2018(04)
■劇的マッチングの夕食
++++
「ただいまー」
「おっ、お疲れ」
今週から緑ヶ丘大学ではテストが始まった。春は寝坊でレポートがひとつ出せなかったという大失敗もしたし、今回は寝坊をしないようしっかり備えておきたかったんだ。それでエイジにモーニングコールでも何でも、とにかく1限に間に合うように起こしてもらうよう頼んでいた。
普段だったらそれくらい自分でやれと怒られそうなものだけど、今回はエイジも俺の部屋にしばらく住まわせて欲しいと頼んで来たんだ。それというのも。冬の怖さだ。今年はまだいい方みたいだけど、交通機関が麻痺するほどの雪が今から降らないとも限らない。せめて星港市内にいれば、とのことで。
「今日で何回目よ」
「えっと、3回目かな。大分慣れてきたかも」
「そーかそーか。そりゃいいことだっていう」
テスト期間中とは言え、授業の緩い日はある。水曜日は既に実技テストの終わっている体育と、出席で評価の決まる一般教養科目しか取っていない。そんな日には、先週から入っている吊り札付けのアルバイトもしっかりと入って小銭を稼ぐ。とにかくゼミ合宿に行く費用を稼がなくちゃいけないから。
一人暮らしだからそもそもただいまと言って部屋に帰ることはない。だけど、エイジがいるってわかってるからただいまと言って部屋に帰ってくる。すると、台所ではエイジが夕飯の支度をしているところで、辺りにはソース系のいい匂いが漂っていた。うん、おなか空いた。
「エイジ、何作ってるの? 焼きそば?」
「厳密にはオムそばだべ」
「へえ、いいね。ボリューム満点で」
「レトルトだけど肉団子も付けるっていう。それからインスタント味噌汁」
「何か豪勢だね」
「お前のバイト祝いだな」
「バイト祝いって。そんなに大ごとにすることなのかなあ」
「大ごとだべ! バイトなんか選びたい放題の星港市内に住んでおきながらやれ接客が出来ないだの体力がないだの言って働いて来なかったんだ。それが短期とは言え働いてるとか革命だっていう!」
「そこまで言う」
エイジは俺がバイトに行くようになってから本当にご機嫌だ。出てきたオムそばにはお酒を合わせたいところだけど、テスト期間中は一応禁酒するというのが約束事。いつもなら白いご飯とおかず一品っていう感じの夕飯だけど、今日はオムそばと肉団子と味噌汁って本当に豪勢だと思う。
如何せん今は節約生活を余儀なくされていて、お昼も極力300円以下で済ませられるように頑張っている。白いご飯をただ丸めただけのおにぎりを持って行ったりしてね。先週の土曜日には社員の塩見さんにオムライスをご馳走してもらったけど、あれは本当に貴重な食事の機会だったなあって。
エイジがうちにいるときの食費は俺が6に対してエイジが4くらいの割合。そこは半分半分じゃないのかって言われそうだけど、エイジが家のことを結構やってくれちゃってるから、食費くらいは俺が気持ち多めに出しておこうと。正直それでもお釣りが来るくらいだし。
「あと何回行くことになってんだっていう」
「あと5回だね。月末の週はテスト終わってるしフルで行くから」
「じゃあ、計8回か。結構な給料になるべ」
「そうだね。日給が7000円だから」
「まあ、そこから雑費を引かれたとしてもそこそこ残るっていう。振り込みがいつかは知らねーけど、合宿の後でもダメージは回復出来るし何にせよ良かったべ」
「ホントに。何か、締め日の関係で先週の2回分が今月末に振り込まれて、残りの分が来月末に振り込まれるんだって」
7000円×6回分だから、42000円は本当に大きい。いろいろ引かれたとしても、ゼミ合宿分くらいは軽く取り戻せると思う。お小遣いにも余裕を持てそうだから、エイジにもちゃんとおみやげを買ってこよう。そう言えば、果林先輩に持ち物のことを聞いとかないとなあ。
「うん、オムそば美味しい」
「お前が継続的に働けば日頃からもうちょっといいモンが食えるっていう」
「うーん、いいものかあ」
「ラーメンにチャーシュー増やしたり、並盛りを大盛りにしたりな」
「いいね」
「これを機にバイトを始めりゃいいっていう」
「接客が出来ないのが難点でさ」
「接客じゃない仕事もたくさんあるべ」
「人間関係も面倒だし。今はいいじゃない。テスト期間だし。また後で考えるよ」
「あーこれ絶対考えねーヤツ」
「肉団子美味しい」
今回紹介してもらった仕事がたまたま劇的にマッチングしただけで、そうそうこんなにいい仕事っていうのもないと思うんだよね。そんなことを言ってたら何も出来ないのはわかってるんだけど、今はいいかなあって。テストが終わって、ゼミ合宿が終わってから考えよう。
「そんな調子でバイト先で意志疎通とかちゃんと出来てんのか」
「今のところ問題ないよ。先輩たちが良くしてくれてるし、社員さんにご飯に連れてってもらった話もしたでしょ」
「まあな」
「そう言えばこの話ってしたっけ、その社員さんがエイジのこと知ってる風だったっていう」
「聞いてねーべ。え、どこの誰だっていう」
「何か、大晦日にエイジが行ってたっていうライブ? そこに出てたって聞いたんだけど――」
end.
