2018(04)
■another opens
++++
「ちょっと君、起きて。君!」
「う~ん……」
「君、起きた?」
「えっ…?」
辺りを見渡せば、電気が煌々とついていたはずの情報知能センターのQ教室が真っ暗になっていて、俺は警備員と思しき中年男性に懐中電灯で照らされていた。一緒にいたはずのヒロの姿はなく、俺は独り爆睡を決め込んでいたらしい。ヒロの野郎、次会ったらぶっ飛ばしてやる。
「今日はこれから施設の電気設備の点検が入るから。ここは閉鎖されるんだよ。だから目が冴えたら出来るだけ早く出てね」
「あ、はい、すみません」
いそいそと支度をして、慌てて建物の外へと駆けるようにして出る。今の時刻が何時なのかを腕時計で確認すれば、23時24分。当然スクールバスはとうの昔になくなってしまっているし、終電も、駅まで移動する時間を考えると完全にアウト。俺はこの寒空の下に放り出されてしまったのだ。
そもそも、冬休みに入って授業は中断しているはずなのにどうして俺が大学まで出てきたのかという話だ。例によって課題を溜めていたヒロに付き添ってやっていたんだ。まあ、上手く買収されたとも言う。昼食と夕飯、それからデザートで課題を見てやっていて。
その途中でやたら強い睡魔に襲われて、それに負けて眠ってしまったんだ。で、現在に至る。起きればヒロはいないし、警備員に追い出されるし。これからどうしようと途方に暮れれば寒さが身にしみるし。星はきれいだけどそれだけ寒いということだ。
ヒロに限って溜めている課題がすぐに終わらせられる量ではないと思っていたから、最悪の事態を想定して一晩を越せるだけの支度はしてきていた。ただ、さすがに野宿になることは想定していない。ここで寝ても凍死するのがオチだ。とにかく屋根の下に行かなくては。
大学の周りは本当に山だ。ここにいてもどうしようもないのでひとまず坂を下って一番近いコンビニに避難することにした。そこに行けばとりあえず寒さは凌げるし、何か暖かいものでも買って少し耐えよう。あとはスマホの充電さえあれば勝て……ない! なぜ30%を切っている! ここからは節約で行こう。
とぼとぼとコンビニに続く坂を下っていくと、向島環状鉄道の高架が見えてきた。ここまで出てくるとアパートも多いしクリスマスのイルミネーションで飾られた家も多くて歩きやすい。そして、ついつい目が行くのは高架からひょっこり頭を覗かせるマンション。
あれはこの辺りでは一番背の高いマンションだ。何を隠そう、あのマンションには菜月先輩が住んでいらっしゃって、目をやった瞬間思い出しますよね。菜月先輩は今頃どうしてるのかなとか、まさかデートではないよな、などなどと。電池が残り30%ないスマホを手に、一瞬考えて。
「……あっ、もしもし菜月先輩、夜分遅く申し訳ございません」
『どうしたんだこんな時間に』
「ヒロの課題を見るのに大学に来ていたのですが、爆睡している間にヒロに置いて行かれ、その上設備の点検などで追い出されまして。それで、現在菜月先輩のお宅の近くに下っている最中でして」
『言いたいことはわかった。来るなら来ればいい。まだ起きてるから』
「ありがとうございます…! それでは後ほどお邪魔いたします」
捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのことか…! 土壇場で菜月先輩にお会いできるだなんて何と素晴らしくラッキーだ! とりあえず、通話している間に駅は通過できたので、手ぶらで行くのも難だし手土産を買っていこう。
「らっしゃっせー」
ギリギリクリスマスということもあって、コンビニにはデザートが充実していた。とりあえずケーキを2つ買っていこう。菜月先輩がお好きな濃厚なチョコレートのケーキと、チーズケーキを。あとは飲み物……自分のと、先輩に差し入れる用のと。あっ、せっかくだしお酒なども。
