2018(04)
■シックスセンスに逃げられない
++++
「北辰のじゃがいも」の箱が少しずつ捌けてきたと思ったら、今度はどこの国の言語かもわからん言葉が印刷された箱が積み上げられていた。こんなことをするのは1人しかおらんが、これは一体何なのかと。
「林原さーん……これってまさかジャガイモじゃないですよねー…?」
「芋ではないと思いたいが、これに触れると押しつけられる未来しか見えんな」
卒論・レポートラッシュにテスト期間が近付いているということもあり情報センターには少しずつ繁忙期の波が押し寄せていた。スタッフの人員が増えるということは、何かを押しつけるにも打ってつけということだ。あの人のやることだけにどうせロクでもないことに違いない。最大級に用心せねば。
放課を迎えたセンターには、続々とスタッフが集結していた。川北に烏丸、自称研修生の綾瀬もいる。しかし、現在B番に入っている春山さんが事務所から出てくる気配がない。確かに自習室には複数の利用者がいる。出てくるようなタイミングでもないのだが。
「雄介さん、今日は冴ちゃん来ないんですか?」
「アイツは悪い予感のするときはシフトに入っていても平気で逃げるからな。逆も然りだ。いいことがありそうな時はシフトに入っていなくても押し入ってくる。アイツがセンターに近寄って来んということは、この箱がもたらすのは何らかの災厄であると予想出来る」
「冴さんの動物的カンはバチッと当たりますからねー」
「そう言えば冴ちゃん言ってたなあ、今日は何かありそうな気がするって。俺に行って見て来いって頼まれたよ」
余談ではあるが、土田は現在烏丸のマンションに入り浸っていて、自分の住んでいるマンションには週に一度戻るくらいだという。元々が連絡無精でもあるから、土田に用事があるなら烏丸に言付けろという状態だ。むしろ確実な窓口が出来て良かったとも言えるだろう。
それはそうと、土田の第六感はことこのセンターにおいてはよく当たるのだ。アイツはとにかく「逃げるが勝ち」を体現する奴だが、ある程度センターでの役割も大きくなってしまっているオレは悪い予感がするからというだけの理由では逃げることも出来んのだ。
「ふーぅ。お疲れちゃーん。おっ、冴以外は全員いるな」
「お疲れさまでーす」
自習室から出てきた春山さんは、至っていつもと変わらない様子だ。さて、何を企んでいる。
「春山さん、大量に積まれたこの箱について説明を求めます」
「あー、それな! まず、私も被害者ではあると言っとくぞ」
「その文言は聞き飽きたが。結果加害者と化すパターンではないか」
「いーから聞け! えー、この箱はな、ドイツだかのプレッツェルだな! 1箱につき10袋」
「それが……無数にありますね」
「話すと長くなるんだけどよ」
春山さんの地元には、音楽関係で親交のある兄貴分がいるらしい。その兄貴分のうちの1人が外国からの買い付けなどを行っているらしく、以下お察し。ネットなどでよく見る「発注数を間違えたからたくさん買って助けてね!」的なヤツだ。
ただ、今回のプレッツェルに関して言えば仕事で買ったのではなくプライベートで買おうとして間違えた物であるが故、金は取らんからとにかく引き取って助けてくれということらしい。春山さんにも問答無用で送りつけられ、部屋はプレッツェルで埋め尽くされたとか。
「っつーワケだから、これを引き取ることが人助けだと思って持って行ってくれ」
「ちょっと前に見た光景ですねー」
「デジャヴでしかないな」
「ユースケ、プレッツェルって?」
「焼き菓子の一種で、原材料は小麦粉だ。独特の形に焼いてあって、塩がまぶしてあるものが主流だろうか。甘くはないからお前の口には合うだろう」
「へー。春山さん、味見出来ますか?」
「いいぞ、まずは食ってみろ」
ケースの中から取り出した袋を開き、全員でまずは1つ味見をする。うん、普通に美味い。これには全員同じ感想を抱く。如何せん少し食う分にはいいのだが、春山さんのパターンで厄介なのがとにかく量が多いということだ。ジャガイモにしろ、少しであればむしろありがたくいただくのだが。
「これ、美味しいですしご飯にもなりそうですね! 乾パンみたい」
「乾パンと同じ感覚で食うにはどうかと思うけど、どうぞ持って行ってくれ。おまけに2ケース付けよう」
