2018(04)
■Were in trouble!
++++
「2枚終ーわり。野坂、交代」
「はーい」
サークルの活動自体は12月で終わりだけど、サークル活動日以外にもやらなければならないことはいろいろある。例えば、年末に菜月先輩が大量に置いて行ってくれたMDストックのAD作業など。年が明け、目の前に山積みになったディスクとの格闘が始まった。
AD作業は、番組で使う曲のイントロもしくは中トロ、アウトロのトラックタイムはどこからどこまでかというのを計るのだ。そしてディスクにタイトルが入れられてない場合はそれをつまみを回して入れなきゃいけないんだけど、今回は菜月先輩がやってくれていたのでネーム入れはなし。
これは機材管理担当の俺に託された仕事だったけど、さすがに1人でやるのは酷だろうと律が手伝ってくれている。2枚片付けたら交代というルールだ。相手が作業をしている間は俺なら勉強だし、律は読書をして時間を潰す。
そして律から課されたもうひとつの課題がある。ミキサーとしては致命的とも言える俺の曲の引き出しのなさを新年度が始まるまでに少しは改善しろというものだ。そこで設けられたルールが、このAD作業中は録音されている曲を最低でもワンコーラスは聞かなくてはならないというもの。
AD作業はイントロの秒数さえわかってしまえばあとは曲のトータルタイムを計測すれば飛ばしてしまっても何ら問題ない。だけど、それをワンコーラスしっかり聞くとなれば1分半から2分はかかってしまう。作業効率としては非常に悪い。だけど、効率よりも俺の引き出しが優先されたらしい。
「しかしまあ、菜月先輩の趣味が前面に押し出されていると言うか」
「そりゃァ菜月先輩の音源なんスから当然ショ」
「まあな」
「それに、わざわざストックリストも途中まで作ってもらってんスから」
このMDストックをサークルに寄贈して数日後、菜月先輩が俺に送って来たメールにはエクセルシートが添付されていた。それを開いてみれば、ディスクごとにトラックナンバーと曲名、それからトータルタイムが入っていたのだ。
あとはイントロを入力するだけという超絶親切仕様の物を送っていただいたおかげで俺と律はイントロ探しに集中することが出来ている。それだけメモすれば後はポチポチと入力していくだけなのだから。と言うかその作業だけならスマホでも出来る。
「あーあ、雑記帳も全部読み終わりヤしたわ」
「あんだけあった物をもう読んだのか」
「実質菜月先輩の日記か手記スよね。ヤ、お前にとっちゃ閻魔帳って言う方が正しいスかねェー」
「うるせーよ」
サークルの雑記帳は、雑記帳と言うだけあってそれこそ好きな時に書きたい人が適当なことを書き連ねるための帳面だ。だけど、こと筆不精の多いこのMMPというサークルではそれをするのがほぼほぼ菜月先輩と律だけで、その2人の書きこみでノートが埋まってしまうのだ。
実質菜月先輩の日記か手記と化したそのノートが俺にとっての閻魔帳なのか。それは、昼放送の収録で俺が菜月先輩をお待たせしている間、菜月先輩はただひたすらにこの雑記帳に文字を埋め続けていらっしゃったのだ。つまり、俺が遅れた分だけ文字数が増えると。そして、その日の文章は俺が到着した時間が記されて閉められる。
元々菜月先輩は人の名前以外の物覚えはとてもいい。人の名前以外は一度聞けば大体覚えていらっしゃる。その上、ただ聞くだけではなく手で書くことでより一層記憶に定着されるのだ。俺への恨み辛みも生々しく記されていて、何て言うか申し訳なさしかないですよね。
「ま、雑記帳は大体読んじまったンで、書記ノートでも読みヤすかァー」
「書記ノートに面白いことなんて書いてあるか?」
「や、菜月先輩の時代にはいろいろ面白いコトが書いてあるンすわ」
「安定の菜月先輩じゃないか」
――と、サークルの議事録とも言える書記ノートを律が開いてしばし。「あ」と声がしたかと思えば、律は「ヤバい、ヤバい」とブツブツ呟き始めた。俺ならともかく律がそこまでヤバいと危機感をあらわにすることは少ない。書記ノートに何か弱味が記されていたワケでもあるまいし。
