2018(04)
■休日のマルチタスク
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12月はピザ屋の超繁忙期で、俺も例に漏れずバイトに入れる日はずーっとバイト漬けだった。いくら俺が寒さに弱かろうと原付で外を走り回らなければならず、車は長谷川とかいうクソが決まって先に取ってるか強奪されるかで使えずじまい。今日はクリスマスを乗り越え、やっとこさ丸1日休みだ。
休みになってやることはと言えば、こたつに入ってバニラアイスを食うことだ。そのバニラアイスにカルーアをかけてもいいが、それをやるのは外に出る用事がない時だけだ。そしてコムギハイツに住んでる連中も年末で大体帰省してるからやりたい放題。今日は思いっきり羽を伸ばす。
「……って、何でお前らがいるんだ」
「高崎のこたつ布団、さすがこだわってるだけあっていい匂いするよねえ」
「なあ高崎、ミカンとかねーのミカン」
「越野、ミカンはないがジャガイモならあるぞ」
「ジャガイモは煮るとかしねーと食えないじゃんか」
家主の俺を差し置いてこたつで丸まってるのは、拳悟に万里、それからリン君。身内の間じゃ俺は部屋に人を入れたくない、入れないことで名が通っているはずだが、滅多に会わない連中にはどうやらその常識が通用しないらしい。
俺が休みであることを聞きつけるやいなや、拳悟の車で3人まとめて乗り込んで来やがったのだ。拳悟と万里は腐れ縁だからともかくとして、リン君がいるのが年末だという感じがする。拳悟とリン君はそれぞれの楽器を壁に立てかけている。
「ほら、あれだよあれ。年末のライブに向けた作戦会議的な?」
「何が作戦会議だ。会議にかこつけて人の家でぐだりたいだけじゃねえか」
「あっ、バレた。でもちゃんとアイスと夕飯の食材差し入れてるんだから許してよ」
「ああ、外には出たくなかったから今日だけは許してやる」
何か、よくわからないうちに大晦日にあるとかないとかいうライブイベントに巻き込まれていた。すべてはあの長谷川のクソが言い出したことで、星港市内の某所ライブバーにバンドを数集めて何かわちゃわちゃするらしい。
適当にかわすつもりだったイベントに俺は拳悟の所為で深く突っ込まざるを得なくなり、リン君は長谷川の他にもう1人いるという主催にそそのかされて参加することになっているらしい。俺と拳悟とリン君の3人でスタジオ合わせも1回やったけど、各々仕事だの大学だのバイトだので忙しすぎて、顔を合わせるのはそれ以来になる。
万里は現在紅社からの帰省中だ。先の3連休から正月過ぎくらいまでこっちにいるらしく、コイツにしちゃ珍しく長い帰省だなと思う。で、何かヒマとかで拳悟について来たとか。つか他にもいろいろ顔を合わせるべきヤツがいるんじゃねえのかよ、美南とか。
「ほう、これが高崎の“ガチの証”か」
「まあ、どうせやるならちゃんとやらねえとだろ」
「6畳にこたつとドラムパッドとベッドを置くっていう暴挙だよね」
「うるせえなこの野郎」
「え~、模様替え手伝ったのに」
ライブイベントに出ることにさせられたとは言え、ちゃんとドラムに触るのは高校振りでブランクが大きい。実家に行けばドラムセットもあるが、いろいろ面倒だったからドラムパッドを買った。一応騒音も気にした結果だ。これでちょこちょこ練習してはいる。
如何せん拳悟は今でも軽くギターを触ってるらしいしリン君に至っては現役バリバリのピアニスト。2人と比べる以前に自分のブランクの大きさが想像以上だった。そんなこともあって感覚を取り戻すのにも苦労し、今回のイベントは人の曲を耳コピで覚えろとかいう鬼畜仕様だ。
「高崎、今って昼だけど音出せないの」
「周りは大体帰省してるから出せねえことはないはずだ」
「ほう。ではその気分になったら電気をもらうぞ」
「その辺は好きにしてもらって。うん、多分いないはずだけど。誰かいたら生活音するはずだし。静かってことは誰もいないんだろ」
