2018(04)
■ヘイAI、次は違う話聞かせて
++++
……さて、身動きは取れないし腕は痺れているしでオレはどうしたものか。テレビからは彼是3周目となった映画が流れ続けている。もうしばらくすれば、日が昇る気配も見え始めるだろうか。しかし、日が昇ってもオレは動きを封じられたままであれば、大分しんどさがある。
身動きが取れないものの、救いは座椅子の座り心地がいいことだろう。オレを抱き枕かクッション代わりにして爆睡しているのは、昨日美奈と行ったバーで出会い知り合った朝霞という男だ。店で意気投合したまでは良かったが、朝霞は喋りと酒がどんどん進み、泥酔したのだ。
昨日相席をした4人中3人が西海市在住で、朝霞だけは帰る方向が逆だった。仕方がないのでアパートまで送りついでに部屋で少し話していたらこうだ。あれよあれよと映画を見る流れになりそれについてハツラツと喋っていたかと思えば、急に糸が切れたように落ちた。
「……しかし、どうしたものか」
変な体勢で寝て腰や首を痛めないものか。明らかに腰が捻じれているが。すうすうと立てている寝息からすれば熟睡しているようだ。しかしどんな状況、どんな体勢でも眠れるというのはいい特技かもしれん。オレはかつて男の胸板を枕代わりにここまで爆睡する男を見たことがない。
もしも動くことが出来たのであれば、朝霞が爛々として語っていたDVD群の中から適当な作品を見たのだが、如何せん立ち上がりも出来なければ伸び代わりに身を捩ることも出来ない。幸いリモコンには手が届いたから、同じ映画を繰り返し見ることは出来た。SF世界でよくあるオートメーション生活の実現が待たれる。オッケーグーグル、何が違う映画流して。
「……んぅ……」
「お」
「んー……ん、えっ」
「朝霞、起きたか」
「え……まって、いまなんじ…?」
「6時半だ。それはいいが、そろそろ解放してくれんか」
「うえぇっ!? またやった! ホントゴメン! ……ぅあ~ったまいてぇ……」
「あれだけ飲めば二日酔いにもなるだろう。お前はお世辞にも強くないようだからな。まあ、水を飲め」
「本当にすみません……」
身をもって体験したが、朝霞本人も自身の酒癖があまり良くないことを自覚している。酒にあまり強くないことを理解しつつも場の空気に飲まれてつい酒量が増えすぎてしまうそうだ。弱い奴にありがちなヤツだな。
覚醒した瞬間の「またやった」というのは、このようなことをサークルの先輩相手によくやってしまうそうだ。その先輩は気心知れた相手だからともかく、いくら意気投合したと言え昨日初めて知り合った相手にそれをやるかと猛省している様子。
「えっ、つか俺1時過ぎから記憶ないんだけど、それからずっとリン君にしがみついて寝てた感じ?」
「ああ。腕と腰をガッチリホールドされていたな」
「ホントすみません……」
朝霞は水をちびちび飲みながら、正座でオレから昨夜のことを聞いている。店でやたらカシューナッツを推してオレに話しかけてきたことや、帰りのコンビニで明日の朝食べるんだと言ってレンジで温めるスープを買ったことなどは覚えているらしい。
ただ、この部屋に帰って来てからは記憶があやふやになっているようだ。まあ、実際は映画を見ていただけだから大したことはしていないし喋ってもないのだが。と言うかどうやらコイツは酔うと同じことを何度でも繰り返すらしく、部屋に帰って来たからのことはそれまでに聞いていた内容と酷似していた。
「って言うかリン君西海在住なのに、わざわざ俺を送るのに星港まで戻ってくれたとか申し訳なさすぎる」
「どうせ大学には戻らねばならん。問題ない」
「日曜日なのに大学に行くの?」
「研究の方は一応休みだが、バイトで使う楽譜をゼミ室に置き忘れていてな。それを取りに行かねば今日のバイトがままならん」
「そっか、リン君ピアノ弾くんだっけ」
……などと話していると、腹の虫が鳴いた。オレも普通に腹が減っていたのだ。
「お前の朝食以外に何か食うものはあるか」
「あったかなあ」
「と言うか、二日酔いは大丈夫なのか」
「まだもうちょっとふらふらする」
「常習であるならスポーツドリンクとアミノ酸のBCAA、それからビタミンB1のサプリメントを常備しておけ」
「レッドブルじゃダメ?」
