2018(04)
■きらきらぼしのお兄ちゃん
++++
「ういーす、星羅ー」
電車を乗り継ぎえんやこら。豊葦にある星羅の家のインターホンを鳴らす。いつもならスガと一緒に来るんだけど、今日は俺単独で。って言うかスガの車があるからスガも家にはいるっぽいんだけど。
「星羅ー?」
いつもは1回鳴らせば星羅が出迎えてくれるけど、今日はそれがない。スガがいねーから反応が鈍いとかじゃねーよな。もしくは逆か。いちゃついてて反応が鈍いか。いや、俺じゃあるまいしスガと星羅でそれはないか。あれー、誰もいないのかな。これくらいの時間に来るって言っておいたんだけど。
「太一くん?」
「きらら~! 誰も出てくれねーからもうすぐ泣きそうだったぜ」
「お姉なら泰稚さんと買い物に出てるけど」
「マジかよアイツ」
「上がって待ってて」
「お邪魔しまーす」
階段から下りて来て俺を出迎えてくれたのは、星羅の妹のきららだ。きららは星羅の妹にしちゃ背がめちゃんこ高くて、下手したら俺と同じくらいなんじゃねーかなと思う。背中まで伸びたストレートの茶髪とマスク姿が印象的だ。
マスクはきららが病気がちだからとか感染症予防とかじゃなくて、マスクをしていないと落ち着かないっていう最近ちょっと多いらしいヤツだ。きららは年齢的には高3だけど、中学ン時から引きこもってて今はデザインの勉強をしながらフリーのイラストレーターをしている。
「そうだきらら、ケーキ買ってきたから。あとでみんなで食べて」
「ありがとう。でも太一くん、自分はケーキ好きじゃないのにわざわざうちの家族の分まで」
「いーのいーの。俺らはお邪魔してる立場だし、たまにはな。何かすっげー美味いらしいから多分お前は好きだと思う。気になるのあったら今のうちに旗立てとけな」
須賀家では、ケーキなどを確保するときには各々の色の旗を立てるというルールがあるらしい。昔、海外から帰ってきた誠司さんが糖分欲しさに冷蔵庫の中のケーキを食ったら、それが星羅がすごく楽しみにしていた物であやうく絶交されかけたという事件がきっかけで制定されたとか。
このケーキは茉莉奈がすげー美味い店とか言って紹介してくれたトコの物だけど、どれが須賀家の誰の好みでとかそんなことは考えて買ってきていない。それこそ欲しい物があれば早い者勝ちで。甘い物が好きなきららは黄色い旗を握りしめてジッと考え込んでいる。
「ただいまなんだー!」
「あ、お姉」
玄関から星羅の声がした瞬間、ケーキの箱を覗いてじっくり考え込んでいたきららは旗を刺した。何層にも重なったミルクレープ。
「カン、来てたんだ?」
「ったく、4時半に来るっつったじゃねーか! 15分も遅れやがって。お前ら、俺の相手してくれてたきららに感謝しろよ」
「きらら、ありがとうなんだ」
「お姉、太一くんがケーキ買ってきてくれた。うちの家族にもって」
「そうなんだ? カン、ありがとうなんだ」
「お前も好きなの選べよ。きららはもう取ったから」
いただきますなんだーと星羅は青い旗を握った。一応スガも頭数には入れてあるから、星羅はスガにもどれにするんだと尋ねて一緒に選んでいる。
「あ、ミルクレープもあったのか」
「スガ、ミルクレープはもうきららがキープしてっかんな!」
「わかってるよ」
「泰稚さん、ミルクレープがいいなら譲るけど」
「いや、きららが食べて。俺は残ってる中から選ぶし」
「何かごめん」
「俺はイチゴのショートにしよう」
「私、飲み物淹れてくるけど。お姉と泰稚さんどうする? 紅茶? コーヒー?」
「ボクは紅茶なんだ。泰稚も紅茶なんだ?」
「俺も紅茶で」
「太一くんはコーヒーだよね」
「サンキュ!」
きららが何を思って引きこもってるのかは知らないけど、きららは俺の思う引きこもりのイメージとは大きくかけ離れている。特にジメジメしてるワケでもないし、部屋からは出てくるし。それに、人とのコミュニケーションに何ら問題がありそうな雰囲気でもない。
