2018(04)

■新しい世界を作ろう

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「あっ、いらっしゃい。どうぞ」
「では、邪魔するぞ」

 今日は俺の部屋でリン君と遊ぶ約束をしていた。リン君とは酒の現場で知り合ったということもあって初回からやらかしてしまったのだけど、こうしてまた会ってくれるだなんて海のように広い心を持った超絶善人だと思う。星大の人だし、頭もよくて人間も出来ているとか完璧超人か。
 足の踏み場もなかった部屋も何となく片付けた。DVDや本も見やすいように定位置にしまった。それだけやってあればあとはどうにでもならないかな。俺にとって片付けとは台本やレポートなどの執筆状態にないときにしか出来ないことだから。

「えっと、何か飲む? ティーバッグの緑茶かレッドブルがあるけど」
「では、緑茶をもらおうか」
「今淹れるね」
「その間にオレはマシンを立ち上げている」
「すげー楽しみだ」

 前回、ベティさんの店で飲んでいたときはお互いの趣味の話をしていたんだけど、酔った俺は例によって延々と同じ話を繰り返してしまったらしい。そこで、今日のテーマはリン君の話を聞くということ。言うなれば、ターン制の後攻か。

「お茶です」
「ああ、どうも。でだ、どの話からすればいいか。プレゼン出来るのはピアノかゲームか」
「え、どっちも聞きたい」
「――だろうとは思ったが、ピアノの話には一応終わりがある。そちらからするぞ」
「お願いします」

 こたつに入ってお茶を飲みつつ、リン君の持って来たノーパソを2人で覗き込む。映し出されていたのは大学祭の中夜祭で披露されたというバンドのライブだ。ブルースプリングというジャズバンドだそうだ。メンバーの3人がスーツで決めて、いかにもらしい。
 ジャズをあまり知らなくてもよく聞く3曲と、リン君が作曲をしたというオリジナルが2曲、それからベースの先輩のこだわりだというトリのチキン。トリは別に鶏という意味ではなく、シメという意味のトリだ。

「普通に暇潰しで弾くことが多いが、週に1、2度は洋食屋でピアノ演奏のアルバイトをしている。バンド活動は年末にやったきりでもうないだろうが、終わってみれば悪い物でもなかった」
「は~、すごいなあ。俺は基本見るとか聞くばっかりの受動的なスタンスだから」
「ん? 物書きではなかったか」
「物書きだけど、レポートに卒論くらいで趣味ではご無沙汰」
「では、ゲームの話に移るぞ」
「お願いしまーす」

 うちの無線に繋いだマシンでゲームの画面を開いて行く。リン君は基本的に家庭用ゲーム機でのプレイを中心にやっていたそうだけど、最近ではパソコンでのプレイ時間も増えて来ているそうだ。
 俺からすればパソコンはそれこそ原稿を書いたり音楽を取り込んだりする物という認識だったから、それで遊ぶということは全然考えたことがなかった。DVDはテレビで見ることの方が多いかな。

「四角い。これ、何ていうゲーム?」
「これはマインクラフトだ。いわゆるサンドボックスゲームだな」
「サンドボックス?」
「砂場だ。ゲームの進行における目的や目標が存在せず、何をするかはプレイヤーに委ねられる。加えて、マインクラフトの場合はユーザーがMOD開発などをしてゲーム自体を拡張することが出来る。遊び方は無限だと言えるだろう」
「何か凄いなあ。ちょっと、動かしてみてもらっていい?」
「よかろう。新しいワールドを生成するか」

 何をするのも自由なゲームというその概念からして驚いた。ボードゲームなんかではこれというルールがあるものが多いし、ビデオゲームにしても何らかのクリア目標だったりエンディングに向けて進めて行くものばかりだと思っていたから。

「このように生成されたワールドの中で、いかに生き残るかが重要になる。夜になると敵モブが湧くようになるから、最初の昼に安全な拠点を築かなければならない」
「あ、羊だ」
「初期の段階では羊は重要なパートナーだ。食肉にもなるし、羊毛はベッドの材料にもなる。最初はとにかく木材を確保することが重要になる。少し触ってみるか?」
「えっ、いいの?」
「ああ。思うようにやってみればいい」
「では、失礼して。ところで、マウスの設定変えていい? 俺マウス左手で使ってるから、自分のも設定を変えてて」
「左利きか」
「厳密には両利きだけど大体左利きみたいな感じ」
「ちゃんと戻しておいてもらえればいくらでも変えて構わんぞ」
「ありがとう」

 さて、この広大な土地で何をしよう。手持ちアイテムは羊肉と羊毛、木材がいくつか。ぴょーんぴょーん。ああ、これでジャンプ。

「これ、1人でやるものなの? みんなでやった方が楽しいものなの?」
「1人で極めることも出来るし、大人数でやることも出来る。オレは最近ゲーム実況者と知り合って、いろいろ企画にも参加しているのだが――」
「ゲーム実況!? それってどういうヤツ!?」
「そこまで食いつくことか…?」
「いや、後学のために聞いておきたいなと思って」
「では、後日打ち合わせがあるのだがそこに来てみるか。話はオレが付けておこう」
「マジですか……ありがとうございますリン君マジ聖人…!」

 ゲームが下手くそだから今まであまり手を出してこなかったけど、やることが自由だっていうのは興味深いし、それを使って企画を立ち上げることも出来るとか、どういう風にやってるのかが気になる。いやあ、その話を聞くのが本当に楽しみだ。

「おい、目の前に崖が」
「あー! 死んだ!」


end.


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お酒の入っていない朝霞Pだぞ! と言うか朝霞Pからのリン様評がとんでもない。聖人だの超人だの……
何やかんやこうやって趣味の話でキャッキャし始めるお二人様ですが、ここからもうちょっと突っ込んでいくのかしら
そうか、朝霞Pはゲームが下手くそなのか。ぎゃーぎゃー言いながら叫んでるタイプよねきっと

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