2018(04)
■闘病と寒気の理由
++++
「ごほっごほっ、ごほん」
「大丈夫か、雄平」
裕貴からのこの質問には、大丈夫ではないと手を振る。とうとう俺もインフルエンザをもらってしまったようで、病院から帰って来たところに裕貴が見舞いに来てくれた。裕貴は年末年始にインフルをやったらしく、今シーズンはまあ大丈夫じゃないかということらしい。
病院で薬はもらってきたけど、熱はまだあるし咳もなかなか止まらない。マスクをしてベッドの中に。ここから1週間は大人しくしていないといけないのが何とも辛い。一応、外に出なくても生活出来るだけの食材などは裕貴に買って来てもらったけど。
1人暮らしでインフルに限らず寝込むレベルの病気をやるといろいろ生活が成り立たなくなって大変なんだ。俺は基本的に頑丈な方で、病気なんかはあまりやらない方ではある。だけど今回のインフルに関してはもらってくる心当たりがあった。
「誰だったか、お前のその優しさが時として身を滅ぼすことになりかねないと言ったのは」
「知らね。げほっげほっ」
「話を聞いていると、明らかにバイト先でもらって来たのだろう」
「仕方なかったんだ」
3日ほど前、バイト先に出勤すると諏訪姉妹の姉・かんながインフルエンザでしばらく来れなくなったと連絡を受けた。その話を聞いたときには、それは大変だなと他人事のように思っていた節があった。
するとどうだ、少しすると妹のあやめが体調不良を訴え始めたのだ。これはひょっとしなくてもかんなのヤツをもらってるんじゃないかと即帰宅命令が出る。だけど、ふらふらしているあやめを1人で帰すワケにもいかないし、俺が送って行くことに。
あやめを送りついでに病院にも連れて行き、診察を待っている間にかんな・あやめの姉妹2人が1週間暮らせるだけの買い物をして病院に戻った。そして再びあやめを拾ってマンションに向かう。マンションに着いてからは何故かおかゆまで作ってやっていた。
俺がインフルをもらう心当たりがあるとすれば間違いなく諏訪姉妹だ。インフル患者が2人いる部屋にマスクもしないである程度滞在していたのだから。いくら筋肉量が多くて体温が~だのという抵抗力に関する理屈がまかり通ろうとも、この状況ではうつらない方がおかしい。
「雄平、テレビをつけていいか」
「ああ」
時間はちょうど夕方で、情報番組がやっている頃だ。入っているのは、水鈴がレギュラーを持っている番組。今日はスタジオで席に座っているらしい。
番組ではインフルエンザの流行が警戒レベルになって久しいことや、その対策方法についてこれでもかと発信している。わかってても、対策をしてもなるときはなる。いや、俺は自分からウイルスの巣みたいなところに突っ込んで行ったのだから自業自得だけど。
「しかし、悪いな。買い物くらいしか出来なくて」
「いや、むしろ感謝してる。病気の時に1人の方が不安だ」
「俺もそろそろ家事の一つくらい出来るようにならなければならないな、就職もすることだし」
インフルエンザの話が終わって、テレビは「さてここから特集です!」と話題を切り替えた。今日の特集はバレンタインに向けたチョコレートの話らしい。百貨店などで行われている戦争のようなイベントの紹介もあるとか。
この春から百貨店に就職が内定している裕貴は、百貨店でのイベントの話に興味津々だ。本人もこの頃はデパ地下商品の食べ歩きを趣味にしていて、チョコレートの祭典にも顔を出したとか。ただ、人口密度が半端ではなかったようで、先にインフルをやっていて良かったと心底思ったそうだ。
「高そうなチョコ。ごほっごほっ」
「最近では自分用に買う人も増えているそうだ。それはそうと雄平、チョコレートも体にはいいそうだが」
「適量ならな。それと、げほっ、カカオ分ごほっごほっごほっ!」
「大丈夫か」
「……大丈夫だ」
「俺たちはまだ学生で収入もさほどない。こんなに高価なチョコレートを買い漁ることなど夢のまた夢だな」
「デパ地下で食いモン買い漁ってる奴の言うことではない」
「まあ、飲み物でも飲んで落ち着け」
そしてテレビの方も、買うのもいいけど手作りがしたいあなたには……と話題がどんどん変わっていく。どうやらこれから始まるのは手作りチョコの作り方講座のようだ。キッチンスタジオの映像に切り替わった瞬間、噎せて飲んでいたポカリを噴き出してしまった。
「げっほげほ、げほっ」
「大丈夫か雄平」
「裕貴悪い、ティッシュ取ってくれ」
テレビには、エプロン姿でバッチリ決めた水鈴。これから水鈴がプロのパティシエに教わりながらチョコを作るらしい。
『このチョコに、愛情をた~っぷり! 込めたいと思いますッ!』
「雄平、水鈴はこんなことを言っているが。その愛情はまずお前宛てだろうな」
「……怨念か何かの間違いだろ。つか寒気がして来た」
「薬は飲んだんだろう」
「飲んだ」
水鈴がチョコを作っている映像を、俺はぐったりと横になりながら見ていた。これは収録映像だけどいつもと変わらず元気そうだし、きちんと体調管理をしている辺りはやっぱりプロだと思う。すげえなとは素直に思うワケで。いや、でも「筋トレをする彼におすすめなチョコのレシピ」は別に聞かなくていいんじゃないか?