「野坂、これは非常にヤバいすわ」
「何がそこまでヤバかったんだよ」
「ところで、4年生追いコンっつー行事の存在は覚えてヤしたか?」
「……ああーっ!」
「やァー、今の今まですーっかり忘れてヤした。今からでも間に合いヤすかねェー」
「うーわー、俺もすーっかり忘れてた……つかこの調子だったら全員考えてすらないよな」
「でしょーね。ワンチャン前ツートップがあるかないか」
4年生追いコン。その名の通り、4年生の追い出しコンパ。その存在をすっかり忘れていた俺と律は、ちゃちなラブ&ピースなど軽く吹き飛ばす某女傑様の脅威に震えていた。
「例年の感じなら2月第2週もしくは3週目の金曜日っつー感じスかね。その頃になるとまず」
「4年生の予定が」
「それもあるンすけど、この代の場合は3年生の招集もまァ難しいスわ。誰も向島にいない可能性もありやすからね」
「そっか、3人とも下宿生だからか!」
「それでなくても就活だなんだって忙しくなりやすからね。っつーワケで野坂、自分は4年生と会場を押さえやす。野坂は3年生を押さえてくーださい」
「わかった。後でだったら忘れるから、今文面を作っていいか」
「そースね。同じ文面にしやしょう」
急遽舞い込んで来た追いコンの仕事に、それまでの作業はどこへやら。イントロやなんかを探していたディスクはずーっと流しっぱなし。だけどしょうがない、追いコンシーズンの居酒屋予約は1分1秒を争うんだから。
「つか1・2年は」
「冠婚葬祭以外で予定入れた奴はギタギタにするだけスから問題ねースわ」
end.
++++
ノサカが仕事をしているようです。手伝ってくれるりっちゃんは優しいなあ
さて、4年生追いコンなどの支度も始めなければならないんですね。1ヶ月なんかもうすぐそこですわ……
焦るりっちゃんというのもなかなかにレア。それだけお麻里様は恐ろしいんですな
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「2枚終ーわり。野坂、交代」
「はーい」
サークルの活動自体は12月で終わりだけど、サークル活動日以外にもやらなければならないことはいろいろある。例えば、年末に菜月先輩が大量に置いて行ってくれたMDストックのAD作業など。年が明け、目の前に山積みになったディスクとの格闘が始まった。
AD作業は、番組で使う曲のイントロもしくは中トロ、アウトロのトラックタイムはどこからどこまでかというのを計るのだ。そしてディスクにタイトルが入れられてない場合はそれをつまみを回して入れなきゃいけないんだけど、今回は菜月先輩がやってくれていたのでネーム入れはなし。
これは機材管理担当の俺に託された仕事だったけど、さすがに1人でやるのは酷だろうと律が手伝ってくれている。2枚片付けたら交代というルールだ。相手が作業をしている間は俺なら勉強だし、律は読書をして時間を潰す。
そして律から課されたもうひとつの課題がある。ミキサーとしては致命的とも言える俺の曲の引き出しのなさを新年度が始まるまでに少しは改善しろというものだ。そこで設けられたルールが、このAD作業中は録音されている曲を最低でもワンコーラスは聞かなくてはならないというもの。
AD作業はイントロの秒数さえわかってしまえばあとは曲のトータルタイムを計測すれば飛ばしてしまっても何ら問題ない。だけど、それをワンコーラスしっかり聞くとなれば1分半から2分はかかってしまう。作業効率としては非常に悪い。だけど、効率よりも俺の引き出しが優先されたらしい。
「しかしまあ、菜月先輩の趣味が前面に押し出されていると言うか」
「そりゃァ菜月先輩の音源なんスから当然ショ」
「まあな」
「それに、わざわざストックリストも途中まで作ってもらってんスから」
このMDストックをサークルに寄贈して数日後、菜月先輩が俺に送って来たメールにはエクセルシートが添付されていた。それを開いてみれば、ディスクごとにトラックナンバーと曲名、それからトータルタイムが入っていたのだ。
