2017(02)
■働かざる者食わずに飲んで
++++
「クーポンでーす、Mドリンクが50円引きでーす」
果林先輩が来る人来る人に何かを配っている。俺の手にも渡されたそれをじっくり見てみれば、コーヒーショップのMサイズドリンクが50円引きのクーポン券。ただし、使える店舗は限られているようだ。
「果林、お前さてはノルマ達成出来てないんだな」
「深夜メインになってからはからっきしですよー。まあ、店長もその辺は考慮してくれてるみたいなんで、昼の集客を頑張ってねって紙束渡されました」
「えーと、ノルマって?」
「果林がバイトしてんのは坂の下にあるコーヒーショップとガソリンスタンドの併設店なんだけどよ、ガソスタの方の何だっけか」
「現金値引きの会員カードの入会ノルマってのがあるんだよ」
「そうなんですね」
果林先輩がコーヒーショップでアルバイトをしていることは聞いていたけど、ガソリンスタンドとの併設店であることは何気に初めて聞いたかも知れない。大学近くにある店とは言え、通らない道だからどこにあるのかもよく知らない。
ガソリンスタンドで働くのに優位になる危険物取扱者乙種4類、通称乙4の資格を猛勉強の末に取っていたり、ノルマがあったり。深夜メインだし、バイトにも力を注いでいる果林先輩のバイタリティは凄いと思う。
「店長はそういうの気にしない人なんだけど、一応お上の意向ってのもあるしって」
「で、それとこのクーポンがどう関係するんですか?」
「クーポンを配って店に来る人の母数を増やすってこと」
「なるほど」
「高ピー先輩はよく来てくれるんだよ」
「一番近いガソスタだしな」
高崎先輩がよく飲んでいるというカフェモカはMサイズで320円。それが50円引きというのはかなり大きいと思う。ただ、俺は高崎先輩のビッグスクーターみたく足がないからなかなか行きにくい。50円引きは魅力的だけど。
「高木、今度行くか」
「えっ、このお店にですか?」
「火木土の夜な。どっか空けとけ」
「夜は基本的に空いてます」
「高ピー先輩冷やかす気マンマンじゃないですかー!」
「お前がいねえのに何が面白えんだ。なあ高木」
「興味はあります」
聞くと、果林先輩が店にいるのが基本的に火木土の夜なんだそうだ。早い日は8時過ぎくらいからいるそうだけど、基本は夜10時から朝の6時まで。1125円×8時間で日給は9000円。物凄い大金だ。
それで週に3~4回働くからさぞかし果林先輩の貯金額は凄いことになってるかと思えば、実はそんなに貯金はないらしい。それというのも、給料はほぼ食費。エンゲル計数がとんでもないことになっているとか。働かざる者食うべからず、か。
「夜は昼ほど人がいねえから、長居するにも罪悪感があんまねえのがいい」
「アタシたまに高ピー先輩と喋って暇潰ししてるし」
「950円の外回りからすれば1125円のお喋りとかふざけんなって思うけどな」
「高ピー先輩時給1000円に昇給したんじゃなかったでしたっけ」
「来月からだ。今月はまだ950円のままだ」
先輩たちの時給トークが生々しい。高崎先輩の給料は酒に費やされる割合が少し大きいとか、そんなようなことが。俺もバイトについて考えなきゃいけないとは思いつつも、星港での生活に慣れたらとか言っているうちに今に至っている。
「あ、そう言えばタカちゃんバイトしないの? そろそろ生活にも慣れたでしょ?」
「やろうとは思ってます」
「思ってるだけじゃ職なんか来ねえぞ」
「まあ、そうなんですけど」
「星港だったらバイトなんざ腐るほどあるだろ」
「そうなんですけど、サービス業と言うか、人と接するのが苦手と言いますか」
「じゃあ肉体労働か」
「体力もなくて」
――とか何とか言ってたら何もやることがなくなるじゃねえか、と高崎先輩に呆れられてるのも当然だ。でも本当にアルバイトを考えてはいた。ただ、なかなか思い切ることも出来ずに。
「日雇いの派遣とかどう? 朝霞P先輩が言ってたんだけど、派遣会社に登録しといて働きたいときだけ働いてるって。日給7000円オーバーとかザラらしいし」
「ちょっと、どんな仕事か分からないのが怖くて」
「ダメだこりゃ。精々日々の倹約を頑張るこった」
「酒代を削るのは少し痛いですね」
end.
