2018(04)
■超難易度の穴掘りアクション
++++
「あ~、マジムリ~!」
「喚いてないでさっさとやれよ」
「再来週までに2万字とか拷問でしかないだろ!」
「コツコツやってりゃそんな大袈裟にビビるようなモンじゃねえ」
木曜4限はゼミの時間だということで、テスト期間に於いてはただの空きコマと化していた。俺は飯野を引き摺って社会学部棟5階にある安部ゼミの研究室に籠もり、レポートの執筆を始めさせることに。飯野のレポートの出来如何によっては俺の成績にも影響してくるからだ。
俺はレポートこそしっかり書いているが出席の足りないタイプの問題児で、飯野は出席はフルでしているがレポートがゴミクズなタイプの問題児だ。安部ちゃんに交渉した結果、俺が飯野のレポートをそれなりに読める物にすることで飯野の出席ボーナスから0.5~1回分俺にツケてくれることになっている。
「大体、このレポートは夏からの続きでも全然いいんだから、実質続きのウン千字を書けばいいだけじゃねえか」
「はああ~!? そんな簡単に言うことじゃねーんだよ! ウン千字を書くときにはどれだけの生みの苦しみがあると思ってんだよ!」
「まあ、夏の時点で俺はお前の3倍書いてるから、生みの苦しみも当然知ってるんだけどな」
研究室にはパソコンが3台ある。そのうちの2台を俺と飯野で確保して、壁際に並ぶ本棚からそれらしい本を適当に引っ張って来る。本を選ぶときはタイトルをまず見て、気になった本の目次を確認していくのが俺流だ。それで、適当にパラパラと読んで参考文献にするかどうかを考える。
飯野はとにかく参考文献を読みやがらない。活字が苦手な典型的なタイプで、これまでのレポートも自分の経験とフィールドワークで撮って来た素材を中心に組み立ててきた。経験と素材という武器があるにも関わらず、それを調理するのが絶望的に下手なのだ。
「そもそも、イベント関係のレポートにしたいことはわかったが、そこからどう掘り下げたいんだ」
「わかりませーん」
「あ? てめェ、やりてえこともわかんねえで字数なんざ積めるか」
「そこを何とか適当に積んでくれよ」
「積むのはてめェだろうが」
飯野の研究テーマは祭りについての何やかんやということになっているが、そこから何をどうしたいのかは全くわからないらしい。そもそもどうしてそんなテーマになっているのかというと、一番自分の身近でわかりやすいテーマだったかららしい。
それが悪いとは言わない。俺の研究テーマもコミュニティラジオと双方向コミュニケーションについてという、MBCCでやっていたことにかすっていることだ。だけど、そこから何をどうしていくのかが重要だ。着地点がわからないとそこに至るまでの道筋も作れない。
「で、お前は祭りやイベントについての歴史やその土地にまつわる話をやりたいのか」
「歴史にはあんま興味ない」
「祭りそのものよりそれに関わる人についてやりたいのでいいんだな」
「そうね、多分そんな感じ」
「じゃあ、祭りを運営する人間か、ただ訪れて参加する人間か、はたまた遠くから眺めてる奴のことをやりたいのか」
「運営側なのかなあ、よくわかんないけど」
あんまり与えすぎるのも良くねえが、自分の足でなかなか歩けねえ奴にはちょっとした手すりくらいは付けてやる必要があるだろう。祭りについてだけではテーマとしては大きすぎるから、掘り下げていくポイントまで連れて行ってやらねえといけないのだ。
「それを踏まえた上で、これまで集めた素材は何か役立ちそうか」
「よくわからない」
「はーっ……つか、今後もフィールドワークを続けるつもりなのか」
「文献読むよりは早い気がする」
「だったら、何を突き詰めたいのかを先に考えた上で、運営の人間にインタビューするくらいのことはやれ。せっかくお前は大祭実行の物とは言え名刺を持ってんだし、その辺のことは慣れてるだろ。それを数集めてこのケースではこういうことが言えてって形に最終的に持ってけ」
