2018(04)
■傷心の追いビール
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ここ最近、いやにバタバタしている。そんなバタバタの末に辿り着く最後の場所が、いつもの“玄”だ。忘れ物のないようしっかりと支度をして途中で宇部と落ち合い、一緒に暖簾をくぐる。すると、いつものように山口がいらっしゃいませ~と俺たちを出迎えるのだ。
いつものと言う割に最近では割とご無沙汰で、店には来るけど山口がいないパターンも往々にしてある。山口にもとんでもなく久々に会うような感じがする。現に、今年になってから初めて会ったんじゃないかとすら思う。ちょっと記憶が定かじゃないのが申し訳ないんだけど。
「2人とも、生と5種盛りだよね」
「そうだな」
「ええ。それでお願いするわ」
「少々お待ちください」
間髪置かずに生ビールの中ジョッキが出てきて、乾杯を交わす。と言うかテスト前だというのに飲んでばっかりだ。まあ、多少飲んだところでさほど影響なんかしないんだけど。言って3年の文系は一般的に履修コマも少なくなっている頃合いだ。
「はーっ……これが終わればしばらく禁酒だな俺も」
「あら、あなたに禁酒が出来るとでも」
「その気になればいくらでも出来る。現に部活の現役時代は飲まずに台本を書いてたしイケるイケる」
「禁酒をしないといけないほどテストが危ういの?」
「いや、最近ちょっと飲みが多くて。ただでさえ年末年始でめっちゃ金使って激貧だったんだけど、バイト入れたからって調子に乗ってたらこれは絶対貯まらないヤツだと気付いた」
「あなたは交友関係が広いしその分交際費がかかるのは何となくわかるわ」
交際費はかかるときにはめっちゃかかってくるんだよな。実際昨日も伏見から誘われて、西海ついでだからってバイト上がりでベティさんの店で飲んでたんだ。最終的にリン君相手にやらかしてるからどっちにしても酒は少し控えようと思ったなど。
「つか財布云々で言えばコイツとの泊まりが一番ダメージデカかった」
「あら、2人で旅行してたのね」
「そう。俺が朝霞クンを誘ったの。一緒に買い物してイルミネーション見に行かないって。アウトレットで洋服一式選んでもらってマネキン買いしちゃった」
「良かったわね、コーディネートが得意な友人を持って」
「ホントに」
山口の服を選ぶのと同時に自分の服や服飾小物なんかを買いまくったのでウン万散らしたっていうな。い、いいんだ……就活用にもイケて普段使いも出来る腕時計買えたから……。だってしょうがないよな、アウトレットとかそうそう来れないし。旅行補正で財布の紐も緩みまくりだ。
「私は旅行に一緒に行くような友人もないし、友人と泊まりだなんて都市伝説のようなものよ」
「あれっ、学部に仲のいい友達いるでしょ? 日野ちゃんだっけ」
「ひかりは旅行より畑にいる方が楽しいのよ」
「何か知ってる気がするそういう人」
「ん? 何でこっちを見た」
「別に。遊びよりもステージの台本書いてる方が楽しい班長もいたなあと思って。朝霞クンの部活と違って日野ちゃんの畑には終わりも休みもないもんね」
旅行なんて行けて農地見学ツアーくらいかしらと宇部は煙草に火をつけ、息を吐く。山口は遊びより畑を優先する日野に俺を重ねているのか、宇部に理解を示しているようだ。確かに、部活の現役中なら時期にもよるけど俺も遊ぶより台本と向き合っていたかったかもしれない。
「大体、ひかりは1人で何でも出来るのに、事あるごとに私を呼び出してくるのよ」
「メグちゃん、案外満更でもなさそうだけど」
「何だかんだ世話焼きだもんなお前」
「何よ、手の掛かる人ばかりなのよ。当然、あなたも含めてね」
「ちょっ宇部おまっ…! 俺のどこが手が掛かるんだ」
「心当たりがないとは相当悪質ね。どれだけあなたの無鉄砲さが周りを振り回しているか自覚した方がいいわ」
「山口、生おかわり」
「酒癖の悪さも大概なのよ」
「ぐっ…! こ、これは反論出来ない……」
「またやらかしたのね、その様子だと」
「宇部さん、一本下さい……」
思いがけずメンタルがズタズタにやられてしまったので数ヶ月ぶりに貰い煙草を。越谷さんは「ナントカな子ほどかわいい」とか言って俺の酒癖を含めたアレさ加減を受け止めてくれてたけど、もしかすると俺は宇部の言うように無鉄砲で手の掛かる奴なんじゃないかと思い始めたワケで。
これこれこういうことがあって、かくかくしかじかな感じでと昨日から今日にかけての出来事を話すと、山口も宇部もドン引きしてるしちくしょうお前ら黙ってドン引きしてないでむしろ笑ってバカにしてくれた方が救われるじゃねーかっつーのはまさにこのことかと学習した!
