2018(04)

■探るベストポジション

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「あいたたた。芹ちゃん、そろそろ正座解いていい?」
「解かせるワケがねーんだよなァ。まだまだ反省が足りねーな」
「えー! もうムリ~!」

 1月7日、大晦日ライブ青山隊打ち上げ兼春山さんの誕生会と銘打った宅飲みが開かれていた。会場の春山さん宅に着くなりオレと青山さんは春山さんから正座するよう命じられ、春山さんへの復讐を目的としていた件のライブについて恨み辛みを浴びせられている。
 年末年始で酷使したであろう内臓を休ませる目的で、今日のメインディッシュは七草粥だ。春山さんが説教をしていたため綾瀬がそれを作り、今はそれを皆で囲んでいたのだ。粥を啜りながらも春山さんからのお小言は続いていたので、復讐という意味では成功だったのだろうと思う。

「ねえリン君! もう限界だよね!」
「ん?」
「――って何でそんなケロッとした顔してるの!?」
「10分20分程度の正座で足など痺れませんが」
「えー!?」

 悪巧みをしたことに対する反省を促すための正座は未だ解かれることはなく、青山さんは足の痺れが限界に達しているらしかった。青山さんがもんどりうっているのを見て春山さんは大笑いしているし、1・2年生は気の毒そうにしているがこの2人に関わるとロクなことにならんから放置が一番いい。
 そしてオレは足の痺れにくい正座の仕方を心得ている。1時間程度であれば楽に耐えることが出来るし、これは個人的な感覚だが、胡坐で座るよりも姿勢が良くなってゲームを長時間する際の身体的負担が少ない気がする。さすがに2時間に1回は足を解くが。

「マジかよ、それじゃあ意味ねーじゃねーか。リンが足痺れて転がるところが見たかったのに」
「残念だったな」
「面白くないからリンは好きに座ってろよ、もう」
「そうですか」
「じゃあ俺も」
「和泉は黒幕だから絶対に許さない」
「えー!?」

 しかし、こうして青山さんが足の痺れと格闘している姿を見ていると、オレ自身が面白くなくて本当に良かったと思う。それもこれもゲームをやるのに最適な姿勢を探し続けた幼少期の自分に感謝する他ない。

「でも、雄介さんて本当に背筋が伸びてて座り姿が綺麗ですよね。こないだのライブの時から思ってましたけど」
「ピアノを弾く姿勢は、いかに身体を楽に効率よく正確に使うかということを父親から教わった。無駄な力を入れんようにすることもか」
「あの、詳しく教えてもらっていいですか?」
「そもそも、人間の筋肉は力をかけると硬直して柔軟に動かなくなるという性質がある」
「ふむふむ」
「そのため無駄に力を入れると微妙な力のコントロールが出来なくなったり、咄嗟に動くことが出来なくなったりする。ピアノを弾くときも、ゲームのコントローラーを握るときもそれは同じだ」
「へー。ドラムは猫背がベスト派が多いような気がするけど、ピアノは伸ばすんだね。って言うか背筋を伸ばすと力が入って体を痛めるって聞いたんだけど」
「それはどう伸ばすかによるんじゃないですか。そもそも、ピアノとドラムでは体の使い方もまるで違いますから一概に比較するのもどうかと」

 正座の話からいやに飛躍したように思うが、悪い話題ではないなと思う。青山さんは音楽に対してだけは誠実な人だ。座り方や姿勢ひとつとっても真剣に意見や情報を交換し合えるのはとても有益だ。そして綾瀬もいつしか正座をしてオレと青山さんの話を聞いている。
 綾瀬はオレと青山さんの話を聞きながら、演劇やダンスの時はどうであるかを時たま挟んで来る。先日少し見ただけだからあまり詳しくはわからんが、綾瀬の踊りに関して言えば体の軸がしっかりしているという印象がある。指先まで滑らかに動いているが、軸がブレていないと言うか。

「カナコお前、正座なんかしてたら脚がむくんで太くなるって言わないか? せっかくの美脚が」
「足に体重がかかって~ってヤツですよね! 後でマッサージします! あれっ、そう言えば雄介さんて普段ゲームするときは正座なんですよね?」
「それがどうした」
「えっ、実質的住所が大学でゼミ室籠りですよね? どう考えても運動習慣がなさそうなのに、脚細すぎじゃないですか…!? 細身のパンツが似合い過ぎてしんどいんですけど!」
「運動習慣がなくなったからこそゼミ室では意識的にストレッチの機会を設けたり、センターへの行き来はよほど急がん限り階段を使っている」
「な、なるほど…! さすが雄介さん……日頃から気を付けてるんですね!」
「尤も、オレが気にしているのは脚の太さやむくみではなく血栓が出来んようにとか、そういうことだぞ」
「いえ! 私は甘えてました! 隙があれば学内でも駅でもエスカレーターばかり使って…! 明日からは極力階段の上り下りを取り入れます!」
「まあ、オレの知ったことではないが」

 鍋の中の粥が無くなれば、七草粥の意味を無に帰すように酒や揚げ物などが卓に並び始める。春山さんは痺れ切った青山さんの足をつついてご機嫌そうにしているから、今はこのまま触れん方がいいだろう。下手に触れてまた機嫌を損ねられても面倒だ。

「おーいリン、電話鳴ってるぞー! うっせーから早く出ろ!」
「まったく。うるさいのはアンタでしょう。……はいもしもし。ああ、カンノか。どうした」


end.


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春山さんの誕生日ということで、青山隊とミドリが集合しました。ミドリはセンターの関係だから呼ばれたよ!
気付いたら座り方の話になっていたので話というのは何がどういう風にシフトしていくか全然わからん
と言うかこないだからカナコはリン様に対しての発作が次元関係なくなってきてないか?

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