++++
何だかんだ働かないループに陥っているTKGであった。結局いつもの流れでは何かのきっかけで朝霞Pと知り合うまで働かないんだからTKGってヤツァー
果林の給料はほとんどが食費になっているようですが、もしもTKGがバイトをしたらその給料は何に使うのだろうか……働く想像がつかないのでやめよう
高崎の給料は冬は光熱費、夏は酒代なんだろうなあ。あんまりデカい買い物もしないし結構持ってそうだけどどうなんでしょう
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「クーポンでーす、Mドリンクが50円引きでーす」
果林先輩が来る人来る人に何かを配っている。俺の手にも渡されたそれをじっくり見てみれば、コーヒーショップのMサイズドリンクが50円引きのクーポン券。ただし、使える店舗は限られているようだ。
「果林、お前さてはノルマ達成出来てないんだな」
「深夜メインになってからはからっきしですよー。まあ、店長もその辺は考慮してくれてるみたいなんで、昼の集客を頑張ってねって紙束渡されました」
「えーと、ノルマって?」
「果林がバイトしてんのは坂の下にあるコーヒーショップとガソリンスタンドの併設店なんだけどよ、ガソスタの方の何だっけか」
「現金値引きの会員カードの入会ノルマってのがあるんだよ」
「そうなんですね」
果林先輩がコーヒーショップでアルバイトをしていることは聞いていたけど、ガソリンスタンドとの併設店であることは何気に初めて聞いたかも知れない。大学近くにある店とは言え、通らない道だからどこにあるのかもよく知らない。
ガソリンスタンドで働くのに優位になる危険物取扱者乙種4類、通称乙4の資格を猛勉強の末に取っていたり、ノルマがあったり。深夜メインだし、バイトにも力を注いでいる果林先輩のバイタリティは凄いと思う。
「店長はそういうの気にしない人なんだけど、一応お上の意向ってのもあるしって」
「で、それとこのクーポンがどう関係するんですか?」
「クーポンを配って店に来る人の母数を増やすってこと」
「なるほど」
「高ピー先輩はよく来てくれるんだよ」
「一番近いガソスタだしな」
高崎先輩がよく飲んでいるというカフェモカはMサイズで320円。それが50円引きというのはかなり大きいと思う。ただ、俺は高崎先輩のビッグスクーターみたく足がないからなかなか行きにくい。50円引きは魅力的だけど。
「高木、今度行くか」
「えっ、このお店にですか?」
「火木土の夜な。どっか空けとけ」
「夜は基本的に空いてます」
「高ピー先輩冷やかす気マンマンじゃないですかー!」
「お前がいねえのに何が面白えんだ。なあ高木」
「興味はあります」
聞くと、果林先輩が店にいるのが基本的に火木土の夜なんだそうだ。早い日は8時過ぎくらいからいるそうだけど、基本は夜10時から朝の6時まで。1125円×8時間で日給は9000円。物凄い大金だ。
それで週に3~4回働くからさぞかし果林先輩の貯金額は凄いことになってるかと思えば、実はそんなに貯金はないらしい。それというのも、給料はほぼ食費。エンゲル計数がとんでもないことになっているとか。働かざる者食うべからず、か。
「夜は昼ほど人がいねえから、長居するにも罪悪感があんまねえのがいい」
「アタシたまに高ピー先輩と喋って暇潰ししてるし」
「950円の外回りからすれば1125円のお喋りとかふざけんなって思うけどな」
「高ピー先輩時給1000円に昇給したんじゃなかったでしたっけ」
「来月からだ。今月はまだ950円のままだ」
先輩たちの時給トークが生々しい。高崎先輩の給料は酒に費やされる割合が少し大きいとか、そんなようなことが。俺もバイトについて考えなきゃいけないとは思いつつも、星港での生活に慣れたらとか言っているうちに今に至っている。
「あ、そう言えばタカちゃんバイトしないの? そろそろ生活にも慣れたでしょ?」
「やろうとは思ってます」
「思ってるだけじゃ職なんか来ねえぞ」
「まあ、そうなんですけど」
「星港だったらバイトなんざ腐るほどあるだろ」
「そうなんですけど、サービス業と言うか、人と接するのが苦手と言いますか」
「じゃあ肉体労働か」
「体力もなくて」
――とか何とか言ってたら何もやることがなくなるじゃねえか、と高崎先輩に呆れられてるのも当然だ。でも本当にアルバイトを考えてはいた。ただ、なかなか思い切ることも出来ずに。
「日雇いの派遣とかどう? 朝霞P先輩が言ってたんだけど、派遣会社に登録しといて働きたいときだけ働いてるって。日給7000円オーバーとかザラらしいし」
「ちょっと、どんな仕事か分からないのが怖くて」
「ダメだこりゃ。精々日々の倹約を頑張るこった」
「酒代を削るのは少し痛いですね」
end.
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何だかんだ働かないループに陥っているTKGであった。結局いつもの流れでは何かのきっかけで朝霞Pと知り合うまで働かないんだからTKGってヤツァー
果林の給料はほとんどが食費になっているようですが、もしもTKGがバイトをしたらその給料は何に使うのだろうか……働く想像がつかないのでやめよう
高崎の給料は冬は光熱費、夏は酒代なんだろうなあ。あんまりデカい買い物もしないし結構持ってそうだけどどうなんでしょう
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