「やったー! いただきまーす」
「なるほど……主食という観点…! お金の節約になりますよね。春山さん、私も少しもらっていいですか?」
「少しと言わずどんどん持って行け。カナコにも2ケースのおまけを付けよう」
烏丸と綾瀬がとりあえず3ケースくらい持って行こう、と予約済みの札を付けた。積極的に持って行ってもらえばオレの負担は軽くなるだろうと思ったが、最初に3ケースという基準を作られたのは誤算だった。
極悪非道の春山さんがオレに対して連中以下のノルマを課すとは到底思えんのだ。芋の時にしても然りで、最低でも連中の1.5倍からスタートするくらいの感覚で押しつけられる。連中が3ケースという基準を作ってしまった以上、5ケース程度は覚悟せねばなるまい。
「え、えっとー……俺も3ケースくださーい……」
「川北、もっと元気を出せ!」
「3ケースもらいます!」
「よーしよしよし、持って行けー。はい、2ケースおまけに付けちゃうぞ!」
「では、オレも3ケースで」
「何を言ってるのかなァー、リン様よぉー」
「チッ、やはり出たか」
「オメーに3ケースくらいどうだっつーんだよォー、最低でも5ケース+おまけは持ってけよこのクソ野郎がよぉー」
「クソ野郎はアンタでしょう。何がおまけだ」
「誰がクソ野郎だ! こちとら被害者だぞ!」
「北辰の事情など知らん。ここでは立派に加害者のクセしてよく言いますね」
しかし、いい加減にこれを避けてしまわねば業務に支障が出る。まったく、とんでもない物を持って来たものだ。地道にここで食って減らせるような量でもない。人脈をフル活用する必要が出てきそうだな。
end.
++++
毎度お馴染み春山さんのプレッツェルタイムです。今年も安定ですね。
さて、例によってリン様もプレッツェルを押し付けられたワケですが、今年は星高組の交流も活発だしSDXのツテも出来たしで例年よりは楽じゃないかな
あと人脈と言えばミドリな。芋の時の友人に言ったら瞬殺出来るじゃねーかよ
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「北辰のじゃがいも」の箱が少しずつ捌けてきたと思ったら、今度はどこの国の言語かもわからん言葉が印刷された箱が積み上げられていた。こんなことをするのは1人しかおらんが、これは一体何なのかと。
「林原さーん……これってまさかジャガイモじゃないですよねー…?」
「芋ではないと思いたいが、これに触れると押しつけられる未来しか見えんな」
卒論・レポートラッシュにテスト期間が近付いているということもあり情報センターには少しずつ繁忙期の波が押し寄せていた。スタッフの人員が増えるということは、何かを押しつけるにも打ってつけということだ。あの人のやることだけにどうせロクでもないことに違いない。最大級に用心せねば。
放課を迎えたセンターには、続々とスタッフが集結していた。川北に烏丸、自称研修生の綾瀬もいる。しかし、現在B番に入っている春山さんが事務所から出てくる気配がない。確かに自習室には複数の利用者がいる。出てくるようなタイミングでもないのだが。
「雄介さん、今日は冴ちゃん来ないんですか?」
「アイツは悪い予感のするときはシフトに入っていても平気で逃げるからな。逆も然りだ。いいことがありそうな時はシフトに入っていなくても押し入ってくる。アイツがセンターに近寄って来んということは、この箱がもたらすのは何らかの災厄であると予想出来る」
「冴さんの動物的カンはバチッと当たりますからねー」
「そう言えば冴ちゃん言ってたなあ、今日は何かありそうな気がするって。俺に行って見て来いって頼まれたよ」
余談ではあるが、土田は現在烏丸のマンションに入り浸っていて、自分の住んでいるマンションには週に一度戻るくらいだという。元々が連絡無精でもあるから、土田に用事があるなら烏丸に言付けろという状態だ。むしろ確実な窓口が出来て良かったとも言えるだろう。
それはそうと、土田の第六感はことこのセンターにおいてはよく当たるのだ。アイツはとにかく「逃げるが勝ち」を体現する奴だが、ある程度センターでの役割も大きくなってしまっているオレは悪い予感がするからというだけの理由では逃げることも出来んのだ。
