2018(04)

■理屈はこたつの中では無力だ

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「みかんが美味しいんだ」
「星羅、もう何個目だそれ。食べ過ぎじゃないか」
「美味しいんだ。仕方ないんだ」

 こたつにミカンは冬の風物詩。それをいいことに、星羅は段ボール箱を空にする勢いでミカンを食べ続けている。美味しいから仕方ないとは言うけど、ミカンばっかり食べてちゃお腹いっぱいで他の物が食べられなくなる。
 俺はと言えば、須賀家のリビングにお邪魔して普通にミカンを食べているワケだけども。ちなみに、須賀家にいる用事は大晦日に控えたライブに向けた練習だ。って言うか耳コピでノルマとして配布された曲を覚えてやれるようになってこいって何気にすごく鬼畜。
 俺は、と言うかCONTINUEというバンドは須賀家のスタジオでよく練習をさせてもらっている。それというのも、星羅のお父さんがその筋では有名なサックス奏者で、家にもスタジオがある。縁で俺たちも誠司さんのお世話になっているのだ。

「みかんは体にもいいんだ」
「限度があるんじゃないのか」
「これが3個目なんだ。だからまだ大丈夫なんだ。むしろ1日3個くらい食べた方がいいんだ」
「一気に食べる物でもないと思うけど」
「泰稚、これは軸が細くて皮がしわしわで甘いんだ。次食べるんだ」
「ありがとう」

 星羅は甘いミカンの見分け方をドヤ顔で教えてくれる。楽しそうに喋っている星羅を見るのは俺も楽しい。ミカンに含まれる栄養やそれを効率よく吸収するための食べ方なんかも教えてくれた。星羅は薬だけじゃなくて、体で吸収するものには興味が強い。
 今でこそ元気にぴょんぴょん飛び回っているけれど、昔は体が弱かったらしい。“らしい”というのは、入退院を繰り返していた時期を俺は話でしか知らないからだ。普通に日常生活を送れるようになった今でも薬は飲んでいなければならないし、なかなか大変だ。
 そんなこともあって健康な体作りに対する興味は強く、最近テレビでよくある健康についての話は割とよく見ている。ただ、それには「それよりもこれこれの方がもっといいんだ」などと時折ツッコミを入れたりもしているのだけど。

「泰稚、筋は食べた方がいいんだ。そういつも言ってるんだ」
「うん、いつも聞いてるけど、やっぱり極力取りたいかな」
「楽器をやるなら指先まで血が通う方がいいんだ」
「前よりは取らなくなってるだろ、ほら」

 2人でミカンを食べていると、毎回筋を取る取らない論争になる。俺は出来れば筋を取って食べたい方だけど、星羅は筋を残して食べる派で。当然星羅はその辺の知識もあるので筋を食べるとこれこれこういう点で、などと講釈が始まる。俺はそれをもう大体覚えてしまったけど、筋は取り続けている。

「おっ、星羅、俺にもミカンちょーだい」
「カンはこれなんだ」
「サンキュー」

 ひょっこり現れたカンに星羅が渡したミカンは軸が俺にくれたのよりは太くて皮もつるつるっぽい感じだったのは見なかったことにしておこう。スライディングするようにこたつに滑り込んだカンは、もらって早速ミカンの皮を剥いている。

「は~、こたつあったけ~!」
「って言うかお前まだいたのか」
「はあ!? お前CONTINUEの練習が終わったらSDXやるっつってなかったか!? なぁーにを早々にこたつでいちゃいちゃしてやがんだぶっ飛ばすぞ! 1人寂しくスタジオで待ってたっつーのにいつまで経っても帰ってこねーし!」
「あ、そうだった」
「泰稚、カンを放置してたんだ?」
「放置してたっぽい」
「ぽいんじゃなくて放置してたんだよコイツは。あ~あ、CONTINUEは俺でもってるって言ってくれてる割に扱い雑じゃね?」
「そこは泰稚とカンの仲なんだ」
「親しき中にも礼儀ありって知らないか、星羅」
「いくらなんでも知ってるんだ!」
「ミカンが美味いから許すけど。星羅、おかわり」
「泰稚が悪いことをしたんだ。さっきのより美味しいのをあげるんだ」

 正直に言ってカンの存在はすっかり忘れていた。だけど、言われてみれば思い出したし、SDXの話はこたつの中でも出来るからここでしたらいいんじゃないかと思う。まあ、何がアレってここは俺の家じゃなくて彼女の家であることだ。
 ただ、誠司さんが職業柄留守にすることも多いし、男手が要る時はよく手伝いをしたりしてるんだ。だからお母さんも俺がいることが普通みたいな風に思っているらしい。星羅談。と言うか俺の親も俺は須賀家に婿入りする物だと思ってるみたいだし。

「カン、お前筋も食うのか」
「筋取るのめんどくね? 食っても害ないなら食うだろ」
「泰稚はどれだけ言っても筋を取るんだ」
「筋食ったら何あんの?」
「冷え性が改善するんだ。指先までぽかぽかなんだ」
「あー、指先あったまるのはありがたいわ。感覚無くなるとキーボード触る時に困るじゃんな」
「ほら、カンはこう言ってるんだ。今年はみかんが高騰してるそうなんだ。余談だけど、バナナの筋も栄養があるんだ」
「えっ、今年ミカン高いのか! それをパカパカ食ってるとか星羅お前贅沢だぞ」
「星羅は美味しいミカンの見分け方を知ってて美味しいのばっかり食べてるから止まらなくなってるんだ」

 1個目のミカンを食べ終えた俺は、さっき星羅がくれた甘いであろうミカンに手をかける。いろいろやらなきゃいけないことはあったと思うんだけど、こたつでミカンを食べてたら割とどうでもよくなってきた。いや、それともこたつMODとかこたつ企画とか作るか?


end.


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スガセラのいちゃいちゃです。放置されてたカンDはドンマイ。カンDでもってるって言ってくれてるのに扱いは確かに雑である。
去年はもらいものだったミカンも今年は須賀家に箱で買ってあるらしく、星羅がやめられないとまらない状態になってますね
そう言えば、ミカンと言えば菜圭のいい話を今年はまだやってないですね。やりたいですね、年が明けたら。

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