2017(02)
■鉄壁の山城と例外
++++
「山の中なのに、随分と賑やかだな」
そう言えば、宮ちゃんが何か言ってた気がする。今日はコムギハイツの駐車場でサークルの納涼祭をやるとかナントカと。部屋に聞こえてくるのはその声だろう。
「大学の真ん前に家があると溜まり場にされることもまあある。俺は断固として拒否してるけど」
「疚しい物があるでもないのに、どうして人を滅多に上げないんだ?」
「安心できる空間に異物を入れたくないっつーか、パーソナルスペースが無駄に広いのかもしんねえな」
「それはわかるかもしれない」
今日は久々に菜月と会っている。ファンフェス打ち上げもあったし言うほど久々ではないかもしれないが、2人で会うのは久し振りだ。何をするでもなく普通に飯を食ったり、何でもない話をするだけ。
外での用事を済ませたら軽く飲むために俺の部屋に戻ってきたら、こうだ。たまたま部屋に入るときに宮ちゃんに会わなかったのが救いだ。菜月がいるのを見られてたらとんでもないことになっていたに違いない。
「チューハイ次取って来るか?」
「頼む」
自分のビールのついでだ、台所の冷蔵庫に。すると、インターホンが鳴る。今は午後8時過ぎ。こんな時間に、誰が何の用だ。ドアの覗き穴で向こうにいる顔を確かめる。
「菜月、そこ扉閉めてくれ」
「ん」
そしてもう1回鳴るインターホン。
「何の用だ」
「あっ高崎クンやっと開けてくれた! あのね、これ今そこでやってるGREENsの納涼祭で食べてるそうめんと天ぷら。高崎クンも食べて!」
「そうめんに天ぷらっつー組み合わせがお前っつーか伊東っぽいな」
「まあ、美弥子サンもいるしね! あと何かお客さん来てるみたいなこと聞いたから一応2人分。天ぷらでお酒飲んじゃって」
「ああ。そういうことなら。タッパーは例によってお前か伊東に返しとけばいいみたいなことだな」
「うんうん。それじゃあもうしばらくうるさくするけどゴメンねー」
慌ただしく扉が閉まると、天ぷらの熱さとそうめんの冷たさがより感じられる気がする。一応晩飯は食ってきたけど、これくらいならまあ食えるか。ありがたくもらっておこう。
「菜月、そうめんと天ぷら食うか?」
「そうめんと天ぷら?」
「そこで集まってるサークルに伊東の彼女がいてよ。差し入れ的な感じでもらった」
「えー、彼女さん見たかった。天ぷら食べる」
「そういやつゆがねえな」
「天ぷらは塩があればよくないか?」
「それもそうか。いや、そうめんだそうめん」
「似てるって言うし、麦茶とか」
「さすがに麦茶でそうめんは食いたくねえ。待ってろ。適当に弄る」
とりあえず、卵とツナで適当にそうめんを炒める。和風だしと、それからコショウをちょっと多めに。うん、まあ食えるだろう。俺はこれにマヨネーズがあってもいいと思うが、菜月は確かあんまマヨネーズが好きじゃなかったはずだ。お好みにするか。
「えっ、美味しそう。炒め物とか」
「食えるかは知らねえぞ。あんま味付けてないしツナの味で舌を誤魔化せ」
「いただきます。ん、うまー! コショウが利いてて美味しい。どれだけでも食べれる」
「ならよかった。俺も食うかな。お、適当の割にうめえ」
外が静かになり、風や草木の音が聞こえるようになってからが本格的な夜だ。これから何をして過ごすかは考えていない。暇を潰せるような物もない。酒を飲んだから足もなくなった。さて、どうする。
菜月は少しずつ酒が回り始めているようで、どことなくふわふわとした喋り方になってきている。辛うじて大笑いしたり泣いたりしてないが、時間の問題か。物理的に拘束される前に食ったモンと台所を片付けたい。
「ふー、お腹いっぱい」
「ここに来る前にも食ってるし、夜食にはちょっと早かったな。そろそろ皿とか片していいか」
「あっ、手伝う」
「立てんのか?」
「バカにするな。ふー。お腹苦しいけど、立ったぞ」
「苦しいなら座っとけ」
「それはそれで暇なんだけどなあ」
「後でたっぷり構ってやるよ。ちょっと待っとけ」
end.
