2018(04)
■一年を笑い納めてまた一年
＋＋＋＋
『やあ。みんなのキョージュだよ。みんな元気？ 僕は元気だよ。この配信のアーカイブは絶対に残さないから、転載を見つけたら教えてね。然るべき対処をするよ。じゃあ、晦日ぼっち配信スタート～』
パソコンのモニターにドドンと映し出されているのは、ゲーム実況グループSDXの生放送だ。俺はそれを年末でうちに来ているこーたと一緒になって見ていた。こーたがうちにいる理由は話すと長くなるけど、一言で言えば家族の旅行からハブられたということだ。
そんなこんなで神崎家一家と弟の彼女一家との旅行からハブられた、もといオタ活をキメたいがために離脱したこーたは昨日からうちに居候している。謎にうちの家族から気に入られているのがウザいですね。さすがウザドルだ！
「野坂さんと生放送を見ながら年を越すなど、非常にもさい新年の迎え方ですね」
「うるせーよ。だったら弟の彼女一家と一緒に南国バカンスに行けば良かったじゃないか、意味が分からない」
「それはそれで殺意しか沸かないんですよ」
「わかる」
「だったら野坂さんと一緒にしょうもないことをしていた方がマイナス5000倍は楽しいですね」
「マイナスにマイナスを掛けてプラス的な」
「ですね。野坂さんはイケメン詐欺だけあって顔はイケメンですが性根が非常に残念で腐ってますから、陰湿陰険な私とはクズ具合がちょうどいいんですよね」
すげーディスられてるんだけど、それもこれも俺がイケメンであるという部分以外は事実だし、俺もこーたとくだらないことをしているくらいの方が楽しいので寝るときにいびきと歯ぎしりがうるさい以外は特に不満がない。こーたがいる方が母さんも機嫌がいいし。
さて、画面の方ではSDXの教授ことプロがひたすら１人でトークをしている。SDXというグループの年内の活動を振り返ったり、今後の展望なんかを話したり。この配信も本当は４人揃った忘年会の予定だったんだけど、残る３人に予定が入ってぼっちになってしまったんだそうだ。
「こーたお前SDX誰推しだっけ」
「私はコンちゃん推しですね。淡々と、かつ着々と作業を進めているのがいいですね。ザ・普通の人という感じで。野坂さんはソルさん推しでしょう？」
「だって絶対男前じゃないか…！」
「出たー、いつものヤツー」
「ヘッドホンとかで聞いてるとソルさんの声やべえ。ゾクゾクする。快感が脳髄を突き抜けて殺されても仕方ない」
「あなたのその性癖は一体何なんです？ それとも耳が性感帯なんです？」
「その説はあるかもしれないがお前に言われるとか気色悪さしかない」
「死んでしまいなさい」
女の声には何も感じないのに男の人の声に含まれる色気などには過敏に反応してしまうのでもはや性癖と言われても仕方ないですね。星ヶ丘のラジドラをモニターしたくらいのときに俺の俺による俺のための耳の保養ディスクの存在が公になってしまったしなあ……。
『なんかねー、ソルがライブだって言ってて、コンちゃんとチータもライブだって言ってたんだよね。あっ、コンちゃんとチータは同じバンドなんだけどね。音楽業界の年越しライブ的なことなのかな？ まあ、僕はバンドやってないしそういうのには無縁だけど、一応楽器をかじってはいるので、ちょっと、配信で。やってみようかなと。今画像サムネになってるけど、首より下映すよ。何度でも言うけど、アーカイブは残さないから無断転載を見つけたら教えてね。然るべき対処をするよ。ちょっと準備しまーす』
しばらくはサムネイル画像で止まっていた配信の方に動きが出るようだった。現在時刻はゆく年くる年、23時45分。ごそごそと音がしたかと思えば、キュイー、と何やら弦の音。一体何が始まるんだ。今までは流し聞きしていた俺とこーたも画面の方に集中していた。
パッと画面が変われば、場所はおそらくプロの部屋だと思われる場所。部屋には幕が敷かれていて、個人情報が漏れそうな物は隠されている。そして幕の前にSDXのキャラクターアイコンを印刷したお面をかぶったプロがバイオリンを持って立っていて。えっ、意味が分からない。