6畳でのセッションは出来ないこともないだろうけど、如何せん狭すぎる。他の奴の部屋だったらベッドに座ってということも多々あるが、俺の部屋では断固としてベッドになんか座らせねえし上がらせねえ。……まあ、たまに問答無用で上がって来る奴もいるけどだな。
「高崎、今お前電気使っていいっつったな」
「万里、なーに企んでやがんだ」
「いや、スイッチ持って来てるから普通にテレビ繋いでゲームする的な。こたつにミカンにゲームが冬休みの過ごし方としては最高の贅沢だ」
「越野、ソフトは何が入っている」
「マイクラと、今ならスマブラと、その他諸々」
「まあ、好きにしたらいいんじゃねえか」
「よーしゲームやろうぜ!」
下手なテレビを見ているよりは、ゲームをやっているのを見る方がいくらかは楽しい。好きにしたらいいと言った瞬間、セットアップを完了しやがった万里だ。しかもリン君もゲームをやることに関しては食い付いている。確かゲーマーだったなリン君て。
「高崎、マイクラやるけどお前もやる?」
「いや、俺はドラム練習しながらそれを見てる」
「何だよー、せっかく地下採掘してもらおうと思ったのに」
「越野、プレイ目標はどうする」
「住みよい街を作る」
「よかろう」
「高崎、今ならまだ何か買い出し行けるけど」
「今は急いでねえけど、お前は一応飲むなよ」
ったく、誰の休みなんだかさっぱりわかんなくなっちまったし俺の部屋は好き勝手に荒らされるし。これが冬じゃなかったらてめェら全員死んでたぞ。
end.
++++
高崎の休日ですが、部屋にわちゃわちゃと来客があった模様。いち氏が聞いたらひっくり返りますね。
リン様は拳悟と仲がいいのよねえ。高校1年生の時からの付き合い。リン様とこっしーは高2・高3のクラスメイト。
みんながゲームする中高崎はひたすら練習をするのである……それだけブランクが大きいのよ
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12月はピザ屋の超繁忙期で、俺も例に漏れずバイトに入れる日はずーっとバイト漬けだった。いくら俺が寒さに弱かろうと原付で外を走り回らなければならず、車は長谷川とかいうクソが決まって先に取ってるか強奪されるかで使えずじまい。今日はクリスマスを乗り越え、やっとこさ丸1日休みだ。
休みになってやることはと言えば、こたつに入ってバニラアイスを食うことだ。そのバニラアイスにカルーアをかけてもいいが、それをやるのは外に出る用事がない時だけだ。そしてコムギハイツに住んでる連中も年末で大体帰省してるからやりたい放題。今日は思いっきり羽を伸ばす。
「……って、何でお前らがいるんだ」
「高崎のこたつ布団、さすがこだわってるだけあっていい匂いするよねえ」
「なあ高崎、ミカンとかねーのミカン」
「越野、ミカンはないがジャガイモならあるぞ」
「ジャガイモは煮るとかしねーと食えないじゃんか」
家主の俺を差し置いてこたつで丸まってるのは、拳悟に万里、それからリン君。身内の間じゃ俺は部屋に人を入れたくない、入れないことで名が通っているはずだが、滅多に会わない連中にはどうやらその常識が通用しないらしい。
俺が休みであることを聞きつけるやいなや、拳悟の車で3人まとめて乗り込んで来やがったのだ。拳悟と万里は腐れ縁だからともかくとして、リン君がいるのが年末だという感じがする。拳悟とリン君はそれぞれの楽器を壁に立てかけている。
「ほら、あれだよあれ。年末のライブに向けた作戦会議的な?」
「何が作戦会議だ。会議にかこつけて人の家でぐだりたいだけじゃねえか」
「あっ、バレた。でもちゃんとアイスと夕飯の食材差し入れてるんだから許してよ」
「ああ、外には出たくなかったから今日だけは許してやる」
何か、よくわからないうちに大晦日にあるとかないとかいうライブイベントに巻き込まれていた。すべてはあの長谷川のクソが言い出したことで、星港市内の某所ライブバーにバンドを数集めて何かわちゃわちゃするらしい。