菜月先輩が好きな物を、と考えていると買い物袋が膨らんでしまった。まあいい。お世話になるワケだからいくら積んでも足りないくらいだ。コンビニを出て、菜月先輩のお部屋に行くまでの足取りは軽かった。俺は本当に単純な男だ。4階まで上るのだってへっちゃらだ。そして、インターホンを押す。
「ったく、急だったから全然片付いてないぞ」
「申し訳ございません、お邪魔いたします…!」
「お前も大変だったな、踏んだり蹴ったりで」
「いえ、そのおかげで菜月先輩にお会いすることも出来ましたし、悪いことばかりでもありませんでした。あっ、こちらつまらない物ですがどうぞ召し上がってください」
「ケーキじゃないか。2つあるけど、どっちかはお前のだろ?」
「いえ、両方菜月先輩に召し上がっていただく前提でした」
「そうか。でもせっかくだし一緒に食べよう」
「そんな! 恐縮です…!」
「夕飯は食べたのか?」
「一応食べましたが、結構前なのでお腹は空いています」
「わかった。そしたらラーメン作るからちょっと待ってろ。野菜炒めから作るからちょっと時間かかるけど」
ナ、ナンダッテー!? 前言を撤回しよう。置いていったことは恨むがぶっ飛ばすことはしないでやろう。ヒロ、お前菜月先輩に感謝しろよ。菜月先輩が作ってくださる夜食のラーメン! 幸せすぎて死んでしまう。野宿にしてもどっちにしても俺に待つのは死だったのか!
「言っとくけど、野菜炒めは帰省前の冷蔵庫整理だぞ」
「冷蔵庫整理でしたらお任せください!」
end.
++++
クリスマスのいつものヤツ。災いを転じて福をなすとも。ヒロが安定の鬼畜である。起こしてってやれよ
今年度はいろいろアレなのでデートかなってそわそわしているノサカがかわいいヤツ。しかし12月はピザ屋の繁忙期なんだよなあ
ゆーてノサカって結構な善人よね。いくらご飯奢ってもらってても山ほどあるヒロの課題に付き合ってあげるとか。
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「ちょっと君、起きて。君!」
「う~ん……」
「君、起きた?」
「えっ…?」
辺りを見渡せば、電気が煌々とついていたはずの情報知能センターのQ教室が真っ暗になっていて、俺は警備員と思しき中年男性に懐中電灯で照らされていた。一緒にいたはずのヒロの姿はなく、俺は独り爆睡を決め込んでいたらしい。ヒロの野郎、次会ったらぶっ飛ばしてやる。
「今日はこれから施設の電気設備の点検が入るから。ここは閉鎖されるんだよ。だから目が冴えたら出来るだけ早く出てね」
「あ、はい、すみません」
いそいそと支度をして、慌てて建物の外へと駆けるようにして出る。今の時刻が何時なのかを腕時計で確認すれば、23時24分。当然スクールバスはとうの昔になくなってしまっているし、終電も、駅まで移動する時間を考えると完全にアウト。俺はこの寒空の下に放り出されてしまったのだ。
そもそも、冬休みに入って授業は中断しているはずなのにどうして俺が大学まで出てきたのかという話だ。例によって課題を溜めていたヒロに付き添ってやっていたんだ。まあ、上手く買収されたとも言う。昼食と夕飯、それからデザートで課題を見てやっていて。
その途中でやたら強い睡魔に襲われて、それに負けて眠ってしまったんだ。で、現在に至る。起きればヒロはいないし、警備員に追い出されるし。これからどうしようと途方に暮れれば寒さが身にしみるし。星はきれいだけどそれだけ寒いということだ。
ヒロに限って溜めている課題がすぐに終わらせられる量ではないと思っていたから、最悪の事態を想定して一晩を越せるだけの支度はしてきていた。ただ、さすがに野宿になることは想定していない。ここで寝ても凍死するのがオチだ。とにかく屋根の下に行かなくては。
大学の周りは本当に山だ。ここにいてもどうしようもないのでひとまず坂を下って一番近いコンビニに避難することにした。そこに行けばとりあえず寒さは凌げるし、何か暖かいものでも買って少し耐えよう。あとはスマホの充電さえあれば勝て……ない! なぜ30%を切っている! ここからは節約で行こう。