一昔前の引きこもりと今の引きこもりではまたちょっとニュアンスが違うのかもなとも思う。家から出なくても仕事も買い物も、勉強だって出来てしまうから。出なくてもいいなら出なくたって、という選択肢もある。何にせよ、仕事をして金も稼いでいる以上本人の自由なんだよな、多分。
「なあ星羅」
「何なんだ?」
「前からずっと気になってたんだけど、きららって何でスガは「泰稚さん」で俺は「太一くん」って呼ぶんだと思う?」
「前に聞いたんだ。泰稚はお姉の彼氏でお兄さんって感じだから泰稚さんで、カンは親戚のお兄ちゃんみたいな感じだから太一くんなんだ!」
「そーか、親戚のお兄ちゃんか」
「あとは差別化だって言ってたんだ」
「あっそれ大事」
「最初の頃はどっちもタイチでややこしいって言ってたんだ」
まあ、俺にとってもきららは妹みたいな感覚だから、親戚のお兄ちゃんってのも間違ってないなと思う。
「お姉、飲み物入ったよ」
「ありがとうなんだ。優しい妹なんだ。はい泰稚」
「きらら、ありがとう」
「はい太一くんコーヒー。しっかり濃いめ」
「サンキュ」
「泰稚さん、バイクの免許取る予定あります? お姉がタンデムに憧れてるっぽいんだけど」
「きらら、急に何を言うんだなんだ!」
「えっ、考えたこともないけど……えっと、カン、もし取るとなればカズにアドバイス求めたらいいのかな」
「どーぞお好きに」
end.
++++
星羅妹のきらら嬢の話がやりたかった。昨年度?だかのスガセラみかん話に名前だけちらっと出てきてたんですね。
多分きらら嬢は姉妹仲もいいんだけどカンDをガチ親戚のお兄ちゃん化しててちょっとしたブラコン入ってそう。マリンとのライバル展開はなし。
そして甘い物の情報はしっかりとマリンから聞いてる辺り、ここの関係も安定してるみたいですね。お互い成長してヨリを戻すようになるのかな。
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「ういーす、星羅ー」
電車を乗り継ぎえんやこら。豊葦にある星羅の家のインターホンを鳴らす。いつもならスガと一緒に来るんだけど、今日は俺単独で。って言うかスガの車があるからスガも家にはいるっぽいんだけど。
「星羅ー?」
いつもは1回鳴らせば星羅が出迎えてくれるけど、今日はそれがない。スガがいねーから反応が鈍いとかじゃねーよな。もしくは逆か。いちゃついてて反応が鈍いか。いや、俺じゃあるまいしスガと星羅でそれはないか。あれー、誰もいないのかな。これくらいの時間に来るって言っておいたんだけど。
「太一くん?」
「きらら~! 誰も出てくれねーからもうすぐ泣きそうだったぜ」
「お姉なら泰稚さんと買い物に出てるけど」
「マジかよアイツ」
「上がって待ってて」
「お邪魔しまーす」
階段から下りて来て俺を出迎えてくれたのは、星羅の妹のきららだ。きららは星羅の妹にしちゃ背がめちゃんこ高くて、下手したら俺と同じくらいなんじゃねーかなと思う。背中まで伸びたストレートの茶髪とマスク姿が印象的だ。
マスクはきららが病気がちだからとか感染症予防とかじゃなくて、マスクをしていないと落ち着かないっていう最近ちょっと多いらしいヤツだ。きららは年齢的には高3だけど、中学ン時から引きこもってて今はデザインの勉強をしながらフリーのイラストレーターをしている。
「そうだきらら、ケーキ買ってきたから。あとでみんなで食べて」
「ありがとう。でも太一くん、自分はケーキ好きじゃないのにわざわざうちの家族の分まで」
「いーのいーの。俺らはお邪魔してる立場だし、たまにはな。何かすっげー美味いらしいから多分お前は好きだと思う。気になるのあったら今のうちに旗立てとけな」
須賀家では、ケーキなどを確保するときには各々の色の旗を立てるというルールがあるらしい。昔、海外から帰ってきた誠司さんが糖分欲しさに冷蔵庫の中のケーキを食ったら、それが星羅がすごく楽しみにしていた物であやうく絶交されかけたという事件がきっかけで制定されたとか。