「初対面の人に家と逆方向の部屋まで送らせて、その上同じ話をリピートし続けた挙げ句座椅子に座らせた相手にしがみついて寝るなんてそう無いわよ」
「俺だってあるとは思ってねーしむしろ無い!」
「うん、朝霞クンって本当に手が掛かるかも。旅行の時もホテルでスゴかったし」
「え、覚えてないけど俺何した?」
「覚えてないなら思い出さない方がいいかも」
「ちょっと待てそれは逆に気になる!」
「いや~大変だったデショデショ~。昨日の件もあるし、朝霞クン今後女の子とは飲まない方がいいよネ~」
「マジで何した…!?」
何かこのまま無事にこの現場を掻い潜れるような気がしない。こんな調子で明日からのテストを乗り越えられるのか。まあ、実際にはテストやってる日よりもバイトに行ってる日の方が多いんだけども。しばらくは禁酒するから……。
end.
++++
急遽宇部Pの誕生日を祝うはずが、朝霞Pのメンタルがズタズタになっただけの話でした。
しかし、洋めぐは遊ぶよりも目の前の大事なことに一点集中する相方を持ってたのね。農地見学ツアーって何ぞ
そういや朝霞Pの酒癖を含めて面倒を見てたこっしーさんという素晴らしい先輩もいました。ナノスパ的に最近ご無沙汰だなあ
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ここ最近、いやにバタバタしている。そんなバタバタの末に辿り着く最後の場所が、いつもの“玄”だ。忘れ物のないようしっかりと支度をして途中で宇部と落ち合い、一緒に暖簾をくぐる。すると、いつものように山口がいらっしゃいませ~と俺たちを出迎えるのだ。
いつものと言う割に最近では割とご無沙汰で、店には来るけど山口がいないパターンも往々にしてある。山口にもとんでもなく久々に会うような感じがする。現に、今年になってから初めて会ったんじゃないかとすら思う。ちょっと記憶が定かじゃないのが申し訳ないんだけど。
「2人とも、生と5種盛りだよね」
「そうだな」
「ええ。それでお願いするわ」
「少々お待ちください」
間髪置かずに生ビールの中ジョッキが出てきて、乾杯を交わす。と言うかテスト前だというのに飲んでばっかりだ。まあ、多少飲んだところでさほど影響なんかしないんだけど。言って3年の文系は一般的に履修コマも少なくなっている頃合いだ。
「はーっ……これが終わればしばらく禁酒だな俺も」
「あら、あなたに禁酒が出来るとでも」
「その気になればいくらでも出来る。現に部活の現役時代は飲まずに台本を書いてたしイケるイケる」
「禁酒をしないといけないほどテストが危ういの?」
「いや、最近ちょっと飲みが多くて。ただでさえ年末年始でめっちゃ金使って激貧だったんだけど、バイト入れたからって調子に乗ってたらこれは絶対貯まらないヤツだと気付いた」
「あなたは交友関係が広いしその分交際費がかかるのは何となくわかるわ」
交際費はかかるときにはめっちゃかかってくるんだよな。実際昨日も伏見から誘われて、西海ついでだからってバイト上がりでベティさんの店で飲んでたんだ。最終的にリン君相手にやらかしてるからどっちにしても酒は少し控えようと思ったなど。
「つか財布云々で言えばコイツとの泊まりが一番ダメージデカかった」
「あら、2人で旅行してたのね」
「そう。俺が朝霞クンを誘ったの。一緒に買い物してイルミネーション見に行かないって。アウトレットで洋服一式選んでもらってマネキン買いしちゃった」
「良かったわね、コーディネートが得意な友人を持って」
「ホントに」