『僕も一応バイオリンをかじってるので、年越しだし第九やります』
「突然の第九」
「確かにこれはアーカイブを残すと面白くないですね」
俺とこーたはとことん草を生やしまくる。だって意味が分からない。ゲーム実況者がとつぜんお面かぶってバイオリンで第九弾き出すとか。それをゲラゲラ笑っていると演奏が始まり、画面の下の方には歌詞が表示された。用意周到だ。
やっぱり、年末年始は意味が分からないくらいが、しょうもないくらいがちょうどいいと思う。しっぽり過ごすのもいいけどゲラゲラ笑って明るい気分で次に向かいたいと言うか。プロの演奏は素人でもわかるくらいに上手くはないけど、ぼっち気分を吹き飛ばすには最高だ。
『あっ、ポチさん投げ銭500円ありがとうございまーす。メイさんチャンネル登録ありがとー。コメントも読んでるよ。「上手くはないがそれがいい」「みんなバンドマンならSDXフルメンバー版が聞きたい」……これは要検討ですね。ちなみにこのバイオリンは元々ソルの所有物で、僕はこれを同居時代に譲ってもらったんだよね。そうなんだよ、ソルはベースだけじゃなくてバイオリンも弾けるんだよ。礼儀正しいし元々の育ちがいいんだよね。雨宮さん2000円本当にありがとうございます！』
「すげえ、第九でめっちゃお捻り飛んでる」
「フミー、こーた君、年越しそば出来たけど食べる？」
「食べる。こーた、行くか。動画は個人用に録画してるし続きは後で見よう」
「ではいただきましょう」
end.
＋＋＋＋
プロ氏の配信をきゃっきゃしながら見てるだけのノサ神のお話。大晦日の夜になります。
一方その頃星港市内某所ライブハウスでは、という状況なんですね。時系列的に先の話かしら（執筆はこっちが先）
何やかんやノサ神はクズっぷりが安定してるしお互いちょうどいいらしい。一緒にいて楽なんやろなあ
.
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『やあ。みんなのキョージュだよ。みんな元気？ 僕は元気だよ。この配信のアーカイブは絶対に残さないから、転載を見つけたら教えてね。然るべき対処をするよ。じゃあ、晦日ぼっち配信スタート～』
パソコンのモニターにドドンと映し出されているのは、ゲーム実況グループSDXの生放送だ。俺はそれを年末でうちに来ているこーたと一緒になって見ていた。こーたがうちにいる理由は話すと長くなるけど、一言で言えば家族の旅行からハブられたということだ。
そんなこんなで神崎家一家と弟の彼女一家との旅行からハブられた、もといオタ活をキメたいがために離脱したこーたは昨日からうちに居候している。謎にうちの家族から気に入られているのがウザいですね。さすがウザドルだ！
「野坂さんと生放送を見ながら年を越すなど、非常にもさい新年の迎え方ですね」
「うるせーよ。だったら弟の彼女一家と一緒に南国バカンスに行けば良かったじゃないか、意味が分からない」
「それはそれで殺意しか沸かないんですよ」
「わかる」
「だったら野坂さんと一緒にしょうもないことをしていた方がマイナス5000倍は楽しいですね」
「マイナスにマイナスを掛けてプラス的な」
「ですね。野坂さんはイケメン詐欺だけあって顔はイケメンですが性根が非常に残念で腐ってますから、陰湿陰険な私とはクズ具合がちょうどいいんですよね」
すげーディスられてるんだけど、それもこれも俺がイケメンであるという部分以外は事実だし、俺もこーたとくだらないことをしているくらいの方が楽しいので寝るときにいびきと歯ぎしりがうるさい以外は特に不満がない。こーたがいる方が母さんも機嫌がいいし。
さて、画面の方ではSDXの教授ことプロがひたすら１人でトークをしている。SDXというグループの年内の活動を振り返ったり、今後の展望なんかを話したり。この配信も本当は４人揃った忘年会の予定だったんだけど、残る３人に予定が入ってぼっちになってしまったんだそうだ。
「こーたお前SDX誰推しだっけ」
