2018(04)

■知っているけど知らない

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「あ」

 ――と重なる3人分の声に、固まる視線。12月31日、大晦日の星港市内某所ライブバーで、まさかのエンカウント。
 今日はこのライブバーで、何だっけ……「シャッフルバンド音楽祭」とかそんな感じのイベントが行われる。俺はバイト先の先輩である青山さんから誘いを受けてゲーム系インストバンドのCONTINUE、それからバイト先のメンバーで結成した打楽器バンドのヴィ・ラ・タントンとして参加することになった。
 青山さんによれば、人脈の続く限り声の届く限りのバンドに声をかけてあるそうで、当日まで最終的に何人揃うか、そしてどの曲を誰とやることになるのかという諸々の情報が非公開と言うか把握出来ないそうだ。それはそれで怖いなとは思ってたけど、そこで出会ったまさかの顔に俺とカンはこそこそ声になる。

「スガ! ソルの本名って何だっけ!」
「えっと、確か塩見さんだけど、初対面の体で自己紹介からすれば怪しくならないと思う」

 そう、まさかのソルさん。確かにSDXでの会議の時に大晦日にライブが1本入ったとは言っていたけど、まさか同じライブだとは全く思わなかったワケで。カンはおろおろと狼狽えてテンパってるし、俺も平静を装ってはいるけど正直どうすればいいんだという気持ちでいっぱいだ。

「え、えーと……ゲーム系インストバンドCONTINUEのリーダーでドラムの菅野泰稚です」
「同じくCONTINUEキーボードの菅野太一です」
「スラップソウル、ベースボーカルの塩見拓馬だ」

 ……はい。まあ、挨拶はしたからとりあえずはこれでよし! えっ、これ以上に何か絡むのか? って言うかどこからどう見ても俺たちとソルさんて共通項ありそうな感じじゃないしここではスルーでもさほど問題はないんだけども! 一応SDXでは身バレしないようにってやってるし。

「おいオミ~! お前ただでさえ背デカくて人相悪いんだから挨拶に来た学生ビビらせんじゃねーよ!」
「あ? お前誰が学生ビビらせてるって? これのどこがビビってんだ、なあ」
「あっ、はい」
「完全に言わせてんじゃねーか! あっ、俺はオミと同じスラップソウルのギターで今日の主催の長谷川正道!」

 もしこれで初対面だったら背が高くて男前オーラをバシバシに纏った塩見さんにビビってたかもしれないけど、ここでは内緒とは言え顔見知りだし同じグループのメンバーだから俺もカンも今は当然ビビってはいない。ビックリはしているけど。

「まあ、コイツこんなナリだけどツミツミが好きとか可愛い一面もあってさ~! すげーよ、ちょっと空き時間出来たらツミツミばっかやってんのよ」
「へ、へー。俺も知ってる人にツミツミ好きな人いますよ」
「まあ、ツミツミは入れてるヤツが多いゲームだもんな! そんでさ、コイツ頭ン中でもツミツミの音楽流れてんのかいきなりベースでやり始めんだよ!」
「へ、へー」

 ソルさんのツミツミ動画を見ているから塩見さんがどんな風にやりこんでるのかは大体知ってる。最近もツミツミ動画がよく上がってたから忙しかったんだろう。ゲーマー視点では頑張ってるなって見守れる感じだけど、一般の人からすれば正気の沙汰じゃなく見えるレベルで。俺のツミツミのランキングも毎週1位はソルさんだ。
 如何せん怖く見られがちらしい塩見さんを、長谷川さんは全然怖くないよーと俺たちにプレゼンしている。だけど、プレゼンしているその斜め上の方では、どんどん塩見さんの目つきが凶悪になっていて。そりゃそうですよね。初対面の体だけどガッツリメンバーだから……プライベートの要らん情報漏らすなって感じですよねわかります!

「あ、えっと長谷川さん、今日のセットリストとかってわかりますか? 何人集まるとか、誰と組むとか」
「今ねー和泉と最終調整してたんだけど、今回ベースが少ねーからオミの負担がすげーデカいのよ。だからオミは割とずっと出ずっぱりで」
「うわっ、しんど!」
「ムチャ振りは主催のバンドメンバーにするんだと。最近は練習の記憶しかねえ」

 ああ、それで最近やたらツミツミ動画が上がってたのか……。ソルさんの生存報告用の……。

「一応リスト壁に貼っとくし見といて。オミ、見えるように高いトコ貼っといて」

 塩見さんが壁に貼ってくれたそれを早速見てみると、そんな予感は薄々していたけどそのまさかが実現していた。俺とカンとソルさん、それからレイというギターを入れた編成が。うん、まあ、そんなこともある。

「長谷川さん、俺がスガノでこっちがカンノなんですけど名字の漢字が一緒なので、ルビかパート、ドラムかキーボードかっていうのを振っていただけると助かります」
「あいよ。あっ、ダメだ。高くて手が届かない。オミ、書いて」
「これは」
「キー」
「こっちは」
「ドラム」

 KeyとかDとかっていう風にパートが振られると、やっと俺もカンも出番がわかって落ち着く。まあ、ノルマ曲を練習してるからわかってるっちゃわかってはいるんだけど、一応。これで一旦席で待機。
 そうこうしているうちに参加者がだんだんと集まってきて、イベント開始を予感させる。大晦日と言えば第九に紅白、カウントダウンライブという感じでとにもかくにも音楽がある日だ。出来不出来はともかく楽しみたい。

「ところでスガ、キョージュってマジで第九配信すんのかな」
「どうだろう。やってたとしても俺たちは見れないと思うけど。俺たちへの当てつけだろうから」

 すると、斜め上からボソッと声が降ってくるんだ。「録画のセットはしてあるから後で共有する」と。

「それではー、これから年末のシャッフルバンド音楽祭を始めまーす! 主催は私、ブルースプリング、ヴィ・ラ・タントン青山和泉とー」


end.


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去年のこの時点で塩見さんはモブだったので、音楽祭短編ではあまり喋っていませんでした。1年でこうまでなるか…!
長谷川マサちゃんがオミさんをこわくないよーってやってても、スガカンからすりゃ「あっはい知ってます」って感じだったんだろうなあ
プロ氏の第九配信……どうなるのかなあw ナノスパの中では誰か見てるのかしら

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