「えっ、それをあと2週間でやれと!?」
「2週間でやるのは突き詰めたいポイントに入っていくまでの触りで問題ないだろう。導入部分っつーヤツだな」
「ム~リ~」
「てめェ、俺の出席がかかってんだぞ真面目にやれ」
「テメーの出席なんか知るかよ」
「あ? 俺だっててめェのレポートなんざ知ったこっちゃねえんだぞ」
「すんませんっした!」
祭りにもいろいろタイプがある。地域に根差した昔からある伝統的なものや、最近興った町おこし的な側面のある祭まで。この近場にある祭りを片っ端から調べ上げて、これはどういうタイプの祭りなのかを分類分けしていく必要がある。
しかし、俺は精々1回くらいの出席のためにどうしてここまで飯野に尽くしてやっているのか。そしてその裏で自分のレポートもちゃんとやっている。計算した感じだと今年は足りなくなってはないと思うんだけどな。ダメだったら安部ちゃんがアウトだって言って来る気がするし。
もし出席が足りているのであれば、俺はいつでも飯野のゴミクズレポートの手助けをやめられる。それで飯野が卒業出来なかろうと知ったこっちゃねえし、俺の成績には何も影響しないんだ。それを飯野もわかっているからこそ俺に縋り続ける。
「またどっか祭り探して特攻するかー」
「はいはい、精々頑張って」
end.
++++
毎度お馴染み安部ゼミ問題児たちのあれこれです。高崎は自分のレポートは割と余裕だし、飯野はいつものようにひーこら言ってる。
って言うかこれまでの年度の話を見てても年末年始も朝霞Pときゃっきゃと出歩いてるんだから資料は持ってるんだよなあ
果たして飯野の出席ボーナスは高崎に盗られてしまうのか! と言うかあげるから手伝えって言ってる立場でしたね
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「あ~、マジムリ~!」
「喚いてないでさっさとやれよ」
「再来週までに2万字とか拷問でしかないだろ!」
「コツコツやってりゃそんな大袈裟にビビるようなモンじゃねえ」
木曜4限はゼミの時間だということで、テスト期間に於いてはただの空きコマと化していた。俺は飯野を引き摺って社会学部棟5階にある安部ゼミの研究室に籠もり、レポートの執筆を始めさせることに。飯野のレポートの出来如何によっては俺の成績にも影響してくるからだ。
俺はレポートこそしっかり書いているが出席の足りないタイプの問題児で、飯野は出席はフルでしているがレポートがゴミクズなタイプの問題児だ。安部ちゃんに交渉した結果、俺が飯野のレポートをそれなりに読める物にすることで飯野の出席ボーナスから0.5~1回分俺にツケてくれることになっている。
「大体、このレポートは夏からの続きでも全然いいんだから、実質続きのウン千字を書けばいいだけじゃねえか」
「はああ~!? そんな簡単に言うことじゃねーんだよ! ウン千字を書くときにはどれだけの生みの苦しみがあると思ってんだよ!」
「まあ、夏の時点で俺はお前の3倍書いてるから、生みの苦しみも当然知ってるんだけどな」
研究室にはパソコンが3台ある。そのうちの2台を俺と飯野で確保して、壁際に並ぶ本棚からそれらしい本を適当に引っ張って来る。本を選ぶときはタイトルをまず見て、気になった本の目次を確認していくのが俺流だ。それで、適当にパラパラと読んで参考文献にするかどうかを考える。
飯野はとにかく参考文献を読みやがらない。活字が苦手な典型的なタイプで、これまでのレポートも自分の経験とフィールドワークで撮って来た素材を中心に組み立ててきた。経験と素材という武器があるにも関わらず、それを調理するのが絶望的に下手なのだ。
「そもそも、イベント関係のレポートにしたいことはわかったが、そこからどう掘り下げたいんだ」
