体は大丈夫かなって心配していたそうだ。だけど、2人が働き続けるのには理由がある。ベティさんは生活のため、大石君はベティさんの負担を少しでも軽くするため。互いのことを思って働き過ぎているのは、いくら言っても止めてもらえない。
「だからね、そういう人にせめてちょっとでも疲れを溜めないとか、ストレスを発散してもらえる仕事がしたいなって思って」
「それで、ベティさんには内緒……」
「うん。あとね、働き過ぎちゃう人ってやっぱりいるでしょ? 朝霞クンみたいな人とか」
「……確かに」
「周りにそういう人が多いからさ、自然にそういう風に考えちゃったのかな。でも、具体的な方法はまだわかんなくて、一生懸命調べてたの」
「何か、あった…?」
「カウンセラーとか、セラピストとか、リフレクソロジストとかっていろいろあって、セラピストって一言で言ってもアロマとかアートとかアニマルとかいろいろあっても~う大変」
「……本当に、種類が豊富……」
「美奈ちゃんは進路何か考えてる?」
「私は……」
即答は出来なかった。まだしっかりと考えていないというのもそうだけど、就職をするのか、大学院に進むのかというところからまず考えなければならないから。院への進学については徹やリンがかなり前向きに考えていて、その話を聞いているとその選択肢もあるなと思って。
だけど、院には進まずに就職、というのも選択としてないわけではなくて。現に今アルバイトをしているFMにしうみからは、まだ3年生なのに私さえ良ければ社員として来てくれないかという話もいただいている。でも、化粧品に関わる仕事にも関心があって。
「へー、化粧品か! 美奈ちゃん詳しいし良さそうだね! えっ、売るの?」
「売ると言うよりは、開発の方かもしれない……」
「そっか、実験とかしてるもんね」
「それを突き詰めるために、進学も視野にある……」
「大学院かー、全然考えたこともなかったや」
「でも、ラジオの仕事も、もっといろいろやりたいと思っていて……」
「美奈ちゃんはやりたいことがいっぱいあって凄いね」
「でも、全部が出来るわけじゃない……」
進路に関しては、そろそろ本腰を入れて考えていかなければならない事柄。その辺は、テストが終わってから。お酒を少し飲んだくらいでは明日に影響しないけれど、進路のことは深く考え始めると止まらないから。やりたいことはいっぱいあるけれど、いつかはひとつに絞らなければならなくて。
「ところで美奈ちゃん!」
「……どうかした…?」
「バレンタインのことは何か考えてますか!」
「急に、話が変わった……」
「やっぱり、美奈ちゃんとここで会ったからには恋バナもしなきゃ! ハルちゃ~ん! ハルちゃん来て~!」
「はぁいはい。内緒の話は終わり?」
「終わり! バレンタインの話!」
そう言えば、そんなイベントもあった……。チョコレートだけで言えばいろいろな種類の物があったりして、それを眺めるだけでも楽しいというのは徹の戦利品を眺めていて思ったんだけど。いざ自分があげるとなると、どうしよう。
end.
++++
ふしみんが進路希望について少し考えていたようです。うん、頭を使ってたのは脚本ではなかった様子。
ふしみんは方向性が絞れてきたけど、美奈はまだまだ絞り切れない様子。とは言え2人ともまだまだこれからですね。
そして~、バレンタイン! ……そういやクリームブリュレがどうこうっていうのはどうなるのかな……
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