「あー……インフルやったら絶対筋肉落ちるよなー……」
「まあ落ちるだろうな。せめて夜はサラダチキン粥にでもするか?」
「美味そうだな」
「ただ、料理らしい料理ではないとは言っておく」
「いや、作ってもらえるのがありがたい」
一番しんどい時をこうやって付き添ってもらえるのはありがたくもあるけど申し訳なくもある。1日2日やり過ごせば後は自分で何とか出来るようになると思うから、ここが耐え時だ。インフルはそう生易しくない。
「お前がインフルになったとは水鈴には言わない方がいいか?」
「絶対言うな」
end.
++++
こっしーさん生きて、がコロス隊以外の意味でも適用されることがあるとは。
さて、こっしーさん今年度は久々。そして萩さんも久々。諏訪姉妹もご無沙汰だし、今日の話はいろいろご無沙汰ばかりですね。
こっしーさんがインフルになったと知れたら水鈴さんはお見舞いに来そうだけど、体調管理のこともあるし逆に寄り付かないのかな? どっちかな
.
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「ごほっごほっ、ごほん」
「大丈夫か、雄平」
裕貴からのこの質問には、大丈夫ではないと手を振る。とうとう俺もインフルエンザをもらってしまったようで、病院から帰って来たところに裕貴が見舞いに来てくれた。裕貴は年末年始にインフルをやったらしく、今シーズンはまあ大丈夫じゃないかということらしい。
病院で薬はもらってきたけど、熱はまだあるし咳もなかなか止まらない。マスクをしてベッドの中に。ここから1週間は大人しくしていないといけないのが何とも辛い。一応、外に出なくても生活出来るだけの食材などは裕貴に買って来てもらったけど。
1人暮らしでインフルに限らず寝込むレベルの病気をやるといろいろ生活が成り立たなくなって大変なんだ。俺は基本的に頑丈な方で、病気なんかはあまりやらない方ではある。だけど今回のインフルに関してはもらってくる心当たりがあった。
「誰だったか、お前のその優しさが時として身を滅ぼすことになりかねないと言ったのは」
「知らね。げほっげほっ」
「話を聞いていると、明らかにバイト先でもらって来たのだろう」
「仕方なかったんだ」
3日ほど前、バイト先に出勤すると諏訪姉妹の姉・かんながインフルエンザでしばらく来れなくなったと連絡を受けた。その話を聞いたときには、それは大変だなと他人事のように思っていた節があった。
するとどうだ、少しすると妹のあやめが体調不良を訴え始めたのだ。これはひょっとしなくてもかんなのヤツをもらってるんじゃないかと即帰宅命令が出る。だけど、ふらふらしているあやめを1人で帰すワケにもいかないし、俺が送って行くことに。
あやめを送りついでに病院にも連れて行き、診察を待っている間にかんな・あやめの姉妹2人が1週間暮らせるだけの買い物をして病院に戻った。そして再びあやめを拾ってマンションに向かう。マンションに着いてからは何故かおかゆまで作ってやっていた。
俺がインフルをもらう心当たりがあるとすれば間違いなく諏訪姉妹だ。インフル患者が2人いる部屋にマスクもしないである程度滞在していたのだから。いくら筋肉量が多くて体温が~だのという抵抗力に関する理屈がまかり通ろうとも、この状況ではうつらない方がおかしい。
「雄平、テレビをつけていいか」
「ああ」
時間はちょうど夕方で、情報番組がやっている頃だ。入っているのは、水鈴がレギュラーを持っている番組。今日はスタジオで席に座っているらしい。
番組ではインフルエンザの流行が警戒レベルになって久しいことや、その対策方法についてこれでもかと発信している。わかってても、対策をしてもなるときはなる。いや、俺は自分からウイルスの巣みたいなところに突っ込んで行ったのだから自業自得だけど。
