2018(04)

■チーム温玉とオムライス

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 大石がバイトしている倉庫でのバイトが始まって1週間。今日は土曜日ということで授業のない高木君も含めて久々に学生チームが3人集合した。高木君は1年生だし、なっちも地味に授業があるということでなかなか3人集まる機会は少なかったんだ。
 そして5時半になり、今日の仕事が無事に終わった。仕事が終わればいつものように大石の車で豊葦市方面に向かって帰るのだ。車内ではなっちが乗り物酔い対策のためにひたすら喋っていたりするし、こないだの水曜日は4人で飯を食ったりもした。今日もきっとそんな感じだろう。

「おーい朝霞、学生チーム」
「塩見さん。何かありましたか」

 俺は火水木土と来ていたから学生チームの代表のような感じで社員の塩見さんからも名前を覚えられ、昼には大石つてにゆで卵をもらったりもした。どうやら向舞祭のリハの時に食べたあの素晴らしいゆで卵の話を大石がしていたらしい。塩見さんのゆで卵は相変わらず神懸かっていた。

「良かったらお前ら今日俺と飯でも行かねえか。美味いオムライスの店がこの近くにあるんだよ」
「行きたいです!」
「朝霞は即答だな。お前らはどうする。高木」
「食べたい気持ちは強いですが」
「なら食え」
「はい」
「菜月はどうする」
「行きたいですけどうちの部屋が豊葦じゃないですか」
「俺が送る」

 ――とまあ、こんな感じであれよあれよと全員が参加することに。大石も来るようで、まずは車を置いてくるらしい。そして大石の家でそのままアイツを拾って店まで行くような感じだ。
 塩見さんは見た目が派手だしたまに堅気とは思えないくらいに怖いこともあるけど、面倒見が良くて優しい人だとは大石から聞いていた。事前情報があっても初めての時はビビった。でも仕事がめっちゃ出来る人だというのはわかった。
 俺はあまりひとつの現場に長居しないから、こんな風に社員さんと飯に行くというような経験はない。美味いオムライスは楽しみだけど、緊張も少しある。でも、こんなことでもないと塩見さんとじっくり話す機会もないだろうから、どっちかと言えばワクワクの方が強いかもしれない。

「お前らみんな一人暮らしだろ。ヒマな時は何してるんだ?」
「俺は映画見たり読書したりしてますね」
「俺はギターを弾くか、パソコンかスマホでゲームしてます」
「うちも基本ゲームですね。パソコンに入ってるソリティアか、スマホでツミツミかって感じで。あ、ツミツミ動画を見たりもしてます」
「全員インドア派か」
「てかなっち何ツミツミ動画って」
「朝霞は動画サイトを見たりしないのか? たまにすごい上手い人がプレイ動画を上げてたりするから、それを参考にしてるんだ」
「へえ。おすすめはある?」
「うちがよく見てるのはSDXっていうグループのソルさんて人が上げてる動画かな。あの人はホント上手い」
「こほん」
「今度探して見てみるわ。あっ、塩見さんはお休みの日には何をしてるんですか?」
「まあ、俺もバンドの練習かツミツミってトコだな。それと家のことか」
「えっ、バンドやってるんですか」
「軽くな」
「パートは」
「ベースボーカルだ」
「えー! ベースボーカルって難しいって言うじゃないですか! すごー」

 ベースボーカルというのになっちがすごく食いついてきた。なっちはどうやら音楽が好きなようで、CDショップでひたすら視聴をしているだけで1日潰せるし、それで散財した結果3週間を3000円で暮らさなければならなくなったこともあるらしい。気持ちはわからないでもない。俺も本やDVDにはめっちゃ出すし。

「楽器やってる人は高木を含めてちょこちょこいたけど、ベースの人に会うのは初めてだ。すごーい」
「あ、俺もカウントされてるんですね」
「立派にカウント出来るぞ。ちゃんとギターを弾けるじゃないかお前も」
「最近はご無沙汰ですけど」
「ちょっとやらねえと全然出来なくなるんだよな、楽器って」
「そうですね。なので毎回初めてみたいな感覚で」
「1日5分でいいからちょこちょこ触った方がいいぞ」
「そうですね」
「なっちの周りって他に誰かいるの楽器やってる人」
「いや、高崎がいるくらいで他はあんまり知らないけど」
「高崎先輩はドラムですよね。何か先月ドラムパッドを買ったって聞きました」
「うん、それは聞いた。何か、バイト先にいるクソみたいな先輩から謎のライブイベントに巻き込まれたとかって。それで大晦日にライブやってたらしい」
「へー、高崎ってドラムやってるのか」
「ん? 菜月、今言ってるそのドラムの奴ってもしかしてユーヤのことか」
「え、塩見さん高崎のこと知ってるんですか」
「そのバイト先にいるクソみたいな先輩っつー奴が俺のバンドのギターなんだ。その関係で顔を合わせるんだよ。年末のライブでも一緒だったしな」

 これには3人みんなで「へー」の大合唱。世間の狭さを再確認した。って言うかそんな面白そうなイベントがあったんだ。俺は楽器をやってないから参加は出来なかっただろうけど、やろうと思えば何でも興せるってことの証明だな。
 と言うか大石を拾う前に会話がこのボリューム。これで大石を拾ったらどうなるのやら。そして俺たちがやいやいうるさくしてるのに塩見さんはその話をちゃんと聞いてくれるし。俺もそんな余裕のある大人になりたい。

「さ、もうすぐ千景ん家だな」
「って言うか大飯喰らいの大石が普通のオムライスで足りるのかなあ」
「聞いて驚くな菜月。今から行く店は大盛り無料、卵増し50円という良心的な店なんだ」
「ナ、ナンダッテー!?」


end.


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ナノスパあるある、本題に辿り着く前に話が終わる。塩見さんの車の中からお送りします。
朝霞Pは塩見さんがどういう生活をしてるのかにも興味があって話を振っているみたいですね。
ちーちゃんも大飯喰らいだけど、塩見さんも同等かそれ以上に大飯喰らいなので大盛り系のお店はいっぱい知ってるだろうなあ

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