2018(04)

■地道に数打つリクルート

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 15枚ほど積み上げられてた木製パレットの上に、胡座で眉間にシワを寄せる塩見さんの姿があった。こんな時の塩見さんは、きっと何かを考えているんだと思う。この状態のオミに下手に声を掛けると怖いぞ、とは宮本主任が教えてくれた。
 会社では年末年始に向けた出荷が一段落して、それこそ大掃除が出来るまで静まりかえっていた。それぞれ事務所や食堂、作業室なんかの持ち場を掃除していて、俺は主任と一緒に現場の掃除をしようとモップを手に倉庫の端を目指して歩いているところだったんだ。

「千景!」

 突然上から声が降ってきてビックリした。足を止めて振り向くと、塩見さんが器用にパレットの山から駆け下りてくる。

「千景、ちょっといいか」
「はい。何ですか?」
「実は、年始から吊り札付けの作業っつーのが始まるんだよ」
「あっ、そうなんですか? でも俺は吊り札付け苦手ですよ」
「お前がクソ不器用なのは知ってる」
「大石君、昨日入庫した品番あったでしょ。12000ほど入って来たヤツ」
「ああはいありましたね! 5色展開くらいでしたよね。今ある401の後継でしたっけ」
「あの品番の吊り札に不備が見つかって、なおかつCBっつーカラーに至ってはジッパーの持ち手に付いてるはずの紐がついてないらしい」
「えっ、結構な不備じゃないですか」

 さすがに吊り札に不備があってはいけないし、紺色に至ってはあるべき部品がないという状態なので、納期が来て出荷する前にそれを正しい状態に戻す作業をしなくてはならないそうだ。吊り札を付け替えて、1つの色は紐をつけるという作業。
 そういうことは別に珍しくはない。急遽品番が変わるから製品の中にあるタグに訂正シールを貼るとか、吊り札に誤植が見つかったので全部取り替えますとか。輸送途中でカビが生えたのでアルコールで拭きますなんてことも。
 そんな作業が出てくると、会社では派遣会社から人を何人お願いしますっていう感じで雇って作業をしてもらうことになる。そういう単発で入ってくるのは主婦の人が多いかな。人海戦術って感じで短時間でわーって仕上げるんだ。

「まあ、年が明けてから人材を雇おうとは思ってるんだけどな」
「オミ、まーた凶悪な顔になってるぞ」
「いや、宮さんだって言ってるじゃないですか。最近の人材は質が落ちてるって」
「まあなー。ここだけの話なー」
「どこも人手不足が深刻だからな。ちょっとでも出来る奴はもう囲い込まれてるか定職に就いちまってて、スポットで残ってる奴らのレベルなんかお察しだ。千景、お前も現場にいるならちょっとは察してただろ」
「……まあ、最近新しく来る人は仕事以前だなあとは思ってましたけど」

 特に40代後半以上の男の人に多いんだけど、俺のような学生や20代後半の塩見さんといった若手の社員に対しては上から威圧するような態度で接してくる人もいるんだ。俺はナメられやすいのか、たまに小突かれたり空き箱を投げつけられて威嚇されたりも多々。
 はっきりとは言わないけど、性別に関係なく質の低下傾向にはあるなあとは思った。絶対じゃないけど、何となく。俺が3年に進級してからだけでも男の人材さんは4~5人は変わっている。人材さんを束ねたり見極めたりするのは塩見さんの仕事なんだけど、うん。

「――っつーワケで、下手に人材ガチャを引くのをやめたい。いや、さすがにそれだけじゃ作業するのに必要な人数は集まらねえからある程度は呼ぶけどな。そこでだ。千景、お前の知り合いとかダチとかでちょっと働きたい奴に声を掛けてみてくれ」
「えっ、俺がですか?」
「下手な人材よか学生の方が真面目で仕事が出来るんだよ。どうせやってもらうなら出来る奴に金を出したい。条件は時給1000円、交通費も出る。車通勤可。勤務時間は午前9時から夕方5時半。休憩を引いたら実働7時間だな」
「わかりました。ちょっと友達に聞いてみます。あっ、詳しい日程とかって」
「1月第3週……連休明け15の週から1月いっぱいまでの予定だな。毎日じゃなくていい。土曜もあるし、入れる日だけでも」
「わかりました」

 ――とは言え、その辺りは私大だとテストも入ってくるだろうし授業コマの少ないだろう3年生以上になるのかな。それにみんな大体バイトもやってるし。バイトやめた子とかって近場にいたかなあ。決まったバイトをしてない派遣の子とか……って、いた! 思い当たる顔がちょっとある。

「塩見さんすみません」
「どうした」
「声を掛けた子の家から会社までの距離が遠すぎる場合は、俺が足になってあげることも大丈夫ですか?」
「ああ、問題ねえ。どっかで待ち合わせるならその分相手とお前に計算してそれぞれつけるし。その代わりちゃんと申請しろよ」
「ありがとうございます」

 今はわからないけどちょっと前まではバイトをしてない文系の3年生で、倉庫とかに興味があって吊り札付けの作業が得意だって言ってたなっちに声をかけてみよう。あと、派遣マスターの朝霞にも一応。朝霞の方が釣れそうではあるけど。

「さ、話もまとまったところで掃除に行くか。オミ、あっちにモップもう1本あるからお前もちゃんと掃除しろよ」
「はい」

 新しい年が来ればまた新しいことが始まっていく。俺はそのための求人活動に精を出すことになるのか。でも手元にスマホはないし、今はとりあえず掃除に専念しよう。


end.


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チーム温玉再結成のフラグ的な物がチラリと。タカPの吊り札組に今年は菜月さん要素がありましたねそういや。
塩見さんの秘密基地じゃないけど、考えるときにこもる場所みたいな物が出来ているのに倉庫にはまだ社名がない。決めたい。
オミちーの義兄弟未遂コンビが結構かわいくて好き。ゆーてちーちゃん塩見さん怖いみたいに言ってるけど十分懐いてるやんけ

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