2018(04)
■思惑の火を囲む
++++
「えっ、何かすげーガシャンガシャン言ってね?」
「ガシャンガシャン言ってるね」
「ふー、先輩方、お待たせしました」
「うーい、圭斗お疲れーい。菜月は?」
「菜月さんも今荷物を持って上がって来ているところですよ」
今日が村井おじちゃんの誕生日だということで、新年会を開く口実に。僕は実家から帰って来た菜月さんを駅まで迎えに行き、一度菜月さんの部屋に寄ってここまでやって来たよ。で、僕が抱えてきた荷物だね。
僕が用意していた物は、角煮や酒の肴になりそうな料理だね。菜月さんを迎えに行くまでは、自分の部屋から鍋やタッパーを運んでということを繰り返して。そして、菜月さんの荷物だね。ガシャンガシャンと音を立てるこれは、宴に欠かせない酒瓶。
「はー、重かった」
「圭斗さん、何か凄くない?」
「菜月さんが買って来てくれたお土産ですよ」
「すげー! 酒だー!」
「先輩たちの好みがわかんなかったんで、スーパーで手当たり次第買って来たんですよ」
「でも、凄いお金かかったんじゃない?」
「あっ、そんなに高い物でもないですよ。新年の特売で安くもなってましたし」
菜月さんの実家のある緑風エリアは酒処としても有名だ。それで、今日に向けて菜月さんにお使いを頼んでいたんだ。何か適当にお酒を買って来てくれないかと。そしてついでに私用のお使いと(定例会おでんの時、朝霞君に結構やられたからね)。
そしたら結構な量を買い込んできてくれましたよね。持ち歩くのも大変な量で、僕に迎えに来てほしいと救援要請が入って現在に至るよ。持ち歩けなくなるくらいの酒瓶ってどんだけだと思ったけど、自分のお土産もあるから素直に行かせていただきました。
「とりあえず、おでんを持って来ましょうか」
「いよっ! 圭斗のおでん!」
土鍋を運ぼうと台所に立った瞬間だ。ピンポーンとインターホンが鳴る。一度鳴って、もう一度、ピポンピポンと2回鳴る。家主の村井サンに出るよう促しても、お前が出ていーよと適当なことを言うので渋々はーいとドアを開ければ。
「村井サン、来まし――」
「あ」
「お邪魔しました」
バタンと扉が閉まりそうになった瞬間、部屋の奥から「逃げたら殺すよー」と悪魔の声が。それに観念したのか、嫌な予感を察知して逃げ帰ろうとしていた来訪者・高崎は部屋に上がる。と言うかいつの間に高崎を招集していたんだ。これはお麻里様の犯行ですね。
「逃げずに来たね、高崎」
「向島の集会とか、ロクでもないことになる気しかしないんすけど」
「麻里さん、高崎も招集してたんですか? 4人分で計算していたので料理が足りるかに若干の不安が」
「その辺はコンビニもすぐそこだし何とでもなるでしょ」
高崎が招集されるからには後々何かしらの尋問が行われるのかな。高崎には菜月さん関連で怪しい動きが多すぎるからね。お前これからどうするつもりなんだと一度問い質しておきたいというのがお麻里様の考えなのだろう。
そんなことはともかく、今日の僕はこの新年会の世話役だ。腹が減ったと言われれば料理を運び、酒がないと言われれば酒を注ぐという仕事に終始する。もちろん、バタバタと歩き回りながらも耳の神経は集中させるワケだけれども。
「あ、つかビール持って来たんすけど今日って日本酒メインな感じっすか」
「いやー、その辺は好き好きでいいんじゃない? ま、一杯やろうや」
「言っときますけど、明日から普通に授業なんでそこまでガッツリとはやらないっすよ」
「えっ、月曜って3限からって言ってなかったかお前」
「よーしそれじゃあしこたまやろうぜー!」
「……菜月~…! あんま余計な事言うなお前は」
哀れ、高崎。3限からということはある程度までなら全然やっていられるということがバレてしまったということだ。と言うか菜月さんは高崎の履修まで把握しているのかな? 一度聞いたことは覚えている方とは言え、さすがだね。
