2018(04)

■ぜんざいと法の抜け道

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「うん、まあ美味しく出来てるんじゃないのか?」
「やったあ! 浅浦クンのお墨付き! ……でも、文頭の「まあ」っていうのが気になります」
「ちょっと甘めだから、俺には「まあ食べられる」だけど、普通に甘いものを食べる人に出すなら何ら問題ない」
「そっか、普通にお砂糖入れたもんね」

 伊東家の鏡開きが終われば、次に始まるのは切り分けられた大量の餅の分配作業。カズがサッカーを見るのに忙しいという理由で浅浦クンの部屋へはうちが代わりにおつかいをすることになった。って言うか浅浦クンもサッカー好きなんだから一緒に見ればいいのに。
 せっかく浅浦クンの部屋にお邪魔するんだから、ひとつやりたいことがあった。それは、おしるこかぜんざいか、そんなような物を食べたいということ。カズは小豆が苦手だから頼めないし、洋菓子がからっきしの浅浦クンでも和菓子系なら食べれるし、と。途中で買い物もばっちり済ませて。
 うちは家事全般、特に料理が苦手でカズからは危なっかしいからという理由で包丁を握らせてもらえない。だけど、法の抜け道はいくらでもある。包丁さえ握らなかったらセーフなんじゃないかとか、監督がいればオッケーなんじゃないのかとか。おもちは既にカットされてるし、包丁を使うところはなさそうだから。

「せっかくだし、お茶でも飲む? こないだアンタがくれたヤツ」
「あっ、いただきます」

 浅浦クンの監督の下それらしく完成したぜんざいのおともは、こないだ浅浦クンの誕生日にプレゼントとして渡したお茶。物の好みはわからないし、甘い物はダメだし。となればお茶かなって。浅浦クンの中で起きてる煎餅ブームにも合うかなと思いました。

「はい、どうぞ」
「あれっ、粗茶ですがって言わないパターンのヤツ?」
「自分で買ったヤツならともかく、仮にも貰い物だぞ。くれた本人に対して言うのは逆に失礼じゃないか?」
「確かに。ではいただきます。く~っ、苦い!」
「うん、美味い。この後にぜんざい食べたら甘さが引き立つぞ」

 浅浦クンの言う通りの順序で食べると、確かにぜんざいの甘さがグッと引き立つ。普通にお砂糖は入れたけど、浅浦クンも食べることを考えてちょっと控えめにはしてある。だけど、先に苦いお茶を飲んでるからうち基準で甘さ控えめなぜんざいも十分甘くておいしい。
 そう、わざわざお茶屋さんで苦みが強めな物を選んでもらったんだよね。試飲もしつつ。お茶にもいろいろあって、甘みが強いとか香りが強いとか。その中でも香りが良くて苦みが強い、でも美味しいのにしたんだよね。お口に合ったようで何より。お煎餅との相性はわからないけど、少なくとも今日のぜんざいにはピッタリ。

「でも、どうしてわざわざ俺の部屋で? 別にアイツが食わなくたって作らせればいいだけのことだと思うけど」
「ひとりで食べるのもちょっとね。自分で作って自分で食べるならともかく、作ってもらってひとりで食べるって」
「わからないでもない」
「それに、カズの目があったら台所に立たせてもらえないから」
「台所は完全にアイツの要塞と化してるもんな」
「ホントにそれ!」

 確かに家事は苦手なんだけど、いつまでも苦手なままでもいられないとも思ってて。だって結婚したら多少は家のこともやんなきゃだろうし。結婚をきっかけに少しでも苦手を減らせたらと思って。さすがにカズみたいには出来ないだろうけど、最低限人並みにはね。
 だから料理の練習をするにしても包丁は使ってないし、監督だって用意してる。しかもその監督は浅浦クンっていう、半分身内みたいな人。うちらの事情も知りつつ料理も上手っていう最高の人選じゃないですか。しかも、ぜんざいを一緒に食べれる! これが大きいですよ。

「ところで浅浦クン」
「ん?」
「ぜんざいの他にも実は練習したいことがあって」
「どうした、一応聞くけど」
「実は明日、サークルでも伊東家のお餅大会が開かれる予定で、そこでお雑煮を出すことになってるんですよ」
「雑煮か」
「うん。お雑煮の汁だね。餅の消費がメインだからネギ以外の具はなしだし」
「葱は入れる辺りGREENsだな」
「そりゃ浅浦クン、誰の家のお餅だと思って」
「うん、察した」

 鵠っちの部屋で開かれる餅大会では餅を使った料理がふんだんに出てくる予定。うちはそこでお雑煮の汁を作りたいなと思っていて。包丁を使わないならセーフだろうと思ってるよね! ネギを切るのはスペシャリストの美弥子サンがいるから逆に手が出せないし。
 他にはお雑煮じゃなくて普通に焼いて食べたり、今日みたいにぜんざい、あとはもちしゃぶでもする? みたいな感じになってるよね。もちしゃぶ用のスライスは手が出せない分野だからその他のお手伝いに終始するワケだけど。イベントの幹事としては、そろそろ「うちが作りましたドヤッ」てやりたいんだよね。

「雑煮の汁くらいなら調味料を混ぜればすぐ出来るから、今すぐにでもやるか?」
「やります!」
「あと、俺の料理は基本的に大まかな目分量だ。一応起こり得るミスへの対処法も教えるけど、余計なことさえしなきゃ食えなくなることはないからな」
「はい浅浦先生」
「器にある分食べてからな」
「はい先生」
「まだ教育実習にも行ってないのに先生って言われるとな」
「いいじゃないですか、実際うちの料理の先生なんだし」


end.


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浅浦誕当日に遅れてきた菜月誕とかいう謎ムーブが起こったのでここで後日談。
慧梨夏と浅浦クンが一緒にぜんざいを作る話は前年度以前にやってたはず。それを拾いつつ。
事情を知ってるから結婚云々の話も臆せず出来るし旦那が趣味で忙しくしてることも知ってるんやろなあ

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