「しかし、悪いな。買い物くらいしか出来なくて」
「いや、むしろ感謝してる。病気の時に1人の方が不安だ」
「俺もそろそろ家事の一つくらい出来るようにならなければならないな、就職もすることだし」
インフルエンザの話が終わって、テレビは「さてここから特集です!」と話題を切り替えた。今日の特集はバレンタインに向けたチョコレートの話らしい。百貨店などで行われている戦争のようなイベントの紹介もあるとか。
この春から百貨店に就職が内定している裕貴は、百貨店でのイベントの話に興味津々だ。本人もこの頃はデパ地下商品の食べ歩きを趣味にしていて、チョコレートの祭典にも顔を出したとか。ただ、人口密度が半端ではなかったようで、先にインフルをやっていて良かったと心底思ったそうだ。
「高そうなチョコ。ごほっごほっ」
「最近では自分用に買う人も増えているそうだ。それはそうと雄平、チョコレートも体にはいいそうだが」
「適量ならな。それと、げほっ、カカオ分ごほっごほっごほっ!」
「大丈夫か」
「……大丈夫だ」
「俺たちはまだ学生で収入もさほどない。こんなに高価なチョコレートを買い漁ることなど夢のまた夢だな」
「デパ地下で食いモン買い漁ってる奴の言うことではない」
「まあ、飲み物でも飲んで落ち着け」
そしてテレビの方も、買うのもいいけど手作りがしたいあなたには……と話題がどんどん変わっていく。どうやらこれから始まるのは手作りチョコの作り方講座のようだ。キッチンスタジオの映像に切り替わった瞬間、噎せて飲んでいたポカリを噴き出してしまった。
「げっほげほ、げほっ」
「大丈夫か雄平」
「裕貴悪い、ティッシュ取ってくれ」
テレビには、エプロン姿でバッチリ決めた水鈴。これから水鈴がプロのパティシエに教わりながらチョコを作るらしい。
『このチョコに、愛情をた~っぷり! 込めたいと思いますッ!』
「雄平、水鈴はこんなことを言っているが。その愛情はまずお前宛てだろうな」
「……怨念か何かの間違いだろ。つか寒気がして来た」
「薬は飲んだんだろう」
「飲んだ」
水鈴がチョコを作っている映像を、俺はぐったりと横になりながら見ていた。これは収録映像だけどいつもと変わらず元気そうだし、きちんと体調管理をしている辺りはやっぱりプロだと思う。すげえなとは素直に思うワケで。いや、でも「筋トレをする彼におすすめなチョコのレシピ」は別に聞かなくていいんじゃないか?
「あー……インフルやったら絶対筋肉落ちるよなー……」
「まあ落ちるだろうな。せめて夜はサラダチキン粥にでもするか?」
「美味そうだな」
「ただ、料理らしい料理ではないとは言っておく」
「いや、作ってもらえるのがありがたい」
一番しんどい時をこうやって付き添ってもらえるのはありがたくもあるけど申し訳なくもある。1日2日やり過ごせば後は自分で何とか出来るようになると思うから、ここが耐え時だ。インフルはそう生易しくない。
「お前がインフルになったとは水鈴には言わない方がいいか?」
「絶対言うな」
end.
++++
こっしーさん生きて、がコロス隊以外の意味でも適用されることがあるとは。
さて、こっしーさん今年度は久々。そして萩さんも久々。諏訪姉妹もご無沙汰だし、今日の話はいろいろご無沙汰ばかりですね。
こっしーさんがインフルになったと知れたら水鈴さんはお見舞いに来そうだけど、体調管理のこともあるし逆に寄り付かないのかな? どっちかな
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