「あれっ。って言うか思い出したけどマーさん卒論は大丈夫なの? 提出明日の午後からでしょ?」
「はい?」
「あっ、これは大丈夫じゃないヤツですね。村井サン、まさか卒論もコピペで済ませるんじゃ」
「余裕でコピペだよそんなモン!」
「つか卒論コピペとか、向島って一応公立なのに緩すぎじゃないすか」
「それはマーさんだけだよ。普通の人はちゃんと書いてるよ」
「それより村井サン、飲んでる余裕あるんすか」
「ああ、それはへーきへーき。どのページコピーするかはもうブクマしてあるから!」
尋問大会はもう少し夜が深まってからだろう。今はなんて事のない、平和な飲み会だ。僕は高崎の存在を確かめ村井サンの炊飯器で勝手にご飯を炊く。伊東が言っていたんだ。高崎のいるこのテの会で白米が必須だと。野坂みたいな扱いでいいらしい。
そんなこんなでぐだぐだと新年会は進む。村井サンの卒論のヤバさがいろんな意味でガチなんだけど、そんなことはお構いなし。僕が用意している料理も好評なようでとてもよかったし、熱燗も練習の成果が存分に発揮出来ている。ムラマリさん主催の宴で生き残るコツは、空気になることだよ。
「圭斗ー、お土産の梅酒開けよう」
「ん、自分用に買って来た方のを開けたらいいんじゃないかな?」
「ケチだな」
「そんなことを言われる筋合いはないんだけどね」
end.
++++
村井誕を口実にした毎度お馴染みの新年会です。今年は高崎が呼ばれたところから(前にそんな年度があった)
ただ、アレですね。4年生は卒論提出が済んでいたりこれからだったりする時期ですね。お麻里様は当然余裕なようですが……
って言うか定例会おでんで朝霞P、圭斗さんちのお酒を結構やっちゃってたのねw
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「えっ、何かすげーガシャンガシャン言ってね?」
「ガシャンガシャン言ってるね」
「ふー、先輩方、お待たせしました」
「うーい、圭斗お疲れーい。菜月は?」
「菜月さんも今荷物を持って上がって来ているところですよ」
今日が村井おじちゃんの誕生日だということで、新年会を開く口実に。僕は実家から帰って来た菜月さんを駅まで迎えに行き、一度菜月さんの部屋に寄ってここまでやって来たよ。で、僕が抱えてきた荷物だね。
僕が用意していた物は、角煮や酒の肴になりそうな料理だね。菜月さんを迎えに行くまでは、自分の部屋から鍋やタッパーを運んでということを繰り返して。そして、菜月さんの荷物だね。ガシャンガシャンと音を立てるこれは、宴に欠かせない酒瓶。
「はー、重かった」
「圭斗さん、何か凄くない?」
「菜月さんが買って来てくれたお土産ですよ」
「すげー! 酒だー!」
「先輩たちの好みがわかんなかったんで、スーパーで手当たり次第買って来たんですよ」
「でも、凄いお金かかったんじゃない?」
「あっ、そんなに高い物でもないですよ。新年の特売で安くもなってましたし」
菜月さんの実家のある緑風エリアは酒処としても有名だ。それで、今日に向けて菜月さんにお使いを頼んでいたんだ。何か適当にお酒を買って来てくれないかと。そしてついでに私用のお使いと(定例会おでんの時、朝霞君に結構やられたからね)。
そしたら結構な量を買い込んできてくれましたよね。持ち歩くのも大変な量で、僕に迎えに来てほしいと救援要請が入って現在に至るよ。持ち歩けなくなるくらいの酒瓶ってどんだけだと思ったけど、自分のお土産もあるから素直に行かせていただきました。
「とりあえず、おでんを持って来ましょうか」
「いよっ! 圭斗のおでん!」
土鍋を運ぼうと台所に立った瞬間だ。ピンポーンとインターホンが鳴る。一度鳴って、もう一度、ピポンピポンと2回鳴る。家主の村井サンに出るよう促しても、お前が出ていーよと適当なことを言うので渋々はーいとドアを開ければ。