とぼとぼとコンビニに続く坂を下っていくと、向島環状鉄道の高架が見えてきた。ここまで出てくるとアパートも多いしクリスマスのイルミネーションで飾られた家も多くて歩きやすい。そして、ついつい目が行くのは高架からひょっこり頭を覗かせるマンション。
あれはこの辺りでは一番背の高いマンションだ。何を隠そう、あのマンションには菜月先輩が住んでいらっしゃって、目をやった瞬間思い出しますよね。菜月先輩は今頃どうしてるのかなとか、まさかデートではないよな、などなどと。電池が残り30%ないスマホを手に、一瞬考えて。
「……あっ、もしもし菜月先輩、夜分遅く申し訳ございません」
『どうしたんだこんな時間に』
「ヒロの課題を見るのに大学に来ていたのですが、爆睡している間にヒロに置いて行かれ、その上設備の点検などで追い出されまして。それで、現在菜月先輩のお宅の近くに下っている最中でして」
『言いたいことはわかった。来るなら来ればいい。まだ起きてるから』
「ありがとうございます…! それでは後ほどお邪魔いたします」
捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのことか…! 土壇場で菜月先輩にお会いできるだなんて何と素晴らしくラッキーだ! とりあえず、通話している間に駅は通過できたので、手ぶらで行くのも難だし手土産を買っていこう。
「らっしゃっせー」
ギリギリクリスマスということもあって、コンビニにはデザートが充実していた。とりあえずケーキを2つ買っていこう。菜月先輩がお好きな濃厚なチョコレートのケーキと、チーズケーキを。あとは飲み物……自分のと、先輩に差し入れる用のと。あっ、せっかくだしお酒なども。
菜月先輩が好きな物を、と考えていると買い物袋が膨らんでしまった。まあいい。お世話になるワケだからいくら積んでも足りないくらいだ。コンビニを出て、菜月先輩のお部屋に行くまでの足取りは軽かった。俺は本当に単純な男だ。4階まで上るのだってへっちゃらだ。そして、インターホンを押す。
「ったく、急だったから全然片付いてないぞ」
「申し訳ございません、お邪魔いたします…!」
「お前も大変だったな、踏んだり蹴ったりで」
「いえ、そのおかげで菜月先輩にお会いすることも出来ましたし、悪いことばかりでもありませんでした。あっ、こちらつまらない物ですがどうぞ召し上がってください」
「ケーキじゃないか。2つあるけど、どっちかはお前のだろ?」
「いえ、両方菜月先輩に召し上がっていただく前提でした」
「そうか。でもせっかくだし一緒に食べよう」
「そんな! 恐縮です…!」
「夕飯は食べたのか?」
「一応食べましたが、結構前なのでお腹は空いています」
「わかった。そしたらラーメン作るからちょっと待ってろ。野菜炒めから作るからちょっと時間かかるけど」
ナ、ナンダッテー!? 前言を撤回しよう。置いていったことは恨むがぶっ飛ばすことはしないでやろう。ヒロ、お前菜月先輩に感謝しろよ。菜月先輩が作ってくださる夜食のラーメン! 幸せすぎて死んでしまう。野宿にしてもどっちにしても俺に待つのは死だったのか!
「言っとくけど、野菜炒めは帰省前の冷蔵庫整理だぞ」
「冷蔵庫整理でしたらお任せください!」
end.
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クリスマスのいつものヤツ。災いを転じて福をなすとも。ヒロが安定の鬼畜である。起こしてってやれよ
今年度はいろいろアレなのでデートかなってそわそわしているノサカがかわいいヤツ。しかし12月はピザ屋の繁忙期なんだよなあ
ゆーてノサカって結構な善人よね。いくらご飯奢ってもらってても山ほどあるヒロの課題に付き合ってあげるとか。
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