このケーキは茉莉奈がすげー美味い店とか言って紹介してくれたトコの物だけど、どれが須賀家の誰の好みでとかそんなことは考えて買ってきていない。それこそ欲しい物があれば早い者勝ちで。甘い物が好きなきららは黄色い旗を握りしめてジッと考え込んでいる。
「ただいまなんだー!」
「あ、お姉」
玄関から星羅の声がした瞬間、ケーキの箱を覗いてじっくり考え込んでいたきららは旗を刺した。何層にも重なったミルクレープ。
「カン、来てたんだ?」
「ったく、4時半に来るっつったじゃねーか! 15分も遅れやがって。お前ら、俺の相手してくれてたきららに感謝しろよ」
「きらら、ありがとうなんだ」
「お姉、太一くんがケーキ買ってきてくれた。うちの家族にもって」
「そうなんだ? カン、ありがとうなんだ」
「お前も好きなの選べよ。きららはもう取ったから」
いただきますなんだーと星羅は青い旗を握った。一応スガも頭数には入れてあるから、星羅はスガにもどれにするんだと尋ねて一緒に選んでいる。
「あ、ミルクレープもあったのか」
「スガ、ミルクレープはもうきららがキープしてっかんな!」
「わかってるよ」
「泰稚さん、ミルクレープがいいなら譲るけど」
「いや、きららが食べて。俺は残ってる中から選ぶし」
「何かごめん」
「俺はイチゴのショートにしよう」
「私、飲み物淹れてくるけど。お姉と泰稚さんどうする? 紅茶? コーヒー?」
「ボクは紅茶なんだ。泰稚も紅茶なんだ?」
「俺も紅茶で」
「太一くんはコーヒーだよね」
「サンキュ!」
きららが何を思って引きこもってるのかは知らないけど、きららは俺の思う引きこもりのイメージとは大きくかけ離れている。特にジメジメしてるワケでもないし、部屋からは出てくるし。それに、人とのコミュニケーションに何ら問題がありそうな雰囲気でもない。
一昔前の引きこもりと今の引きこもりではまたちょっとニュアンスが違うのかもなとも思う。家から出なくても仕事も買い物も、勉強だって出来てしまうから。出なくてもいいなら出なくたって、という選択肢もある。何にせよ、仕事をして金も稼いでいる以上本人の自由なんだよな、多分。
「なあ星羅」
「何なんだ?」
「前からずっと気になってたんだけど、きららって何でスガは「泰稚さん」で俺は「太一くん」って呼ぶんだと思う?」
「前に聞いたんだ。泰稚はお姉の彼氏でお兄さんって感じだから泰稚さんで、カンは親戚のお兄ちゃんみたいな感じだから太一くんなんだ!」
「そーか、親戚のお兄ちゃんか」
「あとは差別化だって言ってたんだ」
「あっそれ大事」
「最初の頃はどっちもタイチでややこしいって言ってたんだ」
まあ、俺にとってもきららは妹みたいな感覚だから、親戚のお兄ちゃんってのも間違ってないなと思う。
「お姉、飲み物入ったよ」
「ありがとうなんだ。優しい妹なんだ。はい泰稚」
「きらら、ありがとう」
「はい太一くんコーヒー。しっかり濃いめ」
「サンキュ」
「泰稚さん、バイクの免許取る予定あります? お姉がタンデムに憧れてるっぽいんだけど」
「きらら、急に何を言うんだなんだ!」
「えっ、考えたこともないけど……えっと、カン、もし取るとなればカズにアドバイス求めたらいいのかな」
「どーぞお好きに」
end.
++++
星羅妹のきらら嬢の話がやりたかった。昨年度?だかのスガセラみかん話に名前だけちらっと出てきてたんですね。
多分きらら嬢は姉妹仲もいいんだけどカンDをガチ親戚のお兄ちゃん化しててちょっとしたブラコン入ってそう。マリンとのライバル展開はなし。
そして甘い物の情報はしっかりとマリンから聞いてる辺り、ここの関係も安定してるみたいですね。お互い成長してヨリを戻すようになるのかな。
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