2018(04)
■ステレオのハイプレッシャー
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今日は果林先輩がうちに遊びに来て、せっかくだからご飯を作りますよという言葉に甘えて迎える夕飯の時間帯。さてこれから買い物に行こうと自転車の鍵を手にした瞬間、鍵を開けてもないのに玄関のドアが勝手に開いた。
「おーい高木ー」
「あっ、エイジ。来たんだ」
俺以外にこの部屋のドアを合法的に破れるのはエイジだけ。あまりにエイジがうちにいる時間が長いから、いっそ鍵も持っててもらった方がいいんじゃないかっていう結論に達したんだ。というワケで、エイジも割と好きなときにうちに来るようになったよね。
「つか果林先輩そんな玄関先で、これからどっか出かける予定だったんすか?」
「スーパーに行くつもりだったんだよ。ご飯作ろうかなって」
「あ、いいっすね。俺もついてっていいすか。冷蔵庫の中身確認しとかないと」
冷蔵庫の中身を確認して、エイジも一緒にスーパーへ。果林先輩と2人乗りをするつもりだった自転車はエイジとの2人乗りに変わり、果林先輩は原付で先行することになった。星港市内の郊外だと、ちょっと足を延ばせばスーパーがあるのが本当に楽だ。
さて、やってきたスーパーだ。いつの間にか作っていたらしいエイジの買い物リストが本当に頼もしい。果林先輩とも合流して、いざ買い物へ。果林先輩は今日食べる物を、エイジはこの先食べる物を中心に見てくれている。俺はこれが食べたいなあと横やりを入れる係。
「ニンジン、ジャガイモ、タマネギと……」
「挽き肉どばーっ、お豆腐どばーっ。あっエージ、アンタ麻婆豆腐好き?」
「好きっす」
「じゃあ良かった。麻婆豆腐作るからね。麻婆丼にしてもいいし」
「あっエイジ、中華だったらさ」
「はいはい、回鍋肉な。ちゃんとキャベツも買うべ」
「あっ、せっかくエージいるしベーコンも欲しいよね。ビール飲むっしょ?」
「飲むっす!」
ベーコンとビールの組み合わせと言えば高崎先輩の顔が浮かぶけど、高崎先輩じゃなくてもその組み合わせは美味しいんだろうな。俺にはまだビールの味がわからないんだけど。足取り軽く加工肉のコーナーに向かうと、試食コーナーが出来ていてベーコンの焼ける匂いと音が食欲を誘ってくる。
「これはテロだ。元々ベーコン買うつもりだったけどこれはいけない」
「ヤバいヤツだっていう」
「試食どうですかー?」
――と俺たちにベーコンの刺さった爪楊枝を勧めてきたその人は。エプロンと三角巾をしているけど間違いない。
「朝霞P先輩! こんなトコで何やってるんですか!? てか朝霞P先輩のエプロン姿調理実習みたくて可愛いんですけど!」
「うるせーよ、俺はこう見えてマネキンの……実演販売のバイト中だ」
「お疲れさまでーす。朝霞P先輩ってウチの1年生と面識ありましたっけ。ああ、タカちゃんエージ、星ヶ丘の朝霞P先輩」
「高木君は夏に1回なっちと3人でカレー食べたことがある。そっちの子は初対面かな。朝霞です」
「中津川栄治っす。夏合宿ではつばめ先輩の世話になってたっす」
「おー、エージか! 話には聞いてる。戸田がなかなか骨のある奴だって気に入ってたからどんな奴かなって思ってたんだ。文学ロック坊主だとも聞いてるけど」
立ち話をしているその間にも、朝霞先輩が捌くホットプレートの周りにはお客さんが集まってくる。寄ってくる子供にはちゃんと保護者を連れてくるようにとも確認しているし、献立を相談されればしっかりとメニューを組み立てて提示する。トークスキルと言うか対人スキルが本当にスゴい。
「とりあえずベーコンをカゴにインして」
「やっぱビールにはベーコンすよね」
「えっ、3人これから宅飲み?」
「そうですね、タカちゃんの部屋で」
「いいなー。今さー、俺すっごい金欠で禁酒してるんだって」
「ほら高木、金がないときに優先的に削るのは酒だろ普通の人は」
「酒は削れないでしょ普通」
朝霞先輩の倹約術は俺にはなかなか耳が痛い。ここぞとばかりにエイジが畳みかけてくるし。
「朝霞サン聞いてくださいよ、コイツ、金がない金がないって言うクセに酒はやめないわメシを食わないことで出費を抑えようとするわ、部屋にいるときなんか暖房も入れずにジャージ2枚重ねの上から毛布かぶってブラックニッカチビチビやることでやり過ごしてるんすよ!」
「ちょっとやめてよエイジ、他校の先輩に」
「タカちゃん、ゼミ合宿のお金も要るのにそんな調子で大丈夫? 15000円とスキーレンタル代とお小遣い捻出しなきゃなのに」