「カフェインの利尿作用で脱水が進むぞ」
朝霞のスープをレンジにかけ、その間オレは食う物を探す。ある物は適当に食っていいと言うから食材のありそうなところを少し漁っていたら、ジップ付き袋に詰められた冷凍のサトイモが出てきた。芋類など縁起でもないし、これはさすがに調理が出来ない。
ごく普通の食パンが出てきたから、それをいただくことに。焼いて食うのが主流だろうが、焼くのがまず面倒だからそのまま食う。センターでは烏丸がそのようにして食っているから何ら問題ないだろう。背に腹は代えられない。
「朝霞、スープが温まったぞ」
「ありがとう、何から何まで」
「しかし食糧のない部屋だな。自炊はあまりせんのか」
「簡単にやるくらいかな。あと今は特別金欠だからっていうのもある。ご飯とサトイモとミカンで食い繋いでるって感じで」
「ミカンなどあったか」
「あ、うん。玄関の方に。山羽の実家から送って来たヤツなんだけど、いっぱいあるし良かったら持ってく?」
「しかし、お前のなけなしの食糧なのではないか」
「食べ切れなくても腐るだけだから」
「では、いただこう。如何せん大学に籠っていると果物を食う機会などそうそうないからな」
「あの……リン君」
「ん?」
「良かったら、また俺と会ってくれますか」
「フッ。そうだな、お前の話ばかり聞かされてオレの話が出来ていないからな」
良くも悪くも純粋と言うか無垢と言うか。朝霞が変な奴であるということだけははっきりとわかったが、話を聞く感じ悪い奴ではなさそうだ。まあ、変な奴ではあるのだが、センターの連中と比べると圧倒的な人畜無害さだ。
「って言うか俺寝てる時リン君の服によだれとか垂らしてないよね? 汚れてない?」
「まあ、見る限り大丈夫だろう」
end.
++++
リン様マジリン様だし朝霞Pも朝霞Pで安定である。つか朝霞Pオムライスの後で飲みに行ったんか
さて、例によってIF3年悪酔い四天王の一角・朝霞Pがやらかしたようなのですが、お世話をするリン様よ。そんでどんな寝方してん
初対面の人相手にもやらかす朝霞P、そろそろ真面目に酒癖を反省した方がいい
.
++++
……さて、身動きは取れないし腕は痺れているしでオレはどうしたものか。テレビからは彼是3周目となった映画が流れ続けている。もうしばらくすれば、日が昇る気配も見え始めるだろうか。しかし、日が昇ってもオレは動きを封じられたままであれば、大分しんどさがある。
身動きが取れないものの、救いは座椅子の座り心地がいいことだろう。オレを抱き枕かクッション代わりにして爆睡しているのは、昨日美奈と行ったバーで出会い知り合った朝霞という男だ。店で意気投合したまでは良かったが、朝霞は喋りと酒がどんどん進み、泥酔したのだ。
昨日相席をした4人中3人が西海市在住で、朝霞だけは帰る方向が逆だった。仕方がないのでアパートまで送りついでに部屋で少し話していたらこうだ。あれよあれよと映画を見る流れになりそれについてハツラツと喋っていたかと思えば、急に糸が切れたように落ちた。
「……しかし、どうしたものか」
変な体勢で寝て腰や首を痛めないものか。明らかに腰が捻じれているが。すうすうと立てている寝息からすれば熟睡しているようだ。しかしどんな状況、どんな体勢でも眠れるというのはいい特技かもしれん。オレはかつて男の胸板を枕代わりにここまで爆睡する男を見たことがない。
もしも動くことが出来たのであれば、朝霞が爛々として語っていたDVD群の中から適当な作品を見たのだが、如何せん立ち上がりも出来なければ伸び代わりに身を捩ることも出来ない。幸いリモコンには手が届いたから、同じ映画を繰り返し見ることは出来た。SF世界でよくあるオートメーション生活の実現が待たれる。オッケーグーグル、何が違う映画流して。
「……んぅ……」
「お」
「んー……ん、えっ」
「朝霞、起きたか」
「え……まって、いまなんじ…?」
「6時半だ。それはいいが、そろそろ解放してくれんか」
「うえぇっ!? またやった! ホントゴメン! ……ぅあ~ったまいてぇ……」
「あれだけ飲めば二日酔いにもなるだろう。お前はお世辞にも強くないようだからな。まあ、水を飲め」
「本当にすみません……」