適当にかわすつもりだったイベントに俺は拳悟の所為で深く突っ込まざるを得なくなり、リン君は長谷川の他にもう1人いるという主催にそそのかされて参加することになっているらしい。俺と拳悟とリン君の3人でスタジオ合わせも1回やったけど、各々仕事だの大学だのバイトだので忙しすぎて、顔を合わせるのはそれ以来になる。
万里は現在紅社からの帰省中だ。先の3連休から正月過ぎくらいまでこっちにいるらしく、コイツにしちゃ珍しく長い帰省だなと思う。で、何かヒマとかで拳悟について来たとか。つか他にもいろいろ顔を合わせるべきヤツがいるんじゃねえのかよ、美南とか。
「ほう、これが高崎の“ガチの証”か」
「まあ、どうせやるならちゃんとやらねえとだろ」
「6畳にこたつとドラムパッドとベッドを置くっていう暴挙だよね」
「うるせえなこの野郎」
「え~、模様替え手伝ったのに」
ライブイベントに出ることにさせられたとは言え、ちゃんとドラムに触るのは高校振りでブランクが大きい。実家に行けばドラムセットもあるが、いろいろ面倒だったからドラムパッドを買った。一応騒音も気にした結果だ。これでちょこちょこ練習してはいる。
如何せん拳悟は今でも軽くギターを触ってるらしいしリン君に至っては現役バリバリのピアニスト。2人と比べる以前に自分のブランクの大きさが想像以上だった。そんなこともあって感覚を取り戻すのにも苦労し、今回のイベントは人の曲を耳コピで覚えろとかいう鬼畜仕様だ。
「高崎、今って昼だけど音出せないの」
「周りは大体帰省してるから出せねえことはないはずだ」
「ほう。ではその気分になったら電気をもらうぞ」
「その辺は好きにしてもらって。うん、多分いないはずだけど。誰かいたら生活音するはずだし。静かってことは誰もいないんだろ」
6畳でのセッションは出来ないこともないだろうけど、如何せん狭すぎる。他の奴の部屋だったらベッドに座ってということも多々あるが、俺の部屋では断固としてベッドになんか座らせねえし上がらせねえ。……まあ、たまに問答無用で上がって来る奴もいるけどだな。
「高崎、今お前電気使っていいっつったな」
「万里、なーに企んでやがんだ」
「いや、スイッチ持って来てるから普通にテレビ繋いでゲームする的な。こたつにミカンにゲームが冬休みの過ごし方としては最高の贅沢だ」
「越野、ソフトは何が入っている」
「マイクラと、今ならスマブラと、その他諸々」
「まあ、好きにしたらいいんじゃねえか」
「よーしゲームやろうぜ!」
下手なテレビを見ているよりは、ゲームをやっているのを見る方がいくらかは楽しい。好きにしたらいいと言った瞬間、セットアップを完了しやがった万里だ。しかもリン君もゲームをやることに関しては食い付いている。確かゲーマーだったなリン君て。
「高崎、マイクラやるけどお前もやる?」
「いや、俺はドラム練習しながらそれを見てる」
「何だよー、せっかく地下採掘してもらおうと思ったのに」
「越野、プレイ目標はどうする」
「住みよい街を作る」
「よかろう」
「高崎、今ならまだ何か買い出し行けるけど」
「今は急いでねえけど、お前は一応飲むなよ」
ったく、誰の休みなんだかさっぱりわかんなくなっちまったし俺の部屋は好き勝手に荒らされるし。これが冬じゃなかったらてめェら全員死んでたぞ。
end.
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高崎の休日ですが、部屋にわちゃわちゃと来客があった模様。いち氏が聞いたらひっくり返りますね。
リン様は拳悟と仲がいいのよねえ。高校1年生の時からの付き合い。リン様とこっしーは高2・高3のクラスメイト。
みんながゲームする中高崎はひたすら練習をするのである……それだけブランクが大きいのよ
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