「ふーぅ。お疲れちゃーん。おっ、冴以外は全員いるな」
「お疲れさまでーす」
自習室から出てきた春山さんは、至っていつもと変わらない様子だ。さて、何を企んでいる。
「春山さん、大量に積まれたこの箱について説明を求めます」
「あー、それな! まず、私も被害者ではあると言っとくぞ」
「その文言は聞き飽きたが。結果加害者と化すパターンではないか」
「いーから聞け! えー、この箱はな、ドイツだかのプレッツェルだな! 1箱につき10袋」
「それが……無数にありますね」
「話すと長くなるんだけどよ」
春山さんの地元には、音楽関係で親交のある兄貴分がいるらしい。その兄貴分のうちの1人が外国からの買い付けなどを行っているらしく、以下お察し。ネットなどでよく見る「発注数を間違えたからたくさん買って助けてね!」的なヤツだ。
ただ、今回のプレッツェルに関して言えば仕事で買ったのではなくプライベートで買おうとして間違えた物であるが故、金は取らんからとにかく引き取って助けてくれということらしい。春山さんにも問答無用で送りつけられ、部屋はプレッツェルで埋め尽くされたとか。
「っつーワケだから、これを引き取ることが人助けだと思って持って行ってくれ」
「ちょっと前に見た光景ですねー」
「デジャヴでしかないな」
「ユースケ、プレッツェルって?」
「焼き菓子の一種で、原材料は小麦粉だ。独特の形に焼いてあって、塩がまぶしてあるものが主流だろうか。甘くはないからお前の口には合うだろう」
「へー。春山さん、味見出来ますか?」
「いいぞ、まずは食ってみろ」
ケースの中から取り出した袋を開き、全員でまずは1つ味見をする。うん、普通に美味い。これには全員同じ感想を抱く。如何せん少し食う分にはいいのだが、春山さんのパターンで厄介なのがとにかく量が多いということだ。ジャガイモにしろ、少しであればむしろありがたくいただくのだが。
「これ、美味しいですしご飯にもなりそうですね! 乾パンみたい」
「乾パンと同じ感覚で食うにはどうかと思うけど、どうぞ持って行ってくれ。おまけに2ケース付けよう」
「やったー! いただきまーす」
「なるほど……主食という観点…! お金の節約になりますよね。春山さん、私も少しもらっていいですか?」
「少しと言わずどんどん持って行け。カナコにも2ケースのおまけを付けよう」
烏丸と綾瀬がとりあえず3ケースくらい持って行こう、と予約済みの札を付けた。積極的に持って行ってもらえばオレの負担は軽くなるだろうと思ったが、最初に3ケースという基準を作られたのは誤算だった。
極悪非道の春山さんがオレに対して連中以下のノルマを課すとは到底思えんのだ。芋の時にしても然りで、最低でも連中の1.5倍からスタートするくらいの感覚で押しつけられる。連中が3ケースという基準を作ってしまった以上、5ケース程度は覚悟せねばなるまい。
「え、えっとー……俺も3ケースくださーい……」
「川北、もっと元気を出せ!」
「3ケースもらいます!」
「よーしよしよし、持って行けー。はい、2ケースおまけに付けちゃうぞ!」
「では、オレも3ケースで」
「何を言ってるのかなァー、リン様よぉー」
「チッ、やはり出たか」
「オメーに3ケースくらいどうだっつーんだよォー、最低でも5ケース+おまけは持ってけよこのクソ野郎がよぉー」
「クソ野郎はアンタでしょう。何がおまけだ」
「誰がクソ野郎だ! こちとら被害者だぞ!」
「北辰の事情など知らん。ここでは立派に加害者のクセしてよく言いますね」
しかし、いい加減にこれを避けてしまわねば業務に支障が出る。まったく、とんでもない物を持って来たものだ。地道にここで食って減らせるような量でもない。人脈をフル活用する必要が出てきそうだな。
end.
++++
毎度お馴染み春山さんのプレッツェルタイムです。今年も安定ですね。
さて、例によってリン様もプレッツェルを押し付けられたワケですが、今年は星高組の交流も活発だしSDXのツテも出来たしで例年よりは楽じゃないかな
あと人脈と言えばミドリな。芋の時の友人に言ったら瞬殺出来るじゃねーかよ
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