身をもって体験したが、朝霞本人も自身の酒癖があまり良くないことを自覚している。酒にあまり強くないことを理解しつつも場の空気に飲まれてつい酒量が増えすぎてしまうそうだ。弱い奴にありがちなヤツだな。
覚醒した瞬間の「またやった」というのは、このようなことをサークルの先輩相手によくやってしまうそうだ。その先輩は気心知れた相手だからともかく、いくら意気投合したと言え昨日初めて知り合った相手にそれをやるかと猛省している様子。
「えっ、つか俺1時過ぎから記憶ないんだけど、それからずっとリン君にしがみついて寝てた感じ?」
「ああ。腕と腰をガッチリホールドされていたな」
「ホントすみません……」
朝霞は水をちびちび飲みながら、正座でオレから昨夜のことを聞いている。店でやたらカシューナッツを推してオレに話しかけてきたことや、帰りのコンビニで明日の朝食べるんだと言ってレンジで温めるスープを買ったことなどは覚えているらしい。
ただ、この部屋に帰って来てからは記憶があやふやになっているようだ。まあ、実際は映画を見ていただけだから大したことはしていないし喋ってもないのだが。と言うかどうやらコイツは酔うと同じことを何度でも繰り返すらしく、部屋に帰って来たからのことはそれまでに聞いていた内容と酷似していた。
「って言うかリン君西海在住なのに、わざわざ俺を送るのに星港まで戻ってくれたとか申し訳なさすぎる」
「どうせ大学には戻らねばならん。問題ない」
「日曜日なのに大学に行くの?」
「研究の方は一応休みだが、バイトで使う楽譜をゼミ室に置き忘れていてな。それを取りに行かねば今日のバイトがままならん」
「そっか、リン君ピアノ弾くんだっけ」
……などと話していると、腹の虫が鳴いた。オレも普通に腹が減っていたのだ。
「お前の朝食以外に何か食うものはあるか」
「あったかなあ」
「と言うか、二日酔いは大丈夫なのか」
「まだもうちょっとふらふらする」
「常習であるならスポーツドリンクとアミノ酸のBCAA、それからビタミンB1のサプリメントを常備しておけ」
「レッドブルじゃダメ?」
「カフェインの利尿作用で脱水が進むぞ」
朝霞のスープをレンジにかけ、その間オレは食う物を探す。ある物は適当に食っていいと言うから食材のありそうなところを少し漁っていたら、ジップ付き袋に詰められた冷凍のサトイモが出てきた。芋類など縁起でもないし、これはさすがに調理が出来ない。
ごく普通の食パンが出てきたから、それをいただくことに。焼いて食うのが主流だろうが、焼くのがまず面倒だからそのまま食う。センターでは烏丸がそのようにして食っているから何ら問題ないだろう。背に腹は代えられない。
「朝霞、スープが温まったぞ」
「ありがとう、何から何まで」
「しかし食糧のない部屋だな。自炊はあまりせんのか」
「簡単にやるくらいかな。あと今は特別金欠だからっていうのもある。ご飯とサトイモとミカンで食い繋いでるって感じで」
「ミカンなどあったか」
「あ、うん。玄関の方に。山羽の実家から送って来たヤツなんだけど、いっぱいあるし良かったら持ってく?」
「しかし、お前のなけなしの食糧なのではないか」
「食べ切れなくても腐るだけだから」
「では、いただこう。如何せん大学に籠っていると果物を食う機会などそうそうないからな」
「あの……リン君」
「ん?」
「良かったら、また俺と会ってくれますか」
「フッ。そうだな、お前の話ばかり聞かされてオレの話が出来ていないからな」
良くも悪くも純粋と言うか無垢と言うか。朝霞が変な奴であるということだけははっきりとわかったが、話を聞く感じ悪い奴ではなさそうだ。まあ、変な奴ではあるのだが、センターの連中と比べると圧倒的な人畜無害さだ。
「って言うか俺寝てる時リン君の服によだれとか垂らしてないよね? 汚れてない?」
「まあ、見る限り大丈夫だろう」
end.
++++
リン様マジリン様だし朝霞Pも朝霞Pで安定である。つか朝霞Pオムライスの後で飲みに行ったんか
さて、例によってIF3年悪酔い四天王の一角・朝霞Pがやらかしたようなのですが、お世話をするリン様よ。そんでどんな寝方してん
初対面の人相手にもやらかす朝霞P、そろそろ真面目に酒癖を反省した方がいい
.