「私はコンちゃん推しですね。淡々と、かつ着々と作業を進めているのがいいですね。ザ・普通の人という感じで。野坂さんはソルさん推しでしょう？」
「だって絶対男前じゃないか…！」
「出たー、いつものヤツー」
「ヘッドホンとかで聞いてるとソルさんの声やべえ。ゾクゾクする。快感が脳髄を突き抜けて殺されても仕方ない」
「あなたのその性癖は一体何なんです？ それとも耳が性感帯なんです？」
「その説はあるかもしれないがお前に言われるとか気色悪さしかない」
「死んでしまいなさい」
女の声には何も感じないのに男の人の声に含まれる色気などには過敏に反応してしまうのでもはや性癖と言われても仕方ないですね。星ヶ丘のラジドラをモニターしたくらいのときに俺の俺による俺のための耳の保養ディスクの存在が公になってしまったしなあ……。
『なんかねー、ソルがライブだって言ってて、コンちゃんとチータもライブだって言ってたんだよね。あっ、コンちゃんとチータは同じバンドなんだけどね。音楽業界の年越しライブ的なことなのかな？ まあ、僕はバンドやってないしそういうのには無縁だけど、一応楽器をかじってはいるので、ちょっと、配信で。やってみようかなと。今画像サムネになってるけど、首より下映すよ。何度でも言うけど、アーカイブは残さないから無断転載を見つけたら教えてね。然るべき対処をするよ。ちょっと準備しまーす』
しばらくはサムネイル画像で止まっていた配信の方に動きが出るようだった。現在時刻はゆく年くる年、23時45分。ごそごそと音がしたかと思えば、キュイー、と何やら弦の音。一体何が始まるんだ。今までは流し聞きしていた俺とこーたも画面の方に集中していた。
パッと画面が変われば、場所はおそらくプロの部屋だと思われる場所。部屋には幕が敷かれていて、個人情報が漏れそうな物は隠されている。そして幕の前にSDXのキャラクターアイコンを印刷したお面をかぶったプロがバイオリンを持って立っていて。えっ、意味が分からない。
『僕も一応バイオリンをかじってるので、年越しだし第九やります』
「突然の第九」
「確かにこれはアーカイブを残すと面白くないですね」
俺とこーたはとことん草を生やしまくる。だって意味が分からない。ゲーム実況者がとつぜんお面かぶってバイオリンで第九弾き出すとか。それをゲラゲラ笑っていると演奏が始まり、画面の下の方には歌詞が表示された。用意周到だ。
やっぱり、年末年始は意味が分からないくらいが、しょうもないくらいがちょうどいいと思う。しっぽり過ごすのもいいけどゲラゲラ笑って明るい気分で次に向かいたいと言うか。プロの演奏は素人でもわかるくらいに上手くはないけど、ぼっち気分を吹き飛ばすには最高だ。
『あっ、ポチさん投げ銭500円ありがとうございまーす。メイさんチャンネル登録ありがとー。コメントも読んでるよ。「上手くはないがそれがいい」「みんなバンドマンならSDXフルメンバー版が聞きたい」……これは要検討ですね。ちなみにこのバイオリンは元々ソルの所有物で、僕はこれを同居時代に譲ってもらったんだよね。そうなんだよ、ソルはベースだけじゃなくてバイオリンも弾けるんだよ。礼儀正しいし元々の育ちがいいんだよね。雨宮さん2000円本当にありがとうございます！』
「すげえ、第九でめっちゃお捻り飛んでる」
「フミー、こーた君、年越しそば出来たけど食べる？」
「食べる。こーた、行くか。動画は個人用に録画してるし続きは後で見よう」
「ではいただきましょう」
end.
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プロ氏の配信をきゃっきゃしながら見てるだけのノサ神のお話。大晦日の夜になります。
一方その頃星港市内某所ライブハウスでは、という状況なんですね。時系列的に先の話かしら（執筆はこっちが先）
何やかんやノサ神はクズっぷりが安定してるしお互いちょうどいいらしい。一緒にいて楽なんやろなあ
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