「わかりませーん」
「あ? てめェ、やりてえこともわかんねえで字数なんざ積めるか」
「そこを何とか適当に積んでくれよ」
「積むのはてめェだろうが」
飯野の研究テーマは祭りについての何やかんやということになっているが、そこから何をどうしたいのかは全くわからないらしい。そもそもどうしてそんなテーマになっているのかというと、一番自分の身近でわかりやすいテーマだったかららしい。
それが悪いとは言わない。俺の研究テーマもコミュニティラジオと双方向コミュニケーションについてという、MBCCでやっていたことにかすっていることだ。だけど、そこから何をどうしていくのかが重要だ。着地点がわからないとそこに至るまでの道筋も作れない。
「で、お前は祭りやイベントについての歴史やその土地にまつわる話をやりたいのか」
「歴史にはあんま興味ない」
「祭りそのものよりそれに関わる人についてやりたいのでいいんだな」
「そうね、多分そんな感じ」
「じゃあ、祭りを運営する人間か、ただ訪れて参加する人間か、はたまた遠くから眺めてる奴のことをやりたいのか」
「運営側なのかなあ、よくわかんないけど」
あんまり与えすぎるのも良くねえが、自分の足でなかなか歩けねえ奴にはちょっとした手すりくらいは付けてやる必要があるだろう。祭りについてだけではテーマとしては大きすぎるから、掘り下げていくポイントまで連れて行ってやらねえといけないのだ。
「それを踏まえた上で、これまで集めた素材は何か役立ちそうか」
「よくわからない」
「はーっ……つか、今後もフィールドワークを続けるつもりなのか」
「文献読むよりは早い気がする」
「だったら、何を突き詰めたいのかを先に考えた上で、運営の人間にインタビューするくらいのことはやれ。せっかくお前は大祭実行の物とは言え名刺を持ってんだし、その辺のことは慣れてるだろ。それを数集めてこのケースではこういうことが言えてって形に最終的に持ってけ」
「えっ、それをあと2週間でやれと!?」
「2週間でやるのは突き詰めたいポイントに入っていくまでの触りで問題ないだろう。導入部分っつーヤツだな」
「ム~リ~」
「てめェ、俺の出席がかかってんだぞ真面目にやれ」
「テメーの出席なんか知るかよ」
「あ? 俺だっててめェのレポートなんざ知ったこっちゃねえんだぞ」
「すんませんっした!」
祭りにもいろいろタイプがある。地域に根差した昔からある伝統的なものや、最近興った町おこし的な側面のある祭まで。この近場にある祭りを片っ端から調べ上げて、これはどういうタイプの祭りなのかを分類分けしていく必要がある。
しかし、俺は精々1回くらいの出席のためにどうしてここまで飯野に尽くしてやっているのか。そしてその裏で自分のレポートもちゃんとやっている。計算した感じだと今年は足りなくなってはないと思うんだけどな。ダメだったら安部ちゃんがアウトだって言って来る気がするし。
もし出席が足りているのであれば、俺はいつでも飯野のゴミクズレポートの手助けをやめられる。それで飯野が卒業出来なかろうと知ったこっちゃねえし、俺の成績には何も影響しないんだ。それを飯野もわかっているからこそ俺に縋り続ける。
「またどっか祭り探して特攻するかー」
「はいはい、精々頑張って」
end.
++++
毎度お馴染み安部ゼミ問題児たちのあれこれです。高崎は自分のレポートは割と余裕だし、飯野はいつものようにひーこら言ってる。
って言うかこれまでの年度の話を見てても年末年始も朝霞Pときゃっきゃと出歩いてるんだから資料は持ってるんだよなあ
果たして飯野の出席ボーナスは高崎に盗られてしまうのか! と言うかあげるから手伝えって言ってる立場でしたね
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