「まあ、その辺はどうにか」
「食費と光熱費だけじゃどうにもならないって言ってるのに」
「いい加減バイトでも始めろっていう」
「うん。単発でもいいからちょっと働いた方がいいよ、ちゃんとご飯も食べれるようになるし」
そんな調子で両サイドから責められていると、俺の目をジッと見据えてくるのは朝霞先輩だ。突然何がどうしたのかと。って言うか朝霞先輩の眼力がすごい。
「高木君、製品の吊り札付けの仕事に興味ない? 簡単な手作業なんだけど」
「えっ、仕事? ですか?」
「星大の大石がバイトしてる倉庫での仕事なんだけど、9時5時半で待遇は時給1000円、実働7時間。通勤は近場の駅とかで大石が車で拾ってくれるし。黙々とやる系の仕事だから接客みたいに人と喋る必要もあんまない」
「えっ何その好条件」
「しかも手作業とか高木! お前その仕事絶対やれ!」
「そうだよタカちゃん絶対向いてるよ! 器用だし即スーパーエースだよ!」
「出来る日だけでも全然オッケーだし、土曜日もあるみたいだから」
人とコミュニケーションをとる必要が少なそうなのと、単純な手作業というのは魅力的だなと思った。だけど、俺がやりますと返事をする前にエイジと果林先輩が「やらせます」と返事をしていたのはいかがなものか。いや、いいんだけど。2人とも俺のことを心配してくれてるのは申し訳ないくらいによくわかってるから。
「みんないつまで飲んでる? 仕事の細かいこと話したいから良かったら俺もこの後合流していい? エージとも仲良くなりたいし」
「あ、ぜひ来てください」
「って言うか朝霞P先輩禁酒してるんじゃなかったんですか」
「バイトの予定入ったから解禁する」
「ええー……」
end.
++++
チーム温玉が再集結するぞー! 果たしてチーム温玉はちーちゃんの職場にいるゆで卵の王に太刀打ちできるのか!w
例年はエイジか果林、どっちかだけだったと思うのですが、今回は両方からはよ働けと責められるTKGであった。
そしてちょうど近所で働けそうな、働かざるを得なさそうな人を見つけた朝霞Pであった。ちーちゃんに報告だー!
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今日は果林先輩がうちに遊びに来て、せっかくだからご飯を作りますよという言葉に甘えて迎える夕飯の時間帯。さてこれから買い物に行こうと自転車の鍵を手にした瞬間、鍵を開けてもないのに玄関のドアが勝手に開いた。
「おーい高木ー」
「あっ、エイジ。来たんだ」
俺以外にこの部屋のドアを合法的に破れるのはエイジだけ。あまりにエイジがうちにいる時間が長いから、いっそ鍵も持っててもらった方がいいんじゃないかっていう結論に達したんだ。というワケで、エイジも割と好きなときにうちに来るようになったよね。
「つか果林先輩そんな玄関先で、これからどっか出かける予定だったんすか?」
「スーパーに行くつもりだったんだよ。ご飯作ろうかなって」
「あ、いいっすね。俺もついてっていいすか。冷蔵庫の中身確認しとかないと」
冷蔵庫の中身を確認して、エイジも一緒にスーパーへ。果林先輩と2人乗りをするつもりだった自転車はエイジとの2人乗りに変わり、果林先輩は原付で先行することになった。星港市内の郊外だと、ちょっと足を延ばせばスーパーがあるのが本当に楽だ。
さて、やってきたスーパーだ。いつの間にか作っていたらしいエイジの買い物リストが本当に頼もしい。果林先輩とも合流して、いざ買い物へ。果林先輩は今日食べる物を、エイジはこの先食べる物を中心に見てくれている。俺はこれが食べたいなあと横やりを入れる係。
「ニンジン、ジャガイモ、タマネギと……」
「挽き肉どばーっ、お豆腐どばーっ。あっエージ、アンタ麻婆豆腐好き?」
「好きっす」
「じゃあ良かった。麻婆豆腐作るからね。麻婆丼にしてもいいし」
「あっエイジ、中華だったらさ」
「はいはい、回鍋肉な。ちゃんとキャベツも買うべ」
「あっ、せっかくエージいるしベーコンも欲しいよね。ビール飲むっしょ?」
「飲むっす!」
ベーコンとビールの組み合わせと言えば高崎先輩の顔が浮かぶけど、高崎先輩じゃなくてもその組み合わせは美味しいんだろうな。俺にはまだビールの味がわからないんだけど。足取り軽く加工肉のコーナーに向かうと、試食コーナーが出来ていてベーコンの焼ける匂いと音が食欲を誘ってくる。
「これはテロだ。元々ベーコン買うつもりだったけどこれはいけない」