++++
毎年お馴染み七夕の逢瀬! 今年はGREENsの納涼祭と日程が被ったらしい。慧梨夏に見られてなくてよかったのかもしれないが、玄関の靴はどうした高崎よ
菜月さんならその気になれば麦茶で普通にそうめんを食べ始めそうなのが何とも言えない。似てるって言うからというだけの理由で
後でたっぷり構ってやるとは言うけれど、仲が進展するような何が起こるでもなく例によって周りだけがわーわー言うヤツなんやろなあ
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「山の中なのに、随分と賑やかだな」
そう言えば、宮ちゃんが何か言ってた気がする。今日はコムギハイツの駐車場でサークルの納涼祭をやるとかナントカと。部屋に聞こえてくるのはその声だろう。
「大学の真ん前に家があると溜まり場にされることもまあある。俺は断固として拒否してるけど」
「疚しい物があるでもないのに、どうして人を滅多に上げないんだ?」
「安心できる空間に異物を入れたくないっつーか、パーソナルスペースが無駄に広いのかもしんねえな」
「それはわかるかもしれない」
今日は久々に菜月と会っている。ファンフェス打ち上げもあったし言うほど久々ではないかもしれないが、2人で会うのは久し振りだ。何をするでもなく普通に飯を食ったり、何でもない話をするだけ。
外での用事を済ませたら軽く飲むために俺の部屋に戻ってきたら、こうだ。たまたま部屋に入るときに宮ちゃんに会わなかったのが救いだ。菜月がいるのを見られてたらとんでもないことになっていたに違いない。
「チューハイ次取って来るか?」
「頼む」
自分のビールのついでだ、台所の冷蔵庫に。すると、インターホンが鳴る。今は午後8時過ぎ。こんな時間に、誰が何の用だ。ドアの覗き穴で向こうにいる顔を確かめる。
「菜月、そこ扉閉めてくれ」
「ん」
そしてもう1回鳴るインターホン。
「何の用だ」
「あっ高崎クンやっと開けてくれた! あのね、これ今そこでやってるGREENsの納涼祭で食べてるそうめんと天ぷら。高崎クンも食べて!」
「そうめんに天ぷらっつー組み合わせがお前っつーか伊東っぽいな」
「まあ、美弥子サンもいるしね! あと何かお客さん来てるみたいなこと聞いたから一応2人分。天ぷらでお酒飲んじゃって」
「ああ。そういうことなら。タッパーは例によってお前か伊東に返しとけばいいみたいなことだな」
「うんうん。それじゃあもうしばらくうるさくするけどゴメンねー」
慌ただしく扉が閉まると、天ぷらの熱さとそうめんの冷たさがより感じられる気がする。一応晩飯は食ってきたけど、これくらいならまあ食えるか。ありがたくもらっておこう。
「菜月、そうめんと天ぷら食うか?」
「そうめんと天ぷら?」
「そこで集まってるサークルに伊東の彼女がいてよ。差し入れ的な感じでもらった」
「えー、彼女さん見たかった。天ぷら食べる」
「そういやつゆがねえな」
「天ぷらは塩があればよくないか?」
「それもそうか。いや、そうめんだそうめん」
「似てるって言うし、麦茶とか」
「さすがに麦茶でそうめんは食いたくねえ。待ってろ。適当に弄る」
とりあえず、卵とツナで適当にそうめんを炒める。和風だしと、それからコショウをちょっと多めに。うん、まあ食えるだろう。俺はこれにマヨネーズがあってもいいと思うが、菜月は確かあんまマヨネーズが好きじゃなかったはずだ。お好みにするか。
「えっ、美味しそう。炒め物とか」
「食えるかは知らねえぞ。あんま味付けてないしツナの味で舌を誤魔化せ」
「いただきます。ん、うまー! コショウが利いてて美味しい。どれだけでも食べれる」
「ならよかった。俺も食うかな。お、適当の割にうめえ」
外が静かになり、風や草木の音が聞こえるようになってからが本格的な夜だ。これから何をして過ごすかは考えていない。暇を潰せるような物もない。酒を飲んだから足もなくなった。さて、どうする。
菜月は少しずつ酒が回り始めているようで、どことなくふわふわとした喋り方になってきている。辛うじて大笑いしたり泣いたりしてないが、時間の問題か。物理的に拘束される前に食ったモンと台所を片付けたい。
「ふー、お腹いっぱい」
「ここに来る前にも食ってるし、夜食にはちょっと早かったな。そろそろ皿とか片していいか」
「あっ、手伝う」
「立てんのか?」
「バカにするな。ふー。お腹苦しいけど、立ったぞ」
「苦しいなら座っとけ」
「それはそれで暇なんだけどなあ」
「後でたっぷり構ってやるよ。ちょっと待っとけ」
end.
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毎年お馴染み七夕の逢瀬! 今年はGREENsの納涼祭と日程が被ったらしい。慧梨夏に見られてなくてよかったのかもしれないが、玄関の靴はどうした高崎よ
菜月さんならその気になれば麦茶で普通にそうめんを食べ始めそうなのが何とも言えない。似てるって言うからというだけの理由で
後でたっぷり構ってやるとは言うけれど、仲が進展するような何が起こるでもなく例によって周りだけがわーわー言うヤツなんやろなあ
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