「村井サン、来まし――」
「あ」
「お邪魔しました」
バタンと扉が閉まりそうになった瞬間、部屋の奥から「逃げたら殺すよー」と悪魔の声が。それに観念したのか、嫌な予感を察知して逃げ帰ろうとしていた来訪者・高崎は部屋に上がる。と言うかいつの間に高崎を招集していたんだ。これはお麻里様の犯行ですね。
「逃げずに来たね、高崎」
「向島の集会とか、ロクでもないことになる気しかしないんすけど」
「麻里さん、高崎も招集してたんですか? 4人分で計算していたので料理が足りるかに若干の不安が」
「その辺はコンビニもすぐそこだし何とでもなるでしょ」
高崎が招集されるからには後々何かしらの尋問が行われるのかな。高崎には菜月さん関連で怪しい動きが多すぎるからね。お前これからどうするつもりなんだと一度問い質しておきたいというのがお麻里様の考えなのだろう。
そんなことはともかく、今日の僕はこの新年会の世話役だ。腹が減ったと言われれば料理を運び、酒がないと言われれば酒を注ぐという仕事に終始する。もちろん、バタバタと歩き回りながらも耳の神経は集中させるワケだけれども。
「あ、つかビール持って来たんすけど今日って日本酒メインな感じっすか」
「いやー、その辺は好き好きでいいんじゃない? ま、一杯やろうや」
「言っときますけど、明日から普通に授業なんでそこまでガッツリとはやらないっすよ」
「えっ、月曜って3限からって言ってなかったかお前」
「よーしそれじゃあしこたまやろうぜー!」
「……菜月~…! あんま余計な事言うなお前は」
哀れ、高崎。3限からということはある程度までなら全然やっていられるということがバレてしまったということだ。と言うか菜月さんは高崎の履修まで把握しているのかな? 一度聞いたことは覚えている方とは言え、さすがだね。
「あれっ。って言うか思い出したけどマーさん卒論は大丈夫なの? 提出明日の午後からでしょ?」
「はい?」
「あっ、これは大丈夫じゃないヤツですね。村井サン、まさか卒論もコピペで済ませるんじゃ」
「余裕でコピペだよそんなモン!」
「つか卒論コピペとか、向島って一応公立なのに緩すぎじゃないすか」
「それはマーさんだけだよ。普通の人はちゃんと書いてるよ」
「それより村井サン、飲んでる余裕あるんすか」
「ああ、それはへーきへーき。どのページコピーするかはもうブクマしてあるから!」
尋問大会はもう少し夜が深まってからだろう。今はなんて事のない、平和な飲み会だ。僕は高崎の存在を確かめ村井サンの炊飯器で勝手にご飯を炊く。伊東が言っていたんだ。高崎のいるこのテの会で白米が必須だと。野坂みたいな扱いでいいらしい。
そんなこんなでぐだぐだと新年会は進む。村井サンの卒論のヤバさがいろんな意味でガチなんだけど、そんなことはお構いなし。僕が用意している料理も好評なようでとてもよかったし、熱燗も練習の成果が存分に発揮出来ている。ムラマリさん主催の宴で生き残るコツは、空気になることだよ。
「圭斗ー、お土産の梅酒開けよう」
「ん、自分用に買って来た方のを開けたらいいんじゃないかな?」
「ケチだな」
「そんなことを言われる筋合いはないんだけどね」
end.
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村井誕を口実にした毎度お馴染みの新年会です。今年は高崎が呼ばれたところから(前にそんな年度があった)
ただ、アレですね。4年生は卒論提出が済んでいたりこれからだったりする時期ですね。お麻里様は当然余裕なようですが……
って言うか定例会おでんで朝霞P、圭斗さんちのお酒を結構やっちゃってたのねw
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