「ヤバいヤツだっていう」
「試食どうですかー?」
――と俺たちにベーコンの刺さった爪楊枝を勧めてきたその人は。エプロンと三角巾をしているけど間違いない。
「朝霞P先輩! こんなトコで何やってるんですか!? てか朝霞P先輩のエプロン姿調理実習みたくて可愛いんですけど!」
「うるせーよ、俺はこう見えてマネキンの……実演販売のバイト中だ」
「お疲れさまでーす。朝霞P先輩ってウチの1年生と面識ありましたっけ。ああ、タカちゃんエージ、星ヶ丘の朝霞P先輩」
「高木君は夏に1回なっちと3人でカレー食べたことがある。そっちの子は初対面かな。朝霞です」
「中津川栄治っす。夏合宿ではつばめ先輩の世話になってたっす」
「おー、エージか! 話には聞いてる。戸田がなかなか骨のある奴だって気に入ってたからどんな奴かなって思ってたんだ。文学ロック坊主だとも聞いてるけど」
立ち話をしているその間にも、朝霞先輩が捌くホットプレートの周りにはお客さんが集まってくる。寄ってくる子供にはちゃんと保護者を連れてくるようにとも確認しているし、献立を相談されればしっかりとメニューを組み立てて提示する。トークスキルと言うか対人スキルが本当にスゴい。
「とりあえずベーコンをカゴにインして」
「やっぱビールにはベーコンすよね」
「えっ、3人これから宅飲み?」
「そうですね、タカちゃんの部屋で」
「いいなー。今さー、俺すっごい金欠で禁酒してるんだって」
「ほら高木、金がないときに優先的に削るのは酒だろ普通の人は」
「酒は削れないでしょ普通」
朝霞先輩の倹約術は俺にはなかなか耳が痛い。ここぞとばかりにエイジが畳みかけてくるし。
「朝霞サン聞いてくださいよ、コイツ、金がない金がないって言うクセに酒はやめないわメシを食わないことで出費を抑えようとするわ、部屋にいるときなんか暖房も入れずにジャージ2枚重ねの上から毛布かぶってブラックニッカチビチビやることでやり過ごしてるんすよ!」
「ちょっとやめてよエイジ、他校の先輩に」
「タカちゃん、ゼミ合宿のお金も要るのにそんな調子で大丈夫? 15000円とスキーレンタル代とお小遣い捻出しなきゃなのに」
「まあ、その辺はどうにか」
「食費と光熱費だけじゃどうにもならないって言ってるのに」
「いい加減バイトでも始めろっていう」
「うん。単発でもいいからちょっと働いた方がいいよ、ちゃんとご飯も食べれるようになるし」
そんな調子で両サイドから責められていると、俺の目をジッと見据えてくるのは朝霞先輩だ。突然何がどうしたのかと。って言うか朝霞先輩の眼力がすごい。
「高木君、製品の吊り札付けの仕事に興味ない? 簡単な手作業なんだけど」
「えっ、仕事? ですか?」
「星大の大石がバイトしてる倉庫での仕事なんだけど、9時5時半で待遇は時給1000円、実働7時間。通勤は近場の駅とかで大石が車で拾ってくれるし。黙々とやる系の仕事だから接客みたいに人と喋る必要もあんまない」
「えっ何その好条件」
「しかも手作業とか高木! お前その仕事絶対やれ!」
「そうだよタカちゃん絶対向いてるよ! 器用だし即スーパーエースだよ!」
「出来る日だけでも全然オッケーだし、土曜日もあるみたいだから」
人とコミュニケーションをとる必要が少なそうなのと、単純な手作業というのは魅力的だなと思った。だけど、俺がやりますと返事をする前にエイジと果林先輩が「やらせます」と返事をしていたのはいかがなものか。いや、いいんだけど。2人とも俺のことを心配してくれてるのは申し訳ないくらいによくわかってるから。
「みんないつまで飲んでる? 仕事の細かいこと話したいから良かったら俺もこの後合流していい? エージとも仲良くなりたいし」
「あ、ぜひ来てください」
「って言うか朝霞P先輩禁酒してるんじゃなかったんですか」
「バイトの予定入ったから解禁する」
「ええー……」
end.
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チーム温玉が再集結するぞー! 果たしてチーム温玉はちーちゃんの職場にいるゆで卵の王に太刀打ちできるのか!w
例年はエイジか果林、どっちかだけだったと思うのですが、今回は両方からはよ働けと責められるTKGであった。
そしてちょうど近所で働けそうな、働かざるを得なさそうな人を見つけた朝霞Pであった。ちーちゃんに報告だー!
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