あとはイントロを入力するだけという超絶親切仕様の物を送っていただいたおかげで俺と律はイントロ探しに集中することが出来ている。それだけメモすれば後はポチポチと入力していくだけなのだから。と言うかその作業だけならスマホでも出来る。
「あーあ、雑記帳も全部読み終わりヤしたわ」
「あんだけあった物をもう読んだのか」
「実質菜月先輩の日記か手記スよね。ヤ、お前にとっちゃ閻魔帳って言う方が正しいスかねェー」
「うるせーよ」
サークルの雑記帳は、雑記帳と言うだけあってそれこそ好きな時に書きたい人が適当なことを書き連ねるための帳面だ。だけど、こと筆不精の多いこのMMPというサークルではそれをするのがほぼほぼ菜月先輩と律だけで、その2人の書きこみでノートが埋まってしまうのだ。
実質菜月先輩の日記か手記と化したそのノートが俺にとっての閻魔帳なのか。それは、昼放送の収録で俺が菜月先輩をお待たせしている間、菜月先輩はただひたすらにこの雑記帳に文字を埋め続けていらっしゃったのだ。つまり、俺が遅れた分だけ文字数が増えると。そして、その日の文章は俺が到着した時間が記されて閉められる。
元々菜月先輩は人の名前以外の物覚えはとてもいい。人の名前以外は一度聞けば大体覚えていらっしゃる。その上、ただ聞くだけではなく手で書くことでより一層記憶に定着されるのだ。俺への恨み辛みも生々しく記されていて、何て言うか申し訳なさしかないですよね。
「ま、雑記帳は大体読んじまったンで、書記ノートでも読みヤすかァー」
「書記ノートに面白いことなんて書いてあるか?」
「や、菜月先輩の時代にはいろいろ面白いコトが書いてあるンすわ」
「安定の菜月先輩じゃないか」
――と、サークルの議事録とも言える書記ノートを律が開いてしばし。「あ」と声がしたかと思えば、律は「ヤバい、ヤバい」とブツブツ呟き始めた。俺ならともかく律がそこまでヤバいと危機感をあらわにすることは少ない。書記ノートに何か弱味が記されていたワケでもあるまいし。
「野坂、これは非常にヤバいすわ」
「何がそこまでヤバかったんだよ」
「ところで、4年生追いコンっつー行事の存在は覚えてヤしたか?」
「……ああーっ!」
「やァー、今の今まですーっかり忘れてヤした。今からでも間に合いヤすかねェー」
「うーわー、俺もすーっかり忘れてた……つかこの調子だったら全員考えてすらないよな」
「でしょーね。ワンチャン前ツートップがあるかないか」
4年生追いコン。その名の通り、4年生の追い出しコンパ。その存在をすっかり忘れていた俺と律は、ちゃちなラブ&ピースなど軽く吹き飛ばす某女傑様の脅威に震えていた。
「例年の感じなら2月第2週もしくは3週目の金曜日っつー感じスかね。その頃になるとまず」
「4年生の予定が」
「それもあるンすけど、この代の場合は3年生の招集もまァ難しいスわ。誰も向島にいない可能性もありやすからね」
「そっか、3人とも下宿生だからか!」
「それでなくても就活だなんだって忙しくなりやすからね。っつーワケで野坂、自分は4年生と会場を押さえやす。野坂は3年生を押さえてくーださい」
「わかった。後でだったら忘れるから、今文面を作っていいか」
「そースね。同じ文面にしやしょう」
急遽舞い込んで来た追いコンの仕事に、それまでの作業はどこへやら。イントロやなんかを探していたディスクはずーっと流しっぱなし。だけどしょうがない、追いコンシーズンの居酒屋予約は1分1秒を争うんだから。
「つか1・2年は」
「冠婚葬祭以外で予定入れた奴はギタギタにするだけスから問題ねースわ」
end.
++++
ノサカが仕事をしているようです。手伝ってくれるりっちゃんは優しいなあ
さて、4年生追いコンなどの支度も始めなければならないんですね。1ヶ月なんかもうすぐそこですわ……
焦るりっちゃんというのもなかなかにレア。それだけお麻里様は恐ろしいんですな
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