山口の服を選ぶのと同時に自分の服や服飾小物なんかを買いまくったのでウン万散らしたっていうな。い、いいんだ……就活用にもイケて普段使いも出来る腕時計買えたから……。だってしょうがないよな、アウトレットとかそうそう来れないし。旅行補正で財布の紐も緩みまくりだ。
「私は旅行に一緒に行くような友人もないし、友人と泊まりだなんて都市伝説のようなものよ」
「あれっ、学部に仲のいい友達いるでしょ? 日野ちゃんだっけ」
「ひかりは旅行より畑にいる方が楽しいのよ」
「何か知ってる気がするそういう人」
「ん? 何でこっちを見た」
「別に。遊びよりもステージの台本書いてる方が楽しい班長もいたなあと思って。朝霞クンの部活と違って日野ちゃんの畑には終わりも休みもないもんね」
旅行なんて行けて農地見学ツアーくらいかしらと宇部は煙草に火をつけ、息を吐く。山口は遊びより畑を優先する日野に俺を重ねているのか、宇部に理解を示しているようだ。確かに、部活の現役中なら時期にもよるけど俺も遊ぶより台本と向き合っていたかったかもしれない。
「大体、ひかりは1人で何でも出来るのに、事あるごとに私を呼び出してくるのよ」
「メグちゃん、案外満更でもなさそうだけど」
「何だかんだ世話焼きだもんなお前」
「何よ、手の掛かる人ばかりなのよ。当然、あなたも含めてね」
「ちょっ宇部おまっ…! 俺のどこが手が掛かるんだ」
「心当たりがないとは相当悪質ね。どれだけあなたの無鉄砲さが周りを振り回しているか自覚した方がいいわ」
「山口、生おかわり」
「酒癖の悪さも大概なのよ」
「ぐっ…! こ、これは反論出来ない……」
「またやらかしたのね、その様子だと」
「宇部さん、一本下さい……」
思いがけずメンタルがズタズタにやられてしまったので数ヶ月ぶりに貰い煙草を。越谷さんは「ナントカな子ほどかわいい」とか言って俺の酒癖を含めたアレさ加減を受け止めてくれてたけど、もしかすると俺は宇部の言うように無鉄砲で手の掛かる奴なんじゃないかと思い始めたワケで。
これこれこういうことがあって、かくかくしかじかな感じでと昨日から今日にかけての出来事を話すと、山口も宇部もドン引きしてるしちくしょうお前ら黙ってドン引きしてないでむしろ笑ってバカにしてくれた方が救われるじゃねーかっつーのはまさにこのことかと学習した!
「初対面の人に家と逆方向の部屋まで送らせて、その上同じ話をリピートし続けた挙げ句座椅子に座らせた相手にしがみついて寝るなんてそう無いわよ」
「俺だってあるとは思ってねーしむしろ無い!」
「うん、朝霞クンって本当に手が掛かるかも。旅行の時もホテルでスゴかったし」
「え、覚えてないけど俺何した?」
「覚えてないなら思い出さない方がいいかも」
「ちょっと待てそれは逆に気になる!」
「いや~大変だったデショデショ~。昨日の件もあるし、朝霞クン今後女の子とは飲まない方がいいよネ~」
「マジで何した…!?」
何かこのまま無事にこの現場を掻い潜れるような気がしない。こんな調子で明日からのテストを乗り越えられるのか。まあ、実際にはテストやってる日よりもバイトに行ってる日の方が多いんだけども。しばらくは禁酒するから……。
end.
++++
急遽宇部Pの誕生日を祝うはずが、朝霞Pのメンタルがズタズタになっただけの話でした。
しかし、洋めぐは遊ぶよりも目の前の大事なことに一点集中する相方を持ってたのね。農地見学ツアーって何ぞ
そういや朝霞Pの酒癖を含めて面倒を見てたこっしーさんという素晴らしい先輩もいました。ナノスパ的に最近ご無沙汰だなあ
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