2018(04)

■趣味とタスクの共有

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「フミ、アンタこーた君が来るって言うのに掃除のひとつもしてなかったの?」
「通常運転でイケると思いました」
「ちょっと酷すぎるから、布団上げて簡単にでいいから片付けなさい」
「こーた、手伝え」
「友達に手伝わせるって」
「いえ、お邪魔させていただきますし、お手伝いしますよ」
「そう? ゴメンねこのドラ息子が」

 年の瀬の野坂家にどうしてこーたがいるのかという話である。簡単に言うと、家族旅行からハブられたのだ。厳密に言うと、弟(高3)の彼女(中3・ハーフ)の家の年越し家族旅行に招待された神崎家だったワケだけど、こーたはバイトもあるし旅行を辞退したのだ。
 バイトがあるのも本当だけど、旅行を辞退した理由は弟の彼女とはそんなに仲良くないし、むしろ簡易的に分けただけの部屋でいちゃいちゃしているのを日頃から聞かされているので我慢が限界に達しているし、年末のオタ活を充実させたいという理由だ。

「大人しく南国に行っていれば良かった物を」
「そんなところに行っていたら帰って来る頃には闇堕ちしていますよ」
「お前の存在が十分混沌じゃねーか」
「そんなことより掃除しますよ野坂さん。お母さんにも言われたじゃないですか」
「はいはい」

 ――というワケで、ゴミ袋を取って来る。とは言えそこまで派手に片付けなきゃいけないものもないはずなんだけどな。服はそんなに持ってないし、布団は上げた。ああ、掃除機をかけたりすればいいのか。と言うか掃除と言われてやることが思いつかない辺りが普段やらないことを露呈している。
 とりあえず、畳張りだから水気はNGだそうだ。ハタキでパタパタするとか掃除機をかけるとかはこーたに任せて、俺はパソコンの掃除をすることにした。パソコンの掃除と言ってもファイルどうこうの話じゃなく、物理的な話を。

「さーてと」
「ちょっと野坂さん! あなたそこは私が掃除機をかけたところでしょうが!」
「後でもう1回かけてくれ」
「それで、パソコンを抱えて何が始まるんです?」
「分解して中の基盤やらファンやらを掃除する。排気口やらにホコリが詰まると冷却機能に支障が出るからな」
「さすがヘンクツ理系イケメン詐欺ですよ」

 パソコンを開いて、エアで優しく埃を吹き飛ばす。ちなみに、パソコンのデータ的な掃除もしたいにはしたいけど、こーたがいるところでそんなことをしようものならどんなネタを握って俺をイビってくるのかわからないので今日明日ではやりません。
 シュッシュとエアで埃を飛ばす俺にこーたが怒りつつも、掃除自体は部屋もパソコンも至極順調に進んでいる。これだけやれば掃除をした体でいいだろう。俺も正直年末はオタ活にじっくり腰を据えていたいんだ。いや、冬休みは短期バイトだの成人式の話だのいろいろあるんだけど。
 そう、余談だけど俺は青浪市の成人式実行委員というヤツに選ばれていて、その都合で会議に出席したりと忙しくしていた。対策委員もあったし、委員会の当たり年かと思うほどだった。こーたも同じ青浪市の成人式に出るし、委員の中に友達がいるらしく情報が洩れているのがめんどくさい。

「よし、内部は完了。こーた、掃除機」
「はいはい。かけさせていただきますよ。ですが、パソコンの解体に抵抗がない辺りはさすがですね」
「普通にメモリ増設したりするしな。と言うか、終わってから気付いたけど静電気をもっと気にするべきだった。反省」
「ちょっと、私のパソコンもカスタムしてもらえません? それから掃除と」
「簡単に言うよな。それで俺に何が返って来るんだ」
「あなたの悪質な遅刻癖の所為で私がどれだけ送迎の車を出しました?」
「無償でやらせていただきます」

 それを言われてしまっては手も足も出なくなるし、その他にもこーたには何だかんだ世話になっているので敵に回すと後が面倒だ。母さんにも謎に気に入られてるし。律とは違う意味で敵に回しちゃいけないのがこーたなのだ。

「簡単な掃除はこれで大体出来ましたかね。窓を拭いたりはするんですか?」
「あ、俺ディスプレイとキーボードの掃除が残ってるから窓はやっといて」
「あなたって本当にクズですよね」
「知ってますが何か」

 部屋の外から布団を取りに来なさいと母さんの声がしたので、客間から布団セット一式を持って部屋に帰る。と言うか客間があるんだからこーたもそこで寝ればいいと思うんだけど、何故か俺の部屋で引き取る流れになってましたよね。
 まあ、こーたのいびきと歯軋りは殺人級だからしょうがない。どうせ夜中遅く……と言うか下手すれば早朝まで好き勝手にきゃっきゃしてる予定だから。それはネットの生放送かもしれないし、ゲームかもしれないけど。

「ほらこーた、布団だ」
「ありがとうございます」
「いいか、うるさくしたら容赦なく濡れ雑巾かぶせるからな」
「あなたの寝つきの良さと睡眠の深さでは、私がうるさくしても気付かないと思われますがそれについては」
「他の家族に迷惑がかからないとも言えないからな、一応」
「そうですね、それには納得せざるを得ません。何にせよ、よろしくお願いします」
「うむ」


end.


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普段開けない引き出しを開けてぶわーっていう話がやりたかったはずなのに、気付いたらこんなことになってました
年末は神崎が野坂家にお邪魔しているような感じになってました。というワケで今年も例に漏れず遊びに来てます。
クズを開き直るノサカというのも対2年生だからこそ見られるのかもなあ。先輩方相手だと開き直ったり出来ないぞ!

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