++++
テスト期間中のタカエイですが、今回は朝ではなく夜の話。TKGがバイトから帰ってきたところから始まります。
タカちゃんは基本的に水曜と土曜に働いているようです。塩見さん的には学生3人がもっと揃って欲しかったんだろうけど
そしてアルバイト記念のちょっと豪勢な夕飯。オムそばとレトルトの肉団子。それから味噌汁。多分エイジってレトルト好きだと思うの、衛生的だから。
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「ただいまー」
「おっ、お疲れ」
今週から緑ヶ丘大学ではテストが始まった。春は寝坊でレポートがひとつ出せなかったという大失敗もしたし、今回は寝坊をしないようしっかり備えておきたかったんだ。それでエイジにモーニングコールでも何でも、とにかく1限に間に合うように起こしてもらうよう頼んでいた。
普段だったらそれくらい自分でやれと怒られそうなものだけど、今回はエイジも俺の部屋にしばらく住まわせて欲しいと頼んで来たんだ。それというのも。冬の怖さだ。今年はまだいい方みたいだけど、交通機関が麻痺するほどの雪が今から降らないとも限らない。せめて星港市内にいれば、とのことで。
「今日で何回目よ」
「えっと、3回目かな。大分慣れてきたかも」
「そーかそーか。そりゃいいことだっていう」
テスト期間中とは言え、授業の緩い日はある。水曜日は既に実技テストの終わっている体育と、出席で評価の決まる一般教養科目しか取っていない。そんな日には、先週から入っている吊り札付けのアルバイトもしっかりと入って小銭を稼ぐ。とにかくゼミ合宿に行く費用を稼がなくちゃいけないから。
一人暮らしだからそもそもただいまと言って部屋に帰ることはない。だけど、エイジがいるってわかってるからただいまと言って部屋に帰ってくる。すると、台所ではエイジが夕飯の支度をしているところで、辺りにはソース系のいい匂いが漂っていた。うん、おなか空いた。
「エイジ、何作ってるの? 焼きそば?」
「厳密にはオムそばだべ」
「へえ、いいね。ボリューム満点で」
「レトルトだけど肉団子も付けるっていう。それからインスタント味噌汁」
「何か豪勢だね」
「お前のバイト祝いだな」
「バイト祝いって。そんなに大ごとにすることなのかなあ」
「大ごとだべ! バイトなんか選びたい放題の星港市内に住んでおきながらやれ接客が出来ないだの体力がないだの言って働いて来なかったんだ。それが短期とは言え働いてるとか革命だっていう!」
「そこまで言う」
エイジは俺がバイトに行くようになってから本当にご機嫌だ。出てきたオムそばにはお酒を合わせたいところだけど、テスト期間中は一応禁酒するというのが約束事。いつもなら白いご飯とおかず一品っていう感じの夕飯だけど、今日はオムそばと肉団子と味噌汁って本当に豪勢だと思う。
如何せん今は節約生活を余儀なくされていて、お昼も極力300円以下で済ませられるように頑張っている。白いご飯をただ丸めただけのおにぎりを持って行ったりしてね。先週の土曜日には社員の塩見さんにオムライスをご馳走してもらったけど、あれは本当に貴重な食事の機会だったなあって。
エイジがうちにいるときの食費は俺が6に対してエイジが4くらいの割合。そこは半分半分じゃないのかって言われそうだけど、エイジが家のことを結構やってくれちゃってるから、食費くらいは俺が気持ち多めに出しておこうと。正直それでもお釣りが来るくらいだし。
「あと何回行くことになってんだっていう」
「あと5回だね。月末の週はテスト終わってるしフルで行くから」
「じゃあ、計8回か。結構な給料になるべ」
「そうだね。日給が7000円だから」
「まあ、そこから雑費を引かれたとしてもそこそこ残るっていう。振り込みがいつかは知らねーけど、合宿の後でもダメージは回復出来るし何にせよ良かったべ」
「ホントに。何か、締め日の関係で先週の2回分が今月末に振り込まれて、残りの分が来月末に振り込まれるんだって」
7000円×6回分だから、42000円は本当に大きい。いろいろ引かれたとしても、ゼミ合宿分くらいは軽く取り戻せると思う。お小遣いにも余裕を持てそうだから、エイジにもちゃんとおみやげを買ってこよう。そう言えば、果林先輩に持ち物のことを聞いとかないとなあ。
「うん、オムそば美味しい」
「お前が継続的に働けば日頃からもうちょっといいモンが食えるっていう」
「うーん、いいものかあ」
「ラーメンにチャーシュー増やしたり、並盛りを大盛りにしたりな」
「いいね」
「これを機にバイトを始めりゃいいっていう」
「接客が出来ないのが難点でさ」
「接客じゃない仕事もたくさんあるべ」
「人間関係も面倒だし。今はいいじゃない。テスト期間だし。また後で考えるよ」
「あーこれ絶対考えねーヤツ」
「肉団子美味しい」
今回紹介してもらった仕事がたまたま劇的にマッチングしただけで、そうそうこんなにいい仕事っていうのもないと思うんだよね。そんなことを言ってたら何も出来ないのはわかってるんだけど、今はいいかなあって。テストが終わって、ゼミ合宿が終わってから考えよう。
「そんな調子でバイト先で意志疎通とかちゃんと出来てんのか」
「今のところ問題ないよ。先輩たちが良くしてくれてるし、社員さんにご飯に連れてってもらった話もしたでしょ」
「まあな」
「そう言えばこの話ってしたっけ、その社員さんがエイジのこと知ってる風だったっていう」
「聞いてねーべ。え、どこの誰だっていう」
「何か、大晦日にエイジが行ってたっていうライブ? そこに出てたって聞いたんだけど――」
end.
++++
テスト期間中のタカエイですが、今回は朝ではなく夜の話。TKGがバイトから帰ってきたところから始まります。
タカちゃんは基本的に水曜と土曜に働いているようです。塩見さん的には学生3人がもっと揃って欲しかったんだろうけど
そしてアルバイト記念のちょっと豪勢な夕飯。オムそばとレトルトの肉団子。それから味噌汁。多分エイジってレトルト好きだと思うの、衛生的だから。
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